著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)
毎月末になると、社員から紙の領収書をかき集めて、Excelに打ち込んで、上司のハンコをもらって……という作業が繰り返されている会社は多い。
「どうにかしたい」と思いながらも、ネットで調べると「おすすめ17選」「全45製品比較」のような記事ばかりで、結局どれを選べばいいか分からずに先送りになる。
業務効率化に特化したエンジニアとして複数の中小企業の業務改善に関わってきたが、経費精算ツールの選定は「何を比較するか」より「最初に何を確認するか」が全てだと感じている。選択肢を20本並べてから比べるより、自社の状況を整理してから候補を3本に絞った方が確実に早く決まる。
この記事では、従業員5〜50人規模の中小企業が経費精算ツールを選ぶ際に使える判断基準と、実際に導入候補になる主要4ツールを比較する。「うちの状況ならこれ」と判断できる形で整理する。
そもそもExcelのままでいい会社とツールが必要な会社の違い
ツールを検討する前に、「今のままでいいのか」を判断する基準を整理する。Excelでの経費管理が問題ない条件と、ツールへの切り替えが必要な条件はかなり明確に分かれる。
Excelで問題ない条件
- 従業員が5人以下で、経費申請が月に数十件程度
- 全員が同じオフィスにいて、紙の領収書の回収に困っていない
- 月次の経費処理にかかる工数が1〜2時間で、それを許容できている
- メールやチャットで受け取る電子請求書・領収書がほぼない
ツールへの切り替えが必要な条件
- 経費処理に月3時間以上かかっている(経理担当者の工数ベース)
- 申請漏れや計算ミスが月に複数回発生している
- テレワーク・在宅勤務の社員がいて、紙の領収書の回収が難しい
- メールで受け取るPDF請求書・電子領収書が増えてきた
- freeeやマネーフォワードで会計管理をしていて、Excelからの手入力転記が毎月発生している
2024年1月以降、電子帳簿保存法の改正により、メールで受け取ったPDF形式の請求書・領収書を「紙に印刷して保存する」ことが原則禁止になった。電子取引の量が増えている会社にとっては、ツール導入が法令対応の手段にもなっている。
「電子取引がある」「Excelからの転記が毎月発生している」という会社は、費用の問題より先にこの点を確認する必要がある。詳しくは後述の電子帳簿保存法対応の章で解説する。
| 会社の状況 | 推奨 |
|---|---|
| 従業員5人以下、経費件数少ない | Excelで十分 |
| 月3時間以上かかっている | ツール導入を検討 |
| テレワーク社員がいる | ツール必須 |
| 電子取引が発生している | ツール + 電子帳簿対応が必要 |
| Excelから会計ソフトへ転記している | ツール連携で転記をなくす |
中小企業向け経費精算ツール4選の比較
よく比較記事に出てくる15〜20のツールを全部紹介するより、実際に中小企業が導入候補として検討する4つに絞って整理する。
1. マネーフォワードクラウド経費
向いている規模: 5〜50人
料金(2026年現在):
- 50名以下プラン: 月額2,980円(年払い)/ 月額3,980円(月払い)
- 初期費用: なし
主な機能:
マネーフォワードの会計ソフト(マネーフォワードクラウド会計)を使っている会社にとっては、連携による自動仕訳が最大の強みだ。経費データが会計ソフトに自動で反映されるため、毎月の転記作業がなくなる。スマートフォンで領収書を撮影するだけでデータが自動読み取りされ、交通費の自動計算(ICカード連携)にも対応している。
操作が直感的で、経理担当者だけでなく申請する社員側の使い勝手もいい。PCに不慣れな社員でも使えるUIは、導入後の定着を考えると重要なポイントだ。
注意点:
マネーフォワードクラウド会計を使っていない会社でも導入できるが、自動仕訳連携の恩恵が薄れる。freeeを会計ソフトとして使っている場合は、後述のfreeeかジョブカン経費精算を先に検討する。
