著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)
「経理担当が辞めてしまった。次が見つかるまでどうすればいい?」
「経営者が自分で経理をやっているが、もう限界だ。どこかに頼めないか?」
「採用しようとしたが、経理の求人で来る人材がそもそも少ない」
この3パターン、業務効率化の相談を受けていると何度も聞く状況だ。従業員5〜30人規模の中小企業では、経理が属人化している会社が多く、何かのきっかけで一気に崩れる。
この記事では、経理を外注するときの手順を5つのステップで整理する。費用の目安、外注先の種類と選び方、失敗しないポイントまで具体的にまとめた。
経理外注とは何か|できることとできないことを整理する
まず「経理の外注」という言葉の範囲を明確にしておく。経理業務の中には、外部に委託できるものとできないものが法律によって分かれている。
外注できる経理業務
| 業務 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 記帳・仕訳入力 | 領収書・通帳明細をもとに帳簿に入力 | 最もニーズが多い |
| 請求書の発行・送付 | 売上請求書の作成と取引先への送付 | BPO会社が対応 |
| 請求書の受取・管理 | 仕入れ先からの請求書の受け取りと支払い期日管理 | BPO会社が対応 |
| 支払い代行 | 取引先への振込処理(ネットバンキング等) | BPO会社のみ |
| 給与計算 | 月次給与の計算・明細作成・振込データ作成 | 社労士 or BPO |
| 年末調整 | 計算・書類作成 | 税理士 or 社労士 |
| 月次試算表の作成 | 収支状況をまとめたレポート | 記帳代行 or 税理士 |
外注できない業務(税理士の独占業務)
税務申告・税務代理・税務書類の作成は、税理士法により税理士にしか行えない。記帳代行業者が帳簿を作れるのは「帳簿作成まで」であり、申告書類の作成・提出は税理士の領域だ。
この区分は多くの経営者が誤解しているポイントだ。「記帳代行を頼んだから確定申告もやってくれる」と思ったら、記帳代行業者は申告書を作れないため、別途税理士との契約が必要になるケースがある。
一般的な組み合わせパターン
| パターン | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 記帳代行業者 + 顧問税理士 | 記帳は代行業者、申告は税理士 | 記帳コストを抑えたい会社 |
| 税理士事務所に一括 | 記帳から申告まで同じ事務所 | 窓口を一本化したい会社 |
| BPO(バックオフィス代行)+ 税理士 | 給与・請求書管理もまとめて委託 | 経理業務を全部外に出したい会社 |
どのパターンを選ぶかは、外注したい業務の範囲と予算によって変わる。ここが決まらないまま業者に問い合わせても、見積もりがバラバラになって比較しにくい。
外注前に決めておく4つのこと
業者に連絡する前に、以下の4点を整理しておく。これをやらずに問い合わせると、見積もりに数週間かかり、比較もできない状態になる。
1. 外注する業務の範囲を決める
全部外注しようとすると費用が高くなる。まず「どれを外に出して、どれを社内で続けるか」を分ける。
外注を優先すべき業務
- 経営者が自分でやっている業務(本業に使えるはずの時間が取られている)
- 専門知識が必要で社内に知見がない業務(給与計算、税務周り)
- ミスの影響が大きい業務(源泉徴収の計算誤り、支払い漏れ)
社内で対応しやすい業務
- 経費精算(申請ルールを整備すれば担当者不要)
- 日常の領収書ファイリング(月末にまとめて業者に渡す)
業務の範囲が絞れると、見積もりの精度が上がる。「できるだけ全部」という依頼をすると、業者も範囲を広げた見積もりを出してくるため、後から不要な業務にも料金が発生する。
2. 月の取引件数を把握する
記帳代行の費用は「月の仕訳件数(取引件数)」で変わることが多い。これを把握していないと、見積もりが出ても「適切な金額かどうか」判断できない。
目安として、従業員10〜15人の会社では月100〜200件程度になることが多い。正確な数字が必要な場合は、会計ソフトの月次レポートで過去の件数を確認する。ソフトがない場合は、通帳明細の1ヶ月分の行数を数えるのが一番早い。
3. 使用中の会計ソフトを確認する
業者によって対応しているソフトが異なる。freee・マネーフォワードクラウド会計・弥生会計のうちどれを使っているかを確認しておく。
