売上は変わらないのに、毎月の支出だけが少しずつ増えている。そういう状況に直面したとき、真っ先に出てくる発想が「人件費を削れないか」だ。
ただ、安易に人を減らすと業務が回らなくなる。残った社員に負荷が集中し、離職や品質低下という形で跳ね返ってくる。コストは下がっても売上が落ちれば意味がない。
この記事では、人を減らさずに固定費を下げるための具体的な方法を順番に解説する。やってはいけないコスト削減のパターンと、優先順位の付け方も含めて整理した。
やってはいけないコスト削減
具体的な削減策に入る前に、失敗するパターンを先に押さえておく。
集客・マーケティング費を真っ先に削る
コスト削減に取り組むとき、「すぐ止めやすい」という理由から広告費やWeb制作費が削られやすい。ただ、これは売上の源泉を絞る行為だ。集客に使っているコストを削った瞬間から、売上への影響が出始める。
集客費を削減対象にするなら、「費用対効果が測れているか」を先に確認する。費用対効果が明確でない支出を整理するのは合理的だが、流入や問い合わせに直結している施策を止めるのは別の話だ。
人件費の削減を最初の手段にする
人員削減は効果が大きい代わりに、業務の穴が即座に空く。「削れた」と思っても、残った社員が非効率なまま業務を引き受け、残業代や品質コストとして戻ってくることが多い。
人件費の削減が必要な場面もあるが、順番がある。業務量を減らしてから頭数を減らすが正しい順序だ。業務量が変わらないまま人だけ減らしても、負荷が集中するだけで構造は変わらない。
固定費と変動費を分けて考える
コスト削減に取り組む前提として、自社のコストを固定費と変動費に分類しておく。
- 固定費:売上の増減に関係なく発生するコスト。家賃・人件費・リース料・SaaS月額料金・通信費など
- 変動費:売上や業務量に連動するコスト。材料費・仕入れ・成果連動の業務委託費など
削りやすいのは固定費だ。月額のサービス、リース契約、使っていないツールの料金——これらは手をつけやすく、削った効果が毎月積み上がる。
変動費は業務量が減れば自然に下がるため、業務の整理・自動化と組み合わせて考えるのが効率的だ。
固定費を下げる5つの方法
1. SaaSツールの棚卸しをする
中小企業で気づかぬうちに積み上がっているのが、毎月課金されているSaaSの料金だ。
導入当初は使っていても、担当者が変わったり、使う機会が減ったりして「止め忘れている」サービスが残っているケースは多い。月額3,000円のツールが6本あれば、それだけで月18,000円、年間21万円を超える。
棚卸しの手順は以下の通り。
- クレジットカード明細を過去3ヶ月分確認し、月額・年額のサービスを全部リストアップする
- それぞれのツールについて「誰が・何の目的で・週何回使っているか」を確認する
- 使われていないもの、代替手段があるもの、重複しているものを解約候補にする
確認してみると、「入れたけど誰も使っていないプロジェクト管理ツール」「無料プランで代替できるのに有料契約が続いているもの」が出てくることが多い。
2. バックオフィス業務を外注に切り替える
経理・給与計算・労務手続き・総務の一部を正社員が担っている場合、外注に切り替えることで固定の人件費を変動費に転換できる。
たとえば、月に15〜20時間かかっている記帳作業を経理代行に出すと、月額2〜4万円程度で対応してもらえることが多い。正社員に担当させていた場合と比べてコストが下がり、専門性の面でも精度が上がりやすい。
オンラインアシスタントを活用する場合、月30時間のプランで9〜15万円程度が相場の目安だ。正社員1人を雇う場合の社会保険料込みの実態コストと比較すると、半分以下になるケースも出てくる。
外注に切り替えやすい業務の代表例:
- 記帳・経理データ入力
- 給与計算
- 社会保険の手続きサポート
- 請求書・契約書の作成・管理
- メール・問い合わせ対応
詳しい費用感はバックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方でまとめている。
