事務作業を手伝ってもらうためにパートを採用したい——そう考える経営者は多い。求人を出して面接して採用する、イメージしやすい手順だから自然とそこに向かう。
しかし実際には、事務パートの採用コストは「時給×時間」だけでは終わらない。採用費、社会保険料、教育コスト、退職リスクを加えると月9〜10万円になるケースが大半だ。一方、外注(事務代行)なら月10〜15時間から依頼でき、採用・管理のコストがまるごとかからない。
この記事では、事務パートの採用と外注を総コスト・品質・安定性・管理負荷の4軸で比較する。業務量別の比較表とチェックリストも用意したので、自社の状況に照らして判断の参考にしてほしい。
事務パートの「真のコスト」は月9〜10万円になりやすい理由
事務パートのコストを「時給1,300円×月65時間=84,500円」で計算して終わらせている経営者は多い。しかし、それは可視化しやすい部分だけだ。見落とされやすいコストを順番に整理する。
採用にかかる費用(月次換算で4,000〜6,000円)
Indeed・タウンワーク・ハローワークへの求人掲載は無料で始められるが、有料掲載や採用コンサルを使うと採用1人あたり3〜8万円かかる場合がある。採用コストを在職期間12ヶ月で割ると、月4,000〜6,000円が採用費として乗ってくる。
問題は、採用してすぐ辞めた場合だ。中小企業のパート採用では、1〜2年以内に退職するケースが珍しくない。退職のたびに採用コストが再発生する。
社会保険料の会社負担(週30時間以上で月給の約15〜16%)
パートの週所定労働時間が30時間以上になると、健康保険・厚生年金・雇用保険の加入義務が発生する。会社負担の合計はおおむね月給の15〜16%だ。
月給84,500円(時給1,300円×65時間)のパートなら、会社負担の社保は月12,700〜13,500円になる。月給10万円なら会社負担は約1.5万円。月給14万円なら約2.1万円が上乗せされる。
なお、2024年10月以降は従業員51人以上の企業で週20時間以上のパートも社保加入義務の対象となっている(厚生労働省「短時間労働者の社会保険適用拡大」より)。
教育・管理コスト(月2〜4時間相当、月4,000〜8,000円)
新しいパートが業務を一人で回せるようになるまでの期間は、業務の複雑さによって1〜3ヶ月かかる。その間、業務を教える時間は経営者か他のスタッフが担う。
「業務を説明する」「質問に答える」「アウトプットをチェックする」という日常的な管理工数は、慣れた後も月2〜4時間は続く。経営者の時給が3,000円前後なら、月4,000〜8,000円相当のコストが継続的に発生している計算になる。
トータルコスト試算(月60〜70時間稼働のパートの場合)
| 費用項目 | 月次コスト(目安) |
|---|---|
| 月給(時給1,300円×65時間) | 84,500円 |
| 採用費(12ヶ月均等割) | 4,000〜6,000円 |
| 教育・管理コスト(経営者の時間) | 4,000〜8,000円 |
| 合計(社保・週30時間未満の場合) | 92,500〜98,500円 |
| 合計(社保込み・週30時間以上の場合) | 105,000〜115,000円 |
「月8.5万円のパートを採用した」つもりでも、実態では月9〜10万円、社保込みなら月11万円以上かかっていることになる。この差が「思ったより人件費がかかっている」という経営者の実感につながっている。
外注(事務代行サービス)のコスト・種類・選び方
外注には主に「オンラインアシスタント型」と「業務特化型」の2種類がある。
オンラインアシスタント型の費用相場
HELP YOU・i-STAFF・フジ子さんなどが代表的なサービスだ。メール対応・データ入力・書類作成・経費精算・スケジュール管理・採用書類の受付など、幅広い事務業務を依頼できる。月の稼働時間に応じた月額制が多く、時間単価は2,500〜3,500円程度になるサービスが多い。
| 月の稼働時間 | 月額費用の目安 | 時給換算 |
|---|---|---|
| 10時間/月 | 25,000〜35,000円 | 2,500〜3,500円 |
| 20時間/月 | 50,000〜70,000円 | 2,500〜3,500円 |
| 30時間/月 | 75,000〜100,000円 | 2,500〜3,300円 |
| 40時間/月 | 100,000〜130,000円 | 2,500〜3,250円 |
