従業員20〜30人規模の会社で、総務を1人が担っているのは珍しくない。書類管理、備品発注、入退社手続きのサポート、施設管理、社内行事の準備——範囲が広い割に「専任を置くほどでもない」とされやすく、経理や労務と兼務になっているケースも多い。
問題が表面化するのは、その1人が退職したタイミングだ。「どこに何があるか分からない」「この手続きは誰に聞けばいいか分からない」という状態が一気に噴き出す。
この記事では、総務が1人体制の会社が「担当者が変わっても回る仕組み」を作るための業務整理と効率化の進め方を解説する。
「1人総務」が限界を迎える前に起きていること
業務範囲が想定より広くなっていく
総務という仕事は定義が曖昧だ。採用関連書類の整理、契約書管理、備品の発注・在庫管理、施設・設備の維持、社内行事の企画、社員証や名刺の手配、来客対応——これらが全部「総務」に括られることがある。
さらに「他に誰もやらないから総務がやる」という仕事が少しずつ積み重なっていく。入社当初は月に数時間だったはずの業務が、数年後には週に2〜3日分の稼働になっているケースは珍しくない。
「あの人しか分からない」状態が育つ
1人で長く担当していると、業務が頭の中に収まりきってしまう。マニュアルがなくても本人は困らないため、「ドキュメントを書く時間があれば別の仕事を進めたい」という判断になる。
これが積み重なると、備品の発注先、契約更新のタイミング、行政手続きの期限——全部が1人の記憶の中にある状態になる。
退職・産休がきっかけで問題が露呈する
担当者が長期離脱したときに問題が顕在化する。後任が引き継ごうとしても「どこから手をつけていいか分からない」という状態になり、業務が止まったり、ミスが発生したりする。
担当者が体調不良で急に休んだだけで、総務回りが回らなくなる会社は、「効率化」より先に「仕組み化」が必要な状態だ。
まず業務の棚卸しから始める
効率化ツールを入れる前に、「何にどれだけ時間を使っているか」を把握する必要がある。これが曖昧なまま進めると、改善しても実態の負荷が変わらないことが多い。
業務棚卸しの手順
1. 直近1ヶ月の業務を全部書き出す
スプレッドシートに、やった業務を全部書き出す。細かさより網羅性を優先する。
| 業務名 | 月に何回 | 1回あたりの時間 | 月の合計時間 |
|---|---|---|---|
| 書類ファイリング | 20回 | 10分 | 約3時間 |
| 備品発注 | 3回 | 20分 | 1時間 |
| 入退社手続きサポート | 1〜2回 | 2時間 | 2〜4時間 |
| 施設点検・業者対応 | 1回 | 30分 | 30分 |
| 社員からの問い合わせ対応 | 多数 | 5〜15分 | 3〜5時間 |
これを全業務について書き出すと、月に何時間使っているかが見えてくる。多くの場合、想定より多い。
2. 業務を「固定・変動・スポット」に分類する
- 固定: 毎月必ず発生する(書類整理、備品チェックなど)
- 変動: 採用や退職のたびに発生する(入退社手続きなど)
- スポット: 不定期で発生する(トラブル対応、行事準備など)
固定業務はルーティン化・自動化の対象。変動・スポット業務はマニュアル化が有効だ。
「やめていい業務」を先に探す
効率化の前に、「そもそもやらなくていい業務」を削ることが最も効果が高い。ここを飛ばすと、不要な作業を効率化するだけになってしまう。
惰性で続いている報告書や集計はないか
定期的な報告書や集計表で「誰が何のために使っているか分からない」ものを確認する。前任者の時代に始まり、そのまま続いているケースが意外と多い。
関係部門に「この資料を使っていますか?」と一言確認するだけで、廃止できる業務が見つかることがある。
「社員自身がやれる業務」が総務に来ていないか
総務に来ている依頼の中に、「本来は社員が自分でやれる業務」が混入していることがある。
例:
- 消耗品の補充を逐一総務に申請させているが、一定の在庫ルールを作れば社員が自分で対応できる
- 会議室の予約を総務経由で行っているが、Googleカレンダーで直接予約できる仕組みに変えられる
- 出張手配を全部総務が行っているが、社員が直接予約ツールを使えるようにできる
「総務を介さずに完結させる仕組みを作る」という視点で業務を見直すと、削減できる依頼が出てくる。
判断チェックリスト
- この業務をやめたら、誰かが実際に困るか?
