事務・バックオフィス効率化

介護事業所の業務効率化|記録・シフト管理を楽にする方法

介護事業所の業務効率化を検討しているが、何から手をつければいいか分からないという相談を受けることがある。

「ICT化を進めましょう」と言われても、介護ソフト・シフトシステム・見守りロボット・補助金と情報が多すぎて、結局どれから動けばいいか止まってしまう。そのパターンが最も多い。

この記事では、介護事業所の業務の中で「時間あたりの削減インパクトが大きい」2領域に絞る。記録業務とシフト管理だ。この2つを改善するだけで、管理者とスタッフの負担はかなり変わる。費用目安、補助金の使い方、着手の順番を具体的に解説する。

介護業界の人手不足が「採用で解決できない」段階に入った理由

まず前提として、今の介護業界の状況を整理しておく。

厚生労働省の職業安定業務統計によると、介護サービス職の有効求人倍率は4倍前後で推移しており、他の業種と比べて突出した高水準が続いている。「求人を出せば応募が来る」という状態ではなく、「求人を出しても応募がない」が常態化している。

この状況で取れる手は大きく2つある。採用を続けるか、今いる人員で業務を回す仕組みを作るかだ。採用難が続いている状況では、後者に比重を置くのが現実的だ。

厚生労働省の調査では、ICTを導入した事業所の9割以上が「間接業務に費やす時間が削減された」と回答している。この数字が示すのは、「ICT化が有効かどうか」ではなく、「導入した事業所では成果が出ている」という事実だ。

問題は「何をどの順番で導入するか」であって、「導入すべきかどうか」という段階はすでに終わっている。

僕の感覚では、ICT化に踏み切れていない事業所の多くは「何が正解か分からないから動けない」ではなく、「担当者が決まっていないから誰も動かない」という状態だ。スタッフ全員の仕事が詰まっているため、改善の担当者を決める会議すら開けないというループに入っている。

人手不足で困る中小企業向け|採用なしで業務が回る4つの方法

介護事業所の業務効率化で優先すべき2つの領域

業務改善を全方位で同時進行すると、現場が混乱して続かない。どこから手をつけるかが最初の判断だ。

介護事業所の業務の中で、改善インパクトが大きく、コストが現実的で、導入時の現場抵抗が比較的小さいのが次の2つだ。

記録業務(ケア記録・連絡・請求)

紙での記録運用が続いている事業所では、スタッフ1人あたり1日1時間以上を記録業務に費やしているケースが珍しくない。記録そのものに加え、申し送り帳への転記、月末のレセプト集計用ファイリングなど、同じ情報を複数の書類に書き直す二重作業が積み重なっている。

スタッフが20人いる事業所なら、毎日の記録業務だけで全体20時間以上が消えていく計算になる。

シフト管理(希望収集・作成・変更対応)

介護施設のシフト管理は、他の業種より難易度が高い。夜勤・早出・遅出など多様なシフトパターン、資格要件に基づく配置基準、フルタイム・パート・夜勤専従など多様な雇用形態が絡む。手作業で整合させていると、管理者が月に10〜20時間をシフト作成だけに使っているケースがある。急なシフト変更対応が加わると、さらに時間が消える。

この2つに絞って改善するだけで、事業所全体の作業時間は大きく変わる。

記録業務の効率化:介護ソフト導入で何が変わるか

紙運用が続いている事業所が抱える3つの無駄

記録業務の無駄は構造的だ。次の3つが重なって、スタッフの時間を食い続けている。

転記の繰り返し: 個別のケア記録を書いて、申し送り帳にも記録して、月末に請求用の集計表にも転記する。同じ情報を何度も別の書式で書き直す。

書類の散在: ケア記録・ケアプラン・加算算定書類が別々のバインダーで管理されていると、参照のたびに探す時間がかかる。情報の一元化ができていない。

転記ミス・漏れのリスク: 紙での転記が増えるほど、記載ミスや転記漏れのリスクが高くなる。加算算定の根拠書類に不備があれば、報酬の返還リスクにもなる。

クラウド介護ソフトで何が変わるか

クラウド型の介護ソフトを導入すると、一度入力した記録が自動で関連書類に連携される。スタッフはタブレットやスマートフォンでその場に記録でき、転記という作業がなくなる。

主要な介護ソフトの費用比較:

サービス名 初期費用 月額費用の目安 特徴
カイポケ 別途見積 数万円〜(規模による) 業界シェアが高い。記録・計画書・請求が一体型。サポートが手厚い
ケア樹 0円 別途確認 初期費用ゼロで始めやすい。中小規模の事業所向け
トリケアトプス 別途確認 220円/人〜 利用者数に応じた従量課金。小規模事業所に向いている
ハーモニス 別途確認 要見積 記録・シフト・請求を統合管理。多機能
CareViewer 別途確認 要見積 AI活用機能あり。記録の自動化に対応

