著者: 野原琉海(株式会社ラズリ代表)
もし、従業員10人くらいの会社の経営者が「うちもそろそろエンジニアを1人雇おうかな」と考えていたとする。
社内にITに詳しい人がいない。業務はExcelと紙とメールで回している。世の中はDXだAIだと言っている。「うちもそろそろ何かしないとまずいんじゃないか」。そう思うのは自然なことだと思う。
でも、エンジニアの僕から1つだけ先に伝えたいことがある。
エンジニアを1人雇えば全部解決する、と思っていたら、たぶんうまくいかない。
今日はその理由と、じゃあどうすればいいのかを書く。
そもそも「腕のいいエンジニア」の採用は、めちゃくちゃ難しい
まず現実の話をする。
IT企業ですら、腕のいいエンジニアの採用は難しい。大手が高い年収と充実した環境を用意して、それでも取り合いになっている。
その状況で、ITが本業ではない中小企業が「一人目のエンジニア」として腕のいい人を採用できるかというと、正直かなり厳しい。
なぜか。腕のいいエンジニアの立場で考えてみてほしい。
- 社内にエンジニアが自分しかいない。技術的な相談相手がいない
- 何を作ればいいかも自分で考えないといけない
- 開発環境もゼロから自分で整える
- 評価する人がITを分からないので、自分の仕事が正しく評価されるか不安
この条件で「入りたい」と思うエンジニアは少ない。IT企業なら先輩エンジニアがいて、技術的な成長環境がある。中小企業の一人目エンジニアは孤独だ。
つまり、「エンジニアを雇おう」と決めても、そもそも来てくれる人を見つけること自体がハードルになる。
エンジニアを雇っても解決しないこと
仮に採用できたとして、次の問題がある。
エンジニアは「技術で問題を解決する人」だ。でも、その前に「何が問題なのか」を明確にしないと、エンジニアも動けない。
「うちの業務を効率化してほしい」と言われても、エンジニアに分かるのは技術のことだけだ。経理の業務フローも、営業の困りごとも、現場の人間しか知らない。
結局、エンジニアを雇っても「何を作るか」「何を改善するか」は経営者や現場が考える必要がある。エンジニアは「どうやって作るか」を担当する人であって、「何をやるか」を決める人ではない。
ここを勘違いすると、「エンジニアを雇ったけど、何も変わらなかった」という結果になる。
じゃあどうすればいいのか
エンジニアをフルタイムで雇う前に、僕がおすすめしたい選択肢がいくつかある。
1. まずSaaSやツールで解決できないか考える
世の中には、月額数千円で使える業務ツールが山ほどある。
- 経理 → freee、マネーフォワード
- 顧客管理 → HubSpot、Salesforce
- プロジェクト管理 → Notion、Backlog
- コミュニケーション → Slack、Chatwork
「エンジニアを雇って自社システムを作る」前に、既存のツールで解決できないかを検討する。たいていの業務課題は、ツールの組み合わせで解決できる。
自社システムを作るのは、既存ツールでは本当にどうにもならない時だけでいい。
2. 業務の非効率な部分を自分たちで言語化する
エンジニアに頼む前に、まず自分たちで「何に困っているか」を書き出す。
- 毎月の請求書処理に3日かかっている
- 営業の引き継ぎが口頭で、情報が失われる
- 問い合わせの対応状況が誰にも見えない
こうやって言語化しておくと、エンジニアに相談する時に話が100倍速く進む。逆にこれがないと、エンジニアが現場のヒアリングから始めないといけなくて、時間もお金もかかる。
3. フルタイムじゃなくて副業エンジニアを活用する
ここが一番伝えたいポイントだ。
腕のいいエンジニアは、中小企業にフルタイムでは来てくれない。でも、副業なら話は別だ。
本業でIT企業に所属しているエンジニアが、副業として週に数時間〜十数時間、中小企業の課題を解決する。このパターンは最近かなり増えている。
メリットは大きい。
- 腕のいいエンジニアに来てもらえる: フルタイムは無理でも、副業なら受けてくれる人は多い
- 時給は高いけどトータルコストは安い: 時給5,000〜10,000円でも、月20時間なら10〜20万円。フルタイムで月40〜60万円払うより安い
- 必要な時だけ稼働してもらえる: 毎日フルタイムで必要なほどの業務量がないなら、副業の方が合理的
- 腕がいいから短時間で結果を出せる: 経験豊富なエンジニアなら、副業の限られた時間でも十分な成果を出せる
フルタイムで月40万円のエンジニアを雇って、実際にコードを書いている時間が1日2時間だったら、副業エンジニアに週10時間来てもらった方がよほど費用対効果が高い。
4. 外注する
「現場の人とのやりとりが必要で、必ず人を入れたい」という場合でも、フルタイムの正社員にこだわる必要はない。
業務委託として外注する選択肢がある。契約期間も柔軟に決められるし、合わなければ切り替えもできる。正社員を雇うと簡単には解雇できないが、業務委託ならリスクが低い。
エンジニアを雇うべきタイミング
ここまで「雇わなくていい」という話をしてきたけど、エンジニアをフルタイムで雇うべきタイミングもある。
- 自社プロダクトを開発して、それが事業の核になる場合
- 外注や副業では対応しきれないほどの開発量が常にある場合
- 技術的な意思決定を社内でスピーディに行う必要がある場合
つまり、「技術が事業の中心にある会社」はエンジニアを雇うべきだ。
逆に、「バックオフィスを効率化したい」「社内ツールを導入したい」くらいの話なら、フルタイムのエンジニアは必要ない。
まとめ
中小企業がITの課題を解決するための選択肢を整理する。
| 課題 | 解決策 | コスト目安 |
|---|---|---|
| 定型業務を効率化したい | SaaS・ツール導入 | 月数千〜数万円 |
| 業務フローを改善したい | 業務の言語化 + ツール | 社内工数 + ツール代 |
| 技術的な相談がしたい | 副業エンジニア | 月10〜20万円 |
| 現場対応が必要 | 業務委託(外注) | 案件による |
| 自社プロダクト開発 | フルタイムエンジニア採用 | 月40〜60万円+ |
いきなり一番下(フルタイム採用)から始めなくていい。上から順に試して、本当に必要になった時に採用を考えても遅くない。
うちの会社でも、業務効率化の相談を受ける時は「エンジニアを雇う前にできること」から提案しています。何から始めればいいか分からない方は、こちらからお問い合わせください。