「あの人が急に辞めたら、あの業務は誰もできない」
この一文が浮かんだとき、それが属人化のサインだ。
中小企業では、従業員10〜20人規模でも「○○さんしかわからない」という業務が複数存在することが多い。問題は、本人が在籍中は全く見えないことだ。退職・病欠・休職、それが起きた瞬間に初めて「ここが属人化していた」と気づく。
この記事では、自社の属人化リスクを把握する方法と、解消の具体的な手順を解説する。
なぜ属人化は放置されるのか
属人化が問題だとわかっていても、多くの会社が対処しないのには理由がある。
「今は問題ないから後で」 現職者がいる間は業務は回っている。問題が顕在化しないので、優先度が上がらない。
「その人に聞けばいい」 担当者が社内にいる限り、確認すれば解決する。緊急度がゼロに見える。
「マニュアルを作る時間がない」 業務が多忙な担当者に「手順を書いて」と頼むのが気が引ける。
結果として何も変わらないまま、ある日突然「あの人が来なくなった」という状況になる。
自社の属人化リスクを測るチェックリスト
以下の項目をチェックしてみてほしい。当てはまるほど、属人化リスクが高い状態だ。
業務の集中度
- 特定の業務を、常に同じ1人が担当している
- その担当者が休んだとき、代わりに対応できる人間がいない
- 「○○さんに確認しないとわからない」という会話が週に1回以上起きる
情報の保持状況
- 取引先の担当者・連絡先を、特定の社員だけが知っている
- 会計ソフトやシステムのパスワードを、1人しか把握していない
- 業務の手順がドキュメント化されていない(または担当者の頭の中にある)
引き継ぎの難易度
- 今その人が辞めると言ったら、引き継ぎに2週間以上かかると思う
- 引き継ぎをしてもらっても、後任が同じ品質で業務を続けられる自信がない
5つ以上当てはまる場合: 早急な対処が必要
3〜4個の場合: 優先度を上げて取り組むべき
1〜2個の場合: 個別に改善の余地あり
属人化解消の3ステップ
ステップ1:業務の棚卸し(1〜2時間)
まず「誰が何をやっているか」を見える形にする。
各担当者に以下を書き出してもらう。
- 自分が担当している業務の一覧
- それぞれの業務の頻度(毎日・週次・月次・年次)
- 自分がいなくなったとき、誰もできないと思う業務
完璧なリストを求めない。「ざっくり書いてもらう」で十分だ。1人あたり30〜60分で書ける量にすること。時間をかけすぎると誰もやらなくなる。
このリストが出来上がったら、全員分を重ねて見てみる。特定の1人にしか書かれていない業務が、属人化のリスクポイントだ。
ステップ2:リスクの優先度をつける
属人化を全部同時に解消しようとすると、何も進まない。リスクの高い業務から順に手をつける。
リスクが高い業務(最優先)
- 止まると会社の収益に直結する(請求書の発行・入金確認・支払い処理)
- 法的な期限がある(税務申告・社会保険・年末調整)
- 外部への影響が出る(取引先への連絡・納品管理)
リスクが中程度の業務(次に対処)
- 止まると社員が困る(給与計算・勤怠管理)
- 他部門に影響が出る(社内申請の承認フロー)
リスクが低い業務(後回しでいい)
- 止まっても数日は問題ない(議事録の作成・社内資料の更新)
- 代替手段がある(外部ツールで一時的に対応できる)
ステップ3:仕組みで固定する
リスクの高い業務から、以下のいずれかで「誰でもできる状態」を作る。
A. 手順を文書化する
目標は「その業務を見たことがない人でも80%の精度でできること」。完璧なマニュアルを目指さない。
書くべき内容:
- 使うシステム・ツールのURL・ログイン方法
- 毎回やること(繰り返し操作のステップ)
- 判断が必要な場面と、その判断基準
- よくあるトラブルと対処法
Googleドキュメントやノーションに書けば十分。共有フォルダに入れて、誰でもアクセスできる状態にする。
