固定費を見直したいが、どこから手をつければいいか分からない。そういう経営者は多い。
「通信費を削れ」「SaaSを整理しろ」という一般論は目にするが、実際に何をチェックすればいいのかが書かれていない。この記事では、チェックリスト形式で、SaaS・通信費・光熱費・バックオフィスの4領域に分けて、今すぐ着手できる項目を整理した。
競合記事を読んで気になったのは、削減の「方法論」は書いてあっても「何を・どう確認して・何と比較するか」まで落とし込んでいる記事が少ないことだ。この記事はその部分に絞って書く。
固定費見直しを後回しにしてしまう3つの理由
中小企業の経営者と話していると、「固定費は気になってるんだけど…」という声をよく聞く。なぜ動けていないかというと、大抵このどれかだ。
理由1: そもそも全体像が見えていない
何にいくら払っているかを一覧化できていない。経費精算を見ればすぐ分かるのに、まとめた経験がない。クレジットカードの引き落とし明細を月次で確認している会社の方が少ない。
理由2: 「たいした金額じゃない」と思っている
1つのSaaSが月3,000円、もう1つが月5,000円、これが5本並んでいると月2万円超になる。年間24万円だ。「たいした金額じゃない」の積み重ねが、年間50〜100万円になる。
理由3: 担当者が決まっていない
棚卸しリストを作っても、「誰が・いつまでに・何をするか」のタスクに落とさないと実行されない。ここが最大のボトルネックだ。固定費削減は知識の問題ではなく、実行の問題になることが多い。
SaaS・サブスクの棚卸し(今日から着手)
固定費見直しでまず手をつけるのはここだ。クレジットカード明細を開けば、今日から始められる。
棚卸しの手順
- 会計ソフトまたはクレジットカード明細から、過去3ヶ月の月次・年次課金サービスを全てリストアップする
- 各ツールに「誰が・何の目的で・週何回使っているか」を追記する(分からなければ担当者に確認する)
- 使われていないもの、重複しているもの、無料プランで代替できるものを「解約候補」に分類する
チェック項目(SaaS棚卸し)
- プロジェクト管理ツール(Asana・Notion・Backlogなど)の利用実態を確認した
- コミュニケーションツール(Slack・Teamsなど)の有料プランが実態に合っているか確認した
- クラウドストレージの契約容量と実使用量の乖離を確認した
- 年払いで契約していて、ほとんど使われていないサービスがないか確認した
- 担当者の退職後に引き継がれないまま課金が続いているサービスがないか確認した
- 同じ目的で複数のツールを契約していないか確認した(例: ZoomとTeamsをどちらも有料契約)
現場で見た典型例
業務効率化に特化したエンジニアとして複数の中小企業に関わってきた中で、よく出てくるパターンがある。従業員が退職するとき、そのアカウントが削除されないままサブスクが継続するケースだ。特にAdobeやZoom Proなど、個人アカウントに紐づいているサービスが抜けやすい。
ある会社では、過去3年間で退職した担当者のツールアカウント7本が残ったまま課金されていた。月額合計1.2万円、3年で43万円。棚卸しをしていなければ気づかなかった。
SaaSのカテゴリ別コスト目安
| ツールカテゴリ | 主なサービス | 有料プラン月額(1ユーザー) | 無料プランで代替できるか |
|---|---|---|---|
| プロジェクト管理 | Asana, Backlog, Notion | 1,000〜2,500円 | 小規模なら可 |
| コミュニケーション | Slack Pro, Teams | 750〜2,000円 | 無料版で十分なことも |
| クラウドストレージ | Google Workspace, Box | 680〜1,700円 | 無料版でも15GB程度 |
| ビデオ会議 | Zoom Pro | 2,125円 | 無料版40分制限あり |
| デザイン・制作 | Adobe Creative Cloud | 7,780円 | 一部はCanvaで代替可 |
