「社労士と顧問契約を結びたいが、毎月いくら払うことになるのか見当がつかない」という経営者は多い。社労士事務所のサイトには「従業員数・業務内容による」と書かれていることが多く、問い合わせる前に相場感を掴みたい人向けに、費用の全体像を整理する。
結論から言うと、従業員10〜20人の中小企業であれば月額3.5万〜5万円が相場の目安になる。ただし月額顧問料だけが費用ではなく、就業規則の作成・年次業務・給与計算などが別途かかる構造を理解していないと、予算が狂う。
社労士との顧問契約で何ができるか
費用が高いか安いかを判断するには、まず「社労士に何を頼めるか」を把握する必要がある。
手続き代行の範囲
社労士に依頼できる手続きは主に以下の4種類だ。
- 入退社時の社会保険・雇用保険の手続き
- 傷病手当金・育児休業給付金の申請
- 労働保険の年度更新(毎年6〜7月)・社会保険の算定基礎届(毎年7月)
- 給与計算(多くの場合、別途契約が必要)
従業員の入退社が月1〜2件以上ある会社では、この手続き代行だけで月額顧問料に見合う効果が出やすい。手続きミスは後から修正が大変で、年金事務所への書類再提出や遡及修正に数ヶ月かかるケースもある。
労務相談で頼れること
- 就業規則の作成・変更
- 残業代・休日出勤の計算方法の確認
- 問題社員への対応(解雇・退職勧奨)
- ハラスメントが発生した際の対処方法
労務トラブルは対応を誤ると、未払い賃金の請求や労働審判に発展することがある。特に解雇や退職勧奨は手順を間違えると会社側が不利になる。「何かあった時に相談できる専門家がいる」という安心感が顧問契約の最大の価値になる。
税理士との役割の違い
社労士と税理士は混同されやすいが、担当領域がまったく異なる。
| 比較項目 | 社労士 | 税理士 |
|---|---|---|
| 担当領域 | 労務・人事・社会保険 | 税務・決算・申告 |
| 主な相談内容 | 採用・解雇・残業問題 | 節税・確定申告・資金繰り |
| 手続き代行 | 社会保険・雇用保険 | 法人税・消費税の申告 |
| 費用発生タイミング | 月額(手続きごとでもOK) | 月額顧問料+決算費用 |
税理士は「お金の専門家」、社労士は「人と労務の専門家」という整理が分かりやすい。従業員がいる会社では両方が必要なケースがほとんどだ。
従業員数別・社労士顧問料の相場【2026年版】
月額顧問料は、従業員数に応じて段階的に設定されているのが一般的だ。
月額顧問料の目安
| 従業員数 | 月額顧問料の目安 | 含まれる業務の例 |
|---|---|---|
| 1〜5人 | 1.5万〜2.5万円 | 社会保険手続き、基本相談 |
| 6〜10人 | 2.5万〜3.5万円 | 上記+入退社手続き月2件程度 |
| 11〜20人 | 3.5万〜5万円 | 上記+育休・傷病手当対応 |
| 21〜30人 | 5万〜7万円 | 上記+就業規則の年次メンテ |
| 31〜50人 | 7万〜10万円 | 上記+複数担当者での対応 |
これらはあくまで全国的な目安。個別の事務所によって設定は異なり、同じ従業員数でも事務所の規模・得意分野・サービス範囲によって大きな幅がある。
地域・業種による差
地域差: 東京・大阪・名古屋など都市部の事務所は、地方に比べて10〜20%程度高くなる傾向がある。地方でも大手事務所のオンライン対応が使えるようになってきたため、必ずしも地元の事務所に限定する必要はない。
業種差: 飲食・介護・建設は手続きの複雑さから料金が高くなることが多い。
- 飲食業:シフト変動が多く、入退社頻度が高い。深夜割増・アルバイトの社会保険加入判定など、処理件数が増えやすい
- 介護業:処遇改善加算の申請や、介護職員の資格関連手続きが発生する
- 建設業:工事ごとの労災保険の扱い、一人親方との関係整理など、専門知識が必要
月額以外に発生するコスト5項目
月額顧問料だけを見ていると、最終的な費用が想定外に膨らむことがある。契約前に以下の5項目を確認しておく。
1. 就業規則の作成・改定
就業規則の新規作成は10万〜30万円が相場。事務所の規模や業種の複雑さによって幅がある。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成と届出が法律上の義務となっている(支店・店舗ごとに判断が必要)。
既存規則の改定は法改正への対応や内容変更の程度によって5万〜10万円前後が目安。顧問契約の開始時に「就業規則の整備も一緒に」と依頼するケースが多く、その場合はパッケージ価格になることもある。
