「毎月3万円払っているのに、何をしてもらっているのかよく分からない」
こういった声を経営者からよく聞く。税理士と顧問契約しているのに、年に一度決算の時に書類が届くだけで、月次の数字の共有もない。でも長年の付き合いで、なんとなく解約も言い出せない。そういうケースが中小企業では珍しくない。
僕は業務効率化に特化したエンジニアとして、複数の中小企業の経理体制の見直しに関わってきた。税理士費用が「適正かどうか」を判断するためには、まず相場感と、月額の中に何が含まれているかを把握する必要がある。この記事では、売上規模別の費用相場から、払いすぎのサインの見方、税理士の変更タイミングまでを整理する。
税理士費用(顧問料)の相場:売上規模別の目安
税理士の顧問料は、会社の年間売上規模によって大きく変わる。従業員5〜30人規模の中小企業を想定した場合の目安は以下の通りだ。
| 年間売上 | 月額顧問料の目安 | 決算申告料の目安 | 年間コスト(概算) |
|---|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 2〜3万円 | 10〜15万円 | 34〜51万円 |
| 1,000万〜3,000万円 | 3〜4万円 | 13〜20万円 | 49〜68万円 |
| 3,000万〜1億円 | 4〜5万円 | 20〜30万円 | 68〜90万円 |
| 1億〜3億円 | 5〜8万円 | 30〜50万円 | 90〜146万円 |
この表で見落とされやすいのが決算申告料だ。月額顧問料の4〜6ヶ月分が相場とされており、月額3万円の契約であれば決算料は12〜18万円になる。月額だけで比較すると「安い税理士」に見えても、年間の総コストは想定より高くなることが多い。
記帳代行の有無で月額が変わる
上記の相場は「自社で会計ソフトへの入力を行う」前提での金額だ。記帳代行(領収書や請求書の帳簿入力)を含めると、月額はさらに1〜3万円程度上がる。
| 契約パターン | 月額の目安(売上1,000万〜3,000万の場合) |
|---|---|
| 顧問料のみ(自社記帳) | 3〜4万円 |
| 顧問料+記帳代行 | 5〜7万円 |
| 顧問料+記帳+給与計算 | 7〜10万円 |
経理担当が社内にいない会社では記帳まで外注するケースが多いが、この場合の年間コストは相場の1.5〜2倍になる。契約前に「記帳が含まれるか」を確認しておくのは最低限の確認事項だ。
月額顧問料の「中身」:含まれるもの・含まれないもの
顧問料に何が含まれているかは、事務所によって異なる。契約後に「これは別料金です」という話が出てくることは珍しくなく、契約前に明確にしておかないと後悔することになる。
多くの事務所で月額顧問料に含まれていること
- 会計データのチェック・監査
- 月次試算表の作成
- 月1回程度の面談または電話相談(30分〜1時間)
これが「標準的な月額顧問料の中身」だ。帳簿を確認し、月次の試算表を渡す。それだけが基本業務に含まれている事務所は多い。
別料金になりやすい業務
| 業務 | 追加費用の目安 |
|---|---|
| 記帳代行 | 月額1〜3万円(取引件数による) |
| 給与計算 | 月額1〜2万円(従業員数による) |
| 年末調整 | 1人あたり3,000〜5,000円 |
| 社会保険手続き(社労士委託) | 1件1〜3万円 |
| 融資支援・補助金申請補助 | スポット5〜20万円 |
| 税務調査の立ち会い | スポット5〜15万円 |
特に「記帳代行」の有無が最大の落とし穴になりやすい。「税理士に頼んでいるから経理は全部お任せ」と思っていたら、帳簿への入力は自社でやる前提だった、というケースは実際に見てきた。月額3万円の契約でも、記帳が別料金であれば追加で月2〜3万円かかる構造になる。
給与計算については、社労士との役割分担も知っておく必要がある。税理士も給与計算を請け負えるが、社会保険の手続きは社労士業務になるため、税理士だけでは対応できない場合がある。
年末調整の外注費用については、年末調整を外注するといくらかかる?費用相場と依頼先の選び方で詳しく解説している。
税理士費用が変わる3つの要因
同じ売上規模でも、税理士費用が大きく変わるケースがある。その主な要因は3つだ。
要因1:訪問かリモートか
月1回の訪問あり・なしで、月額が1〜2万円変わるのが一般的だ。訪問があると移動コストが発生するため、事務所側がその分を上乗せする。
