11月になると、総務や経理の担当者は年末調整の準備に追われ始める。従業員が20〜30人いる会社でも、年末調整を担当するのは1〜2人というケースは多い。書類の配布・回収から保険料控除の確認、源泉徴収票の発行まで、10月末から1月にかけて業務が集中する。担当者が1人しかいなければ、その人が体調を崩しただけで進行が止まる。
「この作業、外注できないか」と考えた経営者は少なくない。ただ、いざ調べてみると費用の幅が広すぎて、何を基準に選べばいいか分からなくなることが多い。この記事では、年末調整を外注した場合の費用相場と、依頼先ごとの特徴・選び方を整理する。
年末調整で外注できる業務・できない業務の線引き
外注を検討する前に、何を任せられて何を任せられないかを把握しておく必要がある。この確認を怠ると、「外注したのに結局社内でやる作業が残っていた」という事態になる。
外注できる業務の範囲
| 業務内容 | 外注の可否 | 注意点 |
|---|---|---|
| 保険料控除申告書・扶養控除申告書の内容チェック | ○ | 書類の記入漏れ・誤りの確認まで |
| 年税額の計算・控除過不足額の算出 | ○(税理士が担当) | 税務処理は税理士の独占業務 |
| 源泉徴収票の作成 | ○(税理士が担当) | 法定調書の作成も含む |
| 法定調書合計表の作成・電子申告 | ○(税理士が担当) | e-Taxでの提出まで |
| 書類回収状況の管理・従業員への督促 | ○ | BPOや社労士でも対応可 |
社内で対応が必要な業務
| 業務内容 | 社内が担当する理由 |
|---|---|
| 従業員への書類配布と口頭説明 | 企業内部の周知は外注先が代替できない |
| 記入漏れ・不備の一次確認(従業員本人への連絡) | 従業員との直接コミュニケーションが必要 |
| 給与システムへのデータ入力・取り込み | 自社システムの操作権限が必要 |
税理士でないと対応できない業務
年末調整のうち、源泉所得税の計算・源泉徴収票の作成・法定調書の作成と提出は、税理士の独占業務にあたる。社会保険労務士(社労士)は給与計算の補助はできるが、税額の確定や法定調書の提出を単独ではできない。社労士だけに年末調整の全工程を依頼するのは法的に認められていないため、サービスの対応範囲を事前に確認することが重要だ。
安価なBPO代行サービスの中には、書類回収と管理だけを担当し、税務処理の部分は別途税理士に依頼が必要というケースがある。「全部おまかせ」と思って依頼したのに、蓋を開けると税務処理は対応外だったというトラブルは実際に起きている。
外注先の3選択肢とその違い
年末調整の外注先は大きく3種類ある。それぞれの特性を整理した上で、自社の状況に合った選択肢を選ぶ必要がある。
| 比較項目 | 顧問税理士 | BPO代行サービス | 給与計算ソフト(自社対応) |
|---|---|---|---|
| 税務処理の対応 | ◎ 完全対応 | △ 税理士との提携が必要 | ○ ソフトが自動計算 |
| コスト感 | 高め(安心料込み) | 中(サービス幅次第) | 低い(月額数千円〜) |
| 導入のしやすさ | ◎ 既存関係をそのまま活用 | ○ 新規契約が必要 | △ 初期設定の手間あり |
| 税務以外の相談対応 | ◎ 幅広く対応 | △ 年末調整業務に限定 | × |
| 担当者の工数削減 | ○ 計算・申告を一任できる | ○ 書類管理を任せられる | △ 手作業は社内に残る |
| マイナンバー管理体制 | ◎ 規程整備済みが多い | 要確認 | 自社で管理が必要 |
選択肢1:顧問税理士に依頼する
すでに顧問税理士と契約している会社であれば、年末調整もその税理士に依頼するのが最もスムーズだ。月次の会計・給与計算も同じ事務所に任せている場合は、情報の受け渡しがスムーズで、ミスが起きにくい。
ただし、多くの場合、年末調整は顧問料とは別の追加料金になる。「顧問税理士がいれば年末調整も無料」と思っていたら実際は別料金だったというケースは頻繁にある。月次顧問料の契約内容に年末調整が含まれているかを、事前に事務所へ確認しておくことが必要だ。
また、顧問税理士を持っていない小規模な会社が年末調整だけのために顧問契約を結ぶのは、費用対効果が低くなることが多い。
選択肢2:年末調整代行サービス(BPO)を利用する
税理士事務所と連携した専門の代行業者や、オンラインアシスタント型のBPOサービスを利用する方法だ。顧問税理士がいない会社や、コストを抑えつつ書類管理の手間を減らしたい場合に向いている。
