著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)
「記帳くらい自分でできる」と思って会計ソフトを開き、気づけば毎月末の数時間を費やしている経営者は少なくない。
自分でやった方が安いのか、外注した方が得なのか。答えは会社の状況によって違う。ただ、判断の軸はシンプルで、「誰の時間が使われているか」に尽きる。
この記事では、判断基準を7項目のチェックリストで整理したうえで、費用比較と外注先の選び方まで実務目線で解説する。業務効率化に特化したエンジニアとして、記帳業務の外注判断に関わってきた経験から書いている。
そもそも「記帳代行」は何をする仕事か
記帳代行は、領収書・通帳明細・請求書などの証憑をもとに、仕訳を入力して帳簿を作成する作業を代行するサービスだ。
具体的に含まれる業務は以下の通り:
- 領収書・レシートの整理と仕訳入力
- 銀行口座・クレジットカードの取引明細の取り込みと勘定科目の割り当て
- 月次試算表・貸借対照表の作成
- 電子帳簿保存法への対応(スキャン保存・タイムスタンプ付与)
ここで注意が必要なのは、税務申告(確定申告・法人税申告)は記帳代行の業務範囲に含まれない点だ。税務申告は税理士法による独占業務であり、記帳代行業者は申告書の作成ができない。記帳代行業者と顧問税理士を組み合わせて使うのが一般的な形だ。
一方、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトの銀行連携機能は、通帳明細の自動取り込みと自動仕訳を提供している。月の取引が単純で件数が少ない会社なら、ソフトだけで記帳作業の大半を処理できるケースもある。
「記帳代行を外注するべきか」を判断するには、まず自社の記帳業務の実態(誰がやっているか・何件あるか・何時間かかっているか)を把握することが出発点になる。
外注を検討すべきかどうかの判断基準チェックリスト
以下の項目に当てはまるものを数えてほしい。
外注を検討すべきサイン
- 毎月の記帳作業に3時間以上かかっている
- 経営者自身が記帳を担当していて、本業の時間を削っている
- 簿記の知識がなく、仕訳が正確かどうか自信がない
- 月次の数字を把握できるのが翌々月になっている
- 経理担当者が退職して記帳が滞っている、または滞るリスクがある
- 税理士から「記帳が遅い」「領収書が整理されていない」と指摘されたことがある
- 月の取引件数(仕訳件数)が100件を超えている
3つ以上当てはまる → 外注を具体的に検討すべき段階
1〜2つ → 今は現状維持でよいが、取引件数が増えてきたら見直す
0個 → 自分でやれる体制が整っている
このチェックリストで判断基準が曖昧に感じる人は、まず「毎月の記帳に何時間かけているか」を計測するところから始めてほしい。数字が出れば判断は一気に楽になる。
自分でやっていいケースと、外注すべきケースを比較する
| 条件 | 自分でやっていいケース | 外注すべきケース |
|---|---|---|
| 担当者 | 簿記2〜3級の経理担当者がいる | 経営者が自分でやっている |
| 月の仕訳件数 | 50件以下 | 100件以上 |
| 月の作業時間 | 1〜2時間以内に収まっている | 3時間以上かかっている |
| 月次数字の把握タイミング | 翌月中に試算表が手元に来る | 2〜3ヶ月後にならないと分からない |
| ミスの頻度 | 仕訳ミスがほぼない | 貸借が合わないことがある |
| 退職リスク | 担当者が安定して在籍している | 一人経理でいつ辞めるか分からない |
自分でやっていいケース
月の仕訳件数が50件以下で、クラウド会計ソフトを使っている場合は、自分でやることが現実的な選択肢になる。クラウド会計の銀行連携機能を使えば、通帳明細の自動取り込みと自動仕訳が動くため、月1〜2時間程度で記帳が完結するケースが多い。
ただし、「簿記の知識がある人が担当しているかどうか」は重要な前提だ。クラウド会計は入力を楽にするが、仕訳の正確さは使う人の知識に依存する。知識ゼロで操作だけ覚えてやっている場合、誤りが積み重なっていることがある。
社内に経理専任の担当者がいて、その人が月2〜3時間以内に処理できているなら、外注する優先度は低い。
外注すべきケース
経営者が記帳を担当している場合は、外注を強く勧める。経営者の時間は、記帳以外の判断・営業・顧客対応に使うべきものだ。月3時間を記帳に費やしているなら、外注費用(月5,000〜2万円程度)で手放せるなら、費用対効果は高い。これは断言できる。
一人経理が担当していて退職リスクがある場合も同様だ。一人経理が退職した瞬間に経営者が記帳を引き取るケースを何度も見てきたが、その時点で業務量が一気に増え、本業が圧迫される。退職前に外注に切り替えておく方が、コスト面でも精神的にも安定する。この問題については一人経理が退職する前に会社がやるべきリスク対策に詳しく書いた。
仕訳ミスが発生している場合は急いで外注を検討してほしい。仕訳のミスは連鎖的に波及し、発見が遅れるほど修正コストが増える。簿記の知識なしで記帳を続けるのは、ミスが積み重なるリスクが高い。
記帳代行の費用相場と選択肢の比較
仕訳件数別の費用目安
| 月の仕訳件数 | 記帳代行業者(専業) | 税理士事務所(記帳込み) |
|---|---|---|
| 50件以下 | 5,000〜10,000円 | 10,000〜20,000円 |
| 100〜200件 | 10,000〜20,000円 | 15,000〜30,000円 |
| 200〜400件 | 20,000〜40,000円 | 25,000〜45,000円 |
