著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)
資金繰り表をエクセルで毎月手作業で更新している、あるいはそもそも作っていない、という中小企業は少なくない。売上は立っているから大丈夫だと思っていたら、月末に口座残高が足りなくなった——これが「黒字倒産」と呼ばれる状況の入口だ。
問題は「資金繰りを管理していなかった」ことそのものではなく、「手作業で管理しようとして、気がつけば古いデータしか残っていない」という状態にある。エクセルで作った資金繰り表は、更新が止まった時点で機能しなくなる。更新が止まるのは、入力が手間だからだ。
この記事では、資金繰り管理を仕組みで回すために使えるツールを整理する。無料で使えるものと、すでに使っている会計ソフトの機能を活かす方法、両方を紹介する。「ツールを追加すべきか、今の環境で対応できるか」の判断基準も書いたので、ケースに合わせて参照してほしい。
資金繰り管理が「見えない状態」になる理由
黒字倒産は他人事ではない
帳簿上の利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な現金が不足して倒産する「黒字倒産」は、決してレアケースではない。マネーフォワードケッサイが公開しているデータでは、倒産直前の決算が黒字だった企業の割合は約4割〜5割に上るとされている。
売上が立っていても、入金のタイミングが遅れるだけで支払いに詰まるのが中小企業の実態だ。取引先の支払いサイトが30日後払いなら1ヶ月、60日後払いなら2ヶ月分の売上が手元に来ない状態が続く。受注が増えれば増えるほど、入金が遅れる金額も増えていく。
僕が見てきた典型的なパターン
業務効率化に特化したエンジニアとして中小企業の支援をしてきた中で、資金繰りの問題に直面した会社は少なくない。一番多かったのが「受注はある、売上は立っている、でも入金は翌月〜翌々月」というパターンだ。
請求書払いで取引先が月末締め翌月末払いなら入金サイクルは30日、月末締め翌々月20日払いなら50日になる。取引先が10社あって、それぞれ支払いサイトが違うと、手動で管理するのは現実的に難しくなる。エクセルで管理しようとしても、1週間更新しない間に状況が変わってしまう。
エクセル管理が機能しなくなる構造的な問題
エクセルで資金繰り表を作っている会社の場合、多くは月に1回まとめて更新する運用になっている。週の途中で「来週の支払いに足りるか」を確認しようとしても、エクセルの数字が1〜2週間前のものだったりする。
更新する手間があるから、見る頻度が下がる。見る頻度が下がるから、管理している気になっているだけで実態が把握できていない、という悪循環が起きる。そして月末直前になってはじめて「足りないかもしれない」と気づく——これが僕がよく見る光景だ。
入出金の種類が少なく月次確認で十分なケースではエクセルでも対応できる。ただし、取引先が10社を超えたり、入金日がバラバラだったりすると、エクセルでの管理は続かなくなる。問題が起きてからツールを探し始めても遅い。
資金繰り管理の方法は3種類ある
どれが合うかは、会社の規模とすでに何を使っているかによって変わる。まず自社がどの状態かを確認してほしい。
| 方法 | 向いているケース | コスト | 更新の手間 |
|---|---|---|---|
| エクセル(自作) | 入出金の種類が少なく、月次確認で十分 | 無料(ただし更新が止まりやすい) | 高い |
| 専用クラウドツール | 会計ソフトなし、または資金繰りだけを管理したい | 無料〜月額1,650円 | 低〜中 |
| 会計ソフトの付属機能 | freee・マネーフォワード・弥生を既に使っている | 既存月額内に含まれることが多い | データ入力済みなら低い |
エクセルで管理できる会社は、入出金のパターンが単純で月次確認で十分な場合に限られる。請求サイクルが月1回、取引先が5社以下という条件なら、エクセルでも回る。
専用クラウドツールは、会計ソフトを持っていない会社や、既存の会計ソフトの資金繰り機能が使いにくいと感じている会社に向く。無料または月数千円以下で使えるものが複数あるため、まず試してみるという選択ができる。
会計ソフトの付属機能は、既にfreeeやマネーフォワードを使っている会社なら追加コストなしで使える可能性がある。ただし「データが入力されていること」が前提になるため、入力が月末まとめになっている運用では精度が出ない。
無料・低コストで使える専用ツール3選
会計ソフトを持っていない、または資金繰りだけを手軽に管理したい場合に使える専用ツールを3つ紹介する。いずれも無料から試せるものを選んだ。
| ツール名 | 費用 | 特徴 | 会計ソフト連携 |
|---|---|---|---|
| GUULY(グーリー) | 無料プランあり / 有料月額1,650円 | 入出金予定を登録すると資金繰り表を自動作成 | freee・マネーフォワード連携対応 |
| milestone(マイルストーン) | 基本機能は無料 | 簿記知識不要。入出金予定を登録するだけ | 複数事業所管理対応 |
