事務・バックオフィス効率化

人手不足で困る中小企業向け|採用なしで業務が回る4つの方法

2025年、人手不足を原因とする倒産が過去最多の397件を記録した(東京商工リサーチ調べ)。前年比35.9%増で、4年連続の増加だ。

ただ、この397件の大半が「採用できなかった」わけではない。内訳を見ると、「従業員退職」が110件(前年比54.9%増)、「人件費高騰」が152件(前年比43.3%増)となっている。

採用しても定着しない。賃上げしたくても原資がない。人を増やしても問題が解決しない。そういう状況で追い詰められた会社がこの数字の背景にある。

業務効率化を支援するエンジニアとして、僕はこうした状況に陥った中小企業を何社も見てきた。その経験から言えることは、「採用に注力すれば人手不足が解消する」という前提自体を疑った方がいい、ということだ。本記事では、採用以外で業務を回す4つのアプローチを具体的に解説する。

採用が「人手不足対策」として機能しにくい理由

採用で対処しようとすると、コスト・時間・定着リスクという三重の問題が重なる。

即効性がない

求人を出してから採用が決まるまで平均3〜6ヶ月。入社後に業務を覚えて実戦力になるまでさらに3〜6ヶ月はかかる。業務が今まさに回らない状況で、半年から1年待てる会社は少ない。

採用活動自体にも社内工数がかかる。求人票の作成、応募者対応、面接設定と実施、条件交渉。これら全てを現場担当者がこなすと、採用活動そのものが業務逼迫の原因になることもある。

採用コストが思ったより大きい

採用チャネルごとのコスト感は以下のとおりだ。

採用チャネル コスト目安 特徴
Indeed(求人掲載) 1名採用で数万〜15万円程度 掲載費用は成果報酬型も有
転職エージェント 年収の30〜35% 月給25万円なら手数料90〜100万円
リファラル採用 紹介報酬1〜20万円程度 コスト最安だが母数が限られる
ハローワーク 掲載無料 採用品質のコントロールが難しい

転職エージェント経由で採用した場合、月給25万円(年収300万円)の人材でも採用手数料だけで90〜100万円前後になる。その後3年以内に辞めた場合、同じコストが再発生する。

定着しない

厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によれば、従業員30〜99人規模の事業所における大卒3年以内の離職率は42.4%に達する。採用費用をかけて入れた人材の4割強が3年以内に退職する計算だ。

採用に動く前に、なぜ人が辞めているのかを整理した方がいい。残業過多・業務の属人化・マニュアルなし・評価基準が曖昧といった問題を放置したまま採用してもリピートするだけだ。

問題の根本:業務が「人の手前提」で設計されている

人手不足が慢性化している中小企業に共通しているのは、業務の設計が「人が動けば回る」前提になっていることだ。

具体的には:

  • 毎月同じ集計を担当者が手入力でやっている
  • 特定の1人しかやり方を知らない業務がある
  • 「念のため」の確認・承認フローが多重になっている
  • 紙やExcelで管理しているため、更新・共有に毎回コストがかかる

業務効率化の支援をしていると、「この1人が辞めたら、この仕事が完全に止まる」という状態を抱えた会社に頻繁に当たる。経理担当が1人で請求書200枚を毎月処理しているケース、勤怠集計が担当者のExcelマクロに丸ごと依存しているケース。人を増やす前に、この構造を変えないと問題は解決しない。

採用しても、入ってきた人がその非効率をそのまま引き継ぐ。人が増えても業務量も増える。これが「採用しても楽にならない」会社の実態だ。

採用なしで業務を回す4つのアプローチ

アプローチ1:不要な業務を削る(コストゼロ)

最初に取り組むべきで、費用もかからないのが「業務そのものを減らすこと」だ。

業務を棚卸しすると、「誰のために、何のためにやっているか分からない作業」が必ず出てくる。

よくある例:

  • 週次で集計しているが、月次で十分な数値レポート
  • 数段階の承認フローがあるが、実態は1人の判断で完結する書類処理
  • 毎回作り直しているが誰も読んでいない会議資料
  • メールで送っているが、共有フォルダで十分な書類のやり取り
  • 取引先への「確認の連絡」が習慣化しているが、相手も必要だと思っていない