費用は事業所の規模(利用者数・スタッフ数)と使用する機能の範囲によって変わる。まず無料トライアルで操作感を確認してから判断するのが確実だ。

2024年介護報酬改定:ICT化で加算が取れる仕組みになった

2024年の介護報酬改定で「生産性向上推進体制加算」が新設された。ICTを活用した業務改善に取り組む事業所に対して、毎月一定の加算単位が認められる仕組みだ。施設系・居宅系ともに対象になっている。

加算区分に応じて利用者1名あたり月10単位(加算Ⅱ)または月100単位(加算Ⅰ)が算定できる。利用者数が多い施設では、この加算だけで月数万円の収入増になる場合がある。

ICT化は「コストがかかる投資」という面だけでなく、「要件を満たすと毎月の収入が増える取り組み」でもある。加算の算定要件を事前に確認した上でシステム選定を進めると、補助金申請にも通りやすくなる。

シフト管理の効率化:管理者が月10〜20時間を取り戻す方法

介護施設のシフト管理が特に複雑な3つの理由

シフト管理は、業種の中でも介護施設が特に難しい。理由は構造的だ。

  • 24時間365日の配置が必要: 日勤・夜勤・早出・遅出など多様なシフトパターンが存在し、どのパターンも毎日埋める必要がある。
  • 法的な配置基準がある: 夜勤帯の最低配置人数、資格者の比率など、法的な縛りがあり、これを満たさないシフトは組めない。
  • スタッフの条件が多様: フルタイム・パート・夜勤専従・育児時間制限・短時間勤務など、個人ごとの勤務条件が異なる。

これらを手作業で整合させながらシフトを作ると、管理者はシフト確定まで1〜2週間かかることもある。さらに体調不良による急な欠員対応が重なると、毎月のシフト作業が管理者の業務の大半を占めるようになる。

シフト管理ツールで変わること

シフト管理ツールを導入すると、次の流れになる。

  • スタッフが自分のスマートフォンから希望シフトを入力
  • 管理者がシステム上で調整・確定
  • 配置基準違反がある場合はシステムが自動検知して通知

連絡の往復が減り、シフト確定までの時間が大幅に短縮できる。管理者によっては月15〜20時間かかっていたシフト作業が、5〜7時間程度に収まるようになる事例がある。

介護事業所向けシフト管理ツールの比較:

サービス名 月額費用 特徴
ShiftMAX 30,000円〜 介護・医療に特化したシフト自動作成システム。大規模施設向け
おまかせシフトちゃん 3,000円〜 介護施設向けで小規模事業所にも対応。コストが低い
Shiftee 500円/人〜 汎用型だが介護での導入実績あり。スモールスタートに向く
WORKSHIFT 要見積 介護現場のルール設定に強い。配置基準の自動チェック機能あり

小規模な事業所(スタッフ10〜20人程度)であれば、「希望シフトの収集だけ専用アプリに移す」という最小限の変化から始めるだけでも、管理者の往復連絡が大幅に減る。いきなりシフト自動作成システムを入れなくても効果は出る。

補助金を使って導入コストを最大3/4削減する方法

ICT化に踏み出せない理由として最も多いのが初期費用の問題だ。ただ、介護分野には手が届きやすい補助制度が複数用意されている。

介護テクノロジー導入支援事業(最大補助率3/4)

都道府県が実施する補助制度で、介護ロボットやICT機器の導入費用を最大補助率3/4で支援する制度だ。令和8年度からは介護ロボットとICTをパッケージで申請する形に統合され、補助上限額は事業所規模に応じて400万円〜1,000万円となった。

介護ソフトやシフト管理ツールの導入費も、ICT経費として補助対象に含まれるケースが多い。対象条件は都道府県ごとに異なるため、事業所の所在地の都道府県の介護保険担当窓口に確認するのが確実だ。

デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)

中小企業・小規模事業者向けの補助制度で、2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変更された。介護事業所も中小企業として申請対象になる。補助率は導入費用の1/2以内で、通常枠の上限は150万円だ。

補助金申請は手続きが煩雑なため、商工会・商工会議所の窓口で申請サポートを受けられる場合がある。

2つの補助金を組み合わせる場合の注意点

介護テクノロジー導入支援事業とデジタル化・AI導入補助金は、同一の導入費に対して重複申請できないケースがある。どちらに申請するかは、補助率(介護テクノロジー支援事業の方が高い)と申請タイミングを確認した上で判断する。

補助金の可否・上限額・申請時期は毎年変わる。「令和8年度の内容」として確認した情報でも、次年度には条件が変わる可能性がある。必ず申請前に都道府県担当窓口の最新情報を確認してほしい。

補助金の活用状況を整理した表:

