事務・バックオフィス効率化

飲食店の業務効率化|人手不足でも回せる仕組みの作り方

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

飲食業界の有効求人倍率は2.4倍台(接客・給仕職、2025年時点)が続いている。求人2件に対して応募者1人という計算だ。採用を増やして人手不足を解消しようとしても、そもそも採用できない業界になっている。

だから「採用ではなく業務効率化で解決する」という方向転換が必要なのだが、ここで躓くパターンが2種類ある。1つは「とりあえずタブレットを入れた」という安易なツール先行。もう1つは「バックオフィスの非効率を放置したままフロアだけ改善する」という順序ミスだ。

業務効率化に特化したエンジニアとして飲食以外も含む中小企業の業務を見てきた経験から言うと、ツールを入れる前に業務フローの整理をしなければ失敗する確率が高い。そしてバックオフィスを後回しにした経営者ほど、「店は回っているのに自分だけが疲弊している」状態に陥りやすい。

この記事では、飲食店の業務をフロア・厨房・バックオフィスの3領域に分けて整理し、何から手をつければ効果が出やすいかを具体的な費用感とともに解説する。

ツールより先にやること:業務フローの棚卸し

業務効率化の取り組みが「導入して終わり」になる店舗に共通しているのは、業務フローを整理しないままツールを入れていることだ。非効率な手順のまま自動化しても、非効率が少し速くなるだけで根本は変わらない。

デジタルツール導入で失敗する4つのパターンと対策でも書いたが、「業務フローをそのままにしてツールだけ追加した」ことが失敗の最大原因だ。飲食店でも全く同じことが起きている。

着手前に1〜2時間、スタッフと「この作業、本当に必要か?」を話し合う時間を取ることを勧める。長年の習慣の中には、「誰かが始めたけど理由は誰も知らない」手順が必ず混ざっている。

棚卸しで確認したいのは以下の3点だ。

チェック項目 確認内容 よくある例
排除できる作業はないか 手順そのものをなくせないか 「昔からやっている」だけの日報、不要な複数承認
まとめてできる作業はないか バラバラにやっている作業を一括処理できないか 仕入れ伝票を毎日ではなく週1で処理
属人化している作業はないか 「あの人しかできない」状態になっていないか ベテランスタッフしか作れないメニュー、オーナーしか知らないシフトのルール

この整理をしてからツールを選ぶと、「なぜこのツールが必要か」が明確になり、現場への定着率が上がる。逆に整理せずにツールを入れると、使われないまま月額費用だけが発生し続ける状態になる。これは自社でも失敗したことがある。「便利そう」という理由だけでツールを入れても、業務フローが変わらなければ誰も使わない。

飲食店の業務を3領域に分けて考える

効率化の優先順位を決めるために、業務を3つの領域に分けて整理する。

領域 主な業務内容 効率化の効果が出やすい業務
フロア業務 接客、注文受付、配膳、会計、テーブル管理、予約対応 注文ミス削減、会計時間の短縮、予約の二重管理解消
厨房業務 調理、仕込み、食材管理、食器洗浄、厨房清掃 属人化解消、新人育成期間の短縮、仕込みの段取り改善
バックオフィス業務 シフト作成、勤怠管理、給与計算、在庫管理、仕入れ発注、経理記帳、採用対応 シフト確定の時間削減、給与計算の自動化、食材ロスの削減

多くの飲食店では、フロアと厨房の効率化ばかりに目が向きがちだ。しかしオーナーが閉店後に何時間も費やしているのは、たいていバックオフィス業務だ。

飲食店ドットコムが実施したバックヤード業務の実態調査によると、調査対象の飲食店の半数以上が「バックオフィス業務に週10時間以上かけている」と回答している。この領域を後回しにし続けると、「店は回っているが経営者だけが疲弊する」状態が延々と続く。

僕の考えでは、バックオフィスこそ最初に手をつけるべき領域だ。フロアと厨房の改善は売上に直結するから着手しやすい。でも、経営者が毎週5時間かけているシフト調整や、毎月末に3時間かかる給与計算を放置したまま「タブレットオーダーを入れよう」としても、本当に楽になれる部分は限られている。

