事務・バックオフィス効率化

バックオフィスの人手不足を「採用しないで」解決する3つの方法

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

「バックオフィスが回らないので、誰か採用しようと思っています」

顧問先の経営者からこういう相談を受けるたびに、僕は一度立ち止まって考えてほしいと伝えている。採用で問題を解決しようとする前に、本当に採用が正解なのかを確認する必要があるからだ。

結論から言うと、バックオフィスの人手不足は採用で解決しようとすると、コスト・時間・定着リスクの3つが積み重なって、むしろ問題が大きくなることが多い。

僕自身、今の会社を立ち上げてから事務担当を一人も採用せずに運営してきた。月3.5万円(クラウドツール代+記帳代行の外注費込み)で全てのバックオフィス業務を回している。採用なしでも回せる仕組みは、設計次第でどんな会社でも作れる。

この記事では、採用以外の3つの解決方法と、その組み合わせ方を具体的に解説する。

なぜバックオフィスの人手不足は「採用では解決しない」のか

採用が機能しにくい理由を3つ整理する。採用を全否定しているわけではないが、「採用だけが手段」という思い込みを外してほしい。

採用から即戦力になるまで最低3〜6ヶ月かかる

求人を出して、面接して、内定を出して、入社する。このプロセスだけで平均3〜6ヶ月かかる。

さらに入社後に実務を覚えるまで1〜3ヶ月かかる。つまり、「今すぐ困っている」状況に対して採用が機能し始めるのは、早くて半年後だ。その間、経営者か既存スタッフが穴を埋め続けることになる。

採用コストが見えないところまで膨らむ

求人広告(IndeedやタウンワークなどのWebサービス)で採用する場合、1人あたり数十万円かかる。転職エージェントを使えば、採用した人の年収の30〜35%が紹介手数料になる。月給25万円の人材を採用した場合、手数料だけで90〜100万円前後になる計算だ。

そこに社会保険料(会社負担分は給与の約15%)、入社時のPCや備品の費用、教育にかけた時間コストが加わる。採用1名あたりの「見えないコスト」は想定の2〜3倍になることが珍しくない。

中小企業は採用した人が定着しにくい

中小企業で事務職として採用した人材が、3年以内に退職するケースは決して少なくない。離職するたびに再度採用コストが発生し、引き継ぎ業務も発生する。「採用→育成→退職→再採用」のループが続いている会社を、顧問先で何社も見てきた。

採用で解決しようとすると、この3つが重なって問題を長期化させる。特に「今すぐ困っている」状況であれば、採用以外の手段を先に検討した方が早い。

比較項目 採用 外注(オンラインアシスタント) ツール自動化
即効性 3〜6ヶ月後 1〜4週間で稼働開始 設定後すぐ
月額コスト 月20万円以上(給与+社保) 月3万〜10万円 月数千円〜1万円
リスク 退職・育成コスト 担当者変更リスク ツール停止リスク(低い)
定型作業への対応 人によって品質が変わる 業者によって安定 毎回同じ品質
柔軟性 解約が難しい 月単位で調整可能 月単位で調整可能

この表を見ると、バックオフィスの定型業務に対して採用が一番コスト・時間・リスクが高い選択肢だと分かる。

方法1: ツール自動化で定型業務を削減する

バックオフィスで発生する業務の多くは「毎月同じパターン」の繰り返しだ。請求書の発行、勤怠集計、給与計算、経費精算——これらはクラウドツールで自動化できる業務の典型例だ。

どの業務が自動化できるのか

業務 対応ツール 月額費用の目安 削減効果の目安
仕訳・記帳の自動化 freee会計 / マネーフォワードクラウド会計 月3,000〜5,000円(プランにより異なる) 月20〜40時間削減
給与計算の自動化 freee人事労務 / マネーフォワードクラウド給与 月5,000〜8,000円(従業員数による) 月1〜2時間に短縮
勤怠管理の自動化 KING OF TIME / ジョブカン勤怠管理 月200〜330円/人(人数課金) 集計・申請のやり取りほぼゼロ
経費精算の自動化 マネーフォワードクラウド経費 月500円/ユーザー〜 領収書の手入力ゼロ
請求書の発行・管理 freee請求書 / マネーフォワードクラウド請求書 月1,000円〜(一部無料プランあり) 発行・保管の工数を半分以下に

