「気づいたら事務仕事で1日が終わっていた」という感覚は、時間の使い方が下手なのではない。仕組みがないまま、事務作業が経営者の時間を侵食しているからだ。
業務効率化に特化したエンジニアとして、僕が中小企業を支援していると「経営判断に集中したいのに事務が止まらない」という相談をよく受ける。規模の違いはあっても、パターンはほぼ共通している。
この記事では、経営者の時間がどこに消えているかの実態と、事務作業から解放するための具体的な3つの方法を整理する。
経営者の時間、実態はどうなっているか
中小企業庁の小規模企業白書(2018年版)によると、小規模企業の経営者が「削減したい」と回答した業務のトップは財務・会計(記帳)で、次いで給与管理・勤怠管理などの間接業務が並んだ。
一方、時間を増やしたい業務のトップは「売上向上に直接つながる業務」で、過半数以上の経営者が回答している。
使っている時間と使いたい時間のギャップは明確だ。経理や給与計算に追われながら、本当は営業や事業開発に時間を使いたい——この状態に心当たりがある経営者は多いはずだ。
経営者が事務作業から抜け出せない3つのパターン
パターン1: 「判断が必要」という錯覚
「社長しか分からない」「自分が承認しないと動かない」と思い込んでいる業務の中に、実は定型業務が混じっていることが多い。
たとえば月末の帳簿確認。金額の確認と登録作業は毎月同じ手順で進む。そこに「判断」は必要ない。担当者が処理できる仕組みを作るか、外注すれば解決できる業務だ。
パターン2: 「自分でやった方が早い」のまま定着する
1回限りの処理なら「自分でやった方が早い」は正しい判断だ。ただ、毎月繰り返し発生する定型業務をその都度自分でやり続けると、2年後・3年後も同じことを繰り返す。
気づいたら「事務担当者になっていた」という状態は、こうして出来上がる。
パターン3: 仕組みを作る時間がない
「外注やツール導入を検討したいが、設定や引き継ぎに時間がかかりそうで手が回らない」というループにはまっている経営者もいる。
仕組みを作るために仕組みが必要、という状態だ。このループを抜け出すには、最初の一歩を意図的に小さく設定するしかない。
実際に外注先を探すところまでは数時間あればできる。「いずれやろう」と先送りにしている間に、事務作業だけが積み重なる。
事務作業から解放するための3つの方法
方法1: 1週間の時間ログを取る
改善の前提として、「何に時間を使っているか」を可視化する必要がある。感覚ではなく記録で把握しないと、どこを変えれば効くかが分からない。
手帳やスプレッドシートで構わない。1日の終わりに、何の作業に何分使ったかを書く。「判断業務」「事務・処理業務」「移動・雑務」の3つに分類して記録すると、パターンが見えやすくなる。
1週間続けると、「毎週木曜の午後2時間が帳簿確認に消えている」「週に3回、同じような確認メールを書いている」など、具体的な課題が浮かび上がる。ここが改善の出発点になる。
僕の支援先でこれをやってもらうと、「経営判断だと思っていた業務の半分以上が定型処理だった」と気づくケースが多い。自分では気づきにくいが、記録を見ると一目で分かる。
方法2: 事務作業を外注かツールに移す
時間ログで洗い出した事務作業を、外注またはツールに置き換える。よく出てくる業務ごとに選択肢をまとめる。
経理・記帳
freeeやマネーフォワードで自動仕訳を設定するか、記帳代行に出す。記帳代行の月額費用は仕訳量によって月5,000円〜5万円程度まで幅がある。費用感の詳細はバックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方を参考にしてほしい。
経理を外注したい場合の手順は中小企業の経理を外注する手順|準備から導入まで完全ガイドでまとめている。
給与計算
社労士や給与計算アウトソーシングに委託する。毎月の処理を渡せるので、月末に自分がデータを集計して入力する時間がなくなる。
問い合わせ対応・メール返信
よく来る問い合わせのパターンを洗い出し、定型のものはテンプレートを作る。担当者が対応できる仕組みを整え、例外のみ経営者に上げる形にする。
外注・ツール・採用のどれが自社に合うかの整理は外注・ツール・採用、どれが正解? バックオフィスの人手不足を解消する3つの方法でまとめているので参考にしてほしい。
方法3: 「経営者の時間」をカレンダーに先に入れる
事務作業を減らした後、空いた時間をどう使うかを決めずにいると、別の事務作業や細かい対応で埋まる。
経営者にしかできない仕事——新規顧客との商談、採用面接、パートナーとの打ち合わせ、事業計画の見直し——をカレンダーに先に入れておく。その時間には事務作業を入れない、というルールにする。
「残った時間で経営する」ではなく、「経営の時間を先に確保する」。この順番を逆にするだけで、1週間の使い方が大きく変わる。
解放した時間で何をするか
事務作業から解放された時間は、次の3つの領域に使うと会社のアウトプットが変わりやすい。
新規顧客へのアプローチ
既存顧客のフォローはできているが、新規開拓が止まっている会社は多い。週に1〜2件の商談を入れる習慣が作れるだけで、半年後の売上の土台が変わる。これは事務作業を続けている限り確保しにくい時間だ。
事業の見直しと設計
「ここは縮小すべき」「こっちに注力すれば伸びる」と分かっていても、日常業務に追われて手が付けられていない課題がある。3か月先・1年先の事業設計に時間を使えるようになると、場当たり的な判断が減る。
人と会う時間
情報収集、パートナー探し、採用候補者との対話は即効性がない。ただ積み重ねると、動けない経営者との差になる。こういう時間は意図して作らないと、ゼロのまま経営が続く。
まとめ
経営者の時間が事務作業で消えている状態は、時間管理の問題ではなく仕組みの問題だ。
手順をまとめると次の3ステップになる。
- 1週間の時間ログで実態を把握する
- 洗い出した事務作業を外注かツールに移す
- 経営者としての時間をカレンダーに先に確保する
この順番で進めると、動ける時間の質が変わる。
何から着手すればいいか分からない場合は業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説も参考にしてほしい。相談先を探している場合は業務効率化の相談はどこにすればいい?中小企業向けの相談先まとめでまとめている。