クラウド会計ソフトを使っていない場合(ExcelやPaperのみ)、多くの業者がソフト導入を前提条件にしている。freeeのスタータープランは月2,380円〜、マネーフォワードクラウド会計のスモールビジネスプランは月2,980円〜が目安だ(税別・2026年時点の参考価格)。これも予算に含めて考える必要がある。
4. 開始希望時期を決める
「できるだけ早く」という依頼では、業者側も引き継ぎ計画を立てにくい。具体的な希望月を伝えると話が進みやすい。
引き継ぎには最低2〜4週間かかる。経理担当が急に退職した場合は、ひと月以上の空白期間が生じることもある。「もう辞めてしまったので今月から」という状況は業者にとっても難しく、最初の1〜2ヶ月は精度が下がる可能性がある。できるだけ計画的に動く方が品質は安定する。
外注先の種類と費用を比較する
外注先は大きく3種類に分かれる。依頼したい業務の範囲と、許容できる月額予算に合わせて選ぶ。
外注先の種類と費用比較
| 外注先の種類 | 対応業務 | 月額費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 記帳代行業者 | 記帳・試算表のみ | 5,000〜2万円 | 費用を最小限にしたい、申告は税理士が別途いる |
| 税理士事務所(記帳付き) | 記帳・申告・税務相談 | 2万〜5万円(申告料別途) | 窓口を一本化したい、税務相談も欲しい |
| BPO(バックオフィス代行) | 記帳・給与計算・請求書管理・支払い代行 | 3万〜15万円 | 経理業務をほぼ全部外に出したい |
費用の開きが大きいのは、業務の範囲と件数によって変わるからだ。記帳だけなら安く済むが、給与計算や支払い代行まで含めると一気に費用が上がる。
記帳代行業者の特徴
費用を抑えることが最大のメリットで、月5,000〜2万円程度で始められる。ただし税務申告は対応していないため、税理士との契約が別途必要になる。窓口が2つになる点が手間と感じる経営者は多い。
業者の品質差が出やすいのも特徴だ。試算表の提出が翌月末になる業者と、翌月10日に出してくれる業者では、経営判断に使える情報の鮮度が大きく変わる。
税理士事務所に一括依頼する特徴
記帳から申告・税務相談まで一括で対応してもらえるため、窓口が一本化できる。費用は月2万〜5万円が目安で、申告費用は別途かかることが多い。
デメリットは、給与計算や支払い代行には対応していない事務所が大半な点だ。「経理業務を全部外に出したい」という場合は、社労士(給与計算・労務)やBPOとの組み合わせが必要になる。
BPO(バックオフィス代行)の特徴
記帳・給与計算・請求書管理・支払い代行まで一括で請け負うサービス。月3万〜15万円と費用は高めだが、社内の経理工数をほぼゼロにできる。
ただし、会社ごとの業務フローや慣習を理解してもらうまでに時間がかかる。初期の引き継ぎがうまくいかないと、最初の数ヶ月で問題が続出する。バックオフィス代行費用|月3万円〜の外注で失敗しない選び方でも詳しく整理しているが、最初の引き継ぎに投資する時間が品質を左右する。
外注業者の選び方|比較時に確認すべきポイント
見積もりをもらった後、費用だけで選ぶと後悔することが多い。僕が見てきた失敗事例の多くは「安かったから選んだ」が起点になっていた。
以下のポイントを業者選定時に必ず確認してほしい。
業者比較で確認すべき7項目
| 確認項目 | 理想の答え | 注意が必要な答え |
|---|---|---|
| 試算表の提出タイミング | 翌月15日以内 | 翌月末・月により変動 |
| 担当者の固定制 | 担当者が固定されている | 「担当はチームで対応します」 |
| 対応ソフト | freee or マネーフォワード対応 | 独自システムのみ |
| 証憑の提出方法 | クラウドアップロード or 写真送信 | 郵送のみ |
| 件数超過時の追加料金 | 明確な単価が設定されている | 「その都度相談」 |
| 契約解約の縛り | 1〜3ヶ月の予告期間のみ | 1年縛り・途中解約違約金あり |
| 機密保持契約 | 締結できる | 「特に問題ありません」でお茶を濁す |
この中で特に重視してほしいのが「試算表の提出タイミング」と「担当者の固定制」だ。
試算表が翌月末に届く業者では、月初に先月の数字を見て判断するという経営スタイルが取れない。1ヶ月遅れの情報で経営判断するのは、バックミラーだけで運転するようなものだ。翌月15日以内を基準に業者を選ぶことを強くすすめる。
担当者の固定制については、経理代行でよくある「担当がころころ変わる問題」を防ぐためだ。担当が変わるたびに仕訳ルールの確認からやり直しになる。この問題が積み重なると、ミスが増えるだけでなく、業者への信頼も失われていく。