フロア業務の効率化|接客品質を落とさずに作業を減らす

セルフオーダーシステムの選び方

注文受付にかかる時間と動線を削減できる、即効性の高い手段がセルフオーダーシステムだ。大きく2種類ある。

種類 費用の目安 向いている業態 注意点
QRコード型(お客さんのスマホ使用) 月0〜5,000円程度、端末費ほぼなし カジュアル〜中価格帯、若年層が多い店舗 スマホを持っていない高齢客への案内が必要
タブレット型(テーブルに設置) 月3,000〜15,000円+タブレット代 ファミレス型、ファストフード的運営 タブレット管理・破損リスクあり

QRコード型は端末コストがほぼかからない分、小規模店舗でも試しやすい。僕の見立てでは、座席数30席以下の飲食店であれば、QRコード型で十分な場合が多い。タブレットは設置・管理のコストが意外と大きい。Square(スクエア)やEASYORDERなどが代表的なサービスだ。

注文の聞き間違いが減るためキッチンへの伝達ミスによる作り直しも減り、スタッフは空いた時間を配膳や接客品質向上に使える。

キャッシュレス決済の整備

現金のみの会計は、釣り銭準備・現金確認・入金作業など見えないコストが積み重なっている。Square、PayPay、Airペイなどの決済端末は初期費用0〜1万円程度で始められ、決済手数料は売上の1.98〜3.25%が相場だ。

会計時間が短縮されるだけでなく、現金の管理ミスや不正リスクも下がる。POSレジとキャッシュレス決済が連携しているシステムを選ぶと、売上集計もほぼ自動になる。

予約管理のデジタル化

電話予約のみで運用している場合、席の二重予約・記入ミスに加えて、確認電話の往復が発生しやすい。Googleビジネスプロフィールへの予約機能追加は無料でできる。TableCheckやRettyなどの予約管理システムを使えば、スタッフが電話対応しなくても予約が入る状態を作れる。

厨房業務の効率化|「あの人しかできない」をなくす

レシピの標準化と可視化

「あのスタッフがいないと作れないメニューがある」という状態は、個人のスキルの問題ではなく、経営の問題だ。マニュアルを作っていないことが原因であり、解決策も仕組みだ。

属人化で困る前に3つの手順|10〜20人規模の解消チェックリスト【2026年版】でも書いているが、属人化の最大のリスクは「その人が辞めた瞬間に業務が止まること」だ。飲食店でもこれは同じだ。

対策は難しくない。写真付きのレシピカードを作ってラミネート加工し、調理台の近くに貼る。動画で撮影してタブレットで確認できるようにする。どちらもツールなしで始められる。

新人の育成期間が短縮されると、採用の難易度が下がる。「すぐに使えるスタッフしか採用できない」という縛りがなくなるためだ。慢性的な人手不足に悩む飲食店ほど、育成の仕組みが薄い傾向がある。

仕込みの段取り整理

開店前の仕込みが長引くと、早出シフトが増えて人件費が膨らむ。仕込みリストを曜日・時間帯別に整備し、「何をどれだけ用意するか」を可視化するだけで当日の動きが変わることが多い。特別なツールは不要で、スプレッドシートに書き出すだけで十分だ。

週の中で特定の曜日に仕込み量が集中している場合、前日の比較的余裕のある時間帯に一部を前倒しできないかを確認する。このちょっとした段取り改善が、早出シフトを週1〜2回減らすことにつながる場合がある。

バックオフィス業務の効率化|経営者が一番時間を失っている領域

フロアや厨房の効率化は「売上に見える形で影響する」ため着手しやすい。一方バックオフィスは「やっていなくても店は回る」ため後回しになりやすい。しかし、飲食店オーナーが週に何時間も費やしている作業のほとんどは、このバックオフィス業務だ。

