本音コラム

エンジニア採用の失敗を防ぐ4つの方法【2026年版】|中小企業向け代替手段

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

「そろそろエンジニアを1人採用しようかと思って」

業務効率化の支援をしていると、この言葉を経営者からよく聞く。社内にITに詳しい人がいない、業務がExcelと紙とメールで回っている、世の中が変わってきている。そう感じて「エンジニアを雇えば解決する」という結論に至るのは、自然な流れだ。

でも、エンジニアである僕から先に言わせてほしい。

フルタイムのエンジニア採用は、最後の手段だ。

採用の前に試すべき方法が4つある。この記事では、採用に踏み切る前に必ず検討してほしい代替手段と、「それでも採用が必要」な場合の判断基準を、エンジニアの本音で書く。

エンジニア採用が中小企業にとって「難しい」4つの構造的な理由

まず現実の話をする。

経済産業省の調査によると、2030年には最大約79万人のIT人材が不足すると予測されている。これはIT業界全体の問題だが、大企業がエンジニアを高給と充実した環境で囲い込んでいる分、中小企業への影響は大きい。

エンジニアの新規求人倍率は、全職種平均の約2〜3倍の水準が続いている。求人を出しても応募が集まらない、という構造的な問題がある。

それだけではない。中小企業がエンジニア採用で直面する壁は4つある。

理由1:腕のいいエンジニアは中小企業に来ない

腕のいいエンジニアの立場で考えてほしい。

  • 社内にエンジニアが自分1人だけ。技術的な相談相手がいない
  • 何を作ればいいかも自分で考えないといけない
  • 開発環境もゼロから自分で整える
  • 評価する人がITを分からないので、自分の仕事が正しく評価されるか不安
  • 給与水準が大企業・IT企業に比べて低くなりやすい

この環境に「入りたい」と思うエンジニアは少ない。IT企業なら先輩エンジニアがいて、技術的な成長環境がある。中小企業の一人目エンジニアは孤独だ。

僕自身、複数の中小企業から「一人目のエンジニアとして来てほしい」という打診を受けたことがある。正直に言うと、飛び込む決断は難しかった。腕があるほど他の選択肢がある。だから良い人が来ないのは、採用力の問題だけではなく、環境の構造的な問題だ。

理由2:採用コストが想定より大きい

中途採用では、採用代行や求人媒体を使う場合、成功報酬型で「内定者年収の20〜35%」が相場だ。エンジニアの年収が600万円なら、採用費用だけで120〜210万円かかる計算になる。

さらに入社後のPC・ソフトウェア・研修コストが加わる。実質的な採用コストは、表面上の費用より大きくなる。

理由3:入社まで平均3〜6ヶ月かかる

求人を出してから内定・入社まで、平均で3〜6ヶ月かかる。業務が止まっている状況で、3〜6ヶ月待てない会社がほとんどだ。急いで採用しようとすると選考基準が甘くなり、ミスマッチが起きやすくなる。

理由4:採用できても3年以内に辞めるリスクがある

中小企業の中途採用では、3年以内に退職するケースが約30%あるとされている。採用コストをかけて育てても、退職すれば再び採用コストが発生するサイクルに入る。

問題 中小企業への影響
IT人材不足(2030年に最大79万人不足予測) 採用競争で大企業・IT企業に負けやすい
エンジニアが孤立しやすい環境 腕のいい人材が来てくれない
採用費用が内定者年収の20〜35% 小規模企業には重い初期投資になる
採用から入社まで平均3〜6ヶ月 業務の停滞が長期化する
中小企業の3年以内離職率が約30% 採用コストが繰り返し発生するリスク

エンジニアを採用しても解決しない3つの問題

仮に採用できたとして、次の壁が待っている。

問題1:「何を作るか」が決まっていない

エンジニアは「技術で問題を解決する人」だ。でも、その前に「何が問題なのか」「何を改善したいのか」が明確でないと、エンジニアも動けない。

「うちの業務を効率化してほしい」と言われても、エンジニアに分かるのは技術のことだけだ。経理の業務フロー、営業の困りごと、現場の実態は、現場の人間しか知らない。「何をやるか」を決めるのは経営者と現場の仕事で、エンジニアは「どうやって作るか」を担当する人間だ。

ここを勘違いして採用した結果、「エンジニアを雇ったけど、半年経っても何も変わらなかった」という話を複数回聞いてきた。採用コストをかけたのに、成果が出ないまま離職される最悪のパターンだ。

問題2:SaaSで解決できる課題にエンジニアを使おうとしている

月額数千円〜数万円で使えるクラウドサービスが今や山ほどある。フルタイムで月40〜60万円かけてエンジニアを雇わなくても、既存のSaaSで解決できる課題が実は多い。

