事務代行・外注

労務管理を丸ごと外注する方法|社労士・BPO・オンラインアシスタントを比較

入退社のたびに手続きが発生する。社会保険の加入・喪失の手順が分からない。法改正のたびに就業規則を見直す時間がない。

中小企業で労務管理を専任で担当できる人がいない——あるいは経理や事務の担当者が兼務で何とか回している——という状況は珍しくない。それでも毎月の給与計算と社保手続きは止められないため、担当者に過大な負担がかかり続ける。

この記事では、労務管理を外注する方法を整理する。

  • 外注できる業務の一覧
  • 外注先の3タイプ(社労士・BPO・オンラインアシスタント)の違いと費用比較
  • 従業員規模別の選び方と費用目安
  • 外注 vs. 社員採用のコスト比較
  • 失敗しないための準備と注意点

社員採用で解決するか、外注で解決するかを迷っている方にも参考になるように書いた。

労務管理で外注できる業務の全体像

まず「何が外注できるか」を把握しておく。労務管理の業務範囲は広く、すべてを外注できるわけではない。

社労士資格が必要な手続き

社会保険・雇用保険の申請書類を作成して行政機関に提出する行為は、社会保険労務士法により社労士(または社労士が在籍する事務所・法人)しか業務として行えない。

具体的には以下が該当する。

  • 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入・喪失手続き
  • 雇用保険の加入・喪失手続き
  • 入退社時の各種届出(資格取得届・喪失届等)
  • 労働保険の年度更新(毎年6月)
  • 算定基礎届(毎年7月)
  • 就業規則の作成・変更届出
  • 育児介護休業等の各種制度整備

社労士資格がなくても代行できる業務

一方、以下の業務は社労士資格がなくても代行できる。BPO専門会社やオンラインアシスタントが対応できる範囲だ。

  • 給与計算(金額の計算・明細発行)
  • 勤怠データの集計・確認
  • 年末調整の書類作成(提出代行は社労士が必要)
  • 各種証明書の発行補助
  • 書類の印刷・スキャン・保管
  • 採用事務の補助(書類受付・日程調整等)

この区分を知らずに「全部まとめてオンラインアシスタントに頼めばいい」と考えると、社保手続きで詰まる。外注先を選ぶ前に、自社で何が必要かをこの区分で整理しておくことが先決だ。

外注先3タイプの比較

外注先は大きく3つのタイプに分かれる。それぞれの特徴と費用感を整理する。

1. 社会保険労務士(社労士)事務所

社労士は、社会保険・雇用保険の手続き代行から就業規則の作成・改定、給与計算の確認まで対応できる国家資格者だ。「手続きをこなすだけ」でなく、「この場合どう対応するのが法的に正解か」という相談ができる点が他のサービスと決定的に異なる。

残業・解雇・休職・ハラスメントといった法的判断が絡む場面でも、社労士なら対処方法を相談できる。従業員数が増えるほど、こうした場面は増える。

対応業務の例

  • 入退社時の社会保険・雇用保険手続き
  • 給与計算の代行または確認(別途費用)
  • 就業規則の作成・変更届出
  • 労働保険年度更新・算定基礎届の作成
  • 労働トラブルが発生した際の対応アドバイス

費用の目安

従業員規模 月額顧問料(給与計算なし)
5〜10人 25,000〜40,000円
10〜20人 35,000〜60,000円
20〜50人 50,000〜100,000円

給与計算を含む場合は、従業員1人あたり500〜1,500円程度が加算されるのが一般的だ。給与計算を単体で外注することを検討している場合は、給与計算の外注はいくらかかる?費用相場と選び方も参照してほしい。

向いている会社

2. 人事労務BPO専門会社

給与計算や社会保険手続きを主軸に、大量の処理をシステムで効率化することを得意とする会社だ。freee・マネーフォワード・給与計算ソフト各種との連携が整っているサービスが多い。

社労士が在籍するBPO会社であれば、社保申請の代行も含んで委託できる。契約前に社労士在籍の有無を必ず確認する。

対応業務の例

  • 給与計算・明細発行
  • 社会保険・雇用保険の手続き代行(社労士在籍の場合)
  • 勤怠データの集計・確認
  • 年末調整の計算・書類作成

費用の目安

従業員規模 月額の目安
〜20人 20,000〜50,000円
20〜50人 40,000〜80,000円
50〜100人 70,000〜150,000円

向いている会社

  • 給与計算の処理量が多く、ミスなく・速く処理したい
  • すでにfreeeやマネーフォワードを使っており、ツール連携を活かしたい
  • 法的なアドバイスよりも「手続きを確実に処理してほしい」がメイン

