バックオフィスが回らなくなったとき、多くの経営者が最初に考えるのは「誰か採用しよう」だ。
だが採用は時間がかかる。求人を出してから入社まで3〜6ヶ月かかることが珍しくない。中途採用の費用は1人あたり100〜130万円を超えることもある。採用できたとしても、中小企業の中途採用3年以内離職率は約30%とされており、退職すれば再採用コストが再び発生する。
実は、バックオフィスの人手不足を解消する選択肢は採用だけではない。「外注(バックオフィス代行)」と「ツール導入(クラウドソフト・AI)」という2つの手段がある。
この記事では、外注・ツール・採用の3つを費用・即応性・リスクの観点で比較し、業務の種類や会社の規模に応じてどの手段が合うかを判断できるよう整理する。
バックオフィスの人手不足はなぜ起きるのか
バックオフィスの業務量は、売上や従業員数の増加に比例して増える。しかし担当者の数は追いつかないことが多い。
従業員が5〜10人の段階では、経営者が経理・総務・採用事務の全てを兼務しているケースが多い。これが10〜20人になると業務量は2〜3倍に増えるが、専任担当者を置けていない会社がほとんどだ。
「採用しよう」と思っても採用できない。採用できても定着しない。このループが続いて、気づけば経営者が週20〜30時間を事務作業に使っている——というのが中小企業でよくある実態だ。
よくあるのは、事務担当が1人で経理・総務・採用事務を全部抱えて回らなくなっているケースだ。月末になると残業して請求書を処理し、給与計算に追われる。その人が辞めたら全部止まる。外注やツール導入で負荷を分散できれば、この状態を解消できる。
3つの選択肢を整理する
選択肢1:採用(正社員・パート)
向いている状況
- 月の事務作業時間が150時間以上ある
- 経理以外の業務(総務・採用事務・受発注管理等)も含めて任せたい
- 社内に業務を教える余裕がある
- 現金管理など毎日の確認が必要な業務がある
コストの目安
正社員(事務職)を採用する場合、給与・社会保険・採用費を含めると月35〜50万円が現実的な水準になる。人材紹介経由の場合は採用時に年収の30〜35%(年収320万円なら約96〜112万円)の紹介手数料が別途発生する。
パートであれば月7〜15万円で済むが、業務量が多い場合はカバーできないことがある。
リスク
採用から定着まで時間がかかる。退職した場合は再採用コストが発生する。一人経理・一人総務の場合、退職時に業務が止まるリスクが特に高い。
選択肢2:ツール導入(クラウドソフト・AI)
向いている状況
- 繰り返し発生する定型業務が多い(請求書発行・給与計算・経費精算等)
- 業務フローが既に決まっており、手順を自動化できる
- 初期設定に時間を割ける担当者がいる
コストの目安
クラウド会計ソフト(freee・マネーフォワード)は月額2,000〜10,000円程度。給与計算ソフトは月額3,000〜15,000円。請求書の自動発行ツールは月額3,000〜20,000円程度が相場だ。
主要ツールを組み合わせても月額3〜5万円以内に収まることが多い。
リスク
ツールは「繰り返す作業を速くする」のは得意だが、判断が必要な業務や例外対応には向いていない。導入しても使いこなせずに放置されるケースも少なくない。また、仕組みを整えるまでに初期設定の時間がかかる。
選択肢3:外注(バックオフィス代行)
向いている状況
- 月の事務作業時間が50〜100時間程度で、専任担当者を雇うほどではない
- 採用コストや退職リスクを避けたい
- 今すぐ対応してほしい(採用を3〜6ヶ月待てない)
- 専門知識が必要な業務(月次決算・給与計算)がある
コストの目安
経理代行(記帳・給与計算・月次試算表)は月3〜6万円が目安(従業員10〜15人規模)。総務・採用事務も含めたバックオフィス代行は月8〜15万円程度になる。
時間単位での依頼も可能で、月10〜20時間の稼働であれば月3〜8万円程度に収まるサービスもある。
リスク
毎日の現金管理・突発的な判断が必要な業務には向いていない。社内に業務の全体像を把握している人間が必要になる。代行会社の品質にはばらつきがあるため、選定に手間がかかる。