経理外注の手順|5ステップで進める
準備が整ったら、以下の流れで進める。
ステップ1:依頼内容・取引件数・予算の整理(1〜2日)
上の「外注前に決める4つのこと」をもとに、以下の情報をまとめる。
- 外注したい業務のリスト
- 月の取引件数(概算で可)
- 使用中の会計ソフト名
- 月額予算の上限
- 開始希望月
この4点が揃っていれば、業者への問い合わせでスムーズに見積もりが出る。
ステップ2:2〜3社に問い合わせて見積もりを取る(1〜2週間)
1社だけに問い合わせて「この金額が適正かどうか」を判断するのは難しい。最低でも2〜3社から比較する。
問い合わせ時に伝える情報は以下の通りだ。
- 会社の従業員数と業種
- 月の取引件数(概算)
- 依頼したい業務の範囲
- 使用中の会計ソフト
- 開始希望時期
見積もりが出たら、「含まれる業務の範囲」を必ず確認する。同じ金額でも業者によって含まれる業務が全然違うため、費用だけで比較すると判断を誤る。
ステップ3:業者を選定して契約する(1〜2週間)
見積もりの比較が終わったら業者を選ぶ。選定基準は費用よりも対応品質を重視する。
契約書の確認ポイント:
- 契約期間と解約条件(最低3ヶ月〜1年の縛りがある場合がある)
- 機密保持条項の有無
- 費用の変更ルール(取引件数が増えた場合の単価)
- 担当者の変更時の通知義務
事務パートを採用するか外注するか?コストと品質を比較して判断する方法でも触れているが、採用と外注では想定外のコストが発生するタイミングが違う。外注の場合は契約時の条件確認がリスク管理の全てだ。
ステップ4:引き継ぎ資料を準備する(1〜3週間)
業者が決まったら、業務移行に必要な資料を揃える。これを丁寧にやるかどうかが、最初の1〜2ヶ月の品質を決める。
引き継ぎ時に渡す情報・データ
- 会計ソフトのアクセス権限の付与(担当者名での招待)
- 取引先リスト(請求書の送付先・締め日・支払い方法)
- 過去の仕訳データ(最低でも直近1年分)
- 毎月の業務フロー(何日に何をするか)
- 既存のルール・仕訳の慣習(勘定科目の使い方など)
引き継ぎ資料が整っていれば、業者は最初から正確に仕訳できる。逆に「特に資料はないので口頭で説明します」という状態でスタートすると、最初の2〜3ヶ月は試算表の修正が繰り返される。
経理の担当者が退職した直後に外注を開始する場合は特に注意が必要だ。担当者が持っていた情報が引き継ぎされていないまま業者に渡すと、誰も全体像を把握していない状態になる。経理担当の退職前に引き継ぎ資料を整えておくことが理想だが、すでに退職してしまった場合は、過去の通帳・会計ソフトのデータ・契約書類から情報を再構築することになる。詳しくは経理が突然辞めた!中小企業の経営者がまずやるべき5つのことにまとめている。
ステップ5:最初の1〜2ヶ月で品質を確認して定着させる
業務開始後の1〜2ヶ月は、業者からの試算表・請求書の内容を経営者が確認する。この確認作業をサボると、後から問題が出たときに修正が大変になる。
確認のポイントは以下の3点に絞れる。
- 勘定科目の分類が適切か(経費の仕訳ミスは月次決算の信頼性に影響する)
- 試算表の数字が実際の売上・支払いと合っているか
- 提出期限が守られているか
問題があれば即フィードバックする。担当者との認識をすり合わせる期間だと割り切って対応する。2ヶ月目以降に問題がなければ、確認を税理士に任せて経営者は大幅に手を放せるようになる。
費用の目安|従業員規模別のシミュレーション
実際にいくらかかるかを、従業員規模別と対応方法別で整理する。
従業員規模別の費用目安
| 従業員数 | 月の取引件数目安 | 記帳代行のみ | BPO(記帳+給与+支払い) |
|---|---|---|---|
| 5〜10人 | 50〜100件 | 5,000〜1万5,000円 | 3万〜6万円 |
| 10〜20人 | 100〜200件 | 1万〜2万5,000円 | 5万〜10万円 |
| 20〜30人 | 200〜400件 | 2万〜4万円 | 8万〜15万円 |
※業種・業務内容・クラウドソフト対応の有無によって変動する。上記は概算。
対応方法別のコスト比較(従業員10人の会社)
| 対応方法 | 月額コスト目安 | リスク・注意点 |
|---|---|---|
| 経営者が自分でやる(月5〜8時間) | コスト計上なし(本業の機会損失) | 精度ムラ・抜け漏れリスク |
| 事務パートを採用(週2日・時給1,200円) | 約4万〜5万円(交通費・保険料含む) | 採用コスト20〜40万円が別途必要 |
| 記帳代行に外注 | 1万〜2万5,000円 | 試算表遅延・担当者変更リスク |