補助制度 補助率 上限額 窓口
介護テクノロジー導入支援事業 最大3/4 400万〜1,000万円(規模による) 都道府県の介護保険担当窓口
デジタル化・AI導入補助金2026 1/2以内 150万円(通常枠) IT導入支援事業者経由
生産性向上推進体制加算 月10〜100単位(毎月算定) 介護報酬として算定

業務効率化を「失敗で終わらせない」3つのステップ

ICT化に着手して途中で止まるパターンには共通点がある。全部を同時進行しようとして現場が疲弊する、もしくは高額なシステムを導入したが現場に定着しないか、その2パターンだ。

業務効率化の失敗事例については別の記事で詳しくまとめているが、ここでは介護事業所に特化した進め方を解説する。

業務効率化の失敗事例5選|中小企業がハマるパターンと対策

ステップ1: 今いちばん時間がかかっている業務を1つ特定する

管理者・スタッフそれぞれに「毎日の仕事の中でいちばん無駄に感じる作業は何か」を聞く。記録業務・シフト管理・申し送り・請求集計のうち、どれが最も重いかが事業所によって異なる。

決めないまま動き始めると、途中で優先順位が曖昧になって止まる。最初に「この問題だけを今月解決する」と決めることが重要だ。

ステップ2: まず小さい変化から始める

「一気にシステムを全部入れ替える」という発想を手放す。最初に試みるのは「一部の業務だけツールに移す」という小さい変化だ。

例えば、シフト管理であれば「希望シフトの収集だけ専用アプリに移す」ところから始める。記録業務であれば「特定のフロアだけタブレット記録に移行する」という限定的な試みから入る。小さく始めれば、現場への負担が小さく、定着しやすい。

ステップ3: 費用がかかるツールは補助金の対象確認後に選ぶ

10万円を超えるシステム導入を検討している場合は、補助金申請と並行して動く。先にシステムを購入してしまうと、補助金の申請条件を満たせなくなるケースがある(「交付決定前の発注は補助対象外」という条件が多い)。

補助金の申請要件を確認してからシステムを選ぶと、申請に通りやすい選択ができる。

現場で見た話:ICT化が進まない本当の理由

業務効率化に特化したエンジニアとして、複数の中小企業の現場に関わってきた。介護系の事業所に限らないが、ICT化が止まるパターンは決まっている。

「システムを入れること」が目的になってしまうケースだ。

あるケースでは、介護ソフトの導入を決めた後、スタッフへの説明が「このソフトを使ってください」だけだった。なぜ変えるのか、どう楽になるのかが伝わっていなかった。結果として、一部のスタッフが紙と並行して記録を続け、二重管理が発生した。

ICT化を進めるときに僕が一貫して言うのは、「ツールを変える前に、そのツールを使って何が楽になるかをスタッフに見せる」という手順だ。導入デモを現場のスタッフと一緒に見る、試験的に1フロアだけで1ヶ月使ってみる、そういう段階を踏むことで定着率が大きく変わる。

「ツールを入れたが誰も使わない」という状態は、ツール選定の失敗ではなく、展開の失敗だ。

大手メディアの介護ICT関連記事はツールの比較に集中していることが多い。比較は重要だが、それより「どう現場に定着させるか」の方が、実際の成果を左右する。

介護事業所のAI活用:次のフェーズで検討すること

記録業務とシフト管理の基盤が整ったら、次のフェーズとしてAI活用が視野に入る。

介護記録のAI支援として実用化が進んでいるのは「音声入力による記録作成」だ。スタッフが音声で記録を入力し、AIがテキスト化して記録システムに反映する仕組みで、タイピングが不得意なスタッフでも記録業務の時間が短縮できる。

ただし、AI活用は記録・シフトの基盤が整ってからだ。データが整備されていない段階でAIを入れても機能しない。

介護・クリニック向けのAI顧問サービスについては別の記事で詳しくまとめている。

人手不足で困るクリニック・介護向けAI顧問|月5万円で始める業務効率化の実例

まとめ:今月、何から動き始めるか

介護事業所の業務効率化は、「全業務を一度にICT化する」ことが目標ではない。

今いるスタッフで業務を持続可能にするために、最も時間がかかっている作業を1つ特定して、そこに集中することが先決だ。

記録業務であれば、クラウド介護ソフトの無料トライアルを1社申し込んで、管理者とベテランスタッフ2名で操作感を確認するところから始めるのが現実的だ。

シフト管理であれば、希望シフトの収集だけを専用アプリに移す試みを来月から始める。月額3,000円〜5,000円のレンジのツールで試せる。

補助金を使う場合は、発注前に都道府県の窓口に確認する。「交付決定前の発注は対象外」というルールは多くの補助金で共通している。

どこから動き始めるかが決まれば、あとは一歩ずつ進めるだけだ。

実際に改善が進んだ事業所に共通しているのは、「全部変える」ではなく「1つだけ変える」を繰り返しているという点だ。僕が関わった現場でも、最初のステップを小さく設定した方が、半年後の定着率は明らかに高かった。

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