社員が入社するたびに、健康保険と厚生年金の加入手続き、雇用保険の手続きが発生する。退職時も同じだ。扶養家族の変更、出産・育児休業、標準報酬月額の改定——こうした手続きは、件数が少ない会社でも年間を通じて途切れない。
「総務や経理担当が兼務でやっているが、法改正のたびに書き方が変わって追いきれない」「入退社のたびに何をすればいいか調べ直している」という状況は、5〜30人規模の会社ではよく起きている。
この記事では、社会保険手続きを外部に任せる方法を整理する。
- 社会保険手続きを外注できるのは誰か(法律上の制約を含む)
- 社労士に外注する場合の費用相場と選び方
- 「社労士以外の選択肢」として有効なクラウドツールの活用
- どちらを選ぶかの判断基準
社会保険手続きを外注できるのは誰か
まず前提として押さえておく必要がある点がある。
社会保険・雇用保険の手続きを「業として代行」できるのは、社会保険労務士(社労士)のみだ。社労士法第27条により、社労士でない者が報酬を得て社会保険や労働保険の申請・届出代行を行うことは禁止されている。
そのため、「外注」という言葉で想像するような「何でも任せられる事務代行サービス」に社会保険手続きの代行を依頼することは、法的にできない。オンラインアシスタントや一般的なBPO会社が「労務手続きのサポート」と謳っていても、実際の届出提出まで担当できるのは社労士資格を持つスタッフだけだ。
ただし、「外注先が届出を代行する」のではなく、「自社のスタッフが素早く手続きできる仕組みを作る」という方向の解決策はある。それがクラウド労務管理ツールだ。
まとめると、社会保険手続きへの対処方法は2つある。
| 方法 | 誰がやるか | 費用感 |
|---|---|---|
| 社労士への外注 | 社労士が申請まで代行 | 月2万円〜5万円(顧問契約) |
| クラウドツール活用 | 自社スタッフが効率的に手続き | 月0円〜数万円(ツール利用料) |
社労士に外注する場合の費用相場
顧問契約の相場
社労士への外注の主な形態は顧問契約だ。月額の顧問料を支払う代わりに、入退社手続き・月次の給与計算・年次手続き(算定基礎届・労働保険年度更新)などを一括して依頼する。
従業員規模別の顧問料の目安は以下の通りだ(旧社労士報酬規程をベースにした市場水準)。
| 従業員数 | 月額顧問料の目安 |
|---|---|
| 5人以下 | 2万円〜3万円 |
| 10人 | 3万円前後 |
| 20人 | 4万円〜6万円 |
| 30人 | 5万円〜8万円 |
ただし、顧問料の中に何が含まれるかは事務所によって大きく異なる。「手続き代行のみ」と「労務相談もすべて含む」では料金設定が変わる。契約前に「月に何件までの手続きが含まれるか」「就業規則の改定は別料金か」を確認しておく必要がある。
スポット(単発)依頼の相場
顧問契約ではなく、入退社が発生したときだけ都度依頼するスポット依頼という選択肢もある。費用の目安は事務所によって差があるが、雇用保険のみの場合で5,000円〜1万円、社会保険・雇用保険両方で1万円〜2万円程度が目安だ。
入退社が年数件しかない会社では、顧問料を毎月支払うより費用が抑えられる場合もある。ただし、スポット依頼に対応していない事務所もあるため、事前に確認が必要だ。
給与計算も一緒に依頼する場合
社会保険手続きと給与計算はセットで依頼されることが多い。給与計算代行の相場は月額1万円+従業員1人あたり500円〜1,000円程度が一般的だ。社会保険手続きと組み合わせた総額で見積もりを取ると、それぞれ単独で契約するより割安になるケースがある。
クラウドツールを使って自社でやる方法
「社労士以外の選択肢」として、クラウド労務管理ツールの活用がある。これは社会保険手続きを「外注する」のではなく、「自社で効率よくできる仕組みを作る」アプローチだ。
SmartHR
社会保険・雇用保険の電子申請機能が充実しているツールの一つがSmartHRだ。
入退社情報をシステムに入力すると、健康保険被保険者資格取得届・厚生年金保険被保険者資格取得届・雇用保険被保険者資格取得届など、必要な書類を自動で生成する機能を持つ。さらに電子申請機能を使えば、担当者がシステム上から直接提出まで完結できる(電子申請に対応した手続きに限る)。
料金(2026年5月時点の公式情報を元にした目安)
- 30人以下: 無料プランあり
- 51人以上: スタンダードプラン(有料)
従業員が30人以下であれば、社会保険の電子申請機能を無料で試せる点は現実的なメリットだ。
freee人事労務
freee人事労務も各種社会保険・労働保険手続きの電子申請に対応したクラウドツールだ。給与計算との連携が強みで、勤怠データから給与計算・社会保険料控除まで一気通貫で処理できる設計になっている。
料金(2026年5月時点の公式情報を元にした目安)
- ミニマムプラン: 月額1,980円〜