| 電子契約 | CloudSign, DocuSign | 5,500〜11,000円 | 低頻度なら都度課金型も |
5人チームでこれらを全部有料プランで契約すると、月3〜5万円になる。使っていない機能のためにお金を払い続けているケースは珍しくない。月額課金の小さいサービスほど放置されやすい。
通信費の見直し(来月から着手)
法人携帯・固定電話・インターネット回線は、一度契約すると惰性で続きやすい。3〜4年前に契約した内容が今も変わらず続いているという会社は少なくない。
チェック項目(通信費)
- 社用スマートフォンの台数と月額プランを一覧化した
- 各端末の月間データ通信量が契約プランに合っているか確認した(過大・過小どちらも損)
- 大手キャリアから法人向けMVNOへの切り替え見積もりを取った
- 固定電話(NTT回線)の利用頻度を確認し、IP電話または転送サービスで代替できないか検討した
- 社内インターネット回線の契約速度と使用実態が合っているか確認した
大手キャリア vs 法人MVNO 比較
| 項目 | 大手キャリア(法人プラン) | 法人向けMVNO |
|---|---|---|
| 月額(1台・20GB程度) | 5,000〜7,000円 | 2,000〜3,000円 |
| 通信品質 | 高(混雑時も安定) | 良(繁華街の混雑時は若干劣る) |
| サポート体制 | 法人窓口・訪問対応あり | メール・チャット中心 |
| 切り替え手続き | 不要 | 約2週間 |
| 端末調達 | キャリア端末(リースも可) | SIMフリー端末を別途調達 |
| 縛り期間 | あり(2年等) | 短縮・なしのプランも多い |
10台でMVNOに切り替えると、月3〜5万円の削減になる。年間換算で36〜60万円の差だ。
固定電話については、NTT回線を1回線維持するだけで月2,500〜3,000円かかる。顧客対応に電話番号が必要な場合でも、050番号のIP電話サービスに切り替えると月500〜1,000円程度に収まるケースが多い。
注意点:MVNOへの切り替えは使用実態の確認が先
通信品質が重視される営業職や、データ通信量が多い現場作業者がいる場合は、MVNO切り替えで不満が出ることがある。全台一括ではなく、まずバックオフィス担当や在宅ワーク中心の従業員から切り替えるのが無難だ。
光熱費の見直し(見積もりから着手)
2016年の電力小売完全自由化以降、電力会社の選択肢は広がっている。にもかかわらず、多くの中小企業は最初に契約した電力会社をそのまま使い続けている。
チェック項目(光熱費)
- 現在の電力会社と契約プランを確認した
- 月間の電力使用量(kWh)を直近3ヶ月分の明細で確認した
- 電力比較サービスで2〜3社の見積もりを取った
- 都市ガスについても同様に比較した(2017年以降、小売自由化済み)
- 不要な電力消費がないか確認した(スタンバイ状態の機器、使っていない照明)
- 蛍光灯照明のLED化が未対応の箇所をリストアップした
電力会社の切り替えはサービス品質が変わらない(電線・ガス管は共通インフラ)ため、純粋にコスト比較で判断できる。規模にもよるが、月0.5〜2万円程度の削減になるケースがある。見積もりを取るだけなら無料だ。
LED化の効果と判断基準
蛍光灯40Wをこまめに交換しながら使っている場合、LED管への切り替えは電気代と交換費用の両面でコスト削減になる。
一般的な目安として、蛍光灯40W×2本の器具(実消費電力約80W)をLEDに切り替えると、1台あたり年間1,000〜2,000円程度の節電効果になる(電力料金の水準による)。事務所で20台の器具があれば、年間2〜4万円の削減になる計算だ。
初期投資として1台あたり2,000〜5,000円程度かかる場合が多く、概ね1〜2年で回収できる水準になることが多い。ただし、現在の蛍光灯の残存寿命と比べながら判断する。
リース・設備の見直し(更新タイミングで対応)
複合機・社用車・業務機器のリース契約は、更新を重ねるうちに実際の使用実態とズレが生じる。「以前は必要だったが今は使っていない」機器がそのまま残るパターンが多い。
