事務代行・外注

経理が突然辞めた!中小企業の経営者がまずやるべき5つのこと

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

「明日から来られません」という連絡が来た瞬間に頭が真っ白になる経営者は少なくない。

経理担当が1人しかいない会社では、その人が辞めると給与計算・税務申告・仕入先への支払いが全部止まる。会社の信頼を一気に失うリスクがある業務ばかりだ。

業務効率化に特化したエンジニアとして複数の中小企業のバックオフィス改善に関わってきた中で、「経理が急に辞めた」相談を受けることは珍しくない。初動が速かった会社は2週間で安定した体制に戻れた。逆に動きが遅れた会社では、給与振込の遅延で社員の信頼を損ない、立て直しに3ヶ月かかったケースもあった。

この記事では、経理担当が突然退職した際に何を・いつ・どの順序でやるべきかを整理する。引き継ぎがなかった場合の対処法も含めて解説する。

やること①:まず「いつ何が止まるか」の期限を書き出す

最初に現実を把握する。焦って求人サイトを開く前に、「いつ何が期限か」を1枚にまとめることが先だ。

経理業務の多くには法律や契約による期限がある。それを知らずに放置すると、税務上のペナルティや取引先との関係悪化に直結する。

主な法定期限と遅れた場合のリスク

業務 期限 遅れた場合のリスク
給与の支払い 就業規則で定めた給与日(毎月1回以上) 労働基準法第24条違反。30万円以下の罰金(同第120条)
源泉所得税の納付 給与支払い翌月10日(毎月納付の場合) 不納付加算税10%(税務署からの指摘前に自主申告なら5%)
健康保険・厚生年金保険料 当月分を翌月末日までに納付 延滞金が発生、保険料の強制徴収の可能性あり
法人税 決算後2ヶ月以内 延滞税+無申告加算税(最大15〜20%)が発生
消費税 課税事業者は決算後2ヶ月以内(原則) 延滞税+無申告加算税が発生
取引先への支払い 各取引先との契約に定めた日 取引関係の悪化、与信停止のリスク

「担当者が辞めたから」は、税務署にも取引先にも免責理由にならない。これだけ明確にしておく。

確認すべき内容は「次の給与日まで何日あるか」「源泉所得税の納付期限は何日か」「直近の取引先への支払い日はいつか」の3点だ。これが分かれば、優先順位がつけられる。

やること②:今日中にログイン情報・印鑑・通帳を手元に確保する

退職した担当者との連絡が取れなくなる前に、業務を再開するために必要なものを全て手元に集める。

確保すべきものの優先順位

優先度 確保すべきもの 確認ポイント
最高 インターネットバンキングのID・パスワード 分からない場合は銀行に問い合わせ(再設定に2〜3営業日かかる)
最高 法人印・銀行印・通帳(実物) 経理担当の引き出しにある場合は今日中に回収
会計ソフト(freee・マネーフォワード等)の管理者権限 アカウントが個人メールで登録されていないか確認
給与計算ソフトのアカウント情報 毎月の処理で必要
取引先一覧と振込先口座(取引先ごとの締め日と支払い方法含む) 請求書の処理に必要
顧問税理士の連絡先と直近の打ち合わせ予定 年次業務のサポートに必要

これを手元に集めたら、セキュリティ対応も同日中に行う。インターネットバンキングのパスワードを変更し、退職した担当者のメールアドレスが登録されているクラウドサービスのアクセス権限を整理する。

支援した会社のひとつで、退職後に「バンキングのパスワードが分からない」という状態になったことがあった。銀行への問い合わせと手続きに3営業日かかった。その間、取引先への振込が一切できなかった。「確認したけど分からなかった」では済まないので、今日中に動くことが重要だ。

やること③:今週中に月次締め切りカレンダーを作る

「何がいつ来るか」の一覧を作ることで、社内の誰かに仮の担当を割り振れるようになる。

月次業務スケジュールの例

時期 業務 期限の厳しさ
給与日(会社が定めた日) 給与振込 最高(法律義務)
毎月10日 源泉所得税の納付(毎月納付の会社) 高(不納付加算税が発生)
月末 社会保険料の納付(翌月末が基本) 高(延滞金が発生)
締め日(20日・月末等) 取引先への支払い 高(取引関係に影響)
月初3〜7日 前月の入出金データを会計ソフトへ入力 中(月次決算・税理士連携に影響)