ただし、社会保険の電子申請機能を使うには上位プランが必要になる場合があるため、導入前に機能仕様を確認してほしい。
クラウドツールでできることの限界
クラウドツールは手続き書類の自動生成と電子申請の効率化には強いが、次のような場面では限界がある。
- 法的判断が必要な場面: 雇用形態が複雑でどの適用条件に当てはまるか判断が難しいケース
- 従業員からの相談対応: 「育休中の社会保険料はどうなるか」「扶養の条件を教えてほしい」といった労務相談への対応
- 行政への交渉: 申請後に行政から問い合わせが来た場合の対応
こうした場面が頻発する規模・業種では、社労士との顧問契約を持つ方が安定する。
社労士外注とクラウドツール、どちらを選ぶか
判断の基準を整理する。
社労士に外注した方がいい会社
入退社の件数が多い、または手続きが複雑な場合
年間入退社が10件以上ある、外国人雇用・パート・業務委託など雇用形態が混在している、育休・産休・介護休業が定期的に発生する——こうした状況では、手続きの量と複雑さが担当者の処理能力を超えやすい。社労士に外注することで、申請漏れや誤りのリスクを下げられる。
担当者が変わりやすい場合
事務担当者が辞めるたびに「前任者しか手続きの流れを知らなかった」という状況は危険だ。社労士が窓口になっていれば、担当者交代の影響を最小化できる。事務担当者の退職リスクについては一人経理が退職する前に会社がやるべきリスク対策でも詳しくまとめている。
労務トラブルのリスクが高い業種・状況
飲食・介護・小売など離職率が高い業種、または労使トラブルが過去に起きたことがある会社は、手続き代行だけでなく労務相談も含めた顧問契約の方が安心感がある。
クラウドツールで十分な会社
入退社が年数件程度の少人数会社
従業員10人以下で入退社が年3〜5件程度であれば、月額顧問料を払い続けるよりクラウドツールで自社対応する方がコストを抑えられる。SmartHRの無料プランを使えば30人以下は手続き効率化のコストをほぼゼロにできる。
担当者がITツールに慣れている場合
書類生成や電子申請のシステム操作を覚える意欲がある担当者がいれば、クラウドツールは有効な選択肢になる。操作に慣れるまでの初期コストはかかるが、一度設定すれば以後の手続きが標準化できる。
労務相談の必要性が低い場合
手続きさえ正しくできれば十分で、労使トラブルの心配が薄い会社はクラウドツールで賄えるケースが多い。
社労士を選ぶ際のポイント
社労士に外注する場合、事務所の選び方が大切だ。
手続き代行のみか、相談対応込みかを明確にする
顧問契約と聞くと「相談できる体制」を想定しがちだが、手続き代行のみの安価なプランと、相談対応・就業規則メンテナンスまで含む包括プランでは料金が大きく変わる。何を外注したいかを明確にしてから見積もりを取ること。
電子申請対応かどうかを確認する
社会保険手続きの電子申請化が進んでいる。電子申請に対応している社労士事務所かどうかを確認する。対応していない事務所では、申請のために紙の書類を用意する手間が残る。
複数の事務所から見積もりを取る
料金は各事務所が自由に設定しているため、同じ業務内容でも事務所によって月額料金に2〜3倍の差が出ることがある。少なくとも2〜3事務所から見積もりを取って比較することを勧める。社労士の費用相場と選び方の詳細は社労士の顧問料はいくら?中小企業向け費用相場と失敗しない選び方にまとめている。
労務管理の外注と組み合わせて考える
社会保険手続きだけでなく、給与計算・就業規則整備・勤怠管理なども含めた「労務管理全般」の外注を検討している場合は、社労士への依頼範囲と費用が変わってくる。
社会保険手続きだけをスポット依頼するのか、給与計算も含めた月次の委託にするのか、さらに相談・指導まで含む顧問契約にするのかで、毎月のコストも関与の深さも大きく変わる。
労務管理全体を外注する場合の選択肢と費用相場は労務管理を丸ごと外注する方法|社労士・BPO・オンラインアシスタントを比較で詳しく解説している。
また、入退社のたびに社内でどの手続きを進めるべきかは入退社手続きチェックリスト|中小企業の総務が漏れなく進める方法にまとめているので、自社の手続き漏れ確認にも使えるはずだ。
まとめ
社会保険手続きの外注方法をまとめる。
社労士への外注を選ぶ場合
- 法的に手続き代行ができるのは社労士のみ
- 月額顧問料の目安は従業員10人で3万円前後、20人で4万〜6万円
- 手続き代行のみか、相談対応込みかで料金が変わる
- 複数事務所から見積もりを取って比較する
クラウドツールで自社対応する場合
- SmartHR(30人以下は無料プラン)やfreee人事労務(月額1,980円〜)が選択肢
- 電子申請機能で担当者が手続きを効率化できる
- 法的判断や労務相談が必要な場面はカバーできない
どちらが合うかは会社の規模・入退社の頻度・担当者のスキルによる。「手続きを誰かに任せて完全に手放したい」なら社労士への外注、「自社の担当者が楽に手続きできる仕組みを作りたい」ならクラウドツールが合う。