事務代行・外注

業務委託契約書で困らない書き方|印紙4,000円・フリーランス新法対応【2026年版】

外注を使い始めた会社が最初に詰まるのが、契約書の問題だ。

フリーランスに依頼するとき、「口頭で話してチャットで終わり」という進め方をしている会社は多い。最初は問題なく回っていても、成果物の品質・費用・納期でもめた瞬間、契約書がないと交渉のテーブルにも座れない。

「テンプレートを使えばいい」と思っていた会社が、2024年11月に施行されたフリーランス新法への対応漏れで行政指導のリスクを抱えているケースを、僕は複数見てきた。古いテンプレートはそのまま使えない。

この記事では、業務委託契約書の必須項目・フリーランス新法対応・電子契約の活用まで、中小企業が実務で使える形に整理する。

業務委託の「請負」と「委任」は最初に区別する

業務委託契約は、法律的に大きく2種類に分かれる。テンプレートを選ぶ前に、自社の依頼がどちらに該当するかを決める必要がある。

項目 請負契約 委任(準委任)契約
目的 成果物・納品物の完成 業務の遂行そのもの
典型例 システム開発、LP制作、デザイン 経理サポート、コンサル、事務代行
報酬の発生条件 成果物が完成して初めて発生 業務を行ったことで発生
成果物の不備 受託者が修正義務を負う(契約不適合責任) 善意で業務を行えば責任不問が原則
途中解除 成果物完成後でないと難しい 原則いつでも可能(損害賠償は別)
印紙税 金額に応じた2号文書 7号文書(継続取引の基本契約は一律4,000円)

この区別を間違えると、トラブル発生時の責任の所在が変わる。

たとえば、「ホームページを作ってほしい」という依頼を「準委任」で締結すると、納品物に問題があっても「業務は行いました」という論理が通ってしまう可能性がある。成果物を求めるなら請負、継続的な業務遂行を求めるなら準委任、と整理してからテンプレートを選ぶ。

僕がエンジニアとして関わった複数の会社で、この区別を曖昧にしたまま契約を締結しているケースを見てきた。問題が起きた後に「あれは準委任だから修正義務はない」という主張で揉めるのは、最初の区別を怠った結果だ。

フリーランス新法(2024年11月施行)で発注側が負う4つの義務

2024年11月1日に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(通称:フリーランス新法)が施行された。フリーランスに業務を委託する企業側に、4つの新たな義務が課された。

従業員を1人でも使用している企業はすべて対象になる。ほぼすべての中小企業が適用される。

義務1:取引条件の書面明示(全事業者対象)

業務を委託したとき「直ちに」、以下の事項を書面または電磁的方法(メール・SNS等)で明示しなければならない。

  • 委託する業務の内容
  • 報酬の額
  • 支払期日
  • 役務の提供を受ける期日または期間

口頭のみ、基本契約があるだけ、ではNG。案件ごとに個別の条件明示が必要になる。

義務2:報酬の支払期限(全事業者対象)

役務の提供を受けた日から60日以内に支払う義務がある。「翌月末締め翌々月末払い」は最大で約60日になるため条件を満たすことが多いが、月の途中で受領した場合はズレる。支払いサイトを見直す必要があるケースがある。

義務3:禁止行為(1か月以上の継続取引が対象)

1か月以上の契約が対象となり、以下の行為が禁止されている。

  • 正当な理由のない報酬の減額
  • 受領拒否・返品
  • 特定の物品・サービスの購入強制
  • 合理的な理由のない中途解除

義務4:中途解除の事前予告(6か月以上の継続取引が対象)

6か月以上の継続的な業務委託を中途解除する場合や、更新しない場合は、原則として30日前までに予告する義務がある。

義務 対象 違反時のリスク
取引条件の書面明示 全事業者 行政指導・公表
60日以内支払い 全事業者 行政指導・公表
禁止行為の禁止 1か月以上の取引 行政指導・命令・罰則(公正取引委員会)
30日前予告 6か月以上の取引 行政指導・命令

2024年11月以前に作成したテンプレートは、これらに対応していない。既存の契約書テンプレートを使い回している会社は、一度見直すことを勧める。

テンプレートをそのまま使ってはいけない3つの理由

ネットには弁護士監修の無料テンプレートが多く出回っている。使えないわけではないが、そのまま流用するには3つのリスクがある。

理由1:自社の業務内容が反映されていない

「業務内容:Webサイト制作に関する業務」という記載だけでは、何が成果物か、どこまでが委託範囲かが不明確だ。テンプレートは汎用性を重視して作られているため、具体性が薄い。

最低でも以下を補記する必要がある。

  • 具体的な成果物の定義(例:LP1ページのHTML/CSSファイル一式、修正3回まで)
  • 委託範囲の境界(保守・運用は含むか否か)
  • 検収の基準(どういう状態になれば完了とみなすか)