2. 助成金申請の成功報酬
雇用関係の助成金(キャリアアップ助成金など)の申請代行をした場合、受給額の20〜30%を成功報酬として請求する事務所が多い。受給前の費用はゼロで、受給できた場合だけ報酬が発生する仕組みだ。
助成金の金額によっては報酬も大きくなる。受給額が数十万円規模になる助成金では、報酬も相応に大きくなる。事前に報酬率と対象助成金の種類を確認しておく。
3. 年次業務(年度更新・算定基礎届)
- 労働保険の年度更新(6〜7月):加算費用1万〜2万円
- 社会保険の算定基礎届(7月):加算費用1万〜2万円
これらは毎年発生する手続きで、月額顧問料に含まれているか別途請求かは事務所によって異なる。どちらが適用されるか、契約前に必ず確認する。
4. 給与計算の費用
給与計算は顧問料と別で月額1万〜3万円(従業員数による)が一般的。手続き代行契約には含まれないことが多い。毎月の業務量が増えるため、別建ての費用設定になっている。
5. 労働審判・労基署対応への対応費用
労働審判への対応(事業主側の代理人的な動きは弁護士の専管事項だが、社労士は事実確認や書類整備を補助できる)や、労働基準監督署の調査への同行は、顧問料とは別に費用が発生するケースがある。契約前に対応範囲を確認しておく。
費用対効果が出るケースと出ないケース
月額2万〜7万円の顧問料が「高いか安いか」は、会社の状況によって変わる。
費用対効果が出やすい会社
採用・退職の頻度が高い会社
従業員の入退社が月1〜2件以上ある会社は、社会保険の手続きだけで顧問料に見合う効果が出やすい。入退社1件あたりの手続きをスポットで依頼すると1〜2万円程度かかることもあるため、件数が多い会社ほど顧問契約の方がコスト効率がよくなる。
労務リスクが高い業種
飲食・介護・運送・建設など、残業・休日出勤・シフト管理が複雑な業種は、知らないうちに労働基準法違反になっていることがある。顧問社労士がいれば、定期的なチェックで問題が大きくなる前に発見できる。
育休・産休の手続きが年に複数回ある会社
育児休業給付金などの申請は手順が複雑で、ミスすると従業員に不利益が出る。手続きを代行してもらうだけで顧問料の元が取れるケースが多い。
過去に労務トラブルを経験した会社
一度でも未払い賃金の請求や解雇トラブルを経験した会社は、再発防止のために顧問契約を結ぶ価値がある。トラブル発生後に社労士を探しても、関係構築に時間がかかる。
費用対効果が出にくい会社
従業員5人以下で動きがほぼない会社
年に数回の手続きと、特に相談もない状態なら、月額2万円の顧問契約はコストが見合わないことがある。スポット依頼(1件いくら)で十分なケースが多い。
採用・退職がほぼゼロの安定した構成の会社
ほぼ同じメンバーで何年も動いていて、労務的な変化がない会社は、オンラインサービスやスポット対応の方が合理的なことがある。
判断基準の目安
「月1回以上、手続きか相談が発生しているか」を基準にするとよい。それ以下の頻度であれば、まずスポット依頼で試して、頻度が増えてきたら顧問契約に移行する判断も現実的だ。
社労士・オンライン代行・BPOを比較する
社労士への顧問契約だけが選択肢ではない。会社の状況に応じて3つの選択肢から選ぶのが現実的だ。
費用・機能・向き不向きの比較
| 比較項目 | 社労士(顧問契約) | オンライン手続き代行 | バックオフィスBPO |
|---|---|---|---|
| 月額費用の目安 | 2万〜7万円 | 1万〜3万円 | 3万〜10万円 |
| 労務専門の深さ | ◎(有資格者) | △(一般スタッフ) | △(担当者による) |
| 手続き代行 | ○ | ○ | ○ |
| 労務トラブル対応 | ◎ | × | △ |
| 給与計算のセット | △(別途費用が多い) | ○(セットが多い) | ○ |
| 対面・電話相談 | ○ | × | △ |
| 労基署調査への同行 | ○ | × | × |
どれを選ぶかの判断フロー
オンライン手続き代行が合うケース
社会保険・雇用保険の手続きだけ外注したい、相談はそれほど頻繁にしない、コストをできるだけ抑えたい、という会社向け。月1万円台から使えるサービスもあり、手続き中心であれば実用的な選択肢だ。ただし、労務トラブルが発生した時の対応力は社労士に劣るため、「問題が起きてから相談しようとしたら対応範囲外だった」というリスクがある。
バックオフィスBPOが合うケース