料金体系は「従業員1人あたりの単価制」が多く、500〜2,000円程度が相場だ。書類の回収管理から税務処理まで一貫して対応するサービスもあれば、書類管理のみで税務処理は別途税理士が必要なサービスもある。この違いを見逃すとトータルコストが想定より高くなる。
選択肢3:給与計算ソフトを導入して自社で対応する
freeeやマネーフォワード クラウド給与などの給与計算ソフトは、年末調整機能を標準で備えている。従業員がスマートフォンから申告書を入力でき、計算・源泉徴収票の作成まで自動化できる。完全な「外注」ではないが、担当者の手作業を大幅に削減できる。月額数千円から導入でき、コストは最も低い。
ただし、初期設定と法改正への対応は自社で行う必要がある。ソフトを使いこなせる担当者がいない場合は、思ったほど工数が削減できないこともある。
費用相場:従業員規模別シミュレーション
「いくらかかるか」は、会社の従業員数と依頼先の組み合わせで大きく変わる。以下は従業員数別のおおよその目安だ。数字は市場相場をもとにした参考値のため、実際の見積もりは各社に確認してほしい。
顧問税理士に依頼した場合(追加費用)
| 従業員数 | 基本料金(目安) | 従業員1人あたり | 合計の目安 |
|---|---|---|---|
| 〜10人 | 1〜2万円 | 1,500〜3,000円 | 2.5〜5万円 |
| 11〜30人 | 1〜2万円 | 1,500〜3,000円 | 2.6〜11万円 |
| 31〜50人 | 1.5〜2.5万円 | 1,500〜3,000円 | 6.2〜17.5万円 |
顧問料の中に年末調整が含まれている契約の場合は、追加費用なしの事務所もある。まず顧問税理士に「年末調整の追加料金はいくらか」を確認することから始めるとよい。
BPO代行サービスの場合
| 従業員数 | 従業員1人あたりの相場 | 合計の目安 |
|---|---|---|
| 〜10人 | 500〜2,000円 | 5,000〜2万円 |
| 11〜30人 | 500〜2,000円 | 5,500〜6万円 |
| 31〜50人 | 500〜2,000円 | 1.5〜10万円 |
サービスによって単価の幅が大きい。安価なサービスほど対応範囲が狭い傾向があるため、税務処理まで含むかどうかを必ず確認する。税務処理が対応外の場合は、別途税理士費用が加算される。
給与計算ソフトの場合
freeeやマネーフォワード クラウド給与などの主要な給与計算ソフトは、年末調整機能を標準で備えている。月額費用は各社の公式サイトで確認してほしい。年末調整に特化した追加費用はほぼ発生しないため、コストは最も低く抑えられる。ただし、給与計算全体の月次コストに加算される形になる。
どのケースにどの依頼先が向いているか
費用だけで選ぶと後悔することが多い。会社の状況に合わせて依頼先を選ぶ判断基準を整理する。
| 会社の状況 | 推奨する依頼先 | 理由 |
|---|---|---|
| 顧問税理士がいて、月次の経理・給与も同じ事務所 | 顧問税理士 | 情報連携が最もスムーズ |
| 顧問税理士がいるが、年末調整コストを抑えたい | BPO代行 | 税務処理の対応範囲を確認した上で |
| 現在Excelや手作業で給与計算している | 給与計算ソフト | 年末調整だけでなく月次処理も改善 |
| 経理担当が退職し、緊急の人員不足 | BPO代行(短期) | 即応性が高い |
| 従業員30人超で書類管理が追いつかない | BPO代行 | 回収管理だけでも外出しできる |
顧問税理士への依頼が向いている会社
月次の会計・給与計算も同じ事務所に依頼している会社が対象だ。年末調整の内容が月次業務と連動しているため、情報の二重確認が減る。決算・確定申告まで一貫して対応してもらえる安心感もある。ただし、追加料金の確認は必ず行う。
一方で、顧問税理士を持っていない会社が年末調整だけのために顧問契約を結ぶのは、年間の顧問料負担が重くなる可能性が高い。年末調整のみであればBPO代行の方が割安になるケースが多い。
BPO代行が向いている会社
税理士の顧問料は払いたくないが、年末調整の書類管理はなんとかしたいという会社に向いている。経理担当者が退職するなど、一時的に内部リソースが足りない場合も有効だ。
選ぶときは「税務処理まで含むか」「マイナンバーの管理体制はどうなっているか」の2点を必ず確認する。この2点が曖昧なサービスには依頼しない方が安全だ。
給与計算ソフトが向いている会社
現在、手作業またはExcelで給与計算・年末調整をしている会社は、ソフト導入が最初のステップとして有効だ。担当者の手間を大きく減らせるうえ、月次の給与計算も含めた業務全体を効率化できる。