この3つがないと、追加作業が発生した際に「それは範囲外だ」「いや含まれている」の押し付け合いになる。

理由2:フリーランス新法に対応していないものが多い

2024年11月以前に公開されたテンプレートは、前述の書面明示義務・60日以内支払い・禁止行為・予告義務のいずれかが抜けている。特に「取引条件の書面明示」の要件は、テンプレートにありがちな「基本契約書のみ」では足りない。

理由3:印紙税の判断を自分でする必要がある

業務委託契約書の印紙税は内容によって変わる。

文書の種類 対象 印紙の額
2号文書(請負の契約書) 成果物完成を目的とする請負契約 契約金額によって変動(1万円〜)
7号文書(継続的取引の基本契約書) 継続的な取引の基本事項を定める契約書 金額に関係なく一律4,000円
電子契約 全種類 印紙税不要

電子契約で締結すれば印紙税がかからない。継続的な外注先がある会社なら、電子契約への切り替えで年間1件あたり4,000円の節約になる。件数が多ければ数万円単位になる。

電子契約導入の具体的な手順と費用は中小企業の電子契約導入方法|費用相場と主要サービスを比較にまとめている。

業務委託契約書に必ず入れる7項目と具体的な書き方

1. 業務の内容・範囲

汎用テンプレートにある「業務の内容」欄を、自社案件に合わせて書き直す。

NG例:「Webサイト制作に関する業務」

OK例:「LP(ランディングページ)1ページのデザインおよびコーディング。納品物はHTML/CSSファイル一式、デザインカンプ(Figmaデータ)とする。修正対応は検収前3回まで含む。保守・更新業務は含まない」

この項目が曖昧だと、スコープ外の作業要求が起きたときに解決手段がない。

2. 納期と検収方法

「○年○月○日までに納品、受領後10営業日以内に検収結果を通知し、期間内に通知がない場合は検収完了とみなす」といった具体性が必要だ。

検収基準が抽象的だと「イメージと違う」「使えるレベルにない」という主観的な理由で受け入れを拒否されるリスクがある。

3. 報酬額と支払い方法

フリーランス新法では、役務の提供を受けた日から60日以内の支払いが義務付けられている。「翌月末締め翌々月末払い」が最大60日になることを確認し、支払いサイトを明記する。

「消費税込○円、月末締め翌月末払い、銀行振込(振込手数料は委託者負担)」という粒度で書く。

4. 知的財産権の帰属

成果物の権利が誰に帰属するかを明記する。記載がないと、納品後も受託者が権利を持ち続ける可能性がある。

推奨記載:「成果物に関する著作権その他の知的財産権は、報酬の全額受領と同時に委託者に帰属する。受託者は委託者の事前書面承諾なく、成果物を第三者に開示・利用させてはならない」

この一文がないテンプレートは意外と多い。納品済みのデザインを受託者が別クライアントに流用しても、権利が不明確だと対処が難しくなる。

5. 秘密保持

業務遂行の過程で開示する顧客情報・社内情報・技術情報の守秘義務を定める。「契約終了後3年間有効」といった期間設定も入れると、終了後のリスクを抑えられる。

6. 契約の解除条件

フリーランス新法では、6か月以上の契約の中途解除に30日前予告が必要になった。契約書に合理的な解除事由(支払い遅延、業務不履行等)を明記し、それに該当する場合は即時解除可能とする条項を入れる。

7. 損害賠償の範囲

受託者の業務上のミスによる損害賠償の上限を設定する。「受領済み報酬の範囲内」と定めるケースが多い。上限の定めがないと、損害が拡大した際に青天井の請求になる可能性がある。

個人への発注と法人への発注で何が変わるか

発注先が個人(フリーランス)か法人(受託会社)かによって、適用される法律と注意点が異なる。

確認項目 個人(フリーランス) 法人(受託会社)
フリーランス新法 適用される(2024年11月〜) 適用外
下請法 会社規模によって適用 会社規模によって適用
消費税の扱い 課税事業者か要確認(インボイス登録状況) 基本的に課税事業者
秘密保持の実効性 個人の管理能力に依存 会社としての情報管理体制がある
契約書の整備負荷 フリーランス新法対応で手間が増えた 従来通りの取引条件でほぼ対応可
リスク分散 個人の体調・廃業リスクがある 担当者変更はあっても法人は継続

個人への発注はフリーランス新法の義務が加わるため、新たに個人と取引を始める際は契約書の整備が特に重要になる。フリーランスとの継続的な取引管理の仕組みについてはフリーランス活用を仕組み化する方法|中小企業のフリーランス管理術で詳しく解説している。

業務委託でよくある3つのトラブルと具体的な防ぎ方

トラブル1:成果物の修正が無限に続く

「イメージと違う」という理由で修正が繰り返され、受託者が費用と時間を消耗するケースだ。

防ぎ方は2つある。

  • 契約書に「修正回数は検収前3回まで。追加修正は1回あたり○円」と明記する
  • 検収基準を事前に合意する(「ブランドガイドラインに沿っていること」「指定したURLにアクセスして表示が確認できること」等)