この5業務をまとめてカバーするなら、月1.5〜2.5万円程度(プランや従業員数による)で対応できる。僕自身が実際に運用しているのはこの組み合わせで、記帳代行(外注)を含めて月3.5万円以下に収まっている。

ツール導入の順番が成功の分かれ目

よくある失敗が「全部一気に導入しようとすること」だ。僕も最初にそれをやってしまい、ツール間の連携設定でエラーが出た時にどこが原因か分からなくなり、全部やり直したことがある。

正解は「1つ入れて、動作確認してから次を入れる」順序だ。

推奨順序:

  • 会計ソフトの自動仕訳機能を有効化する(まず最初の1ヶ月)
  • 既に使っているfreeeやマネーフォワードにログインして、銀行口座を連携するだけ
  • 効果がすぐ出るため、次のステップへのモチベーションが生まれる
  • 給与計算を自動化する(2ヶ月目)
  • 毎月同じ計算なので、ツール化の効果がダイレクトに見える
  • 従業員からの「ちゃんと計算されてるのか」という不安が少なく定着しやすい
  • 経費精算をデジタル化する(3ヶ月目)
  • 社員向けのルール変更が必要なため、社内周知に1〜2週間かける
  • スマホで領収書を撮影するだけなので、導入後の定着率は高い
  • 勤怠管理を自動化する(4ヶ月目以降)
  • 最も影響範囲が広い(全社員の習慣変更が必要)
  • 他の3つが安定してから入れる方が混乱しにくい

ツール導入でよく起きる「8割が効果を感じない」問題

エイトレッドが実施したバックオフィスのデジタル化に関する実態調査によると、システム化を行っても8割以上のバックオフィス担当者が「業務負担が軽減されていない」と回答しているという。最大の原因は「ツール間の連携ができていない」(60.8%)とされている。

ツール単体では効果が薄く、連携してはじめて効果が出る。freeeを使うなら、会計・給与・経費精算・請求書を同じfreeeのシリーズで揃えるのが最も連携しやすい。マネーフォワードも同様に、シリーズ内での連携が最初から設定されている。

事前に「自社が使っているツール同士が連携できるか」を確認してから導入することが重要だ。中小企業の業務効率化ツール10選|目的別の選び方ガイドに、連携の考え方をまとめているので参考にしてほしい。

方法2: 業務外注で「任せていい業務」を切り出す

ツール化だけでカバーできない業務(判断が必要な業務、非定型的な業務)は、外注で引き取ってもらう方法がある。

オンラインアシスタント(リモートで事務を請け負うサービス)は、雇用契約を結ばずに業務だけを依頼できる形態だ。採用・育成・退職リスクを負わずに、今月から業務を任せられる点が最大の特徴だ。

外注の月額相場(従業員10名規模の会社の場合)

外注する業務 外注形態 月額の目安 削減できる工数の目安
記帳代行(仕訳入力・管理) 記帳代行専門業者 月1〜3万円 月20〜40時間
給与計算代行 社労士 or 給与計算代行業者 月8,000〜2万円 月4〜8時間
労務手続き(社保・雇用保険の届出) 社労士 月1〜2万円(基本料金) 月2〜5時間
総務業務(書類管理・郵便・備品管理) オンラインアシスタント 月2〜5万円 月5〜15時間
採用事務(書類選考・日程調整) オンラインアシスタント 月1〜3万円 月10〜20時間

正社員を1名雇うと、給与・社会保険料込みで月20万円以上かかる。一方、「記帳代行+給与計算」をセットで外注すると月2〜5万円で済む。コストで見ると4〜10倍の差がある。

外注する業務・しない業務の判断軸

全部外注すればいいわけではない。「何を外注して、何を自社で判断するか」を決めることが重要だ。

判断軸 外注に向いている 外注に向かない(自社対応)
定型性 毎月同じパターンで発生する 毎回内容が変わる
経営判断の有無 事務処理だけで完結する 経営判断が必要
機密性 財務数字のみ(専門業者なら問題なし) 顧客情報・戦略
頻度 月1回以上の定期業務 スポット対応・突発対応

この軸で仕分けると、経理・給与・労務の定型部分は外注できると判断できることが多い。

外注業者を選ぶ3つのチェックポイント

顧問先で外注業者の選定をアドバイスしてきた経験から、失敗しやすいポイントを整理する。

1. 担当者が固定されているか

担当者が毎月変わると、そのたびに「うちの会社のルール」を説明し直すことになる。そのコストが積み重なって、外注の効果が薄れる。担当者固定制を明記しているサービスを選ぶことが重要だ。