これはあくまでも目安の幅で、業者によって大きく異なる。クラウド会計ソフト(freee・マネーフォワード)対応の業者は、書類の送付が不要なためコストを抑えやすい傾向がある。
3つの選択肢の特徴比較
| 選択肢 | 月額費用の目安 | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 記帳代行専業業者 | 5,000〜40,000円 | 記帳だけ外注したい。税理士は別にいる | 税務相談・申告は別途必要 |
| 税理士事務所(記帳+顧問) | 20,000〜50,000円 | 記帳と税務申告を一本化したい | 費用は高くなる |
| 経理BPO(バックオフィス代行) | 30,000〜150,000円 | 記帳以外(請求書・給与計算等)も外注したい | 業務範囲によって費用が変動する |
| パート・派遣社員の採用 | 80,000〜120,000円 | 仕訳件数が多く、社内でコントロールしたい | 採用・教育コスト、退職リスクあり |
バックオフィス全般の外注費用について詳しく知りたい場合は、バックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方を参考にしてほしい。
パート採用と外注の判断については費用だけでなく、管理の手間・退職リスク・繁閑への対応力も含めて比較する必要がある。月の仕訳件数が400件を超えてくるまでは、多くのケースで外注の方がコストを抑えやすい。
外注先を選ぶときに確認すべき4つのポイント
費用だけで選ぶと後悔するケースがある。以下の4点は必ず事前に確認してほしい。
1. 使用している会計ソフトに対応しているか
freee・マネーフォワードクラウド会計・弥生会計など、自社が使っているソフトに外注先が対応していない場合、ソフトの移行が必要になる。ソフトの移行は想像以上に手間がかかり、既存データの移行作業や担当者への説明コストが発生する。
対応ソフトは必ず最初に確認すること。
2. 証憑の提出方法と手間
毎月の領収書・請求書をどうやって渡すかで、経営者の手間が大きく変わる。
- 郵送(紙のまま送る)→ 送付の手間があるが、先方が整理してくれる
- スキャンしてクラウドにアップロード → 手間は少なく、紛失リスクも低い
- スマートフォンアプリで撮影・送信 → 最も手軽。一部のクラウド対応業者が対応
クラウドアップロードやアプリ送信に対応している業者の方が、経営者の作業負担は少ない。
3. 月次試算表の提出タイミング
記帳代行を使う最大のメリットの一つが、月次の数字を早く把握できることだ。月次試算表が翌月15日以内に届くかどうかを確認する。
「翌月末や翌々月にならないと試算表が届かない」という外注先は、経営判断への活用という点で意味が薄い。月末の数字を翌月中旬に確認できる体制を作ることが外注の目標だと思っている。
4. 担当者が固定されているか
外注先に担当者を決めてもらっても、頻繁に担当者が変わる業者がある。担当者が変わるたびに自社の勘定科目の使い方や業種特有の仕訳パターンを説明し直す必要が生じ、ミスが起きやすくなる。
「担当者固定制」かどうかを契約前に確認すること。1人に絞れなくても、「2〜3名のチーム制で引き継ぎを徹底している」という体制なら許容範囲だ。
実際に見てきた失敗パターン3つ
記帳代行の外注がうまくいかなかったケースは、だいたい似たパターンに集約される。
失敗パターン1:ソフトが合わずにデータ移行が発生した
「費用が安い」という理由だけで外注先を選んだ結果、使用していたクラウド会計と対応していないことが後から判明するケースがある。この場合、ソフトの移行か外注先の変更のどちらかを選ぶことになる。
どちらも相応のコストと手間がかかる。記帳代行の外注を検討する前に、「今使っているソフトで継続できるか」を最初の絞り込み条件にした方がいい。
失敗パターン2:試算表が遅くて使い物にならなかった
記帳を外注したのに、試算表が届くのが翌々月になってしまったというケースがある。こうなると、「今月の業績が先月末時点でどうなっているか」が分からない状態が続く。早期の問題発見や月次の経営判断ができないなら、外注の費用対効果が出ない。
試算表の提出スケジュールは、契約前に「翌月何日までに届くか」を明示で確認することが重要だ。
失敗パターン3:担当者が頻繁に変わってミスが増えた
コールセンターや事務代行のBPO業者の一部は、スタッフの入れ替わりが多い。記帳担当者が変わるたびに自社の仕訳ルールを説明し直す必要があり、その都度ミスが発生しやすい。
担当者が変わったタイミングで帳簿に誤りが積み重なり、決算前に大量の修正作業が発生したケースを見ている。「担当者固定」は費用よりも重要な選定基準になる。
まとめ:判断の出発点は「誰の時間が使われているか」
記帳を自分でやるか外注するかの判断は、費用の大小だけでなく、「どの時間が使われているか」が本質だ。
経営者が記帳に月3時間以上使っている場合、外注費用(月5,000〜2万円)はその時間を本業に戻すためのコストだと考えると、費用対効果は十分に出る。
経理担当者が月2〜3時間で処理できている場合は、急いで外注する必要はない。ただし、その担当者が退職したときのリスクは常に意識しておくべきだ。
まず「毎月の記帳に何時間かけているか」を計測するところから始めてほしい。時間が分かれば、外注すべきかどうかの判断は自然と見えてくる。
経理担当者の属人化が心配な場合は、経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きも参考にしてほしい。