| bixid(ビサイド) | 要問い合わせ | 会計ソフトのデータ連携で資金繰り表を自動生成 | 主要会計ソフト対応 |
GUULY(グーリー)
入出金予定を登録すると、日次・月次・年次の資金繰り表を自動で作成してくれるクラウドツールだ。簿記の知識がなくても操作できる設計になっており、「請求書を発行したら入金予定を登録する」という使い方が基本になる。
無料プランで基本機能が使える。有料プランは月額1,650円で、より詳細なレポート機能やCSV出力などが追加される。freeeやマネーフォワードとのデータ連携にも対応しているため、既存の会計ソフトのデータを引き継いで使える点は便利だ。
向いているケース:会計ソフトを使っていない、または会計ソフトの資金繰り機能が使いにくいと感じている会社。まず無料プランで試してみて、必要なら有料(月1,650円)に切り替えるという入り方ができる。
milestone(マイルストーン)
会計帳簿への入力を必要とせず、入出金予定を登録するだけで資金残高の動きを可視化できるツールだ。基本機能は無料で利用できる。
簿記担当者がいなくても使えるように設計されており、「今月末に〇〇社からいくら入る、×日に仕入れ代金〇〇円が出る」という予定を登録するだけで日次の資金繰り表が作られる。複数人でのクラウド共有に対応しており、経営者と担当者が同じ画面を見ながら確認できる。
「milestone plus」というプランもあり、経理業務のアウトソースと資金繰り管理を組み合わせたサービスも提供されている。資金繰りの可視化だけでなく、経理業務全体を外部に任せることも検討している場合には、こちらも選択肢になる。
向いているケース:簿記担当者がおらず、経営者自身が現金の動きをシンプルに把握したい場合。外出先でもスマートフォンから確認できる。
bixid(ビサイド)
会計ソフトのデータを連携するだけで、自動的に資金繰り表が生成されるツールだ。freeeやマネーフォワードのデータを引き込んで、資金繰り表・資金繰り予定表・資金繰り予実表などのテンプレートから選択して使える。
手入力をできるだけ減らしたい場合、会計ソフトのデータが既にきちんと入力されている会社には向く。会計データをもとに自動生成するため、手動で入出金を登録する手間が省ける分、更新頻度を維持しやすい。
詳細な料金は要問い合わせ。公式サイト(bixid.net)で確認してほしい。
freee・マネーフォワード・弥生の付属資金繰り機能
既に主要な会計ソフトを使っている会社なら、追加のツールを入れる前に、今使っているソフトの付属機能を確認してほしい。多くの場合、資金繰り機能は既存のプランに含まれている。
| ソフト | 主な資金繰り機能 | データ前提条件 | 法人プランの目安(ひとり法人) |
|---|---|---|---|
| freee会計 | 売掛金・買掛金データをもとに入出金予定レポート | 取引データがfreeeに集約されていること | 月払い3,980円 / 年払い月換算2,480円 |
| マネーフォワード クラウド | キャッシュフローレポート・将来の資金残高予測 | 銀行口座自動連携・取引入力が完了していること | 月払い3,980円 / 年払い月換算2,480円 |
| 弥生会計 26 | 60日先の資金残高シミュレーション | 売掛金・買掛金の仕訳データが入力済みであること | プランにより異なる |
freee会計の資金繰り機能
売掛金・買掛金の管理データをもとに、入出金予定のレポートを確認できる。追加費用なしで利用可能だ。請求書・支払いのデータがfreeeに集約されている会社であれば、資金繰り表の自動生成に近い使い方ができる。
法人向けの「ひとり法人プラン」は月払い3,980円(年払いにすると月換算2,480円)。既に使っているプランで資金繰り機能が使えるかどうかは、利用中のプランの機能一覧で確認してほしい。
マネーフォワード クラウド会計の資金繰り機能
「キャッシュフロー」レポートで月次の資金の動きを確認できる。銀行口座との自動連携が充実しているため、実残高の把握は自動化しやすい。将来の資金残高の予測機能は、プランによって機能範囲が異なる。
法人向け「ひとり法人プラン」は月払い3,980円、年払いにすると月換算2,480円になる。スモールビジネスプラン以上では、より詳細なキャッシュフロー分析が使えるプランもある。利用中プランの機能一覧を確認してから、追加ツールの要否を判断することを勧める。
弥生会計 26の資金繰り機能
「将来の資金残高」のシミュレーション機能が搭載されており、60日先までの資金の動きを確認できる。売掛金・買掛金の仕訳データをもとに回収予定や支払予定を月ごとに一覧表示できる。
ただし、入出金データを弥生に集約していることが前提だ。仕訳が手入力で月末まとめになっている運用では、リアルタイムで資金残高を把握することはできない。60日先のシミュレーションも、入力データが最新でなければ精度が出ない。
追加ツールが必要かどうかの判断基準
ここが一番重要なポイントだ。新しいツールを入れる前に、「今使っている環境で何ができているか」を確認してほしい。
| 現状 | 判断 | 推奨アクション |
|---|---|---|