3つを費用・即応性・リスクで比較する
| 選択肢 | 月額コスト(従業員10人規模) | 即応性 | 退職・停止リスク |
|---|---|---|---|
| 正社員採用 | 35〜50万円 | 低い(3〜6ヶ月) | 高い |
| パート採用 | 7〜15万円 | 中程度(数週間) | 中程度 |
| ツール導入 | 3〜5万円 | 中程度(設定に数週間) | ほぼなし |
| 外注(代行) | 3〜15万円 | 高い(1〜2週間) | ほぼなし |
コストと即応性だけ見ると、ツールと外注が優位だ。ただし「どの業務を解消したいか」によって最適な手段が変わる。
業務ごとに手段を使い分ける
全ての業務に同じ手段を当てはめる必要はない。業務の種類によって、最も合う手段が異なる。
| 業務 | ツール | 外注 | 採用 |
|---|---|---|---|
| 記帳・仕訳 | ◎ クラウド会計で自動化 | ○ | △ |
| 給与計算 | ◎ 給与ソフトで自動化 | ○ | △ |
| 請求書の発行・送付 | ◎ 自動化ツールで対応 | ○ | △ |
| 経費精算 | ◎ アプリで自動化 | ○ | △ |
| 採用事務(書類・日程調整) | △ | ◎ | ○ |
| 月次決算・財務分析 | ○ | ◎ 専門知識が必要 | △ |
| 顧客対応・問い合わせ | △ | ○ | ◎ |
| 現金管理・日次確認 | △ | × | ◎ |
定型業務(記帳・給与・請求書)はツールで自動化しやすい。専門知識が必要な業務は外注が向いている。毎日の現金管理など「社内で完結させる必要がある業務」は採用(またはパート)が適している。
会社規模別の現実的な組み合わせパターン
外注・ツール・採用は「どれか1つ」ではなく、組み合わせることで効果が最大化される。
パターンA:従業員5〜10人 ツール先行型
まずクラウド会計ソフトと請求書ツールを導入し、定型業務を自動化する。自動化できない部分(月次決算・給与計算)を経理代行に外注する。専任の採用はしない。
月額コスト目安:5〜10万円
経営者が経理に使っていた時間を営業・経営判断に戻せる。人件費をかけずにバックオフィスを安定させられる段階に向いている。
パターンB:従業員10〜20人 外注先行型
まず外注(バックオフィス代行)に経理・給与・採用事務を任せる。業務が安定したら、定型業務をツールに切り替えて外注コストを削減する。
月額コスト目安:10〜20万円(安定後は8〜15万円)
外注している間に業務フローが文書化されるため、後でツールに移行しやすくなる。採用も外注期間中に余裕をもって進められる。
パターンC:従業員20〜30人 ハイブリッド型
ツールで定型業務を自動化しつつ、専門性が必要な業務(月次決算・給与計算)は外注し、日常的な総務業務のみパート1名を採用する。
月額コスト目安:15〜25万円
正社員1名分(35〜50万円)よりも低コストで、複数の手段を組み合わせてリスクを分散できる。
「採用だけ」を考えているなら、一度立ち止まってほしい
バックオフィスの人手不足を採用で解決しようとすること自体は間違いではない。ただ、採用には時間とコストがかかり、定着しないリスクも残る。
ツールと外注を組み合わせれば、採用コストの3分の1以下で今すぐバックオフィスを安定させられるケースが多い。
まず確認してほしいのは、自社のバックオフィス業務のうち「繰り返す定型業務」と「判断が必要な業務」の比率だ。定型業務が7割以上なら、ツールだけでかなりの部分が解消できる。
今日からできる3ステップ:
- 自社の事務作業を洗い出し、「定型業務」と「判断業務」に分ける
- 定型業務にはツール導入を検討する
- 判断が必要な業務・専門知識が必要な業務には外注の見積もりを取る
「採用するかどうか」は、この2ステップを試してから判断しても遅くない。
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経理の外注を検討しているなら、こちらも参考にしてほしい。