3. オンラインアシスタント

フジ子さん・HELP YOU等のサービスで、幅広い事務作業を依頼できるのが特徴だ。労務管理に特化したサービスではなく、「事務全般をまとめて依頼したい」という会社に向いている。

ただし、前述の通り社保申請の代行は社労士資格が必要なため、オンラインアシスタントが対応できる労務関連業務は補助作業が中心になる。書類のフォーマット準備・勤怠データの集計・スケジュール管理といった範囲だ。

費用の目安

月の稼働時間 月額の目安
10時間/月 25,000〜35,000円
20時間/月 50,000〜70,000円
30時間/月 75,000〜100,000円

向いている会社

  • 社保手続きは社労士に任せつつ、その周辺の事務作業も依頼したい
  • 労務に限らず、経理・総務・採用事務をまとめて一社に依頼したい

3タイプの比較まとめ

社労士事務所 BPO専門会社 オンラインアシスタント
法的アドバイス できる 社労士在籍なら可 できない
社保・雇保の申請代行 できる 社労士在籍なら可 できない
給与計算 対応可(別途費用) 得意 補助作業のみ
月額費用の目安 2.5万〜10万円 2万〜15万円 2.5万〜10万円
向いている規模 5〜50人 20人〜 補助用途
法的トラブル対応 できる できない できない

従業員規模別の選び方

会社の規模によって、コストと必要な専門性のバランスが変わる。

従業員5〜15人の場合

最もコストパフォーマンスが高いのは社労士事務所との顧問契約だ。月25,000〜40,000円程度で、社会保険手続き・給与計算の確認・相談対応をカバーできる。

入退社の頻度が年2〜3件程度と少ないなら、月次の顧問契約ではなくスポット対応で社労士に依頼する方法もある。スポット対応の場合、入退社1件あたり15,000〜25,000円程度が相場だ。

BPOサービスは従業員数が少ないと割高になりやすい。従業員15人以下では、社労士顧問の方が費用対効果は高い。

従業員15〜30人の場合

業務量が増え、給与計算・社保手続きを月次で確実に処理する必要が出てくる。社労士事務所またはBPO専門会社のどちらかが現実的な選択肢になる。

判断のポイントは「法的な相談が必要かどうか」だ。残業・解雇・退職に関して判断に迷う場面があるなら社労士、手続き処理だけでいいなら処理スピードと費用面でBPOが向いている。

この規模では、月額35,000〜60,000円(社労士)または月額40,000〜60,000円(BPO)が現実的なコスト感だ。

従業員30〜50人の場合

業務量と処理の複雑さが増す。社労士在籍のBPO専門会社への一括委託、または社労士+BPOの組み合わせが現実的だ。

給与計算・手続きはBPO、法的アドバイスと就業規則管理は社労士というように役割を分けることで、コストと専門性を両立できる。

外注 vs. 社員採用|コストを比較する

「専任担当者を採用すればいいのでは」という判断軸は間違いではない。ただし、コストと運用の現実を比較してから決めた方がいい。

社員採用の場合

労務を担当できる人材(社労士資格なし、実務経験あり)を採用するとすると、東京都内であれば月給250,000〜320,000円が目安だ。これに社会保険料の会社負担分(約15%)を加えると、実質的なコストは月287,500〜368,000円になる。

加えて採用コストが発生する。転職サイト掲載のみであれば20〜50万円程度だが、転職エージェントを利用する場合は年収の30〜35%が手数料になるため、年収300〜400万円の人材では90〜140万円程度かかる。

入社後も問題がある。 労務担当者が1人の場合、その人が辞めた瞬間に業務が止まる。「属人化」の問題は、採用しても解決しない。外注契約では起きにくい問題だが、外注そのものにもリスクはある。外注で失敗する中小企業の共通パターンと防ぎ方で整理しているので、外注を始める前に確認してほしい。

外注の場合

従業員規模 月額外注コストの目安
5〜15人 25,000〜50,000円
15〜30人 40,000〜80,000円
30〜50人 60,000〜120,000円

採用コストはゼロ。担当者が替わっても業務は継続する。

外注が合わないケースは以下だ。

  • 毎月の給与計算に複雑な手当計算があり、属人的なノウハウが多い
  • 法的トラブルが頻発し、即時対応が必要な状態になっている
  • 採用・評価・OJTまで含めた人事全体を一人に担わせたい

