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業務委託契約書のテンプレートと注意点|中小企業が外注するときの基本

外注を使い始める会社が最初に詰まるのが、契約書の問題だ。

フリーランスに依頼するとき、「口頭で話して、チャットでやり取りして終わり」という進め方をしている会社は多い。最初は問題なく回っていても、成果物のクオリティ・費用・納期でもめ始めた時点で、契約書がないと交渉のテーブルにすら座れない。

実際、「テンプレートを使えばいいと思っていた」という会社が、いざ問題が起きたときに「このテンプレート、うちの案件に合っていなかった」と気づくケースは少なくない。

この記事では、業務委託契約書の基本的な作り方と、中小企業が実務で注意すべきポイントを整理する。「何が必須で何が省けるか」という実務レベルの判断基準も説明する。

業務委託の「請負」と「委任」は最初に区別する

業務委託契約は、大きく2種類に分かれる。

請負契約:成果物・納品物を作ることを目的とする。システム開発、ホームページ制作、デザイン制作等が典型例。成果物が完成して初めて報酬が発生する。

委任(準委任)契約:業務の遂行そのものを目的とする。経理サポート、コンサルティング、事務代行、継続的な運用業務等。業務を行ったプロセス自体が報酬の対象になる。

この区別が重要なのは、トラブル時の責任の所在が変わるからだ。

請負の場合、完成した成果物に問題があれば受託者が修正義務を負う(契約不適合責任)。委任の場合、善意を持って業務を行えば、期待した成果が出なくても報酬が発生する可能性がある。

「フリーランスに仕事を頼む」と一口に言っても、依頼する業務の性質によって契約の形が違う。テンプレートを流用するなら、まずここを確認することが先決だ。

テンプレートをそのまま使ってはいけない理由

ネット上には業務委託契約書の無料テンプレートが多く出回っている。弁護士監修を謳ったものも多い。ただし、これらをそのまま使うことにはリスクがある。

理由1:業務の内容が反映されていない

「業務内容:Webサイト制作に関する業務」という記載だけでは、具体的に何が成果物か、どこまでが委託範囲かが不明確だ。

「LP 1ページを作成」「保守は含まない」「修正回数は3回まで」といった具体性がないと、後からスコープの解釈でもめる。テンプレートは汎用的に作られているため、自社の案件に合わせた修正が必ず必要になる。

理由2:フリーランス新法(2024年11月施行)に対応していないものが多い

2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス新法)により、業務委託を発注する企業側に新たな義務が課された。従業員を1人でも使用している企業が対象になるため、ほぼすべての中小企業が適用される。

この法律の施行前に作られたテンプレートは、新法の義務に対応していない。

理由3:印紙税の判断が必要

業務委託契約書は内容によって収入印紙の要否が変わる。請負契約に該当する場合は「2号文書」として課税対象になる。継続的な取引を前提とする基本契約書は「7号文書」として一律4,000円の印紙が必要になる。

電子契約であれば印紙税は不要のため、どちらの方法で締結するかも検討しておく必要がある。

業務委託契約書に必ず入れる7つの項目

以下の7項目は、業種や業務内容に関係なく、どの業務委託契約書にも入れておくべき基本事項だ。

1. 業務の内容・範囲

何を委託するか、成果物は何か、どこまでが委託の範囲かを具体的に記載する。「Webサイトの制作」ではなく「LP(ランディングページ)1ページのデザインおよびコーディング、納品形式はHTML/CSSファイル一式」といった粒度で書く。

この項目が曖昧だと、追加作業が発生した際に「それは契約の範囲外だ」「いや含まれているはずだ」という押し付け合いが起きる。

2. 納期と検収方法

納品期限と、受け取った後に確認・承認するプロセスを明記する。「○年○月○日までに納品、受領後10営業日以内に検収結果を通知する」のように具体的に書く。

検収基準が曖昧だと、「使えるクオリティか」の判断が主観の話し合いになる。

3. 報酬額と支払い方法

金額、支払い期限、支払い方法を記載する。フリーランス新法では、役務の提供を受けた日(検収日ではなく受領日)から60日以内の支払いが義務付けられた。

「翌月末払い」という設定でも、月の途中で受領した場合に60日を超えないか確認しておく必要がある。

4. 知的財産権の帰属

成果物(デザイン・コード・文章等)の権利が誰に帰属するかを明記する。記載がないと、納品後も受託者が権利を持ち続ける可能性がある。

「成果物に関する知的財産権は、委託者への引き渡しと同時に委託者に帰属する」という一文を入れる。この一文がないテンプレートは意外と多い。

5. 秘密保持

業務遂行の過程で、顧客情報・社内情報・技術情報等を開示する場合の守秘義務を規定する。情報の範囲、目的外利用の禁止、契約終了後の取り扱いも明記する。

「契約終了後〇年間は守秘義務が続く」と期間を設けておくと、業務終了後のリスクも抑えられる。

6. 契約の解除条件

いつ、どういう条件で契約を解除できるかを定める。フリーランス新法では、6か月以上の契約期間がある業務委託において、正当な理由のない中途解除を制限している。契約書に合理的な解除事由を明記しておく。