3. 通信費を見直す
固定費の中で見直しが後回しになりやすいのが通信費だ。法人向けの携帯電話プラン・固定回線・インターネット回線——契約から数年経っているなら、現在の市場価格より高い料金を払っている可能性が高い。
確認するポイント:
- 携帯電話の契約プランが今の利用実態に合っているか(データ通信量・台数)
- 固定電話を使い続ける必要があるか(IP電話や転送サービスで代替できないか)
- インターネット回線の契約プランが現在の利用規模に対して過剰になっていないか
法人携帯のプランを整理するだけで、月2〜3万円削減できたという事例は珍しくない。
4. 光熱費を見直す
2016年の電力小売完全自由化以降、小売電気事業者の選択肢が増えた。現在も大手電力会社と同じ料金を払い続けている場合、見直しだけで月1〜3万円程度のコスト削減になることがある。
見直しの手順:
- 現在の電力会社と契約プランを確認する
- 自社の月間使用量(kWh)を明細で確認する
- 電力比較サイトで複数事業者の見積もりを取り、差額を確認する
切り替えによる品質の差はないため、純粋にコスト比較で判断できる。
LED照明への切り替えも、初期費用は必要だが2〜3年で回収できることが多い。補助金が使えるケースもあるため、導入前に確認しておく価値がある。
5. オフィスコストを見直す
リモートワークを導入している場合、オフィスの面積が実態より大きい状態になっていることがある。契約更新のタイミングに合わせて移転・縮小を検討する価値がある。
都市部では、フレキシブルオフィス(コワーキングスペース・シェアオフィス)を活用することで、初期費用なしで必要な分だけのスペースを確保できるようになっている。常駐スタッフ全員分の固定席が本当に必要かを見直すところから始めるとよい。
どこから手をつけるか
5つの方法を全部同時に進める必要はない。以下の優先順位で着手するのが現実的だ。
1位:SaaSの棚卸し
今日からできる。クレジットカードや会計ソフトの明細を見るだけで着手できる。ここで浮いた予算を次の改善に充てる。
2位:通信費・光熱費の見直し
確認と見積もり依頼だけで対処できる。大きな業務変更を伴わないため、意思決定のハードルが低い。
3位:バックオフィスの外注化
効果は最も大きいが、移行の準備が必要。「まず1つの業務だけ試しに外注してみる」という形で始めると、失敗リスクを抑えながら感触を確認できる。
4位:オフィスの見直し
契約更新のタイミングに依存するため、タイミングが合った時に動く。急ぐ必要はない。
削ってはいけないコストを明確にする
コスト削減を進める際に、同時に「削らないコストのリスト」を作っておくことが重要だ。
削ると後で高くつくコストの例:
- 採用・研修費:削ると人材の質が下がり、離職率が上がる。採用コストは後から増える
- 集客・広告費:売上に直結している施策を止めると、数ヶ月後に売上が落ちる
- 品質管理に関わる費用:クレームや手直しのコストとして戻ってくる
- 法令対応に必要な費用:労務・会計・セキュリティの対応を省略すると、後から罰則・損害が発生する
「削れるコスト」と「削ってはいけないコスト」を先に整理してから削減対象を決めることが、コスト削減を成功させる前提になる。
まとめ
中小企業がコスト削減に取り組む際のポイントをまとめる。
- 集客費・人件費を真っ先に削るのは逆効果になりやすい
- 固定費から先に着手する(SaaS・通信費・光熱費)
- バックオフィス業務の外注は、固定の人件費を変動費に転換できる手段
- 「削ってはいけないコスト」をリスト化してから削減対象を決める
コスト削減は、「何を削るか」より「何を削らないか」を決める作業でもある。削減対象を明確にした上で、SaaSの棚卸しや通信費の見直しから着手するのが現実的な第一歩になる。
バックオフィス業務の外注化を検討している場合は、以下の記事も参考にしてほしい。