「社内のデータ管理を改善したい」→ NotionやGoogleスプレッドシートで解決できる。

「顧客情報を一元管理したい」→ HubSpotの無料プランから始められる。

「経理の手間を減らしたい」→ freeeやマネーフォワードで自動化できる。

「問い合わせの対応漏れをなくしたい」→ チャットツール+管理シートで対応できる。

これらのツールを使いこなすのに、エンジニアは必要ない。

問題3:「社内のなんでも屋」になってエンジニアが疲弊する

IT担当がいない中小企業に一人目のエンジニアが入ると、ほぼ確実に「なんでも屋」になる。Excelの関数の修正、社内Wi-Fiのトラブル対応、ホームページの文章変更、社員のPC初期設定……。これらは本来のエンジニアの仕事ではない。

「来てほしかった仕事」と「実際にやる仕事」のギャップが大きく、優秀なエンジニアほど疲弊して辞めていく。採用コストをかけて育てた人材が1〜2年で辞めてしまうパターンは、業務効率化の支援をしていると何度も見てきた。

フルタイム採用の前に試すべき4つの代替手段

エンジニアをフルタイムで採用する前に、必ず以下の4つを順番に検討してほしい。

方法1:まずSaaSで解決できないかを確認する

「エンジニアが必要」と感じる課題の多くは、既存のSaaSで解決できる。具体的に整理すると以下のようになる。

業務の課題 解決できるSaaSの例 月額費用の目安
経理・会計・請求書処理 freee、マネーフォワード 3,000〜8,000円
顧客情報・営業管理 HubSpot(無料プランあり)、Salesforce 無料〜5,000円
プロジェクト・タスク管理 Notion、Backlog 無料〜2,000円/人
社内コミュニケーション Slack、Chatwork 無料〜1,500円/人
文書の電子化・電子署名 クラウドサイン、弁護士ドットコムクラウドサイン 1,000〜5,000円
議事録の自動作成 Notta、Otter.ai 無料〜3,000円
勤怠管理 ジョブカン、freee人事労務 300〜500円/人
問い合わせ管理 HubSpot、Zendesk(無料プランあり) 無料〜数千円

自社では月3.5万円のクラウドツール代(ChatGPT Plus・クラウド会計・ストレージ等)で、経理・請求処理・コンテンツ制作・顧客対応を全部回している。エンジニアは1人も雇っていないが、これだけの業務が動いている。

月40〜60万円のエンジニアを採用する前に、月3〜5万円のSaaS費用で解決できないかを先に確認することが、費用対効果の面で合理的だ。業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説でも書いたが、まず既存ツールで解決できる範囲を確認してから次の手段を考える順番が正しい。

方法2:「何に困っているか」を言語化する

エンジニアに頼む前に、自分たちで「何に困っているか」を言葉と数字にしておく。この作業をするかしないかで、その後の対応速度が大幅に変わる。

書き出す形式は具体的であるほどいい。以下のレベルまで落とし込む。

  • 「毎月末の請求書処理に、担当者1人が丸2日かかっている」
  • 「営業担当が変わるたびに顧客情報がリセットされる。口頭での引き継ぎが中心で、平均3週間のロスが発生している」
  • 「問い合わせ対応のステータスが誰にも見えない。同じ問い合わせに二重で返信することが月に2〜3件ある」

このレベルまで書き出せれば、「エンジニアが必要なのか」「SaaSで解決できるのか」「外注で対応できるのか」の判断ができる。逆にこれがないまま採用を進めると、入社してからのヒアリングが始まり、3ヶ月経っても動き出せないという事態になりやすい。

言語化の作業は、社内の担当者に「先週一番時間がかかった作業を1つ書いて」と聞くだけでいい。難しく考えなくていい。外注・ツール・採用、どれが正解?バックオフィスの人手不足を解消する3つの方法でも業務課題の整理について書いているので、合わせて参考にしてほしい。

方法3:副業エンジニアを活用する

中小企業にフルタイムで来てくれる腕のいいエンジニアを探すのは難しいが、副業なら話が変わる。

IT企業に本業として所属しているエンジニアが、週に数時間〜十数時間、中小企業の課題を解決するケースは最近かなり増えている。2018年以降の副業解禁の流れを受けて、優秀なエンジニアが副業で稼ぐことが一般的になった。

副業エンジニアの費用相場は、時給2,000〜5,000円程度だ。月20時間稼働なら月額4〜10万円。フルタイムで月40〜60万円払うより、はるかに安い。

副業エンジニアの主なメリットは以下の通りだ。

  • 腕のいいエンジニアに依頼できる:フルタイムでは来てくれない人が、副業なら受けてくれることが多い。IT企業で日々アウトプットを出している人材にアクセスできる
  • トータルコストが抑えられる:月4〜20万円の範囲で専門知識を活用できる
  • 必要な時だけ稼働できる:毎日フルタイムで必要なほどの業務量がない場合、副業エンジニアの方が費用対効果が良い
  • リスクが低い:合わなければ契約更新しなければいい。正社員採用のように、解雇の手続きを踏む必要がない