- この業務は会社のルールか、担当者の習慣か
- 同じ情報を複数の場所に入力するプロセスが発生していないか
自動化・外注・削除の判断基準
業務の棚卸しが終わったら、各業務に対して「どの手段で負荷を減らすか」を決める。
| 業務の特徴 | 適した対策 |
|---|---|
| 毎月決まった手順で繰り返す | 自動化・ルーティン化 |
| 法律・専門知識が必要な手続き | 外注(社労士・税理士・BPO) |
| 担当者が変わるたびに迷う | マニュアル化 |
| やめても誰も困らない | 廃止 |
自動化が効きやすい業務
- 備品の定期発注(在庫数と発注タイミングのルールを決めれば、Amazonビジネスの定期便等に乗せられる)
- 書類の電子保存(スキャン→クラウドストレージの所定フォルダへ)
- 社員への定型連絡(メールテンプレートの整備)
- 勤怠の集計(クラウド勤怠ツールへの移行)
外注が適している業務
社会保険・雇用保険の行政手続き、給与計算、就業規則の整備など、法律に関わる業務は社会保険労務士(社労士)の領域だ。1人の総務がこれを抱えていると、法改正への対応漏れや手続きミスが起きやすい。
外注コストとミスが起きたときのリスクを比べると、専門家に任せた方が合理的なケースが多い。詳しくは労務管理を丸ごと外注する方法|社労士・BPO・オンラインアシスタントを比較で整理しているので参考にしてほしい。
まずここから:今月できるクイックウィン
一気に変えようとすると着手できなくなる。まず手をつけやすく、効果が出やすいものから始める。
1. 書類の保管場所をデジタルに移す
紙の書類をスキャンしてクラウドストレージに保存する体制を作る。重要なのは「保存場所のルールを決める」ことだ。
Google ドライブ/総務/
├── 契約書/(社名・契約期間で命名)
├── 備品管理/
├── 入退社手続き/(年度別)
└── 施設/
どこに何を保存するかのルールがあれば、担当者が変わっても探せる。ルールがないまま電子化しても、誰も使いこなせなくなる。
2. よく使う書類をテンプレート化する
毎回作り直している書類(社員への案内文、業者への依頼文、備品申請書など)をテンプレートとして保存する。Googleドキュメントに置いておけば、次回から編集するだけで済む。
テンプレート化の効果は「時間の節約」だけではない。担当者が誰であれ、同じ品質・同じフォーマットで書類を出せるようになる。
3. 備品管理をスプレッドシートで見える化する
「消耗品の在庫確認→発注判断」という作業を、スプレッドシートで管理する。列を「品目・在庫数・発注点・発注先・単価・担当者メモ」で統一しておけば、担当者が変わっても引き継げる。
発注点(この在庫数を下回ったら発注する)を決めておくことで、「あ、切れてた」という事態を減らせる。
4. 社員からの問い合わせにFAQで対応する
「有給の申請はどうすればいい?」「備品を買いたいときは誰に言えば?」という問い合わせが繰り返し来る場合、Q&Aをドキュメントにまとめる。
社内の情報共有ツール(Notion、Confluence、Google Sitesなど)に置いておくと、社員が自己解決できる件数が増え、総務への問い合わせが減る。
属人化リスクを下げる:「引き継げる状態」を作る
効率化と並行して進める必要があるのが、「その人しかできない状態」の解消だ。
業務マニュアルは「7割の完成度」で運用を始める
完全なマニュアルを作ろうとすると、作業量が多くて着手できなくなる。まず「新しい担当者がある程度動ける」レベルで構わない。
最低限書いておくべき内容:
- 何のための業務か(目的)
- いつ発生するか(タイミング)
- 手順(スクリーンショット付きが望ましい)
