事務・バックオフィス効率化

中小企業の就業規則の作り方|費用を抑えて整備する3つの方法

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

「就業規則、まだ作っていないんです」と相談を受けることがある。話を聞いていると、「義務になるのは10人からだと思っていた」「社労士に頼むと高そうで後回しにしていた」というパターンが多い。

就業規則は後回しにするほど、トラブルが起きたときのリスクが大きくなる。逆に言えば、早く整備しておくと「証拠能力のあるルール」が会社に残り、後々の余計な揉め事が減る。

この記事では、中小企業が就業規則を整備する3つの方法(自作・社労士依頼・スポット改定)の費用相場と実態を具体的に解説する。2025年施行の育児介護休業法改正への対応ポイントも含めた。

就業規則の作成義務と「10人の壁」

就業規則を作成・届出する義務は、常時10人以上の従業員を雇用している事業所に発生する(労働基準法第89条)。義務に違反した場合は30万円以下の罰金が課される(労働基準法第120条)。

ただし、「10人以上」の数え方を誤解している経営者が意外と多い。

「10人」のカウント方法

カウントに含まれるもの カウントの考え方
正社員 含める
パート・アルバイト 含める(週数時間勤務でも同様)
契約社員・派遣社員(自社直接雇用のみ) 含める
産休・育休中の社員 含める(在籍している)
単位 会社全体ではなく事業所単位でカウントする

本社と支店が別々の事業所として機能している場合、それぞれで10人を超えていなければ法的義務は生じない。ただし、「合計で10人超えているから作らなければ」と勘違いして慌てるケースも見てきた。

10人未満でも就業規則を作るべき理由

法的義務がない規模でも、就業規則のない状態が続くと問題が起きやすい。

僕が実際に見てきたケースで言うと、従業員5〜6人の会社で「遅刻・無断欠勤を繰り返す社員を解雇したいが根拠がない」という相談が来ることがある。就業規則に懲戒事由の規定がなければ、解雇理由の証明が難しくなる。「解雇するのに証拠がいるとは思わなかった」と経営者が後悔するパターンだ。

採用が本格化するタイミング、つまり従業員が5〜6人になった段階で整備しておくのが現実的だと思っている。

就業規則に記載すべき内容(2025年法改正対応)

就業規則には「必ず記載する事項」と「制度がある場合だけ記載する事項」の2種類がある。

絶対的必要記載事項(全社共通)

以下3項目は、内容の有無に関わらず必ず記載が必要だ。

  • 労働時間・休日・休暇に関する事項:始業・終業時刻、休憩時間、休日日数、有給休暇、シフト交替のある場合の転換方式
  • 賃金に関する事項:賃金の計算・支払方法、締切日と支払日、昇給の扱い
  • 退職に関する事項:自己都合退職の手続き、定年制度、解雇の事由と手続き

相対的必要記載事項(制度がある会社のみ)

退職金・賞与・表彰・懲戒(制裁)などを設けている場合は記載が必要。制度がなければ記載しなくてもよい。

2025年育児介護休業法改正への対応

2025年4月1日施行の改正育児介護休業法により、就業規則の見直しが必要になった会社は多い。主な変更点は次のとおりだ。

改正内容 施行日 就業規則への影響
子の看護等休暇の対象拡大(小学校3年生修了まで) 2025年4月1日 取得対象・取得理由の見直しが必要
育児期の残業免除対象を就学前まで拡大 2025年4月1日 残業制限規定の年齢要件の更新
育児期の柔軟な働き方への措置義務化 2025年4月1日 テレワーク・時短等の規定追加が必要な場合あり
介護中の社員へのテレワーク選択肢の整備(努力義務) 2025年4月1日 テレワーク規定の確認が推奨

5年以上前に作成した就業規則をそのまま使っている会社は、上記の対応ができていない可能性が高い。育児介護休業法の改正は2025年だけでなく、過去数年間にも複数回行われているため、「5年以上前のまま」なら一度レビューしてほしい。