修正回数の上限を書いていない契約書が多い。追加費用が発生するとわかれば、無限修正の要求は自然に減る。

トラブル2:業務委託が偽装請負とみなされる

業務委託なのに、受託者の勤務時間・場所・作業手順を細かく指示していると、実質的な雇用関係とみなされる可能性がある。社会保険の遡及加入等の問題が生じる。

「何を作るか・何をするか」は指示できる。「いつ・どこで・どういう手順でやるか」まで指示すると偽装請負のリスクが高まる。

僕が業務委託を使う際は、アウトプットの定義は細かく決めるが、プロセスの指示は極力しない、という線引きをしている。

トラブル3:契約終了後に情報が外に出る

元受託者が、業務終了後にクライアントの顧客情報や社内情報を別の用途で使うケースがある。秘密保持義務の条項に「契約終了後○年間有効」という期間を明記し、違反した場合の損害賠償規定を入れる。

外注全般でよくある失敗とその対処は外注で失敗する中小企業の共通パターンと防ぎ方で整理している。

電子契約サービスの比較と選び方

業務委託契約書は電子契約での締結が可能で、印紙税不要のメリットがある。中小企業で広く使われているサービスを比較する。

サービス名 料金モデル 特徴
クラウドサイン 従量課金+月額定額プランあり 国内利用者数が多く、法律事務所や行政機関でも使用されている
マネーフォワード クラウド契約 月額定額プラン マネーフォワードクラウドの会計・給与との連携が強い
GMOサイン 無料プランあり、月額定額プランあり 送信件数が多い会社向けのプランが用意されている
freeeサイン 無料プラン(送信件数制限あり)・有料プランあり freee会計・freee HRとの連携を重視する企業向け

※各サービスの料金は変更になる場合があるため、公式サイトで最新情報を確認してほしい。

発注件数が月に数件程度なら従量課金型(1件あたりの費用が発生するタイプ)が安い。月10件以上の締結が常態化しているなら月額定額プランのほうがコストを抑えやすい。

フリーランスとの取引に電子契約を使うと、契約締結が当日中に完了する。紙の契約書を郵送・押印・返送するフローはフリーランスとの相性が悪い。電子契約であればフリーランス新法の「電磁的方法による条件明示」の義務も同時に満たせる。

電子契約の導入ステップと費用の詳細は中小企業の電子契約導入方法|費用相場と主要サービスを比較を参照してほしい。

大手メディアが書かない本音

テンプレートサイトには「弁護士監修の安心テンプレート」という見出しが並ぶ。ただ、僕の意見では「弁護士監修」と「自社案件に使える」は別の話だ。

弁護士が監修するのは法律的に問題ない条項を担保することで、「御社の業務委託案件に適しているか」は確認していない。コーディングのLP制作に「業務内容:Web制作に関する業務」というテンプレートそのままの記載で締結している契約書を、複数の会社で見てきた。問題が起きた後に読み返すと、何の守りにもなっていない。

テンプレートを使うことはコストを下げる合理的な選択だ。ただし、使う前に「業務内容」「成果物の定義」「修正対応の範囲」「知的財産権の帰属」「フリーランス新法対応」の5点は必ず書き直す。ここを飛ばすと、テンプレートを使った意味がなくなる。

契約書整備の手順:どこから始めるか

契約書を整備していない状態からスタートする場合、以下の順番が現実的だ。

1. 直近の継続取引先から整備する

新規案件より、既存の継続的な取引先との関係を先に整備する。フリーランス新法は2024年11月以前の取引にも影響する。既存の取引先がフリーランス個人であれば、支払いサイト・取引条件の書面明示から確認する。

2. テンプレートはベースにして5点を書き直す

無料テンプレートをベースに使うのは構わない。業務内容・成果物・修正範囲・知的財産権・フリーランス新法対応の5点を自社案件に合わせて修正する。顧問の税理士・社労士・弁護士がいれば、相談の中で確認してもらうことも可能だ。

3. 電子契約に切り替えて締結コストを下げる

紙契約の郵送・押印・返送のフローをフリーランスとの取引で続けることは現実的でない。電子契約に切り替えると、契約締結が当日中に完了し、印紙代4,000円も不要になる。発注件数が多い会社であれば、月額サービスへの切り替えも検討に値する。

バックオフィス業務を外注する際の費用感についてはバックオフィス代行費用|月3万円〜の外注で失敗しない選び方【2026年版】もあわせて参考にしてほしい。

業務委託契約書は、締結しただけで安心なのではなく、自社の業務実態に合った内容になっていることが重要だ。フリーランス新法で発注側の義務が増えた今、既存の契約書があっても一度内容を確認することを勧める。

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