7. 損害賠償の範囲

受託者の業務上のミスによって損害が発生した場合の賠償範囲を定める。賠償額の上限を「受領済み報酬の範囲内」と設定するケースが多い。上限の定めがないと、損害が拡大した際に青天井の賠償請求になりうる。

フリーランス新法(2024年11月施行)で何が変わったか

2024年11月施行のフリーランス新法は、業務委託を発注する立場の企業側に複数の義務を課している。以下が実務的に影響の大きいポイントだ。

取引条件の明示義務

フリーランスに業務を委託する際、書面またはメール等の電磁的方法で取引条件を明示することが義務付けられた。口頭での合意はもちろん、「基本契約を締結しているからOK」だけでも不十分で、案件ごとに個別の条件明示が必要になる。

明示すべき事項は「業務内容・納品日・報酬・支払期日」等。これが漏れると行政指導の対象になりうる。

報酬支払い期限の制限

役務の提供を受けた日(受領日)から60日以内の支払いが求められる。締め日を設けている会社の場合、支払いサイトが60日を超えないか確認が必要だ。

例えば「月末締め翌々月末払い」は条件を満たす場合が多いが、月の途中に受領した場合は注意が必要になる。

禁止行為

1か月以上の契約が対象となり、以下が禁止行為として定められている。

  • 正当な理由のない報酬の減額
  • 受領拒否・返品
  • 特定の物品やサービスの購入強制
  • 合理的な理由のない中途解除

既存の業務委託先との関係で、これらに該当する慣行がある場合は見直しが必要になる。

業務委託でよくあるトラブルと防ぎ方

実際に起きやすいトラブルを3つ挙げる。

トラブル1:成果物の修正が無限に続く

「イメージと違う」という理由で修正が繰り返され、受託者が費用と時間を消費する状況だ。防ぐには、契約書に「修正回数は〇回まで、追加修正は1回あたり〇円」と明記する。受け入れ基準(どういう状態になれば検収OKか)もあわせて書いておくと、よりトラブルが減る。

トラブル2:業務委託が偽装請負と見なされる

業務委託なのに、受託者の勤務時間・場所・作業手順を細かく指示していると、実質的な雇用関係とみなされる場合がある。労働法が適用され、社会保険の遡及加入等の問題が生じる。

フリーランス・個人事業主に仕事を依頼する場合、指揮命令関係を作らないことが重要だ。「何を作るか」は指示できても、「いつどこでどう作るか」まで指示すると偽装請負のリスクが高まる。

トラブル3:契約終了後に情報が外に出る

業務終了後に、元受託者がクライアント情報や技術情報を別の用途で使うケースがある。秘密保持義務を契約書に明記し、「契約終了後〇年間有効」という旨を入れておく。

個人への発注と法人への発注で何が変わるか

発注先が個人(フリーランス)か法人(受託会社)かによって、適用される法律と注意点が変わる。

個人(フリーランス) 法人(受託会社)
フリーランス新法 適用される 適用外
下請法 場合により適用 場合により適用
消費税の扱い 課税事業者か要確認 基本的に課税事業者
秘密保持の実効性 個人の対応力による 会社としての管理体制あり

個人に発注する場合はフリーランス新法の義務が発生するため、新たに個人のフリーランスと取引を始める際は契約書の整備が特に重要になる。

副業エンジニアやフリーランスへの発注を検討している場合は、探し方から契約の注意点までフリーランスエンジニアの探し方|中小企業が開発を依頼するための基礎知識にまとめているので参照してほしい。

電子契約の活用

業務委託契約書は電子契約での締結が可能で、印紙税が不要になるメリットがある。クラウドサイン・マネーフォワードクラウド契約・DocuSign等のサービスが広く使われている。

フリーランスとの取引では、タイムラグなく契約を締結できる電子契約は相性がいい。ただし、電子契約サービスの利用費用(月額数千円〜数万円)は発生するため、発注件数に見合うかどうかの判断が必要だ。

まず何から手をつけるか

契約書を整備していない状態からスタートする場合、以下の順番で進めると現実的だ。

1. 直近の取引先に対してまず整備する

継続的に発注している取引先が既にいる場合、まずその関係を契約書で整備することが優先だ。新規の案件よりも既存の関係でトラブルが起きたほうが影響が大きい。

2. 無料テンプレートはベースとして使い、内容は必ず修正する

無料テンプレートをベースに使うのは構わないが、自社の業務内容に合わせた修正が必須だ。顧問の税理士・社労士・弁護士がいれば、相談の範囲内で確認してもらえることが多い。

3. 電子契約で締結のハードルを下げる

紙の契約書を郵送・押印・返送するフローは、フリーランスとの取引では現実的でないことが多い。電子契約サービスを使えば当日中に契約を締結できる。フリーランス新法では電磁的方法による条件明示も認められているため、電子契約と合わせて運用すると効率的だ。

業務委託契約書は、締結していれば「安心」なのではなく、実態に合った内容になっていることが重要だ。フリーランス新法の施行で発注側の義務が増えた今、既存の契約書がある会社も、一度内容を見直すことを勧める。

バックオフィス業務を外注する際の費用感や依頼範囲については、バックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方もあわせて参照してほしい。

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