就業規則を整備する3つの方法と費用相場の比較

概要比較

方法 費用の目安 所要時間 向いているケース
自作(モデル就業規則活用) ほぼ0円(担当者の作業時間のみ) 10〜20時間 初めて整備する小規模会社、雇用形態がシンプル
社労士への新規作成依頼 10万〜30万円 2〜6週間 複数の雇用形態あり、労務リスクが高い、法令に沿った精度が必要
スポット改定依頼 3万〜10万円 1〜3週間 既存の就業規則がある、法改正への対応だけが目的

方法1:厚生労働省のモデル就業規則で自作する

費用:ほぼ0円(担当者の作業時間のみ)

厚生労働省が「モデル就業規則」のWord版を無料で公開しており、ダウンロードして自社用に編集できる。14章構成で、採用・勤務・賃金・休暇・懲戒の基本的な規定が揃っている。

ただし、テンプレートをそのまま届け出るのは危険だ。

勤務時間・試用期間の長さ・副業の可否・賞与の有無など、自社の実態と合わない箇所を必ず修正する必要がある。数字や条件が空欄のまま、あるいはデフォルト値のまま届け出ると、実態と乖離した規則になり、労使トラブル時に会社側が不利になる可能性がある。

向いている会社

  • 従業員10〜15人程度で、雇用形態がシンプル(正社員のみなど)
  • 経営者か担当者が労務の基礎知識を持っている
  • まず形を作ることを優先したい段階

方法2:社労士に新規作成を依頼する

費用:10万〜30万円程度

社会保険労務士(社労士)は、就業規則の作成・届出を業として行える国家資格者だ。自社の労働条件や雇用形態をヒアリングした上で、法令に準拠した内容を作成してもらえる。

費用は会社の規模と雇用形態の複雑さによって大きく変わる。

会社の状況 費用の目安
従業員10〜20人・正社員のみのシンプルな構成 10万〜15万円
従業員20〜50人・複数の雇用形態が混在 15万〜30万円
懲戒規程・副業規程・テレワーク規程を別途整備 30万円以上になることも
顧問契約とセットで依頼する場合 別途月額顧問料(1万〜5万円)が発生

社労士費用は事務所によってかなりの差がある。「就業規則の新規作成だけ10万円で対応します」というスポット対応型の事務所もあれば、「顧問契約が前提」という方針の事務所もある。依頼前に「スポット対応か顧問契約が前提か」を確認することが重要だ。

向いている会社

  • 就業規則が全くない状態から整備したい
  • パート・契約社員・正社員など複数の雇用形態が混在している
  • 残業代トラブル・解雇問題など、労務上のリスクが現実に発生している
  • 2025年の育介法改正も含めて精度高く対応したい

方法3:既存規則のスポット改定を依頼する

費用:3万〜10万円程度

すでに何らかの就業規則がある会社が、内容の一部見直しや法改正対応を依頼する方法だ。新規作成よりも費用が抑えられる。

近年は育児介護休業法・パワハラ防止法・フレックスタイム制の法改正が続いており、5年以上前の就業規則をそのまま使っている会社は要対応だ。スポット対応に特化した社労士事務所や、オンライン対応のサービスが増えており、以前より依頼しやすい環境になってきた。

向いている会社

  • 以前作成した就業規則が5年以上更新されていない
  • 法改正への部分対応だけを外注したい
  • 費用を最小限に抑えたい

どの方法を選ぶか——状況別の判断基準

会社の状況 推奨する方法 理由
就業規則がない、従業員10人未満 自作(モデル就業規則) 費用をかけずに形を作ることを優先
就業規則がない、従業員が10人を超えた 社労士依頼(新規作成) 法的義務が生じているため精度が必要
就業規則はあるが5年以上更新していない スポット改定 育介法改正など最低限の対応が必要
残業・解雇などのトラブルが現実に起きている 社労士依頼(顧問も含めて検討) 相談対応・証拠整理を含めて依頼する
複数の雇用形態が混在している 社労士依頼(新規作成) 雇用形態ごとの規定が必要になる
費用が予算的に厳しい 自作→社労士確認 自作で形を作り、後日社労士にレビューしてもらう