コストを最小限に抑えたい会社、従業員がスマートフォンで申告書を入力できる環境がある会社に特に適している。
初めて外注する前に確認すべき3つのこと
初めて年末調整を外注する会社が失敗しやすいポイントを整理する。契約前に確認しておくだけで、後のトラブルをほぼ防ぐことができる。
1. 業務の分担を書面で確認する
「どこからどこまでが外注先の対応か」を契約前に書面で明確にする。口頭で「任せます」と言っただけでは、後から「それは社内でやってください」と言われるケースがある。
確認すべき3点:
- 従業員への書類配布と説明は社内か外注先か
- 記入漏れや不備の確認・従業員への個別連絡は社内か外注先か
- 法定調書の電子申告(e-Tax)まで対応するか
この3点が書面(契約書や業務委託書)に明記されているかを確認する。
2. 9〜10月中に発注を完了させる
年末調整の書類配布は一般的に11月初旬から始まり、12月の給与計算に間に合わせるために12月末が主な締め切りになる。外注先も同時期に複数の案件を抱えるため、10月に入ってから急いで依頼すると「対応できない」または「特急料金が加算される」ケースがある。
年末調整の外注を検討するなら、遅くとも9〜10月中には依頼先を確定させておくのが現実的なスケジュールだ。今年の依頼が間に合わなかった場合でも、来年に向けて今から依頼先を決めておく価値はある。
3. マイナンバーの取り扱い体制を確認する
年末調整では、従業員と扶養家族のマイナンバーを収集・管理する必要がある。外注先がマイナンバーの適切な管理体制を持っているかを確認する。
具体的には以下を確認する:
- 委託先としての安全管理措置が講じられているか
- 個人情報保護法および特定個人情報の適正な取り扱いに関するガイドラインに準拠しているか
- 情報漏えいが発生した場合の責任範囲が契約書に記載されているか
安価なサービスでこの点が不明確な場合は、情報漏えいのリスクを自社が負うことになる。コストだけで選んではいけない。
大手メディアが書かない、年末調整外注の本音
多くのメディア記事では「外注すれば担当者の負担がゼロになる」という表現が使われる。ただ、業務効率化に特化したエンジニアとして、いくつかの中小企業の年末調整対応を横から見てきた経験からいうと、この表現は正確ではない。
外注後も社内での対応は確実に残る。従業員への書類配布・説明、不備があった場合の確認連絡、そして「社内窓口を誰にするか」の役割設定が必要だ。外注したからといって、社内担当者が完全に解放されるわけではない。
「外注したら全部楽になった」という声は、外注した部分が設計通りに機能した場合の話だ。実際には「外注したのに自分たちがやることが残っていた」という感想が出るケースが多い。これは外注先のせいではなく、最初の業務分担設計が曖昧だったことが原因であることがほとんどだ。
僕がクライアントにアドバイスするときは、「外注する前に、自分たちが必ずやらなければならないことのリストを作る」ことを勧めている。このリストと外注先のサービス範囲を突き合わせると、何をどこまで外注すれば効果があるかが明確になる。
また、よくある誤解が「安いサービスを選べばコストが下がる」というものだ。書類回収のみの安価なBPOを選んで、税務処理は顧問税理士に別途依頼した場合、トータルコストが顧問税理士への一括依頼より高くなるケースがある。費用を比較するときは、トータルコスト(BPO費用+税務処理費用)で計算することが重要だ。
給与計算の外注費用と組み合わせて検討する会社が多いため、両方を同時に整理しておくと判断しやすい。
まとめ
年末調整の外注費用は、依頼先と従業員数の組み合わせで大きく変わる。おおよその目安をまとめると以下の通りだ。
- 顧問税理士への追加依頼: 従業員20人で5〜11万円程度
- BPO代行サービス: 従業員20人で1〜4万円程度(税務処理が含まれる場合)
- 給与計算ソフト: 月額数千円から(年末調整の追加費用はほぼゼロ)
依頼先を選ぶ際の最大のチェックポイントは「税務処理を含めて対応するか」と「業務分担の範囲が書面で明確か」の2点だ。この2点を契約前に確認するだけで、後から「思っていたのと違う」というミスマッチを大幅に防げる。
年末調整だけでなく、給与計算や経理業務全般と合わせて外注を設計するとコスト効率が上がりやすい。以下の記事も参考にしてほしい。
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