チェック項目(リース・設備)
- 現在のリース・レンタル契約を全てリストアップし、月額・残存期間・更新日を確認した
- 各機器の直近1ヶ月の実際の使用頻度を確認した
- コピー機のリースプランが印刷枚数の実態に合っているか確認した(カラー印刷量の見直しも含む)
- テレワーク導入後、印刷量が減っているにもかかわらずリースプランを変えていないか確認した
- 社用車の台数が実際の利用頻度と合っているか確認した(カーシェアリングとの比較も検討)
- 各契約の更新日をカレンダーに登録し、「更新前に見直す」タスクを設定した
更新タイミングを逃さないことが最重要
リース契約は途中解約が難しく、解約時に残債の支払いが発生することが多い。見直しタイミングは更新の2〜3ヶ月前だ。「気づいたら自動更新されていた」が最もコストのかかるパターンになる。
今日できる最低限のことは、全リース契約の更新日をカレンダーに登録することだけだ。実際の交渉は更新の2〜3ヶ月前に始めればいい。
バックオフィス業務の外注化(長期施策だが効果が大きい)
経理・給与計算・労務手続き・総務の一部を正社員が担っている場合、外注化によって固定コストを変動費に転換できる。
これは「削減」ではなく「構造を変える」ことだ。月20時間かかっている記帳作業を外に出すことで、正社員がその20時間を本業に使える。コスト比較だけでなく、機会コストの観点で考えると判断が変わることが多い。
チェック項目(バックオフィス外注化)
- 正社員が担っているバックオフィス業務を業務別にリストアップした
- 各業務の月間工数(時間)を確認した
- 月10時間を超えている業務について、外注した場合の費用と現状のコストを比較した
- 記帳・給与計算・社会保険手続きなど、専門性が高く外注しやすい業務を確認した
- 繰り返し発生する定型業務(請求書発行・問い合わせ対応など)の自動化または外注化を検討した
バックオフィス外注費用目安
| 業務 | 月次工数(目安) | 外注した場合の月額相場 | 向いている外注先 |
|---|---|---|---|
| 記帳・仕訳 | 5〜15時間 | 1〜3万円 | 記帳代行・税理士事務所 |
| 給与計算 | 3〜8時間(従業員10名以下) | 1〜2万円 | 給与計算代行・社労士 |
| 社会保険手続き | 2〜5時間 | 1〜3万円 | 社労士 |
| 一般事務(書類・問い合わせ) | 10〜20時間 | 2〜5万円 | オンラインアシスタント |
| 採用事務(求人管理・書類選考) | 5〜10時間 | 2〜4万円 | 採用代行 |
正社員に担わせた場合、残業含めた実質コストは時給2,000〜3,000円程度になることが多い。月15時間の記帳作業なら、社員コストは3〜4.5万円相当になる。外注化しても同程度か、むしろ安くなるケースは多い。
僕がジムフリで試したこと
ジムフリの運営でも、外注化を実際に試みた経験がある。月次の記帳はfreeeを使いつつ、入力の手間がかかる領収書の整理だけオンラインアシスタントに依頼したことがある。月3万円以下で対応してもらえた。専門スキルが必要でない定型作業は、探してみると想定より安く外に出せることが分かった。
「少額だから外注できない」「従業員が少ないから」と思いがちだが、月5時間程度の作業でも依頼できるサービスは存在する。スポット利用できるサービスも多い。
詳しくはバックオフィス代行費用|月3万円〜の外注で失敗しない選び方【2026年版】でまとめている。
削ってはいけない固定費
見直しを進める前に、「削らないと決めるリスト」を最初に作っておくことが重要だ。闇雲に削ると、後から取り戻せないコストとして返ってくる。
削らない方がいい固定費
- 集客・マーケティング費:流入に直接つながっている施策を止めると、数ヶ月後に売上が落ちる。費用対効果が出ているものは削らない
- 専門家への顧問料(税理士・社労士・弁護士):対応が遅れると罰則・損害のリスクが高まる。削減対象の最後尾に置く
- セキュリティ関連:情報漏洩・不正アクセスへの対応コストと比較すると、月額数千〜数万円の維持費は安い保険だ