時給換算ではパートの時給(1,200〜1,500円)より高くなる。しかし採用費・社会保険料・管理コストが不要なため、月30時間以下ではトータルコストがほぼ拮抗する。
業務特化型の費用相場
特定の業務に絞ったサービスはオンラインアシスタント型より安い傾向がある。
- 経理代行(記帳・給与計算・月次試算表):月3〜6万円が目安(従業員10〜15人規模)
- 採用事務(書類選考補助・面接調整):月2〜5万円程度から
- 給与計算代行:月1〜3万円程度から
業務を絞り込んで外注できる場合は、オンラインアシスタント型より月額が安く収まりやすい。
経理代行サービスの費用感については、バックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方に詳しくまとめてある。
業務量別コスト比較:パート採用 vs 外注
月あたりの事務作業時間を基準に、パートと外注のコストを整理する。
| 月の事務作業量 | パート採用の現実 | 外注費用の目安 | 推奨 |
|---|---|---|---|
| 10〜20時間/月 | 求人に応募が来ない | 25,000〜50,000円 | 外注 |
| 30〜50時間/月 | 月70,000〜95,000円(採用費・管理費込み) | 70,000〜110,000円 | 外注(優先) |
| 60〜80時間/月 | 月92,000〜120,000円(社保上乗せあり) | 120,000〜175,000円 | 要件次第 |
| 100時間/月以上 | 月115,000〜145,000円(専任パート) | 175,000〜250,000円 | パート |
月20時間以下では、パート採用が成立しない。 週5時間未満の求人には応募が集まらない。外注なら月10時間単位から対応できるサービスがある。
月30〜60時間では、コストは拮抗する。 採用費・教育コスト・退職リスクを含めて考えると、外注の方が使いやすいケースが多い。特に「まず外注で試してみる」選択肢は、業務量の見当が外れた場合のリスクが低い。
月100時間以上は、パートの方がコストを抑えやすい。 外注は時間単価が一定のため、稼働量が大きくなるほど割高になる。月100時間以上の業務が安定してある場合は、パートを専任で採用した方がトータルで安くなることが多い。
コスト以外の4つの比較軸
コスト計算だけで判断すると見落とされやすい軸が4つある。
1. 退職リスクと業務継続性
事務パートが退職した場合、業務は即日止まる。次の担当者が入社するまで2〜4ヶ月の空白が生じることがある。1人に業務を任せきりにしている会社では、この空白期間中は経営者が全て引き受けることになる。
外注サービスは、担当者が交代しても業務が止まらない設計になっている。「辞める」という事態が会社都合で発生しない点は、特に少人数の会社では大きなメリットになる。
実際に事務担当が突然退職した場合の緊急対応については、経理が突然辞めた!中小企業の経営者がまずやるべき5つのことで具体的な手順を解説している。
2. 品質の安定性
事務パートの仕事の質は採用できた人材による。スキルや丁寧さは面接・書類だけでは読みにくく、入社後にギャップが出ることがある。
外注サービスは、一定水準のスタッフが業務を担当する設計になっており、ミスが発生した場合の対応もサービス側の責任範囲になる。初めから品質の下限が確保されている点で、採用リスクを取りたくない会社に向いている。
3. 管理負荷
パートは勤怠管理・日常的な指示・細かな確認対応が必要になる。10〜30人規模の会社でも、パート1人の管理で経営者が月5〜10時間取られることは珍しくない。
外注では、業務をタスクとして渡して結果を受け取るやり取りになることが多い。日常的な管理コミュニケーションが最小化される。
4. 立ち上がり速度
パート採用は求人掲載から入社まで2〜4ヶ月かかることが多い。「今月から業務を回したい」という場面では、外注なら1〜2週間で稼働できるサービスが多い。繁忙期の一時的な業務増加にも対応しやすい。
事務パートが向いているケース
以下に当てはまる場合はパートを優先検討してよい。
毎日の社内対応が必要な業務がある
電話対応・来客対応・現金の日次確認・郵便物の処理など、物理的に社内にいないと対応できない業務がメインの場合は外注では対応できない。業務の性質がリモート非対応であれば、パートが必要になる。
月60〜80時間以上の業務量が安定してある
業務量が増えるほど外注は割高になる。月60時間を超えてきたあたりから、パートの方がコスト面で優位になる場合が多い。業務量が安定していればパートへの投資が回収しやすい。