ただし、訪問の「中身」が形式的な報告だけなら、リモート対応に切り替えて費用を抑えるのは合理的な選択だ。僕が関わってきた会社でも、「月1回の訪問を月1回のオンライン面談に変えて、月額が2万円下がった」というケースが複数あった。コミュニケーションの質を維持しながら移動費の分を削るだけで、年間24万円の削減になる。
要因2:業種の複雑さ
建設業・飲食業・医療法人など、業種によって経理処理の特殊性がある。こうした業種の場合、税理士側の対応工数が増えるため、一般的な相場より高くなる傾向がある。建設業であれば完成工事未収入金の処理、飲食業であれば毎日の売上計上の細かさなど、処理の複雑さが費用に直接影響する。
要因3:会計ソフトの使用状況
freeeやマネーフォワード クラウド会計などのクラウド会計ソフトを使っている会社と、紙や旧来のソフトを使っている会社では、税理士の作業量が変わる。クラウド会計ソフトを使っている場合、銀行明細や請求書データを自動で取り込める分、税理士の記帳・確認作業が減り、月額が1〜2万円安くなるケースがある。
実際に、freeeを導入して会計データをリアルタイムで共有できるようにしたことで、月額顧問料が4万円から3万円に下がった会社を見てきた。会計ソフトの整備は、税理士費用の見直しに直結することがある。
「払いすぎ」のサインと適正価格の判断基準
税理士費用が適正かどうかは、金額だけでなく「提供されているサービスの中身が費用に見合っているか」で判断する。
払いすぎのサイン
以下の状態が続いている場合、顧問料の見直しを検討する価値がある。
- 税理士から連絡がくるのは決算の時だけ
- 月次の試算表が届かない、または数字の説明がない
- 資金繰りや節税について相談したいが、相談しにくい雰囲気がある
- 会計ソフトの使い方で困っても対応してもらえない
- 追加の手続き(融資・補助金等)のたびに高額の別料金が発生する
「毎月3万円払っているのに何もしてもらっていない」という感覚は、多くの場合「月次試算表は渡しているけれど、それ以上のコミュニケーションがない」という状態だ。月次試算表を渡しているかどうかではなく、その数字を経営判断に使えているかが判断軸になる。
僕が支援した会社の中に、「決算は毎年お任せしているが、月次の数字の意味が分からないまま5年が過ぎた」というケースがあった。顧問料を毎月4万円払い続けていたが、節税提案は一度もなく、融資の際は別途10万円かかった。年間コストで見ると78万円以上が出ていたが、得られていたものは申告書だけだった。
費用対効果が出ているサインの例
- 毎月数字を共有してもらい、節税の提案がある
- freeeやマネーフォワードの運用について相談できる
- 銀行融資の際に財務資料の作成を一緒に進めてもらえる
- 補助金や助成金の情報を先に教えてもらえる
費用が高い=払いすぎとは限らない。上記のようなサービスを受けられているなら、月額が相場より1〜2万円高くても費用対効果は出ている。
税理士を選ぶ5つのチェックポイント
新しく税理士を探す場合、または現在の税理士との契約を見直す場合に確認すべきポイントを整理する。
1. 記帳代行が含まれているか
自社で会計ソフトへの入力ができる場合は不要だが、経理担当がいない・入力する時間が取れない場合は記帳代行が必須になる。「記帳込みか込みでないか」で月額が1〜3万円変わるため、最初に確認する。
経理を外部に任せる場合の費用感については、経理代行の費用を実例で公開|従業員規模別の月額料金まとめも参考になる。
2. 使っている会計ソフトに対応しているか
freee・マネーフォワード クラウド会計・弥生会計のいずれに対応しているかを確認する。税理士によっては一つのソフトしか扱えないケースがある。既に会計ソフトを使っている場合は、そのソフトへの対応を前提に探すと手戻りが少ない。
3. 月次の数字共有とコミュニケーション頻度
「年に一度だけ会う」タイプと「毎月数字を共有して経営状況を把握してもらう」タイプでは、受けられるサービスの質が大きく異なる。経営判断の材料として月次の数字を使いたいなら、後者を選ぶ必要がある。リモート対応でも月次の数字の共有・説明があれば十分機能するケースが多い。
4. 自社の業種・業態への対応実績があるか
建設業・飲食・不動産・医療など、業種によって経理処理の特殊性がある。同業種の顧問経験が豊富な事務所を選ぶと、業種特有の節税策や補助金情報を持っていることが多い。一般的な中小企業だけを扱ってきた税理士と、建設業専門の税理士では、対応できる内容が異なる。