B. 複数人で担当する
マニュアルを作るより早い場合もある。同じ業務を2人で担当するか、月に1回でいいのでサブ担当者が実際にやる機会を作る。
「知ってはいるが、実際にはやったことがない」状態では属人化は解消されない。定期的に触ることが重要だ。
C. ツールで自動化する
繰り返しの単純作業は、ツールで自動化することで属人化そのものをなくせる場合がある。
例えば:
- 請求書の発行 → freeeやマネーフォワードで自動化
- 入金確認 → 会計ソフトの銀行連携で自動取り込み
- 社内への連絡 → チャットツールのリマインド設定
ツールに任せると「担当者がいなくても動く」状態になる。
属人化が起きやすい業務と対策
中小企業でよく属人化しているのは以下の業務だ。対策の方向性を整理する。
経理・財務
よくある状況: 経理担当者1人が全てを把握している。通帳の場所も、ネットバンキングのパスワードも、取引先への振込先口座も。
対策の方向性: 最低限のログイン情報と支払いスケジュールを、経営者が直接把握する。担当者に依存しきらない。詳細な手順書は後回しでいい。まず「明日何かあっても会社が止まらない情報」を確保する。
顧客対応
よくある状況: 「○○さんが担当しているから」という顧客が複数いる。担当者の連絡先しか持っていない顧客もいる。
対策の方向性: CRMツール(Googleスプレッドシートでも可)に、顧客ごとの担当・連絡先・対応履歴を記録する。担当が変わっても引き継げる状態を作る。
システム管理
よくある状況: 社内ツールのIDとパスワードを、設定した人間しか知らない。そのIDが退職者のメールアドレスになっている。
対策の方向性: パスワード管理ツール(Bitwarden等)を使い、アカウント情報を会社として管理する。個人のメールアドレスでサービス登録しない。管理者権限は必ず2名以上が持つ。
仕入れ・外注管理
よくある状況: 特定の仕入れ先や外注先との関係は、担当者の個人的なつながりで維持されている。担当者が変わると関係が続かない。
対策の方向性: 取引先の窓口担当者・連絡先・単価・支払い条件を一覧化する。「担当者の記憶の中にある取引先情報」を会社の資産として文書化する。
やってはいけないこと
属人化解消に取り組む際に、失敗しやすいパターンを挙げる。
マニュアルを完璧に作ろうとする
「しっかり作らないと意味がない」と考えてしまうと、何も始まらない。まず「ゼロより少し良い状態」を目指す。箇条書き3行でも、ないよりはるかにいい。
全ての業務を同時に対処しようとする
「全部の業務のマニュアルを作る」というプロジェクトは、ほぼ挫折する。優先度の高い業務1〜2本から始める。
担当者に「マニュアルを作って」とだけ言う
現場の担当者は忙しい。「このフォーマットに入力してほしい」「この部分だけ書いてほしい」と具体的に依頼しないと、「後でやります」のまま進まない。
「属人化解消プロジェクト」を立ち上げる
プロジェクト名をつけると、会議が増えてドキュメントが増えて、実際の業務は何も変わらないということになりがちだ。「やること」ではなく「記録する文化」を地道に作る方が長持ちする。
まとめ
属人化の解消は、一度やって終わりではない。新しい業務が生まれるたびに、「これは特定の人にしか分からない状態になっていないか」と確認する習慣が必要だ。
最初のステップは小さくていい。
- 社員に「自分しかできない業務を3つ書いてもらう」
- そのうち最もリスクが高い1つについて、手順を書いてもらう
- 書かれた手順を別の社員が実際にやってみる
この3つをやるだけで、「うちには属人化がある」という認識が組織全体に共有される。そこから始まる。
当社では、中小企業のバックオフィス業務の属人化対策・仕組み化の相談を受け付けています。「何から手をつければいいか分からない」という段階からでもお気軽にお問い合わせください。