長期的に同じ業務を固定担当で任せたい
社内の状況を深く理解した上で動いてもらいたい業務、特定の顧客や取引先との関係性が絡む業務では、外注の担当者交代よりも固定のパートの方が合うケースがある。
採用そのものを内製化している会社
採用業務を自社で設計・運用している会社では、採用事務のパートを育て上げることで採用品質の向上につながる場合がある。採用ノウハウを社内に蓄積したい場合はパートが向いている。
外注が向いているケース
以下に当てはまる場合は外注を先に検討した方がいい。
月30時間以下の業務量
月30時間以下でパートを採用しようとすると、求人に応募が来ない。時給1,300円×月25時間でも月給32,500円にしかならず、パートとして稼げる仕事として選ばれにくい。外注なら月10〜30時間単位で対応できるサービスがある。
今すぐ(1〜2週間以内に)対応を始めたい
パート採用は求人掲載から入社まで2〜4ヶ月かかる。「今月から業務を回したい」という状況では外注が現実的だ。
担当者の退職リスクを排除したい
過去に事務担当が急退職して業務が混乱した経験がある会社には、退職リスクのない外注が合う。「採用してもすぐ辞める」という状況を繰り返してきた会社ほど、外注への移行で安定することが多い。
リモートで完結する業務がメイン
データ入力・書類作成・経費精算・スケジュール管理・採用書類の受付など、オンラインで完結する業務が中心なら、外注で十分対応できる。これらの業務は外注サービスが最も得意とする領域だ。
外注・ツール・採用の使い分けについては、外注・ツール・採用、どれが正解?バックオフィスの人手不足を解消する3つの方法も参考になる。
僕の意見:「まず外注、業務量が増えたらパートに切り替える」が現実的
ここは一般論と少し違うことを書く。
多くの記事では「パートと外注のどちらが向いているか」を並列で説明している。しかし業務効率化の支援をしてきた経験では、「まず外注で始めて、月70〜80時間を超えたらパートに切り替える」という順序が現実的に機能しやすいと感じている。
理由は2つある。
外注中に業務フローが整理される。 外注サービスに渡せる形で業務をタスク化する過程で、属人化していた作業が可視化される。「何をどの順番でやるか」が明確になるため、後でパートを採用した場合の教育がスムーズになる。この整理がないままパートを採用すると、「何を教えればいいか分からない」状態でスタートすることになる。
業務量を実測してから判断できる。 「月60時間くらいある」と思って採用してみたら実際は月30〜40時間しかなかった、というケースは実際にある。外注で実際の業務量を計測してからパート採用の判断をする方が、採用後のミスマッチが減る。
外注を「一時的な穴埋め策」ではなく「業務設計の準備期間」として使う視点は、パート採用を最終目標にしている会社にも有効だ。
判断チェックリスト:どちらを選ぶか
迷う場合は以下を確認する。3項目以上当てはまる側を検討する。
パート採用が向いているケース
- 月の事務作業が60時間以上、かつ安定している
- 電話対応・来客対応など、毎日社内にいる必要がある業務が含まれる
- 業務を教える時間と余裕が社内にある
- 採用から入社まで3〜4ヶ月待てる
- 特定の業務を長期間・固定担当で任せたい
- 採用ノウハウを社内に蓄積していきたい
外注が向いているケース
- 月の事務作業が30時間以下
- 1〜2週間以内に対応を始めたい
- 採用・教育の手間を避けたい
- 担当者が辞めた場合のリスクを避けたい
- 対応が必要な業務がリモートで完結する
- 業務フローがまだ整備されていない
まとめ
事務パートと外注の選択は、業務量と業務の性質で決まる。
| 月の業務量 | 推奨 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 20時間以下 | 外注 | パート採用が成立しない |
| 30〜50時間 | 外注(優先検討) | コスト拮抗、採用手間・退職リスクを考えると外注 |
| 60〜80時間 | 業務の性質次第 | リモート可なら外注、常駐必要ならパート |
| 100時間以上 | パート | コスト面でパートが優位 |
最初の判断に迷う場合は、「まず外注で業務量を計測し、月70〜80時間を超えたらパートを検討する」という順序が現実的だ。外注期間中に業務フローが整理され、後の採用・教育がスムーズになる。
経理関連の業務を外注するか採用するかで迷っている場合は、経理が採用できない中小企業の選択肢|採用コストvs外注コスト比較も参考にしてほしい。