経理・総務・労務をまとめて外注したい場合はBPOが選択肢になる。ただし労務専門の深さは社労士に及ばないことが多く、労務リスクが高い業種には向かない。
社労士顧問契約が合うケース
採用・退職が頻繁、労務リスクが高い業種、労務トラブルの経験があるなど、専門的な判断が必要な状況がある会社には社労士との直接契約が最も安心だ。
業務委託先で見た「社労士選びの失敗パターン」3つ
業務効率化に特化したエンジニアとして複数の中小企業に関わる中で、社労士との顧問契約で失敗したケースを3パターン見てきた。参考にしてほしい。
失敗パターン1:月額だけで選んで、年間コストが想定の2倍になった
月額1.5万円の格安事務所を選んだ会社が、就業規則作成(18万円)・年度更新加算(2万円)・助成金成功報酬(30万円)で、年間の総支払いが想定の2倍になったケース。月額の安さだけを見て比較すると、トータルコストが見えない。
失敗パターン2:担当者のレスポンスが遅すぎて、入退社のタイミングに間に合わなかった
「問い合わせから回答まで3〜5営業日かかる」という事務所と契約した会社で、急ぎの入社手続きが期日に間に合わず、保険証の発行が1ヶ月遅れたケース。レスポンス速度は契約前の問い合わせで確認するのが一番確実だ。
失敗パターン3:「何でも相談できる」と言われたが、実際は手続き代行がメインだった
契約して初めて「労務トラブルの相談には別途費用が発生する」と分かった会社のケース。契約書に相談対応の範囲が明記されていなかった。事前に「想定されるトラブル事例で相談した場合、追加費用はかかるか」と確認することで防げる。
選ぶ前のチェックリストと面談で聞くべき5つの質問
選ぶ前の確認項目
業種経験
- 自社と同業種の顧問先がいるか
- 業種特有の労務問題(飲食の深夜手当、建設の工事台帳管理)に精通しているか
担当者の体制
- 担当者1人が何社を担当しているか(30社以上は対応が遅れやすい傾向がある)
- 担当者が変わる場合の引き継ぎ体制があるか
トラブル対応実績
- 未払い賃金請求・労働審判の対応経験はあるか
- 労働基準監督署の調査に同行・代理できるか
費用の透明性
- 月額に何が含まれていて、何が別途請求か
- 年次業務(年度更新・算定基礎届)は月額に含まれるか
面談で必ず聞く5つの質問
無料相談や面談の前に、この5つを質問リストとして準備する。
- 「同業種の顧問先は何社ありますか」 — 業種経験を間接的に確認できる
- 「月の相談回数に上限はありますか」 — 「相談し放題」でも実質的に応答が遅くなるケースがある。上限設定と超えた場合の対応を確認する
- 「労働基準監督署の調査対応はできますか」 — できない場合は別途弁護士費用が発生することがある
- 「担当者が変わる場合の連絡はありますか」 — 大きな事務所では異動・退職がある。引き継ぎ体制を確認する
- 「契約解除の手続きと期間はどうなっていますか」 — 合わないと判断した時にスムーズに切り替えられるかの確認にもなる
大手サイトが書かない本音
社労士比較サイトや記事は「どの事務所も安心して任せられる」と書く傾向がある。実態として、月額1.5万〜2.5万円の格安契約では「手続き代行のみ」で、込み入った相談への対応は別費用になるケースが多い。
「顧問料が安い=コスパが良い」ではなく、「自社の手続き頻度・リスクレベルに見合ったサービス範囲が確保できているか」で比較する方が正確だ。
特に従業員の入退社が多い会社、育休・産休対応が年に複数回ある会社は、月額2,000〜3,000円の差より対応力の差の方が実害になりやすい。
まとめ:社労士への投資判断の基準
社労士の顧問料は従業員数によって異なるが、従業員10〜30人の中小企業であれば月額3.5万〜7万円が相場の目安になる。
選ぶ際のポイントをまとめると:
- 月額だけでなくトータルコストで比較する — 就業規則作成(10〜20万)・年次業務加算(年2〜4万)・給与計算追加費用(月1〜3万)を月額に足して年間コストを試算する
- 手続き頻度と相談頻度で適切な選択肢を選ぶ — 月1回以上の手続きまたは相談があるなら顧問契約が合理的。それ以下ならオンラインサービスやスポット依頼でよい
- 業種経験・レスポンス速度・トラブル対応力の3点を面談で確認する — 月額が同じでも、この3点の差が実際の体験に直結する
- 契約範囲を書面で明確にする — 「何でも相談できる」は口頭の説明で、契約書に対応範囲が書かれていないことがある
労務の外注全体を整理したい場合は、労務管理を丸ごと外注する方法|社労士・BPO・オンラインアシスタントを比較も参考にしてほしい。