| freee・マネーフォワードを使っており、取引データが常時入力されている | 追加ツール不要 | まず付属の資金繰り機能を確認する |
| 会計ソフトを使っているが、入力が月末まとめになっている | ツール追加より先に運用改善 | 入力タイミングを週次に変える |
| 会計ソフトを使っておらず、エクセルで管理している | 専用ツールが選択肢 | GUULY・milestoneを無料から試す |
| 入出金の数が月10件以下で月次確認で十分 | エクセルで対応できる | 現状維持でよい |
| 週次・日次で資金の動きを把握したい | 専用ツールまたは上位プランを検討 | milestone・GUULYを試す |
僕が見てきたケースで最も多いのが、「会計ソフトを契約しているのに、入力が月末まとめになっているため機能が使えていない」というパターンだ。freeeやマネーフォワードの資金繰り機能は、データが入力されていれば十分に使えるように作られている。新しいツールを追加する前に、既存の会計ソフトへのデータ入力の運用を整える方が、費用をかけずに改善できる問題が多い。
一方、会計ソフトを使っていない会社や、会計ソフトの資金繰り機能が複雑すぎて使いこなせないというケースでは、GUULYやmilestoneのような専用ツールが有効だ。無料プランで試せるため、まずは実際に操作してみて合うかどうか確認してほしい。ツールを増やす前に「本当に必要かどうか」を確かめる姿勢が、余計なランニングコストを防ぐ。
業務効率化全般について「何から手をつければいいか分からない」という場合は、業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説も参考にしてほしい。
ツールを入れても資金繰りが改善しないパターン
ツールを導入しても資金繰りの見える化が進まないケースには、共通のパターンがある。導入前に確認しておいてほしい。
パターン1:データの入力が追いついていない
最も多いのがこのパターンだ。ツールを入れても、入出金予定が登録されていなければ資金繰り表は作れない。「請求書を発行したら入金予定を登録する」「支払い予定が決まったらすぐ入力する」という運用が定着していないと、ツールを入れた意味がなくなる。
ツールを入れる前に「誰が」「いつ」「何を登録するか」のルールを決めておくことが先決だ。例えば、「毎週月曜日に前週分の入出金予定を登録する」「請求書送付と同時に入金予定をシステムに入力する」という具体的なオペレーションまで設計しておかないと、入力は止まる。
パターン2:ツールを入れたが誰も見ない
ツールを入れたはいいが、「入力したら終わり」になってしまうパターンだ。資金繰り表は見て判断するために作るものだ。週に1回、月曜日の朝10分で経営者が確認するという習慣がないと、更新されているだけで意味をなさない。
「いつ」「誰が」「何を確認して」「どういう判断をするか」まで決めて初めて機能する。特に小規模の会社では、経営者自身が週次で見ることが前提になる。ツールを入れてから1ヶ月で見なくなっているケースを、僕は複数回目にしてきた。
パターン3:ツールが増えすぎて混乱している
会計ソフトも、専用の資金繰りツールも、エクセルも——全部並行して使っている会社がある。どれが正でどれが参考なのか分からなくなると、結局誰も更新しなくなる。
自社では月3.5万円のツール代でバックオフィス全体を回しているが、ツールを絞ることが最初の一歩だと実感している。資金繰り管理に使うツールは1つに統一する。複数持つと更新漏れが生じやすく、どのデータが正確なのか分からなくなる。
業務効率化に特化したエンジニアとして支援してきた経験から言うと、「ツールを増やすより、1つをちゃんと使う方が効果が出る」。新しいツールを入れる前に、今使っているものを本当に活用しきれているか確認してほしい。経理業務全体の属人化が気になる場合は、経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きも参考になる。
まとめ
資金繰り管理ツールを選ぶ際のポイントを整理する。
- 会計ソフト(freee・マネーフォワード・弥生)を使っている会社:まず付属の資金繰り機能を確認する。入力データが常時更新されている状態なら、追加ツールは不要な場合が多い。法人ひとり法人プランはfreee・マネーフォワードともに月払い3,980円、年払いなら月換算2,480円。
- 会計ソフトを使っていない会社:GUULY(無料プランあり、有料月額1,650円)またはmilestone(基本機能は無料)が現実的な選択肢。どちらも簿記知識なしで使える。
- エクセル管理を続けている会社:取引先が10社を超えたり、入金日がバラバラだったりする場合は、専用ツールへの移行を検討してほしい。
どのツールを選んでも、入出金のデータを定期的に更新する運用が整っていないと機能しない。ツールを入れる前に、「誰が」「いつ」「何を登録するか」のルールを先に決めることが重要だ。
会計ソフトの選定や業務全体の効率化について相談先を探している場合は業務効率化の相談はどこにすればいい?中小企業向けの相談先まとめも参照してほしい。
関連記事
経理・バックオフィスの効率化について、合わせて読んでほしい記事を紹介する。