このスケジュールを会社の実情に合わせて埋める作業は、集中すれば30分でできる。Googleスプレッドシートに「日付」「業務内容」「暫定担当者」の3列を作り、上記の項目を入力するだけだ。完璧な引き継ぎ書を作ろうとすると時間がかかるので、まず「いつ・何が・誰が」の一覧を作ることに絞る。

カレンダーがない状態で乗り切ろうとすると、必ず何かが抜ける。社会保険料の納付を1ヶ月見落とした会社を実際に見たが、延滞金は数千円でも「延滞の記録」が残るのが問題だ。銀行融資の審査に影響するケースがある。

カレンダーが完成したら、仮の担当者を社内で1名決める。「給与計算は社長が一時的に担当する」「税理士とのやりとりは○○さんが窓口になる」という役割分担だ。明確な期限を決めておくことも重要だ(「経理代行が始まる3月末まで」など)。

やること④:顧問税理士か経理代行に連絡する

急場をしのぐ最も確実な手段は外部サポートを使うことだ。

相談先の比較

相談先 対応開始まで 費用目安(月額) 向いているケース
顧問税理士(記帳代行追加) 1週間程度 既存の顧問料+月1〜3万円追加 既に顧問税理士がいる会社
経理代行(記帳のみ) 数日 月2万〜5万円 仕訳件数が月100件以下
経理代行(給与計算含む) 数日 月5万〜10万円 給与計算も止まっている
経理代行(フルアウトソーシング) 1〜2週間 月10万〜20万円 経理業務全般を委託したい
社会保険労務士 数日〜1週間 月2万〜3万円 社保・労務手続きが主な課題

顧問税理士がいる場合は、今日中に電話で状況を伝える。記帳代行を追加してもらえるか、緊急対応ができるかを確認する。顧問料の範囲内で対応してくれる事務所は多い。

顧問税理士がいない場合は、経理代行会社に問い合わせる。「緊急対応可」「引き継ぎなしでも対応可能」と明示しているサービスを選ぶのがポイントだ。

経理代行を選ぶ際に確認すべきことが3つある。

  • 引き継ぎ資料がない状態でも業務を開始できるか ——「まず現状の確認から入れます」と答えられる業者を選ぶ
  • 月次の報告書を提出してもらえるか ——数字が外部任せで見えない状態は後でトラブルになる
  • 最低契約期間と解約条件 ——採用後に切り替えることを見越して、3〜6ヶ月以内に解約できる条件を確認する

やること⑤:1ヶ月以内に次の経理体制を決める

緊急対応が落ち着いたら、恒久的な経理体制をどうするかを決める。「とりあえずなんとかなっている」状態を長続きさせると、また同じ問題が起きる。

外注・採用・兼務の比較

選択肢 月額コスト目安 業務開始まで メリット デメリット
経理代行(記帳のみ) 2万〜5万円 数日〜1週間 即座に業務が動く 社内に知識が蓄積されない
経理代行(フルアウトソーシング) 10万〜20万円 1〜2週間 経理全般を委託できる 長期的にはコストが高い
パート採用 8万〜15万円 1〜3ヶ月 社内に人材が育つ 採用に時間がかかる、教育コストが発生
正社員採用 25万〜35万円(社保込み) 2〜4ヶ月 長期的に安定 求人費(10〜50万円)+教育期間が必要
社内兼務 追加コストなし 即日 コストゼロ 専門外のミスが起きやすい、本来業務が圧迫される

採用にかかる時間は、求人掲載から内定まで平均2〜3ヶ月だ。人材紹介会社を使う場合は紹介手数料が年収の30〜35%程度かかる。従業員20人以下の会社で仕訳件数が月100件以下であれば、採用より経理代行のほうがトータルコストを抑えやすいケースが多い。