5. 解約・変更の手続きと通知期間
契約前に「解約する場合の手続きと通知期間」を確認しておく。多くの事務所では1〜3ヶ月前の通知が必要で、決算期をまたぐ場合は申告完了後に解約する必要があるケースもある。「変えたいと思ったらすぐ変えられる」わけではないため、事前確認が必要だ。
freeeやマネーフォワードを使うと税理士費用はどう変わるか
クラウド会計ソフトを導入することで、税理士側の作業量が変わり、費用に影響することがある。
変わること
クラウド会計ソフトを使うと、銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込んで仕訳する機能がある。この自動化によって、税理士が行う記帳チェックの工数が減る。また、会計データをリアルタイムで税理士と共有できるため、月次のやり取りが効率化される。
費用への影響
| 状況 | 月額顧問料への影響(目安) |
|---|---|
| 紙や旧来ソフト → freee/マネーフォワードに切替 | 記帳代行費用が月0〜2万円削減 |
| クラウドで記帳を自動化 → 税理士は確認のみに | 顧問料が月0.5〜2万円下がるケースあり |
| 自社記帳を完全自動化 → 顧問のみの契約に切替 | 年間で5〜20万円の削減も可能 |
ただし、クラウド会計ソフトの月額費用(freeeは小規模法人向けで月額数千円から、マネーフォワード クラウドも同程度)が別途かかる。費用全体で見た場合の削減効果を計算してから導入判断をするのが正確だ。
freeeに対応している経理代行サービスを選ぶなら、freee対応の経理代行サービス5選|料金・対応範囲を徹底比較が参考になる。
経理業務全体をAIで自動化する取り組みについては、中小企業の経理をAIで自動化する方法|仕訳・請求・経費精算の3業務から始めるで詳しく解説している。
税理士を変更するタイミングと手順
現在の顧問税理士に不満があり変更を検討している場合、タイミングと手順が重要だ。
最適なタイミング
変更は「決算申告が完了した直後」が最も安全だ。次の決算まで約1年の余裕ができるため、新しい税理士への引き継ぎを落ち着いて進められる。
決算直前に変更すると、新しい税理士が過去の状況を把握しきれないまま申告対応に入ることになり、申告内容にリスクが生じる可能性がある。「変えたいと思ってから実際に変えるまで1年以上かかってしまった」という会社も実際にある。現在の税理士に遠慮して切り出せず、1回決算をまたいでしまうパターンだ。「変えたい」と感じた時点で動き始めるのが正解で、次の決算まで待つ必要はない。
変更の手順
- 新しい税理士を先に探して決める:先に現在の税理士に解約を伝えてしまうと、次を探すまでの空白期間が生じる。新しい税理士が決まってから解約を進める順番が安全だ
- 現在の税理士へ解約を通知する:通知期間(1〜3ヶ月が一般的)を確認して、期限内に通知する
- 資料の引き取りを依頼する:過去の決算書・帳簿・税務申告書・源泉徴収関連の書類を受け取る。税務申告書は原則5年分は保管しておく必要がある
- 新しい税理士へ引き渡す:受け取った資料を新しい税理士に渡し、現状の引き継ぎを行う
引き継ぎ時の確認事項として、「今期の途中経過の帳簿データ」「未処理の取引」「前期の修正が必要な項目」などが漏れやすい。新しい税理士と最初の面談で引き継ぎリストを確認しておくと後からの問題を防げる。
まとめ
税理士の月額顧問料は、年間売上規模によって月2〜8万円が目安だ。これに決算申告料(月額の4〜6ヶ月分)が加わり、年間コストは34〜146万円の幅がある。月額だけで比較せず、年間の総コストで比較することが重要だ。
「払いすぎかどうか」の判断は金額だけでなく、月次の数字共有があるか・相談しやすいか・節税提案があるかで判断する。この要素を満たしているなら、相場より少し高くても費用対効果は出ている。一方、年に一度決算の時だけ連絡がくる・月次試算表が届かない・追加費用ばかり発生するという状態なら、現在の契約内容と費用が見合っていない可能性が高い。
クラウド会計ソフトの導入で記帳を自動化しておくと、税理士費用の見直しに直結する場合がある。経理体制全体(税理士・経理代行・会計ソフト)の組み合わせを見直したい場合は、経理が採用できない中小企業の選択肢|採用コストvs外注コスト比較も参考になる。