担当者に「この1週間にやった業務を全部書き出してもらう」だけで、削れる作業が見えてくることが多い。

この棚卸しの際に有効なのは、業務の「頻度×時間×誰がやるか」を記録することだ。週1回・30分・誰でもできる作業と、月1回・3時間・担当者でないとできない作業では、優先度が全く異なる。後者から手をつける方が効果が大きい。

追加コストゼロで着手でき、担当者の実感として業務が減りやすい。即効性も最も高い。

アプローチ2:定型作業をツールで自動化する

毎月繰り返す定型作業は、ツールを入れると工数が大幅に削れる。

業務カテゴリ 代表的なツール 削減できる工数の目安
請求書の発行・受取 freee、マネーフォワード クラウド 発行・確認作業が半分以下になることが多い
給与計算 マネーフォワード クラウド給与、freee人事労務 手計算から月1〜2時間以内に短縮できることが多い
勤怠管理 KING OF TIME、ジョブカン勤怠管理 集計・申請のやり取りがほぼゼロになる
会議の議事録 Notta、Otter.ai 60分会議の文字起こし・要約が10分以内に完成
問い合わせ一次対応 チャットプラス、sinclo 定型的な質問への初期対応を自動化できる
受発注管理 キャムマックス、Orderkeeper 電話・FAXの手入力をなくせる
契約書の締結 クラウドサイン、freeeサイン 印刷・郵送コストが不要になる

注意点は、既存の会計ソフトや他システムとの連携を事前に確認することだ。ツールを入れても「転記作業だけが残る」パターンは多い。たとえば、勤怠システムから給与計算ソフトへのデータ連携ができない場合、集計結果を手入力する作業が残ってしまう。連携が取れるかどうかを確認してから導入する。

もう一つの落とし穴は、「ツールを入れたことで安心してしまい、業務フローの見直しを怠ること」だ。ツールはあくまで道具。業務の流れ自体を整理した上で導入しないと、電子化されただけで効率は変わらないという結果になりやすい。

僕の実例を一つ出すと、ジムフリの経理はfreeeを使っており、月次の記帳・帳票確認・仕訳チェックを含めた経理稼働が月2〜3時間に収まっている。以前は担当者が半日かけていた作業だが、freee導入と同時に業務フローを整理したことで、ここまで圧縮できた。

アプローチ3:外注で人手を補う

ツールで削れない作業は、外注で補う。採用と違い、雇用契約を結ばずに業務だけを依頼できる。繁閑に合わせた調整もしやすく、育成コストもかからない。

バックオフィス系の外注先と費用目安

外注の種類 対象業務 費用目安/月
オンラインアシスタント 事務全般・データ入力・資料作成 月20時間で3〜5万円
経理代行 記帳・請求書処理・月次帳票 2〜8万円
社労士事務所 給与計算・社会保険手続き・労務相談 1〜5万円(規模による)
コールセンター代行 受電・一次対応・予約管理 3〜10万円
データ入力代行 名刺・帳票・注文書のデジタル化 業務量に応じて変動

採用した正社員の人件費は、社会保険料・賞与・採用コストを含めると月30〜40万円程度かかる。オンラインアシスタントを月20時間使っても5万円前後で収まるケースが多く、コスト比較では外注が明らかに安い。

注意したいのは、外注する業務を選ぶ基準だ。「誰でもできる業務」「作業手順が明文化できる業務」「アウトプット品質が確認しやすい業務」の3つが揃った業務から外注するのが原則だ。判断を伴う業務、機密情報を多く扱う業務、突発対応が多い業務は、最初から外注に出すと管理コストが増える。

外注先の詳しい選び方や費用感は、バックオフィス代行費用|月3万円〜の外注で失敗しない選び方【2026年版】でまとめている。オンラインアシスタントを比較したい場合は、オンラインアシスタントサービス比較|中小企業に合う依頼先の選び方が参考になる。

アプローチ4:多能工化で1人の守備範囲を広げる

今いるスタッフが複数の業務を担えるようになると、特定の担当者が不在でも業務が止まりにくくなる。人を増やさずに「実質的な処理能力」を上げる考え方だ。

多能工化が効果を出しやすいのは、業務手順がシンプルで習得時間が短い作業だ。

  • 経理の入力補助(請求書の受け取りと仕訳登録)
  • 受発注処理のデータ確認
  • 基本的な問い合わせへの一次対応(FAQに沿って回答するもの)