| BPO(経理フルアウトソース) | 5万〜10万円 | 初期引き継ぎに時間と手間がかかる |
| 税理士事務所に一括依頼 | 2万〜5万円 | 給与計算・支払い代行は別途対応 |
従業員20人以下の規模では、採用よりも外注の方がトータルコストを抑えやすい。採用が必要になるのは、経理業務が専任社員のフルタイム稼働を必要とする規模(おおむね月150〜200時間以上の業務量)になってからだ。
費用の詳細については経理代行の費用を実例で公開|従業員規模別の月額料金まとめでも実際のサービス別の金額を整理しているので参考にしてほしい。
外注後に失敗しないための実践ポイント
経理外注は「契約して終わり」ではない。ここを軽く見て後悔する経営者を何人も見てきた。導入後に起きやすい問題と、防ぐための具体策を整理する。
試算表の遅延問題
最もよくある問題が「試算表が翌月末にならないと出てこない」ケースだ。翌月末提出だと、月の数字を見て経営判断できるのが2ヶ月後になってしまう。
これを防ぐには、契約前の段階で「翌月15日以内に試算表を提出すること」を契約書に明記することだ。口頭で「なるべく早く出します」と言われても、書面に残らない約束は守られないことが多い。
業者に確認する際は「過去3ヶ月の実際の提出日を教えてください」と聞くのがいい。「翌月15日以内を目標にしています」ではなく、実績で確認する。
担当者が変わるたびに品質が落ちる問題
規模の小さい記帳代行業者では、担当者の入れ替わりがそのまま品質の波になる。担当が変わるたびに「この仕訳はどう分類するんですか?」という確認が来て、経営者の手間が増える。
対策は2つある。ひとつは契約時に「担当者固定制の業者を選ぶ」こと。もうひとつは「仕訳ルールをドキュメント化して業者に渡しておく」ことだ。担当が変わっても引き継げる状態を作っておくと、品質の安定性が上がる。
丸投げして数字を見なくなる問題
外注した安心感から「業者に任せたから」と月次の数字を見なくなる経営者は少なくない。この状態は危険だ。異常値が出ていても気づかないし、業者へのフィードバックがないため品質が改善されない。
月に1回、試算表の売上・経費・利益の3つの数字を10分間だけ確認する習慣を持つ。それだけで異常に気づけるし、業者への信頼感も維持できる。「外注したからノータッチ」は、最終的に大きなミスを発生させるリスクがある。
情報漏洩リスクへの対処
経理業務には取引先情報・給与情報・銀行口座情報が含まれる。外部の業者に渡す情報としては最も機密性が高い部類だ。
業者との契約時に機密保持契約(NDA)が締結できるか確認する。対応できない業者は避ける。また、アクセス権限は業務に必要な最小限に絞り、不必要な権限を渡さない(例えば振込業務を依頼しないなら、ネットバンキングへのアクセスは渡さない)。
外注が軌道に乗った後にできること
経理外注が定着し、月次試算表が安定して届くようになると、経営者が経理に費やしていた時間が完全に空く。この時間をどう使うかが、外注の本来の目的だ。
僕が支援してきた会社では、外注で空いた時間を使って以下のような改善が進んだ。
- 月次決算を翌月10日に把握できるようになり、資金繰りの予測精度が上がった
- 経営者が本業(営業・商品開発)に集中できる時間が月10〜20時間増えた
- 経理の「ブラックボックス状態」が解消され、税理士との打ち合わせがスムーズになった
経理が属人化したまま放置しておくと、担当者の退職リスクだけでなく、経営判断に使える情報の精度も落ちていく。外注の目的は「経理担当の代替」ではなく、「経理情報をいつでも正確に把握できる状態を作ること」だ。
経理の属人化がどのくらいのリスクになっているかは経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きでチェックできる。外注に踏み切る前に現状を把握しておくと、どこまで外注すべきかが見えてくる。
まとめ:経理外注の5ステップ
経理を外注するまでの手順を整理すると以下になる。
- 外注する業務・取引件数・予算を整理する
- 2〜3社に問い合わせて見積もりを取る
- 費用だけでなく試算表提出タイミング・担当者固定制で業者を選ぶ
- 引き継ぎ資料を丁寧に準備して渡す
- 最初の1〜2ヶ月は経営者が試算表を確認してフィードバックする
最初の準備を丁寧にするほど、定着後の手間が少なくなる。逆に「とりあえず外注してしまおう」と準備不足で始めると、最初の数ヶ月でトラブルが続く。
「どこを外注するか」さえ決めれば、あとは業者が進めてくれる。まず手を付けるのは、外注する業務の範囲を1枚の紙に書き出すことだ。