業務効率化に特化したエンジニアとして様々な中小企業の現場を見てきた僕の感覚で言うと、「社労士に頼もうと思っていたが後回しにしている」という会社は、だいたい従業員10〜20人の規模だ。この規模になると就業規則の義務が生じていることが多く、しかし費用感が見えないために動けずにいる。

判断の軸はシンプルだ。「今、労務トラブルが起きたとして、会社として根拠を示せるか」が確認できる状態なら現状維持もあり得る。示せないなら、整備を急いだ方がいい。

就業規則の作成から届出・周知までの手順

5ステップ

Step 1:現状の労働条件を書き出す

まず自社の実態——始業・終業時刻、休日日数、有給休暇の付与タイミング、残業代の計算方法——を整理する。就業規則は実態に合っていなければ意味がない。実態と乖離したルールは、トラブルが起きた時に逆に会社側の不利になる。

Step 2:就業規則を作成する

厚生労働省のモデル就業規則をベースに自社用に編集するか、社労士に依頼して作成する。自作の場合、最低でも「始業・終業時刻・休日・有給・賃金・退職」の6項目は具体的な数字と条件を明記すること。

Step 3:従業員代表から意見書を取得する

就業規則の届出には、労働者の過半数を代表する者からの「意見書」が必要だ。同意が必要なわけではなく「意見を聴いた」という記録があればよい。

Step 4:労働基準監督署に届け出る

「就業規則」「就業規則届」「意見書」の3点を各2部用意して、所轄の労働基準監督署に提出する。1部は受付印をもらって会社保管にする。郵送・窓口・電子申請(e-Gov)のいずれでも対応できる。e-Govを使えばオンラインで完結するため、時間のない経営者には電子申請が現実的だ。

Step 5:従業員に周知する

作成・届出が完了したら、全従業員が確認できる状態にする義務がある(労働基準法第106条)。社内掲示・冊子配布・社内共有フォルダへの格納など、方法は問わない。「存在は知っているが、内容を一度も読んだことがない」という状態では周知義務を果たしたとは言いにくいため、入社時の説明や勉強会と組み合わせることを推奨する。

社労士への依頼時に確認すべき3つのポイント

就業規則の作成を社労士に依頼する際、事前に確認しておくと後でトラブルが少なくなることがある。僕が実際にやり取りを見てきた経験から言うと、以下の3点は必ず聞いておいたほうがいい。

ポイント1:スポット依頼と顧問契約の違いを確認する

「就業規則の新規作成だけをお願いしたい」という依頼に対して、顧問契約への加入を前提として費用を提示してくる事務所がある。スポット依頼なのか、顧問契約とのセットなのかを事前に明確にしてほしい。顧問料は月1万〜5万円程度が相場で、長期的には大きなコストになる。

ポイント2:「何回の修正・ヒアリングが含まれるか」を確認する

費用の中に含まれるヒアリング回数と修正回数を確認する。社労士事務所によっては「1回ヒアリングして初稿を提出、修正は1回まで」という設定があり、追加修正は別途費用が発生する場合がある。

ポイント3:2025年の法改正対応が含まれているか確認する

依頼先の事務所が2025年施行の育児介護休業法改正に対応したテンプレートを持っているかを確認する。まだ対応していない事務所もゼロではない。「育介法の2025年改正に対応した内容で作成してほしい」と明示して発注することを推奨する。

社労士費用や選び方の詳細については社労士の顧問料はいくら?中小企業向け費用相場と失敗しない選び方にまとめているので参考にしてほしい。

まとめ

就業規則の整備は後回しにするほどリスクが積み上がる。

  • 従業員が常時10人以上いる事業所では法的義務が生じる(違反は30万円以下の罰金)
  • 10人未満でも整備しておかないと、労務トラブル時に会社側が根拠を持てない
  • 費用は自作なら0円、スポット改定は3万〜10万円、新規作成依頼は10万〜30万円が相場
  • 2025年の育児介護休業法改正により、既存の就業規則を見直す必要のある会社が多い

最初のステップは、「自社の今の就業規則が実態に合っているか」を確認することだ。厚生労働省のモデル就業規則をダウンロードして、自社の現状と比べてみるだけでも、何を整備すべきかが見えてくる。

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