この場合は採用を検討する。それ以外の多くの中小企業では、外注の方がコスト・安定性ともに優れる。

外注で失敗しないための準備と注意点

現状の業務を一覧にしてから依頼する

「何を依頼するか」が決まっていないと、外注先との打ち合わせが長くなり、見積もりもずれる。現時点で発生している労務関連の業務を一度書き出す。月次・年次・不定期の3種類に分けると整理しやすい。

入退社が月に何件発生するか、給与計算の複雑さ(固定給のみか・各種手当あるか)、勤怠管理ツールの有無——このあたりを把握しておくと、見積もりが正確に取れる。

ツールの互換性を確認する

給与計算ソフト・勤怠管理ツール・会計ソフトが既にある場合、外注先がそのツールに対応しているかを確認する。freee・マネーフォワード・弥生に対応していない外注先に切り替えると、データ移行のコストと手間がかかる。

特にfreeeやマネーフォワードを使っている場合、連携対応の有無で業務効率が大きく変わる。

担当者の固定制を確認する

給与計算や社保手続きは、会社の情報(手当の種類・扶養状況・各種設定)を把握している担当者が担当することで品質が安定する。担当者が頻繁に変わるサービスは、引き継ぎのたびに説明が必要になる。

契約前に担当者固定制かどうかを確認する。固定制でない場合は、「引き継ぎ時のプロセス」を具体的に聞く。

全業務を一気に移行しない

外注を開始するタイミングで全業務を一気に移管しようとすると、引き継ぎの不備が起きやすい。まず給与計算か社保手続きのどちらか一方に絞って依頼し、3ヶ月程度で安定してから範囲を広げる方が現実的だ。

現場で見てきた話:担当者1人体制のリスク

業務効率化に特化したエンジニアとして複数の中小企業に関わってきた中で、労務管理の属人化問題は何度か目にしてきた。

典型的なパターンはこうだ。従業員25人の会社で、経理と労務を1人の担当者が兼務している。その担当者の頭の中に給与計算のロジックがすべて入っており、「自分がいないと誰も回せない」という状態になっている。

退職や産休のタイミングになって初めて「誰も引き継げない」と気づく。急いで社労士に相談し、現状の把握から始めることになるが、それだけで数ヶ月かかる。

外注の話をすると「社員に労務を覚えさせる方が長期的には良いのでは」という意見をもらうことがある。それ自体は間違いではない。ただ、社労士法の手続き範囲まで社員に覚えさせようとすると、実務レベルになるのに2〜3年かかる。その間に法改正があれば、また一から学び直しになる。

「手続きのプロを外注で確保して、社内は運用管理だけ担う」という分担が、10〜30人規模の会社では現実的だと思っている。

費用の実際:社労士に3年顧問をお願いした場合

僕が接した企業のうち、従業員18人の製造業の会社が社労士との顧問契約を始めた事例がある(固有名詞は非公開)。

それまで経営者自身が社保手続きを担当しており、月に10〜15時間程度を手続き関連に費やしていた。社労士顧問(月額45,000円)に切り替えた後、この時間はほぼゼロになった。

外注コストは年間540,000円。経営者の時間で換算するような計算はしないが、「毎月の手続きミスへの不安」がなくなったことを経営者が最も評価していた。実際に雇用保険の届出が遅れてペナルティになりかけた経験があり、そのリスクがなくなった点が大きかったという。

まとめ:規模と課題で選択肢を決める

労務管理の外注先は、会社の規模と「何を解決したいか」によって変わる。

法的なアドバイスも含めて任せたい → 社会保険労務士事務所(月2.5万〜10万円)

就業規則がまだ整備されていない、または残業・解雇に関する相談が必要な場合はここ一択だ。

給与計算・手続きを確実に処理してほしい → 人事労務BPO専門会社(月2万〜15万円)

処理量が多く、ミスゼロで回したい場合はBPOが向いている。社労士在籍の有無は必ず確認する。

労務の周辺事務を含め、幅広く事務を依頼したい → オンラインアシスタント

ただし社保申請は対応外になるため、社労士との組み合わせが前提になる。

従業員5〜15人規模であれば、まず社労士との顧問契約(月2.5〜4万円)を試すのが現実的だ。給与計算まで含む場合は月3.5〜6万円程度を想定しておくとよい。

外注先の選定で迷う場合は、「今の自社の労務業務で何が一番のリスクか」を1つ決めてから、それを解消できる選択肢を選ぶ。全部解決しようとすると、判断が遅れる。

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