事務・バックオフィス効率化

インボイス制度に対応できていない中小企業がやるべきこと

インボイス制度が始まったのは2023年10月。それから2年半が経過した今も、対応が完全に終わっていない中小企業は少なくない。

日本商工会議所の調査(2025年9月発表)によると、「インボイス制度に順調に対応できている」と答えた中小企業は約6割。残りの4割近くは、何らかの遅れや不完全な状態を抱えている。

しかし、「後でやればいい」で済まなくなる時期が迫っている。

2026年9月末に、2つの経過措置が同時に変わる。

  • 2割特例(免税事業者がインボイス登録した場合に適用される納税軽減措置)が終了する
  • 免税事業者からの仕入税額控除の経過措置が80%から50%に引き下げられる

業務効率化に特化したエンジニアとして関わってきた中小企業を見ると、「制度は知っているが、自社が正しく対応できているか自信がない」という経営者が多い。2024年以降、経理担当者から「最初に何か手を打ったけれど、今も正しく運用できているのか不安」という相談を受けることが増えた。

この記事では、今確認すべきことを優先順位つきで整理する。

「どこまで対応できているか」を確認する

インボイス制度の対応は、大きく4つの層に分かれる。

確認項目 内容 確認方法
① 自社の登録状況 適格請求書発行事業者として登録しているか 国税庁公表サイトで登録番号を検索
② 取引先の管理 取引先がインボイス登録済みかを把握しているか 取引先リストと登録番号の照合
③ 請求書フォーマット 6つの必須記載事項が揃っているか 直近3枚の請求書を目視確認
④ 帳簿・保存ルール インボイスを受け取った際の記帳・保存ができているか 経理担当者に現在の運用フローを確認

多くの会社は「①は申請した」「②③④は曖昧なまま」という状態だ。制度開始当初に何か手を打ったものの、正しく運用できているかを確認していないケースが大半だ。

4つを1つずつ見ていく。

① 自社のインボイス登録状況と課税方式を確認する

登録が必要かどうかの判断基準

インボイス(適格請求書発行事業者)の登録は、法律上の義務ではない。ただし、登録していない場合、取引先はあなたの会社からの請求書を使って消費税の仕入税額控除ができなくなる。

これが実際の取引にどう影響するかを整理する。

取引先が事業者(BtoB)中心の会社の場合、取引先がインボイスを求めてくる可能性が高い。未登録のままだと、相手の税負担が増えるため、値引き要求や取引条件の見直しが発生するリスクがある。

一般消費者(BtoC)が主な会社の場合、取引相手が個人のため、インボイスを求められることが少ない。登録の必要性は低い。

まだ登録していない場合、今からでも申請は可能だ。国税庁の「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で自社名や登録番号を検索すれば、登録状況をすぐに確認できる。登録申請は、管轄のインボイス登録センター(税務署)への郵送か、e-Taxでの電子申請で行う。

2割特例の終了で何が変わるか

2割特例とは、免税事業者がインボイス登録した場合に「売上税額の2割だけ納税すればよい」という特例措置だ。2026年9月30日でこの特例は終了する。

10月以降は、以下の3つの課税方式から選ぶことになる。どれを選ぶかで納税額が変わるため、今から税理士と試算しておく必要がある。

課税方式 概要 向いている会社 注意点
2割特例 売上税額×20%を納付 ※2026年9月末で終了 2026年10月以降は選択不可
簡易課税 業種ごとのみなし仕入率で計算 経費が少ない業種(サービス業等) 2026年9月30日までに届出書の提出が必要
本則課税 売上税額−仕入税額を納付 経費・仕入が多い製造業・卸売業 仕入税額控除のためインボイス保存が必要

重要な注意点がある。簡易課税を選択する場合、消費税簡易課税制度選択届出書は課税期間の開始前に提出しなければならない。2026年10月以降の課税期間から適用したい場合、2026年9月30日までに届出を提出する必要がある。この期限を逃すと、自動的に本則課税が適用される。

顧問先で見た「動いていない会社」の実態

僕が関わっている顧問先でも、2割特例で今まで申告してきた会社が複数ある。2025年末ごろから「2026年10月以降の税負担がいくら増えるか」を試算し始めた会社と、まだ動いていない会社で、今後の経理負担に大きな差が生まれると感じている。

特に仕入がほとんどない、あるいは人件費が中心のサービス業では、簡易課税のみなし仕入率を使うほうが有利なケースが多い。一方、製造業や卸売業は実際の仕入が多いため、本則課税のほうが控除額が大きくなる場合がある。