2. ジョブカン経費精算
向いている規模: 5〜100人
料金(2026年現在):
- 1ユーザーあたり月額440円(税込)
- 最低利用料金: 月額5,500円(税込)
- 初期費用・サポート費用: なし
人数別の月額目安:
- 10人: 月5,500円(最低金額が適用)
- 20人: 月8,800円
- 30人: 月13,200円
主な機能:
ユーザー数に応じた従量課金で、小規模から始めやすい。freee・マネーフォワード・弥生など複数の会計ソフトとの連携に対応しているため、既存の会計環境を変えずに導入できる会社が多い。申請・承認フローのカスタマイズ自由度が高く、「申請者 → 直属の上司 → 経理部門」のような多段階の承認も設定できる。
注意点:
ジョブカンは勤怠管理・給与計算なども別製品として提供しており、まとめて導入するとコストが積み上がる。経費精算だけ使う場合は単体で契約できる点を確認してほしい。
3. 楽楽精算
向いている規模: 50人以上
料金(2026年現在):
- 初期費用: 100,000円(税別)
- 月額: 30,000円〜(税別、ユーザー数・オプションによって変動)
主な機能:
国内導入実績が多い大手。申請フロー・承認ルート・ワークフローの設定項目が細かく、複数部署・複数拠点がある会社でも制御できる。電子帳簿保存法対応も含め、コンプライアンス要件を満たした運用ができる点が評価されている。導入時のサポートが手厚く、設定支援も受けられる。
注意点:
初期費用10万円+月額3万円〜という費用構造のため、20〜30人規模の会社にはコストが見合わないケースが多い。機能が多い分、初期設定と社内運用ルールの整備に時間がかかる傾向がある。規模感が合わない状況で選ぶと、機能を使いこなせないまま費用だけかかる状態になりやすい。
4. freee(経費精算機能)
向いている規模: freee会計を使っている中小企業
料金(2026年現在):
- freee会計の契約内で利用可能(追加費用なし)
- freee会計の月額費用: スタータープラン2,380円〜(税抜)
主な機能:
freeeを会計ソフトとして使っている会社は、経費精算を別途ツール導入せずにfreee内で完結できる。申請から仕訳まで一気通貫で処理でき、データが分散しない。コストをかけずに始められる点は大きい。
注意点:
freeeを使っていない会社には意味がない。専用の経費精算システムと比べると、申請フローの細かいカスタマイズには制限がある。社員数が多く複雑な承認ルートが必要な場合は、専用ツールを検討する。
状況別の選び方まとめ(3つの比較軸)
比較軸1: 使っている会計ソフト別のおすすめ
| 会計ソフト | おすすめツール | 理由 |
|---|---|---|
| マネーフォワードクラウド会計 | マネーフォワードクラウド経費 | 自動仕訳連携で転記がゼロになる |
| freee会計 | freeeの経費機能(まず試す) | 追加費用なし、一気通貫で管理 |
| 弥生会計 | ジョブカン経費精算 | 弥生との連携対応あり |
| 会計ソフトは問わない | ジョブカン経費精算 | 複数連携、1ユーザー440円〜 |
選ぶ際の最初の問いは「今使っている会計ソフトは何か」だ。経費データを会計ソフトへ自動で連携できるかどうかで、経理担当者の毎月の工数が大きく変わる。ここを確認するだけで、選択肢はほぼ2〜3つに絞れる。
比較軸2: 従業員規模別のコスト比較
| 規模 | マネーフォワード | ジョブカン | 楽楽精算 | freee |
|---|---|---|---|---|
| 5〜10人 | 月2,980円(年払) | 月5,500円(最低) | 月3万〜(初期10万) | freee代込み2,380円〜 |
| 20〜30人 | 月2,980円(年払) | 月8,800〜13,200円 | 月3万〜 | 別途追加費用 |
| 50人以上 | 要問合せ | 月22,000円〜 | 月3万〜 | 不向き |