- 採用・研修費:削ると人材の質が落ち、離職率が上がる。採用コストとして後から倍以上になって戻ってくることが多い
「何を削るか」を決める前に「何を削らないか」を先に決めておく。これが固定費見直しを失敗しないための前提になる。
大手メディアが書かない本音
固定費削減の記事を読むと「見直すだけで数百万円削減」という見出しが多い。ただ現実は、どの費目を削減するかよりも、削った後の代替手段の質が経営に直接影響する。
特に「安い外注先に変えたら品質が落ちた」「MVNOにしたら電波が弱い地域があって営業に支障が出た」というケースは実際にある。コスト削減は、品質とのトレードオフを理解した上でやる。一覧表で「削れる」と書いてある項目でも、自社の業務特性によっては削れないものがある。
優先順位と年間削減シミュレーション
固定費の見直しは「1項目で劇的に削る」より「複数の小さな見直しを積み上げる」構造だ。難易度と着手タイミングを整理する。
| 見直し項目 | 月間削減の目安 | 年間換算 | 難易度 | 着手タイミング |
|---|---|---|---|---|
| SaaS棚卸し(3本解約) | 1〜2万円 | 12〜24万円 | 低 | 今日 |
| 携帯プランをMVNOへ(10台) | 3〜5万円 | 36〜60万円 | 中 | 来月 |
| 電力会社の切り替え | 0.5〜2万円 | 6〜24万円 | 低 | 2週間後 |
| コピー機リースの適正化 | 0.5〜2万円 | 6〜24万円 | 中 | 更新タイミング |
| バックオフィス外注化(記帳等) | 2〜5万円 | 24〜60万円 | 高 | 準備期間3ヶ月 |
| LED化(20灯) | 0.2〜0.4万円 | 2.4〜4.8万円 | 低 | 電球交換時 |
全部同時にやる必要はない。難易度が低く着手タイミングが早いものから進めると、半年で30〜50万円の削減が現実的な水準になってくる。
見直しを失敗しないための5つのポイント
固定費削減を実行した経験から、うまくいくパターンと止まるパターンが見えてきた。
1. 担当者と期限を最初に決める
棚卸しリストを作っても、誰も動かないと終わらない。「誰が・いつまでに・何を確認するか」をタスクに落とす。これをしないと、半年後も同じ状態のままになる。
2. 一括変更より段階的に動く
携帯プランをMVNOに切り替える場合、全員一斉ではなく、まず2〜3台試してから判断する。問題がなければ残りに展開する。いきなり全台変えると、問題が起きたときの影響が大きい。
3. 削減後の品質を3ヶ月追跡する
電力会社を切り替えた場合、実際のコストが下がっているかを3ヶ月分の明細で確認する。外注先に切り替えた業務は、品質と納期を月次でチェックする。「削った後は放置」にしない。
4. 年払いの期限を管理する
年払いのSaaSは、自動更新で継続されることが多い。解約するなら更新の1ヶ月前までに手続きが必要なサービスも多い。更新期限をカレンダーに入れておく。
5. 「削らない固定費」を最初にリスト化する
何でも削ればいいわけではない。集客費・専門家顧問料・セキュリティ費用は最初から削減対象から外しておく。これをしないと、削ってはいけないものまで削ってしまう。
まとめ:今日からできる一つのアクション
固定費の見直しを進める順番を整理する。
- まずSaaS・サブスクの棚卸し:クレジットカード明細を見るだけで始まる。今日からできる
- 通信費の確認と見積もり依頼:利用実態を把握してから、乗り換えの選択肢を確認する
- 電力会社の見積もり取得:比較サービスで複数社の見積もりを取る。品質は変わらない
- リース契約の更新日管理:今すぐ動かなくていいが、更新日の管理だけ今日やる
- バックオフィス業務の外注化検討:月10時間を超えている業務から着手を検討する
固定費削減は「今日から動ける項目を一つ選んで着手する」だけで始まる。全部一度にやろうとすると止まる。まずSaaS棚卸しから動く。
バックオフィス業務の外注化や人手不足の解消を検討している場合は、以下の記事も参考にしてほしい。