- 関係する相手先・連絡先(社内外問わず)
- よくあるミスと対処法
「完璧なマニュアルを書く」のではなく、「前任者が急にいなくなっても業務を止めない」ことを目的に作る。
「月次・年次の業務カレンダー」を共有する
「この月は何をやるか」を一覧化したカレンダーを作り、経営者にも共有する。担当者が不在でも、業務の全体像が把握できる状態を作る。
| タイミング | 業務内容 |
|---|---|
| 毎月25日 | 翌月分の備品在庫確認・発注 |
| 毎月末 | 契約更新予定の確認 |
| 毎年1月 | 年末調整書類の配布(社労士と連携) |
| 毎年4月 | 社会保険の定時決定(社労士と連携) |
| 入社月 | 雇用保険・社会保険加入手続きの期限確認 |
これを作るだけで、「担当者が何を知っているか」の全体像が経営者にも見えるようになる。
ログイン情報を1か所に集める
総務が使っているサービスのアカウント情報が、担当者しか知らない状態になっていることがある。1Passwordやビットワーデンなどのパスワード管理ツールを使い、経営者または別の担当者もアクセスできる状態を作っておく。
「担当者が急に休んだときに誰もログインできない」という状況は、ツールのパスワードを共有しておくだけで防げる。
ツール選びの考え方
総務の効率化ツールを選ぶとき、機能の多さで選ぶと失敗する。「今の業務のどこが最も時間を取っているか」から逆算して、そこを解消できるツールを一つ選ぶのが正しい順番だ。
5〜30人規模の会社なら、まず無料・低コストで試す
| 目的 | ツール例 | 費用感 |
|---|---|---|
| ファイル共有・書類保存 | Google ドライブ | 無料〜 |
| 社内FAQ・ナレッジ共有 | Notion | 無料(一部機能有料) |
| 勤怠管理 | KING OF TIME、ジョブカン勤怠など | 月数百円〜/人 |
| 社内連絡・問い合わせ | Slack無料プラン | 無料 |
| 備品管理 | Googleスプレッドシート | 無料 |
注意点は、「ツールを入れても使われなければ意味がない」という点だ。定着率はツールの機能より「使う習慣を作れるか」に依存する。最小限の機能で運用を始め、定着してから機能を追加する方が現実的だ。
業務をまるごと外注する選択肢
総務業務の一部を外部に委託する方法もある。オンラインアシスタントサービスは、書類整理・備品発注サポート・各種手配などを月額固定で対応してくれる。
採用・給与計算・社保手続きも含めてアウトソーシングしたい場合は、費用感や依頼範囲を先に整理してから判断したい。
外注・ツール・採用のどれが自社に合うかの整理は外注・ツール・採用、どれが正解? バックオフィスの人手不足を解消する3つの方法でまとめているので参考にしてほしい。
まとめ
総務が1人体制の会社がまず取り組むべきことは、「ツールを入れること」ではなく「何にどれだけ時間を使っているかを把握すること」だ。
棚卸しをして、やめていい業務を削り、外部に任せるべき業務を整理してから、残った業務を効率化する。この順番を守らずにツール導入や外注を始めると、問題の本質が解決されないことが多い。
もう一点重要なのは、効率化とマニュアル化をセットで進めることだ。効率化だけして仕組みが担当者の頭の中にある限り、属人化のリスクは変わらない。「その人がいなくなっても回る状態」を作ることが、1人総務体制の本来のゴールだ。
業務整理の進め方に迷っている場合は、業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説も参考にしてほしい。
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