10〜30人規模でコストを抑えたいなら、ジョブカン経費精算が選択肢に入りやすい。マネーフォワードは月額固定2,980円で50人以下なら人数が増えても料金が変わらない点が独特だ。
比較軸3: 機能・特徴の比較
| 機能 | マネーフォワード | ジョブカン | 楽楽精算 | freee |
|---|---|---|---|---|
| スマホで領収書撮影 | あり | あり | あり | あり |
| ICカード連携(交通費自動計算) | あり | あり | あり | 一部 |
| 多段階承認フロー | あり | あり(カスタマイズ性高) | あり(細かい設定可) | 制限あり |
| 電子帳簿保存法対応 | あり | あり | あり | あり |
| 会計ソフトとの連携 | MFクラウドとの連携が強み | freee/MF/弥生に対応 | 複数対応 | freeeと一体 |
| 無料トライアル | あり | あり | あり | freeeで試せる |
電子帳簿保存法への対応を確認する
2024年1月以降、メールで受け取ったPDF請求書や電子領収書などの「電子取引データ」を紙に出力して保存することは原則禁止になった。改ざんできない状態で電子的に保管し、一定の検索要件を満たすことが法律上の義務となっている。
主要な経費精算ツールはいずれも「電子帳簿保存法対応」を謳っているが、対応の深さには差がある。ツールを選ぶ際に確認すべき点は2つだ。
確認ポイント1: タイムスタンプ付与への対応
電子データの真正性を担保するため、タイムスタンプ機能があるかを確認する。対応の有無だけでなく、対応方式(自社サーバー保存か外部認証機関を利用するか)も確認する。
確認ポイント2: 検索要件への対応
保存したデータが「日付」「金額」「取引先」の3項目で検索できる形式になっているか確認する。この要件を満たしていないと、税務調査の際に問題になりうる。
ツールによって対応範囲の解釈が異なるケースがあるため、契約前に担当の税理士に確認することを勧める。
また、電子帳簿保存法は2024年に「猶予措置の廃止」が一部適用された。事業規模や取引形態によって適用内容が変わるケースもある。詳細は国税庁の公式サイトまたは顧問税理士に確認してほしい。
大手メディアが書かない本音:ツール選定の落とし穴
比較サイトを読むと、どのツールも「使いやすく、安心して導入できる」という書き方になっている。ただ、実際に業務改善の支援をしてきた経験から、いくつか気をつけるべき点を書いておく。
落とし穴1: 会計ソフトとの連携を確認しないまま契約する
経費精算ツールを入れたのに、既存の会計ソフトとの連携がなく、結局Excelへの転記が残る。これは割とよくある失敗だ。特にfreeeユーザーがマネーフォワードクラウド経費を入れてしまうパターン、マネーフォワードユーザーがジョブカンを入れたが連携設定が面倒で放置するパターンは実際に見てきた。
最初に「今の会計ソフトと連携できるか、連携の手間はどの程度か」を確認する。無料トライアル中に実際の仕訳データを流してみることを勧める。
落とし穴2: 従業員の使いやすさを後回しにする
経費精算ツールは、経理担当者が使うだけでなく、申請する全社員が使う。操作が難しいと、申請が遅れる、使われない、紙に戻るという事態になる。経理担当者の判断だけでツールを決めず、実際に申請する社員に無料トライアルで触ってもらう時間をとることを勧める。
落とし穴3: 電子帳簿保存法への対応をツール任せにする
「電子帳簿保存法対応済み」と書いてあるツールを入れたから大丈夫、と思い込むケースがある。ツールが法令に対応していても、社内の運用ルールが整っていないと法令違反になる。「タイムスタンプの付与タイミング」「受領した電子データの保存手順」は、ツールではなく社内ルールとして決める必要がある。
落とし穴4: 機能が多すぎるツールを選んで定着しない
