事務・バックオフィス効率化

社会保険手続きの外注先と費用相場|顧問契約・スポット・クラウドを比較

知り合いの会社の事務担当者から、「入社のたびに年金事務所に書類を持って行くのが地味にしんどい」という話を聞いたことがある。従業員が10人ほどの会社で、総務・経理・人事を1人で兼務している方だ。

入退社のたびに書類が発生し、算定基礎届の時期には全員分の作業が重なる。メインの仕事ではないのに、一定の時間と集中力を要求してくる。

「社労士に頼めばいいとは分かっているが、月いくらかかるのか」「顧問契約でないといけないのか」「何を頼めるのか」——が整理できていないまま先延ばしになっている会社は多い。

この記事では、社会保険手続きの外注先の種類・費用相場・選び方を整理する。

社会保険手続きの種類と、どれが面倒か

社会保険手続きは一括りにされがちだが、発生タイミングと手間の重さが種類ごとに違う。

入退社のたびに発生するもの

入社・退社が起きるたびに必ず処理が必要になる。

  • 被保険者資格取得届(入社時。提出期限は取得日から5日以内)
  • 被保険者資格喪失届(退職時。喪失日から5日以内)
  • 雇用保険被保険者資格取得届・喪失届(入退社のたびに同様)

提出先は年金事務所(健康保険・厚生年金)とハローワーク(雇用保険)に分かれる。電子申請に慣れれば自社での対応も現実的だが、書式の記入ミスが起きやすく、期限が短いため余裕がないと処理が詰まりやすい。

年1〜2回の繁忙期に集中するもの

日常的には発生しないが、時期が来ると在籍する全員分の処理が必要になる。

  • 算定基礎届(毎年7月1〜10日が提出期限。全従業員の報酬月額を申告する)
  • 労働保険の年度更新(毎年6月初旬。前年度の賃金総額をもとに保険料を確定・申告)
  • 賞与支払届(賞与を支払ったとき)

算定基礎届と年度更新は計算ルールが細かく、処理を誤ると保険料の追徴になるリスクがある。担当者が代わった年に初めてやってみて、何が正しいのか分からなくなる、という状況が起きやすい。

従業員の状況変化で発生するもの

  • 育児休業取得者申出書(産休・育休に入るとき。保険料免除の申出)
  • 傷病手当金の申請(病気・けがで休業が続くとき)
  • 被扶養者異動届(家族の扶養を追加・削除するとき)

育休関係の手続きはタイミングを誤ると従業員が損失を受けるため、正確な処理が必要だ。本人が現場を離れている状況で発生するため、担当者に経験がないと処理が止まりやすい。

社会保険手続きの代行は社労士の独占業務

「社労士以外の安い選択肢はないか」と調べる人は多い。ただ、まず法的な前提を確認しておく必要がある。

社会保険・労働保険に関する手続き書類の作成と申請代行は、社会保険労務士の独占業務(社会保険労務士法第2条)だ。社労士資格を持たない者が有償で申請代行を行うと違法になる。

つまり、バックオフィス代行会社やオンライン秘書に「社会保険の申請をやってほしい」という依頼はできない。書類の整理や確認補助は可能だが、年金事務所への申請自体は社労士でなければならない。

「社労士以外の選択肢」として存在するのは、サービス形態の違いだ。社労士と契約するにしても、顧問契約型・スポット単発型、あるいはクラウドソフトを使って自社で処理するという方法がある。

外注先の3タイプと費用相場

タイプ1: 社労士事務所への顧問委託

最も一般的な形態。月額顧問料を支払い、日常的な手続き代行と労務相談を依頼する。

月額顧問料の相場(従業員数別):

従業員数 月額顧問料の相場
〜5名 2〜3万円
〜10名 3万円前後
〜20名 4万円前後
〜30名 5万円前後

この顧問料に、日常的な手続き代行・労務相談・算定基礎届・年度更新が含まれるプランが多い。ただし、育休対応・傷病手当申請が別途費用になるケースもある。契約前にどの業務が月額内に含まれるかを確認しておく必要がある。

顧問契約が向いている会社:

  • 入退社が毎月数件ある
  • 就業規則・解雇・休職対応など労務相談をよく使う
  • 法改正への対応を一任したい

顧問契約が割高になりやすいケース:

  • 入退社が年に2〜3件しかない
  • 相談をほとんど使わない

正直、最初は僕も「社会保険の手続きは社労士と顧問契約するのが当たり前」だと思っていた。でも知り合いの経営者に聞いたら、年間入退社が2件しかないのに月3万円払っていて、相談もほとんどしていない、という話を聞いた。スポット代行に切り替えれば年間20万円以上変わるケースだ。

タイプ2: スポット代行(手続き1件ごとの依頼)

顧問契約を結ばず、手続きが発生したときだけ依頼する形態。

費用の目安:

  • 資格取得届・喪失届1件あたり: 5,000〜2万円前後
  • 算定基礎届: 従業員規模により3〜10万円前後

入退社が年に数件しかない会社では、顧問料よりスポット代行の方が費用を抑えられる。Web完結でスポット対応してくれるサービス(社保スポ・社労士クラウドなど)もあり、年金事務所への持参が不要になる。

デメリットは、労務相談が別途費用になること。算定基礎届・年度更新・育休対応の際も都度発注が必要になる。また、顧問契約を前提にしている事務所はスポット対応を受け付けていない場合があるため、事前確認が必要だ。