「税理士に全部任せてあるから」という経営者ほど、制度変更の時期に具体的な試算を把握していないことが多い。今すぐ顧問税理士に「10月以降の課税方式はどうするか」と連絡するのが最初の一手だ。

② 取引先のインボイス登録状況を管理する

「買い手」側のリスクが2026年9月に変わる

自社が仕入れを行う立場の場合、取引先がインボイス登録しているかどうかで、消費税の仕入税額控除の金額が変わる。

インボイス未登録の免税事業者からの仕入れについて、控除できる割合は段階的に引き下げられる。

期間 免税事業者からの仕入れに対して控除できる割合
〜2026年9月30日 80%
2026年10月1日〜2029年9月30日 50%
2029年10月1日以降 控除不可(0%)

2026年10月から80%が50%に変わる。フリーランスや小規模の外注先が多い会社では、この変更が実際の納税額に影響し始める。

たとえば、月50万円のフリーランス外注費(消費税5万円)がある場合を考える。取引先が未登録であれば、2026年9月まで4万円(80%)の仕入税額控除が取れていたのに、2026年10月からは2万5,000円(50%)にしか取れなくなる。年間で考えると、1万5,000円×12ヶ月=年間18万円の増税になる計算だ。外注先が複数いる場合、この差は積み重なる。

取引先リストの整備方法

まず、自社の仕入先・外注先リストを作成し、それぞれの登録状況を確認する。

確認方法は2つある。

  • 国税庁の公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で事業者名または登録番号を検索する
  • 取引先に登録番号を直接問い合わせる

未登録の取引先に対しては、登録を促すか、消費税相当分を考慮した価格交渉を行うか、どちらかの判断が必要になる。ただし、フリーランサーなど小規模の事業者に対してインボイス登録を強要することは、独占禁止法・下請法上のリスクがある。公正取引委員会が2023年に公表したガイドラインでは、「インボイス登録しなければ取引しない」「登録しないなら価格を一方的に引き下げる」といった対応が問題になる可能性があると明示されている。取引先との交渉は慎重に行うこと。

現場で見た典型的なミス

以前、業務効率化支援で関わった会社の経理担当者から、こんな相談を受けた。「フリーランスのWebデザイナーに毎月20万円払っているが、その人がインボイス登録しているかどうか確認していなかった。請求書には登録番号が書いてなかった」というケースだ。

取引先の登録番号を帳簿に記録しておくのは経理処理上の要件であり、後から遡って確認するのは手間がかかる。僕自身も、自社の外注先に対して2023年末に一斉確認メールを送り、全取引先の登録状況を把握した。契約時か新年度の最初に「登録番号を教えてほしい」と依頼する運用にしておくのが一番スムーズだ。

③ 請求書フォーマットを正しく更新する

適格請求書の必須記載事項 6項目

インボイスとして認められる請求書には、以下の6項目が必要だ。

  • 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号(T+13桁)
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目の場合はその旨)
  • 税率ごとに合計した対価の額(税抜または税込)
  • 適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額

太字の3項目(登録番号・適用税率・税率ごとの消費税額)がインボイス制度の導入前には不要だったものだ。この3項目が抜けている請求書は、取引先でインボイスとして処理できない。

主要会計ソフトのインボイス対応状況

freee・マネーフォワード・弥生会計など主要な会計ソフトは、既にインボイス対応のテンプレートを提供している。設定からテンプレートを変更するだけで対応できる。

会計ソフト インボイス対応 月額料金(スモールビジネス向け) 特徴
freee会計 対応済み 2,380円〜(スタータープラン) 銀行連携・確定申告に強い。クラウドファースト
マネーフォワード クラウド会計 対応済み 2,980円〜(スモールビジネス) 請求書・経費管理が一体化。連携先が多い
弥生会計 オンライン 対応済み 1,100円〜(セルフプラン) 老舗で操作が安定。地方の税理士に馴染みがある
MFクラウド請求書(単体) 対応済み 1,078円〜(フリープラン有り) 請求書発行に特化。会計ソフト不要で使える

まだ会計ソフトを使っていない場合や、古いExcelテンプレートを使い続けている場合は、切り替えが最優先だ。インボイス発行だけでなく、電子帳簿保存法への対応も同時に進められるため、中長期的に見てもコスト削減につながる。

(関連記事: 請求書の電子化を中小企業で進める方法

受け取る側の確認も必要

請求書を発行する側だけでなく、取引先から受け取る側も確認が必要だ。相手から届く請求書に必須記載事項が揃っているかを確認し、揃っていない場合は修正を依頼する。

僕が見てきた中では、フリーランスや個人事業主から届く請求書に登録番号が記載されていないケースが多い。2023年当初は「とりあえず対応した」という感じで送ってくる人も多く、よく確認すると適用税率が書かれていなかったり、消費税額の内訳が不明瞭なものがあった。受け取り時点でチェックする運用を経理担当者と決めておくことが重要だ。