シフト管理のデジタル化

LINEや紙でシフトを管理している店舗は今も多い。この方法では、スタッフの希望収集・確認・変更対応のたびにやり取りが発生し、確定までに数日かかることも珍しくない。LINEのグループで「来週どこ入れる?」「やっぱり土曜行けなくなりました」のやり取りが続く状態を、1人のオーナーが毎週管理している光景は、業務効率化の観点から見てもったいない時間の使い方だ。

ShifteeやKING OF TIMEなどのシフト管理ツールは月額350〜2,200円程度から使える。スタッフがアプリから希望を入力し、経営者側が確認するだけになるため、やり取りの往復がほぼなくなる。

勤怠・給与計算の自動化

タイムカードを手計算している場合、月末の給与計算は数時間かかることがある。スタッフが10人いれば、それだけで3〜4時間はとられる作業だ。

freeeやマネーフォワードの労務機能を使えば、出退勤の打刻データから自動で給与計算され、明細送付まで完結する。月額1,000〜5,000円程度で導入できる。

POSレジと勤怠管理が連携しているシステムを選ぶと、出退勤の管理もPOS端末から行えるためさらにシンプルになる。最初にPOSを選ぶ段階で「freeeと連携できるか」「マネーフォワードと連携できるか」を確認しておくと、後から切り替えるコストがかからない。

在庫管理のデジタル化

食材在庫を紙の台帳で管理している場合、棚卸しに時間がかかり食材のロス率も把握しにくい。まずスプレッドシートに移行するだけでも、集計作業は大幅に短縮される。

ツールを使うならzaico(ざいこ)などの在庫管理サービスが月額無料〜数千円で使える。入出庫のデータが蓄積されると、曜日別の消費傾向が見えてきて発注量の精度が上がる。食材のロスが週に2〜3割減るだけでも、月単位ではかなりのコスト削減になる。

経理業務の外注も有力な選択肢

飲食店の経理は、毎日の売上記帳・仕入れ伝票の整理・軽減税率の対応など、細かい作業が積み重なる。

POSレジと会計ソフトが連携できるシステムを最初から選んでおくと、売上データを手入力する手間がなくなる。freee・マネーフォワードと連携できるPOSを選ぶのが、後から切り替えるより楽だ。

経理業務ごと外注するという選択肢もある。記帳代行と税理士顧問を合わせると月3〜5万円程度からが相場で、経営者がExcelと格闘する時間をゼロにできる。飲食店の経理は外注すべき?個人店オーナーのための経理ガイドで飲食店特有の経理課題と外注の判断基準をまとめているので参考にしてほしい。

月3〜5万円を「高い」と感じるかどうかは、「自分が毎月何時間経理作業に使っているか」次第だ。月末に5時間かけている経営者が、その5時間を集客や接客改善に使えるなら、十分に元が取れることが多い。

飲食店向けITツールの費用比較まとめ

各業務の効率化ツールを費用とともに一覧にする。

業務領域 ツール・手段 月額費用の目安 初期費用 効果が出やすい業態
フロア:注文受付 QRコード型セルフオーダー(Square等) 0〜5,000円 ほぼなし カジュアル〜中価格帯
フロア:注文受付 タブレット型セルフオーダー 3,000〜15,000円 タブレット代 ファミレス型
フロア:会計 キャッシュレス決済(Square、Airペイ等) 基本なし(決済手数料1.98〜3.25%) 0〜1万円 全業態
フロア:予約 Googleビジネスプロフィール予約機能 無料 なし 予約ありの全業態
バックオフィス:シフト Shiftee、KING OF TIME等 350〜2,200円 なし 全業態
バックオフィス:勤怠・給与 freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与 1,000〜5,000円 なし〜数千円 スタッフ5人以上
バックオフィス:在庫 zaico等 0〜数千円 なし 食材管理が複雑な店舗
バックオフィス:経理 記帳代行+税理士顧問(外注) 3〜5万円 なし 自前経理に時間がかかっている店舗