楽楽精算のような高機能ツールは、細かいワークフロー設定が可能な分、初期設定に時間がかかる。「とりあえず導入したが設定しきれなかった」「現場が使いこなせなかった」という話を複数回聞いている。従業員20〜30人規模では、必要な機能だけをシンプルに使えるツールの方が定着しやすい。
これらの落とし穴を避けるためには、デジタルツール導入で失敗する4つのパターンと対策も参考にしてほしい。ツール選定で起きやすい失敗の構造は経費精算ツールに限らない。
導入前に整理すべき3つのこと
ツールを選ぶ前に整理しておくべきことが3つある。ここを飛ばしてツール比較に入ると、選んだ後に「これじゃなかった」が起きやすい。
整理1: 現状の経費処理フローを書き出す
誰が申請して、誰が承認して、誰が集計しているかのフローを書き出す。ツールを入れても、このフローが崩れると現場が混乱する。特に「承認者が複数いる」「部門によって承認フローが違う」という会社は、この整理を先に済ませる。
整理2: 経費処理の月間工数を計測する
申請側と経理側、それぞれが月に何時間かかっているかを把握する。ツール導入後に「思ったほど楽にならなかった」という感想が出るのは、大抵このベースラインを計測していないからだ。導入前後の工数変化が分かれば、ツールの費用対効果を判断できる。
整理3: 無料トライアルを使う
主要ツールはいずれも無料トライアルを提供している。比較検討する際は、実際の社内承認フローを設定して動作を確認するのが確実だ。「使い勝手が分からないまま契約する」は避けてほしい。特に経理担当者が1人しかいない会社は、現場に負担をかけないためにもトライアルを活用する。
経費精算だけでなくバックオフィス全体の業務を整理したい場合は、バックオフィスを丸投げしたい中小企業へ|依頼範囲と費用の目安を参考にしてほしい。
僕が実際に見てきたケース
業務効率化の支援で複数の中小企業の経費精算フローを見てきたが、共通して感じるのは「問題が顕在化するまでは動かない」という構造だ。
経理担当が1人で全部を抱えているケースが多い。月末になるとその1人が申請の催促をして、領収書を集めて、Excelに打ち込んで、転記して……という作業を黙々とこなしている。本人が「これが普通」と思っているから、誰も問題提起しない。
問題が表面化するのは、その担当者が退職した時だ。引き継ぎが難しく、次の担当者が業務を把握するのに2〜3ヶ月かかる。その間に申請漏れや転記ミスが増える。それで初めて「仕組みを変えよう」という話になる。
ツール導入はその前にやった方がいい。退職リスクや属人化の問題については、一人経理が退職したら会社は止まるか|リスクと今すぐできる対策でも詳しく書いているので合わせて読んでほしい。
経費精算だけを切り出してツール化するのは難しくない。むしろ、バックオフィス全体の中で最も手をつけやすい領域の1つだ。月額3,000〜5,000円程度で始められて、経理担当の月間工数を5〜10時間削減できるなら、費用対効果は十分に出やすい。
まとめ:「会計ソフト」を先に確認してから選ぶ
経費精算ツールの選び方を整理すると、次のようになる。
- マネーフォワードクラウド会計を使っている → マネーフォワードクラウド経費(自動仕訳連携が最大の強み)
- freeeを使っている → freeeの経費機能を先に試す(追加費用ゼロ)
- 従業員10〜30人でコストを抑えたい → ジョブカン経費精算(1ユーザー440円〜、複数会計ソフトに対応)
- 従業員50人以上、複数部署あり → 楽楽精算が選択肢に入る
「どのツールにするか」を考える前に、「今使っている会計ソフトは何か」「月の経費処理に何時間かかっているか」の2点を確認する。この2点が分かれば、選択肢は自然と絞れる。
経費精算ツールを入れた後のステップとして、月次決算の自動化や記帳代行との組み合わせを検討する会社も増えている。その選択肢については中小企業の経理をAIで自動化する方法|仕訳・請求・経費精算の3業務から始めると記帳代行は自分でやるべき?外注すべき?判断基準チェックリストが参考になる。
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