これらは専任担当者でなくても、マニュアルがあれば動ける。

前提になるのは業務マニュアルの整備だ。「誰でも動ける仕組み」をつくってから多能工化を進めることが条件だ。マニュアルがない状態で進めると、教える側の工数のほうが重くなり、担当者が疲弊する。

マニュアルは完璧を目指さなくていい。「この業務を1人でやれるようになるために必要なこと」だけをA4一枚にまとめるレベルから始める。完璧なマニュアルを作ろうとして作業が止まるケースが多いが、現場で使える60点のマニュアルの方が100点のマニュアルの下書きより価値がある。

部門別の進め方

4つのアプローチをどこに適用するかは、自社のどの部門が詰まっているかによる。

バックオフィスが回らない場合

まずツール(クラウド会計ソフト、勤怠管理ツール、電子契約サービス)を入れて工数を削る。次に、それでも足りない部分をオンラインアシスタントや経理代行で補う。採用よりも早く動けて、コストも安く済むケースが多い。

バックオフィスの人手不足対策をより具体的に進める手順については、バックオフィスの人手不足を「採用しないで」解決する3つの方法で詳しくまとめた。

営業・顧客対応が回らない場合

営業補佐(データ入力、資料整形、メール対応)はオンラインアシスタントに切り出しやすい。問い合わせ対応は、よくある質問をまとめた上でチャットボットを入れ、定型回答を自動化することで対応件数を減らせる。

ここで気をつけたいのは、「顧客対応の品質を下げずに自動化する」ことだ。チャットボットで全部解決しようとすると、複雑な問い合わせへの対応が不十分になってクレームが増える。定型の質問(営業時間・料金・アクセス等)だけを自動化し、判断を要する問い合わせは人が対応する設計にする。

現場業務(製造・飲食・小売等)が回らない場合

現場の手作業そのものは外注しにくいことが多い。ただ、現場を支える管理業務(発注、在庫管理、シフト作成)はツール化・外注の余地がある。在庫管理システムやシフト自動作成ツールを入れることで、管理スタッフが少なくても現場が回りやすくなる。

飲食業であれば予約管理システム(TableCheck、ホットペッパー連携等)、運送業であれば配車・積載管理ツール(ハコベル等)を入れることで、事務的な管理作業を圧縮できる。

「外注すれば解決」という思い込みが危ない理由

外注やツールは、業務の構造が整っていないと効果が半減する。

よくある失敗パターンが2つある。

失敗1: 業務の仕分けをせずに外注する

何を任せるかが曖昧なまま外注すると、受け側も動けない。「事務全般をお願いしたい」という依頼の仕方では、実際に何を任せるかの確認やり取りに時間がかかり、稼働が始まるまで時間がかかる。外注前に「どの業務を、どの頻度で、どのアウトプット形式で依頼するか」を整理しておく。

失敗2: ツールだけ入れて業務フローを変えない

勤怠管理ツールを入れたのに、「申請内容を紙で印刷して別のファイルに転記する」というフローが残っているケースがある。ツールを入れた後、業務フローそのものを見直さないと期待した削減効果が出ない。

業務効率化を外注したい、あるいは何から手をつければいいか分からないという場合は、業務効率化の相談はどこにすればいい?中小企業向けの相談先まとめを参考にしてほしい。

人手不足が解消しない会社に共通する「業務設計の問題」

業務効率化の支援をしていて気づくのは、人手不足が慢性化している会社には業務設計上の共通点があることだ。

業務が「暗黙知」になっている

「Aさんしかできない」「Bさんがいないと分からない」という業務が複数存在する状態だ。これは属人化と呼ばれ、人手不足を悪化させる直接の原因になる。担当者が休む・辞めると途端に業務が止まる。

属人化した業務の解消手順:

  • 担当者に業務の全工程を書き出してもらう
  • 各工程で「なぜこの手順か」を確認する
  • 他者でも再現できる形式(動画・テキスト・フロー図)でマニュアル化する
  • 別の人間が実際にやってみて、詰まった部分を追記する