トータルで見ると、月1万円以下でフロアとバックオフィスの基本的な効率化が実現できる。大きな初期投資は不要だ。

自社(ラズリ)でも、月3.5万円のツール代で経理・請求書処理・コンテンツ制作・顧客管理を回している。業種は違うが、「少額のツール代で手作業を大幅に削減できる」という本質は同じだ。

補助金・助成金を活用する

IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)

2026年からIT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わった。セルフオーダーシステム・POSレジ・シフト管理ツールなど、飲食店で使うITサービスの多くが対象になっている。

補助率は導入費用の1/2以内。通常枠の上限は150万円だ。数十万円のPOSシステムを入れ替える場合など、大きな投資をする前には確認する価値がある。

ただし注意点がある。補助金の申請には、ITツール提供会社が「IT導入支援事業者」として登録されている必要がある。すべてのツールが対象ではないため、導入前に公式サイト(中小機構・デジタル庁のポータル)か商工会議所で確認するのが確実だ。

省力化補助金

2024年から始まった省力化補助金は、労働力不足を補う設備投資を支援する補助金だ。調理機器の自動化・セルフレジなど、物理的な設備も対象になる。補助率は中小企業で1/2以内、上限は200万円。

詳細な要件は毎年変わるため、最新情報は中小企業庁の公式サイトで確認すること。商工会議所の窓口で無料相談できる。

優先順位の決め方と実践3ステップ

「全部一度に進めよう」とすると止まる。どの業務から手をつけるかを決めるための考え方を整理する。

優先度の判断軸

今すぐ低コストで始められるもの(月1万円以内)と、経営者自身の時間が最も取られているもの、の2軸で考える。

優先度 取り組み内容 費用目安 始めやすさ
高:今すぐ始める QRコードセルフオーダーの試験導入 月0〜5,000円 ★★★
高:今すぐ始める キャッシュレス決済の整備 初期0〜1万円のみ ★★★
高:今すぐ始める シフト管理アプリへの移行 月350〜2,200円 ★★★
高:今すぐ始める Googleビジネスプロフィール予約機能 無料 ★★★
中:1〜2ヶ月以内 勤怠・給与計算の自動化 月1,000〜5,000円 ★★
中:1〜2ヶ月以内 在庫管理のデジタル化 月0〜数千円 ★★
中:状況次第で検討 経理の記帳代行への切り替え 月3〜5万円 ★★
低:余裕ができたら レシピ・仕込みマニュアルの整備 ほぼなし ★(時間がかかる)

実践3ステップ

ステップ1:「今週一番面倒だった作業」を1つ書き出す

スタッフへのシフト確認、給与計算、食材の棚卸し——何でもいい。「今週一番時間がかかった作業」を1つだけ特定する。業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説でも書いたが、「全部効率化しよう」から始めると動けなくなる。まず1つだけ決める。

ステップ2:その1つに対してツールを1つ試す

費用は月1万円以内を目安にする。無料トライアルがあれば先に試す。「完璧なツールを探す」のではなく、「まず使ってみる」姿勢が重要だ。

ステップ3:3ヶ月試して判断する

「楽になったか・なっていないか」を判断する。楽になったら次の作業に進む。楽にならなかったら別のツールを試す。最初から全部変えようとしないことが重要だ。

まとめ:採用を増やす前に、今いる人数で回せる仕組みを作る

飲食業界の有効求人倍率2.4倍超という現実を前に、「採用を増やせば解決する」という思考は通用しにくくなっている。

業務効率化の正しい順序は次の通りだ。

  • 業務フローを棚卸しして「不要な手順」「属人化した手順」を特定する
  • バックオフィス(シフト・給与・経理)から手をつける
  • フロアと厨房の効率化は、バックオフィスが落ち着いてから進める
  • ツールは月1万円以内で試せるものから始める

「ツールを入れれば解決する」は正しくない。「業務フローを変えた上で適切なツールを当てれば、今いる人数でも十分に回せる状態が作れる」が正しい。

まず今週、「この作業が一番面倒だ」という1つを書き出すところから始めてほしい。

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飲食店の経理や業務効率化全般について、以下の記事で詳しく解説している。

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