タイプ3: クラウドソフトで自社対応

外注ではないが、費用比較の対象として整理しておく。マネーフォワード クラウド社会保険(月2,480円〜)やSmartHRなどのSaaSを使うと、電子申請を自社で行うことができる。書類の自動生成・申請状況の管理ができ、年金事務所に出向く手間が省ける。

ただし、申請自体を自社が行うため、処理ミスのリスクは自社が負う。算定基礎届や育休対応など複雑な手続きには対応できないケースもあり、使える場面は定型の入退社手続きが中心になる。

費用を入退社頻度別に比較する

どのタイプが合理的かは、入退社の頻度によって大きく変わる。

ケース1: 従業員10名・年間入退社が4件の会社

対応方法 年間費用の目安
社労士顧問契約(月3万円) 約36万円
スポット代行(入退社4件 + 算定基礎 + 年度更新) 約12〜20万円
クラウドソフト自社対応(月2,480円〜) 約3万円〜

入退社が少ない会社では、スポット代行かクラウドソフト自社対応が費用面では合理的だ。顧問契約の価値は「何度でも労務相談ができる」「法改正対応を一任できる」という点にある。その価値をどれだけ使えるかで判断が変わる。

ケース2: 従業員20名・毎月1〜2件の入退社がある会社

対応方法 年間費用の目安
社労士顧問契約(月4万円) 約48万円
スポット代行(月1.5件平均 × 12か月 + 算定・更新等) 約30〜40万円

入退社が多くなると、スポット代行の費用も積み上がる。算定基礎届・年度更新・育休対応が加わると顧問契約との差額が縮まる。労務相談を頻繁に使う会社なら、顧問契約の方が使い勝手がよい。

一方でスポット代行だけに切り替えて算定基礎届の時期に誰にも頼めず詰まった、という話も聞く。日常的な手続きをスポットで対応しつつ、繁忙期の複雑な手続きは別の社労士に依頼する、というやり方は運用が煩雑になる。スポットに切り替える場合は、算定基礎届・年度更新をどうするかを先に決めておく必要がある。

どの手続きを外注すべきか・しなくていいか

全部を外注する必要はない。手続きの性質別に整理する。

外注を強く勧める手続き

算定基礎届・年度更新: 年1回、全員分を処理する。計算ルールが複雑で、ミスると保険料の追徴リスクがある。担当者が代わると知識が途切れやすく、専門家への依頼が確実だ。

育休・産休関係の保険料免除申出: タイミングを誤ると従業員に損失が発生する。手続きの種類も複数あるため、一連の流れを把握している専門家に任せた方が安全だ。

傷病手当金の申請: 本人が休んでいる状況で発生する。担当者が経験のない手続きで処理が止まりやすい。

自社でも対応できる手続き

資格取得届・喪失届: 書式が決まっており、電子申請に慣れれば定型作業として処理できる。SmartHRやマネーフォワード クラウド社会保険を使うとオペレーションが安定する。

被扶養者異動届: 書式が固定されており、入力項目も多くない。

よく「社会保険手続きは全部まるごと専門家に任せた方がいい」と言われる。確かに算定基礎届のような複雑な手続きは専門家に依頼した方が安全だ。ただ、入退社の資格取得届・喪失届のような定型手続きを毎回外注し続けるのは、入退社が少ない会社では割高になりやすい。クラウドソフトが整ってきた今は、日常的な定型手続きは自社で処理して、複雑な手続きだけ社労士に依頼するという分け方が現実的だと思っている。

ハイブリッドの運用としては、日常的な入退社手続きはクラウドソフトで自社対応し、算定基礎届・年度更新・育休対応はスポットで社労士に依頼するという組み合わせがある。費用を抑えながら専門家のサポートを得られる実用的な方法だ。

社労士を選ぶときの確認ポイント

電子申請に対応しているか

紙書類のやりとりが中心の事務所は、書類の往復に時間がかかる。電子申請対応かどうかはサイトか問い合わせ時に確認できる。

入社手続きの処理スピード

資格取得届の提出期限は入社から5日以内だ。入社日当日に書類を渡しても期限内に処理できるかを確認しておく。「週1回しか確認しない」という体制の事務所では期限に間に合わないリスクがある。

顧問料に何が含まれているか

算定基礎届・年度更新・育休対応が月額に含まれるか別途費用かは事務所によって異なる。見積もりの段階で対象業務の一覧を書面でもらうと、後からのトラブルを防げる。

連絡手段とレスポンス速度

電話のみ対応の事務所は、急ぎの手続きが発生したときに対応が遅れやすい。メールやチャットで連絡できるかを確認する。

注意すべきリスク

社労士資格を持たない業者への委託: 「労務管理士」「行政書士」などの名称で業務を受けているケースがある。行政書士は許認可申請の専門家であり、社会保険手続きの申請代理は業務範囲外だ。依頼前に資格の有無を確認する。

業務範囲の確認不足: 顧問料が安く見えても、算定基礎届や育休対応が別途費用だと総額が変わる。契約前に対象業務の一覧を書面で確認することが重要だ。

費用だけで選ぶと「想定していた使い方と違った」が起きやすい。入退社の頻度、労務相談の利用頻度、自社の電子申請対応力——この3点を先に整理した上で外注先を選ぶ方が、後から後悔しにくい。

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