最初から完璧なマニュアルを作ろうとしない。「初めてでも1時間で動ける状態になるか」を基準にする。

判断の権限が集中している

承認者が1人の経営者だけで、細かい事項も全て経営者に判断が回ってくる会社は業務が詰まりやすい。従業員が自律的に動ける判断基準(金額上限、対応可能な範囲)を明示するだけで、経営者への確認工数が大幅に減る。

「頑張ること」で乗り切ってきた文化

残業・休日出勤・担当者の気力で業務を回してきた会社は、問題の深刻さが表面化しにくい。「なんとかなってきた」という実績が、業務設計の改善を後回しにする原因になる。ただ、担当者の退職というきっかけで一気に顕在化する。

省力化補助金:設備導入のコストを国が一部負担する

ツール導入や設備更新の費用が気になる場合、中小企業省力化投資補助金(省力化補助金)を活用できるケースがある。

中小企業省力化投資補助金は、人手不足解消を目的として設備・ツールの購入費用を補助する制度で、2024年度に開始した。補助率は1/2〜2/3で、従業員規模に応じて上限額が変わる。対象となる製品は「カタログ型」と「一般型」に分かれており、自動倉庫システム、受発注管理ツール、勤怠管理システム等が含まれる。

申請に必要な要件や補助額は公募回ごとに変更されることがあるため、最新の公募スケジュールと要件は中小企業省力化投資補助金事務局(公式)で確認してほしい。申請代行を外部に依頼することもできるが、まず公式サイトで自社が対象になるか確認するのが先決だ。

優先順位の決め方と実行ステップ

どこから手をつければいいか迷う場合は、以下の順番で進めると動きやすい。

ステップ1:業務の棚卸しをする

担当者に1週間の業務を全て書き出してもらう。作業名・所要時間・頻度・担当者の属人度(自分しかできないか)を一覧にする。

ステップ2:削れる業務を仕分ける

「この作業は本当に必要か」を1つずつ確認する。頻度が低く、誰も結果を使っていないものは廃止する。「以前からやっているから」という理由だけで続けている作業は特に疑う。

ステップ3:毎月繰り返す定型作業にツールを入れる

経理・勤怠・給与計算の3つは、ツールを入れるだけで工数が半分以下になるケースが多い。ここから着手すると、削減効果が実感しやすく、社内の抵抗感も少ない。

ステップ4:残った業務で社外に出せるものを外注する

「自社でやらなければいけない理由がない業務」を外注に移す。採用ではなく「業務単位」で考える。

ステップ5:業務フローを記録しておく

取り組んだ後の業務フローを文書化しておく。担当者が変わってもフローが維持されるための仕組みを作る。

大手メディアが書かない本音

「人手不足には採用強化」という記事が多い。転職エージェントやジョブ型雇用の紹介が前面に出るのは、そういったメディアが採用側のビジネスモデルで動いているからだ。

僕の意見は、中小企業の多くは採用よりも先にやることがある、というものだ。

従業員10〜30人規模の会社であれば、採用してもすぐに業務過多が解消しないことが多い。なぜなら、業務フローが非効率なまま人を増やしても、非効率な処理をこなす人が増えるだけだからだ。

業務を削る→ツールで自動化する→外注できる部分を移す、という順番で進めると、採用なしで業務が回るラインが見えてくる。そのラインが見えてから、どこを採用で補うかを判断する方が、採用後の定着率も上がる。

業務効率化の相談先や具体的な進め方については、業務効率化の外注|何を頼めるか・費用と選び方も参考にしてほしい。

まとめ

人手不足に採用で対処しようとすると、コスト・時間・定着リスクの三重の問題がある。解決策の本質は「業務の構造を変えること」だ。

採用なしで業務を回す4つのアプローチをまとめると:

アプローチ 効果が出やすいケース コスト目安 即効性
業務を削る 不要作業が多い / フローが形骸化している ゼロ 高い
ツールで自動化 定型・繰り返しが多い業務 月数千円〜2万円 中(導入後すぐ)
外注で補う やるべきだが担当者がいない業務 月3〜8万円 高い
多能工化 属人化した業務がある マニュアル作成工数のみ 低〜中

どれか1つを今週の行動に入れるだけで、状況が変わり始める。まず業務の棚卸しを、担当者に1週間の作業を書き出してもらうところから始めてほしい。

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