④ 帳簿・保存のルールを整える

7年間の保存義務

インボイスを受け取った際、以下の保存が義務付けられている。

  • 受け取ったインボイス(請求書・領収書等):7年間保存
  • 発行したインボイスの写し:7年間保存

帳簿には、通常の記載事項に加えて課税仕入れの相手方の氏名・名称および登録番号の記載が必要だ。

紙で保管している場合、7年分のファイリングは管理負担が大きい。電子帳簿保存法(電帳法)に基づく電子データでの保存も認められているため、スキャンしてクラウドに保存する仕組みを作ると管理が楽になる。

電子帳簿保存法との関係

インボイスを電子データで受け取った場合(メール添付やクラウドサービス経由など)、電子帳簿保存法の「電子取引データ保存」ルールに従って保存する必要がある。

具体的には、以下の要件を満たした状態で保存しなければならない。

  • 訂正・削除の事実が確認できる仕組み(タイムスタンプ付与、または訂正削除ができないクラウドサービスへの保存)
  • 日付・金額・取引先で検索できる状態

freee・マネーフォワードなどの主要会計ソフトは電帳法対応済みのため、ソフトを通じて請求書を管理すれば要件を満たせる。紙で印刷してスキャンする方法(スキャナ保存)も認められているが、手間がかかるため会計ソフトとの連携が現実的だ。

(関連記事: 中小企業の経理をAIで自動化する方法

経理が属人化している会社は要注意

インボイス対応において、最も危険だと感じるのは「経理担当者しか知らない運用になっている会社」だ。

制度開始当初に担当者が一人で対応して、今はその人しかやり方を知らない。その担当者が退職したり体調不良で休むと、インボイスの確認も帳簿記帳も止まってしまう。

実際に、支援先の経理担当者が育休を3ヶ月取った際に、引き継ぎが不十分で「取引先から届いた請求書のどれがインボイスとして有効か分からない」という状況になった会社がある。インボイス対応はマニュアル化して、誰でも確認・運用できる状態にしておくことが必要だ。

2026年9月末までに完了すべきこと

直近の期限として、2026年9月末までに以下を確認・完了させておく。

今すぐ確認する(1〜2日以内)

  • 自社がインボイス登録済みかを公表サイトで確認する
  • 発行している請求書の記載事項が6項目揃っているかを確認する
  • 現在使っている会計ソフトがインボイス対応済みかを確認する

9月末までに完了する(期限あり)

  • 2割特例を使っていた場合、税理士と10月以降の課税方式(本則課税 or 簡易課税)を決め、届出書を提出する。簡易課税を選ぶ場合の提出期限は2026年9月30日
  • 主要取引先(特に免税事業者の可能性がある先)の登録状況を把握する
  • 帳簿への登録番号記載が漏れなくできているかを経理担当者と確認する
  • インボイス対応の運用をマニュアル化し、担当者が変わっても運用できる状態にする

制度開始当初に「とりあえず対応した」という会社も、上記を改めて確認してほしい。最初の設定が正しくないまま2年以上運用しているケースは少なくない。

どこから始めるか迷ったら

「自社の状況がよくわからない」「何が問題か整理できていない」という場合は、税理士への相談が最も確実で速い。顧問税理士がいる場合は今すぐ連絡する。

顧問がいない場合は、地元の商工会議所が無料の相談窓口を設けている。制度への対応は、知識より「現状の把握」が最初の一歩だ。

経理業務の仕組みそのものが属人化していて、インボイス対応以前に整備が必要だという場合は、経理外注や会計ソフトの導入から始める選択肢もある。まず経理業務全体の状況を整理してから、インボイス対応を上乗せする順序のほうがスムーズだ。

まとめ

インボイス制度の対応は「1回やれば終わり」ではない。2026年9月末に2割特例の終了と仕入税額控除の経過措置変更(80%→50%)が重なり、対応が不完全な会社に実際の影響が出始める。

今すぐ動けることを整理する。

  • 自社がインボイス登録済みかを国税庁公表サイトで確認する
  • 発行している請求書のフォーマットが6項目揃っているかを確認する
  • 2割特例を使っていた場合、税理士と10月以降の方針(簡易課税 or 本則課税)を決め、届出書を2026年9月30日までに提出する
  • 主要取引先の登録状況を把握し、未登録先の対応方針を決める
  • 経理担当者以外でも運用できるようマニュアルを整備する

これだけでも動いておけば、9月末の切り替えをスムーズに乗り越えられる。

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