2. 自社が使っているツール(freee・マネーフォワード等)に対応しているか

記帳代行業者の中には特定の会計ソフトにしか対応していないところがある。自社のツールに対応しているかを事前に確認する。

3. 情報セキュリティの認証があるか

財務情報・個人情報を扱うため、プライバシーマーク取得やISO/IEC 27001認証があるサービスを選ぶ方が安心だ。

バックオフィスを丸ごと外注したい場合は、バックオフィスを全部外注できる?|費用5万〜15万円の依頼先3選に詳しくまとめている。

方法3: 業務の仕分けをして不要な作業を削る

3つ目は採用でも外注でもなく、業務そのものを削るアプローチだ。

バックオフィスの業務を洗い出すと、「誰かがずっとやっているが、実は必要ない作業」が一定数出てくることが多い。ツールを入れる前に、この仕分けをやると工数を2〜3割削減できるケースがある。

削れることが多い業務の代表例

顧問先のバックオフィス業務を棚卸しした時に、よく出てくる「実は不要な業務」を挙げる。

  • 毎週集計しているが、月次でも十分な数値レポート(週次集計にかかる工数を月次に変えるだけで削減)
  • 承認フローが4段階あるが、実態は1段階で判断が完結する書類(承認者を1名に絞る)
  • 「念のため」保存しているが法的保存義務のない書類のコピー管理(保存ルールの明文化で廃止)
  • 社内の誰も確認していないExcelの集計ファイル(作成者に「これ誰が見てますか?」と聞くと「分からない」と返ってくることが多い)
  • 月次でレポートを作っているが、経営判断に使われていない資料

業務の棚卸しを1週間でやる方法

「業務の仕分けをしたい」と思っても、どこから手をつけるか分からないことが多い。最も効率的なのは、「今週1週間にやった業務を全部書き出してもらう」ことだ。

担当者に以下の表を渡して、1週間記録してもらうだけでいい。

業務名 かかった時間 頻度 誰が判断するか 法的義務の有無
請求書の受け取り 10分/日 毎日 なし(定型) あり
社内向け週次レポート作成 3時間/週 毎週 担当者本人 なし
役員への集計ファイル送付 30分/月 月1回 なし(定型) なし

このリストを見ると、削れる業務・外注できる業務・ツール化できる業務の3つに自然に仕分けられる。

仕分けで実際に削減できた顧問先の事例

従業員15名の製造系中小企業で業務の棚卸しをやったところ、担当者の月間業務の中から以下が「実は不要だった」と判明した。

  • 毎週の数値集計レポート(月次に変更):月8時間削減
  • 複数部署へのファクス送信(メールに変更):月5時間削減
  • 手書きの作業日報のExcel転記(タブレット直接入力に変更):月10時間削減

この3つだけで月23時間削減できた。ツール導入も外注もゼロで、仕分けと運用ルール変更だけでできた改善だ。

業務の仕分けは「コストをかけない業務削減」として最もリターンが大きい入口になる。まずここから着手してみてほしい。事務作業の自動化と業務削減の考え方に関連する考え方をまとめている。

3つの方法を組み合わせた実装ロードマップ

3つの方法は単独で使うより、順番に組み合わせる方が効果が高い。

推奨する実装の順序

Phase 1(1ヶ月目): まず業務の仕分けから始める

棚卸しして「不要な業務」を削る。コストゼロでできる改善から入ることで、次のツール化・外注化の判断基準が明確になる。「どの業務に何時間かかっているか」が分かると、ツール化の投資対効果が計算できる。

Phase 2(2〜3ヶ月目): ツール化で定型業務を自動化する

仕分けして「定型で繰り返す業務」と判断したものをクラウドツールで自動化する。まずは会計ソフトの自動仕訳から始め、給与計算・経費精算と順番に入れていく。

この段階で「どれくらい楽になったか」を記録しておくと、次の外注化の費用対効果を説明しやすくなる。

Phase 3(4ヶ月目以降): 残った業務を外注する

ツール化しても残る「判断が必要な定型業務」を外注する。ツール化してから外注すると、外注業者の負担が減り、依頼できる業務量あたりのコストが下がる。

フェーズ 期間 やること コストの目安 削減効果の目安
Phase 1 1ヶ月目 業務棚卸し・仕分け・不要業務削除 0円 月10〜20時間削減
Phase 2 2〜3ヶ月目 ツール化(会計・給与・経費精算) 月1〜1.5万円 月15〜30時間削減
Phase 3 4ヶ月目以降 残業務の外注化 月2〜5万円 月20〜40時間削減
合計 4ヶ月後の状態 月3〜6.5万円 月45〜90時間削減