僕が顧問先によく話すのは「まず外注で安定させながら採用を検討する」という順序だ。採用だけに集中して業務を誰かに無理させている間に、給与遅延や納付漏れが起きるほうがリスクが高い。外注で安定させた後、採用に成功したら切り替える。この流れが最もリスクが少ない。

引き継ぎなしで辞めた場合の対処法

退職済みで連絡が取れない、あるいは引き継ぎなしで突然来なくなった場合は、以下の手順で業務を再構築する。

再構築の手順

ステップ やること 問い合わせ先
1 会計ソフトの管理者権限でデータを確認・バックアップ 各ソフトのサポート窓口
2 インターネットバンキングの入出金履歴を3ヶ月分ダウンロード 各銀行のバンキング画面
3 顧問税理士に現在の申告状況と未処理業務を確認 顧問税理士
4 社会保険料の納付状況を確認 年金事務所
5 源泉所得税の納付記録を確認、未納があれば税務署に相談 所轄の税務署

会計ソフトのデータが残っていれば、過去の仕訳記録から「何をどう処理してきたか」を再現できる。freeeやマネーフォワード クラウド会計は、管理者権限があればログイン履歴・仕訳データ・請求書履歴が全て確認できる。

通帳の入出金記録も重要な手がかりだ。毎月同じ金額が引き落とされているものは社会保険料や税金の可能性が高い。この記録を会計ソフトのデータと照合すれば、未処理の業務がどこにあるかを特定できる。

自力でゼロから確認するより、経理代行か税理士に状況を相談してから作業する方が時間の節約になる。「まず現状を把握してもらう」という相談の仕方で動いてもらえる業者は多い。

内部リンク参考:中小企業の経理を外注する手順|準備から導入まで完全ガイド

同じ事態を繰り返さないための体制を作る

今回の問題の根本は「経理業務が1人に集中していた」構造にある。3ヶ月以内に以下の対策を実施する。

1. クラウド会計ソフトに移行する

紙やExcelで管理していた場合は、freeeやマネーフォワード クラウド会計などのクラウド型に移行する。月額数千円から使えるサービスで、インターネットバンキングと連携すれば入出金データが自動で取り込まれる。担当者が変わっても記録が消えないのが最大のメリットだ。

実際に支援した会社でクラウド会計を導入していた会社は、経理担当が変わっても翌週には業務が回り始めた。逆にExcelで管理していた会社は、過去データの再現だけで1ヶ月かかった。

2. 業務マニュアルを作る

月次ルーティン(何日に何をするか)を1枚にまとめる。完璧なマニュアルを作ろうとすると完成しない。「月末に通帳と会計ソフトの残高を照合する」「10日に源泉税を納付する」という箇条書きで十分だ。

経理業務マニュアルの作り方については業務マニュアルの作り方|70点で完成させる実践的な方法にまとめている。

3. 一人経理の属人化リスクを分散する

記帳を外注に委託し、給与計算をクラウドで自動化し、社内で月1回業務を確認する担当者を決める。この3層構造があれば、1人が辞めても業務はすぐに止まらない。

経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きで具体的な手順を公開している。

まとめ:今日の1アクションから始める

経理担当が突然辞めた場合、最初の1週間の対応が全体を左右する。

今日中(Day 1)

  • 次の給与日・税務納付期限を確認して書き出す
  • ログイン情報・法人印・通帳を経理担当の手元から回収する
  • 顧問税理士か経理代行に状況を連絡する

今週中(Day 2〜7)

  • 月次締め切りカレンダーを作る(30分で完成させる)
  • 社内で仮の担当者を決める

1ヶ月以内(Day 8〜30)

  • 外注・採用・兼務の方針を決める
  • 経理代行との契約、または採用活動を開始する

3ヶ月以内(Day 31〜90)

  • クラウド会計ソフトへの移行
  • 経理マニュアルの整備
  • 属人化を解消する仕組みの構築

「外注で安定させながら採用を並行する」が、コストとスピードのバランスが最も良い。採用を急いで誰かに無理させる間に給与遅延や納付漏れが起きるほうが、ダメージが大きい。

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