正社員を1名採用すれば月20万円以上かかる。この3フェーズを実装すると月3〜6.5万円で同等以上の業務量をカバーできることが多い。

状況別の着手先

「どこから始めるか」を判断するための目安を整理する。

「今すぐ誰かに作業を代わってほしい」→ まず外注(Phase 3から入る)

担当者が退職して穴が空いている、今月の請求書がまだ出ていない、という緊急の場合は外注から入る。ツール化・仕分けを待っている時間はない。

「毎月同じ作業に時間がかかっている」→ ツール化(Phase 2から入る)

業務は回っているが特定の作業に毎月時間が取られている場合は、ツール化の投資回収が早い。月数千円〜1万円で月20時間以上削減できる業務が多い。

「担当者に余裕がないが、理由が分からない」→ 業務の棚卸しから(Phase 1から入る)

何がボトルネックか分からない場合は仕分けから始める。削れる業務が見つかれば、外注・ツール化のどちらに投資すべきかも自然に見えてくる。

外注・ツール・採用の3択の考え方は外注・ツール・採用、どれが正解?バックオフィスの人手不足を解消する3つの方法にも詳しくまとめているので、合わせて参考にしてほしい。

よくある質問と回答

「外注とツール、どちらを先にやるべきですか?」

ツール化を先にやる方がいい。理由は2つだ。

  • ツール化することで「どの業務が定型的か」が明確になる
  • ツール化してから外注すると、外注業者の作業効率が上がり、費用が下がる

ツール化せずに外注すると、「紙ベースの業務をそのまま外注する」ことになり、外注費が高くつく。月3〜4万円かかる業務が、ツール化してから外注すると月1〜2万円になることはよくある。

「バックオフィスに経験者がいないとツール導入は難しいですか?」

難しくはない。現在のクラウドツールは、IT知識なしで操作できるように設計されている。freeeもマネーフォワードも、画面の説明に従って操作すれば、銀行口座の連携から自動仕訳の設定まで1〜2時間で完了する。

難しいのは「ルール決め」だ。「この請求書はどの費用科目に仕訳するか」という判断基準を決めることには時間がかかる。これは人が決める作業で、ツールではできない。ここだけ税理士に相談するのが最も効率的だ。

「外注した業務の品質管理はどうするのですか?」

月1回の確認で十分なケースが多い。経理代行であれば、月末に出てきた試算表を確認して「おかしな仕訳がないか」をチェックするだけでいい。

問題が起きた時のために、最初の3ヶ月は週1回のペースで確認し、問題がなければ月1回に切り替える運用が安全だ。

「採用してしまった場合はどうすればいいですか?」

採用した人の業務をツール化・外注化することで、担当者の業務量を減らし、本来やるべき「判断が必要な業務」に集中できる体制を作れる。採用した人に「ツール化・外注化の推進役」をやってもらう形にすると、工数削減のスピードが上がることが多い。

まとめ

バックオフィスの人手不足を採用で解決しようとすると、月20万円以上のコスト・3〜6ヶ月の時間・退職リスクの3つが積み重なる。

採用以外の3つの方法をまとめる。

  • ツール自動化: 月1〜1.5万円で定型業務の大部分を自動化できる。freee・マネーフォワードシリーズで揃えると連携設定が楽。
  • 業務外注: 月3〜10万円で「採用せずに人を補う」効果が出る。記帳代行+給与計算代行の組み合わせが最初のステップとして取り組みやすい。
  • 業務の仕分け: コストゼロで着手できる。担当者に1週間の業務を書き出してもらうだけで、削れる業務が必ず出てくる。

最初の行動として一番シンプルなのは、「今週の業務を書き出してもらう」ことだ。そのリストを見ながら、外注・ツール・削除の3択で仕分けていく。それだけで方向性が見えてくる。

採用を検討する前に、一度この3つを試してほしい。

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