副業エンジニアを探す方法としては、クラウドソーシングサービス(ランサーズ、クラウドワークス)や、副業専門のマッチングサービス(Workship、SOKUDAN、Offers等)がある。

依頼するときは「何をやってほしいか」を明確にしておくことが重要だ。「業務改善全般をお願いしたい」では誰も応募してこない。「Googleスプレッドシートで管理している受注データをfreeeと連携させて、請求書発行を半自動化する。期間は2ヶ月」という形で依頼するほど、良い人材が集まりやすい。

方法4:業務委託(外注)する

特定の開発案件が発生した場合は、フリーランスエンジニアまたは開発会社への外注も選択肢だ。

業務委託の場合、プロジェクトの規模に応じてスポット対応してもらえる。小規模な自動化やツール設定なら10〜30万円、本格的なシステム改修なら50万円以上になる。契約期間も柔軟で、プロジェクトが終わればそこで終わりにできる。正社員採用と違い、解雇の問題が発生しない。

外注で失敗しないポイントは「要件定義をしっかりやること」だ。「こういう機能が欲しい」という要件を曖昧にしたまま発注すると、完成したものが想定と違う、追加費用が発生する、という問題が起きやすい。システム開発の外注で失敗するパターンと回避策にも詳しくまとめているので、外注を検討している場合は先に読んでほしい。

選択肢ごとのコスト・スピード・リスクの比較

4つの代替手段とフルタイム採用を比較する。

手段 月額コスト 動き始めるまでの期間 主なメリット 主なリスク
SaaSツール導入 数千〜数万円 即日〜1週間 最も安く、最も速い 業務フローに合わない場合がある
副業エンジニア 4〜20万円 1〜3週間 腕のいい人材に安くアクセスできる 稼働時間が月20〜40時間程度が上限
業務委託(外注) 案件ごと10〜50万円 2〜4週間 スポット対応可能・リスク低い 要件定義が不十分だと失敗しやすい
フリーランス常駐 40〜80万円/月 2〜4週間 専任で動いてもらえる 費用が高く品質にばらつきがある
フルタイム正社員採用 40〜60万円/月(給与のみ) 3〜6ヶ月 社内に知見が蓄積される 採用コスト120〜210万円・即戦力にならない・離職リスク

この表を見ると、フルタイム採用のコストと時間がいかに大きいかが分かる。月40〜60万円の月額は、年間480〜720万円になる。同じ予算でSaaSと副業エンジニアを組み合わせると、かなり多くのことができる。

「どれが正しい手段か」は会社の状況によって変わるが、上の表を順番に検討して、フルタイム採用は本当に必要な場合だけ選ぶ、というのが基本的な考え方だ。

エンジニアをフルタイムで採用すべき3つの条件

ここまで「採用しない方がいい」という話をしてきたが、採用すべきケースも確かにある。ただし条件は明確だ。

条件1:技術が事業の中心にある

自社プロダクトを開発して、そのプロダクト自体が事業の核になる場合は、エンジニアをフルタイムで採用すべきだ。「システムが動いていること」「プロダクトが進化し続けること」が売上に直結するビジネスモデルなら、エンジニアは事業の根幹を担う。

逆に「バックオフィスを効率化したい」「社内ツールを導入・運用したい」という目的なら、この条件には該当しない。

条件2:副業・外注では量が足りない

常時、月100時間以上の開発業務が発生している場合は、フルタイム採用が合理的になってくる。副業エンジニアの月稼働時間は現実的には20〜40時間程度が上限だ。それ以上が継続的に必要なら、フルタイムの方が費用対効果が良くなる。

条件3:技術的な意思決定を社内でスピーディに行う必要がある

開発のスピードが競争力に直結する事業では、外注・副業だと意思決定のスピードが落ちる。「今週中にこの仕様で動かしたい」「明日朝までにリリースしたい」というサイクルで動く場合、社内にエンジニアがいないと競合に後れを取る。

これらの3条件に当てはまらない場合——バックオフィスの効率化、社内ツールの整備、Webサイトの更新程度——は、フルタイム採用は不要だ。

採用に踏み切る場合:費用感と「選ばれる会社」になるために

3条件を満たして採用を決断した場合、費用の現実と採用を成功させるポイントを把握しておく必要がある。

採用にかかる費用の全体像

費用の種類 金額の目安
採用代行・求人媒体費用(成功報酬型) 内定者年収の20〜35%(年収600万円なら120〜210万円)
採用活動の期間 求人掲載から入社まで平均3〜6ヶ月
月額給与(経験3〜7年のエンジニア) 40〜60万円/月
法定福利費(社会保険等) 月額給与の約15%
PC・ソフトウェア・環境整備 初期10〜30万円
3年以内離職時の再採用コスト 再び120〜210万円

初年度だけで見ると、採用費用+月額給与12ヶ月分+法定福利費+環境整備で、実質700〜1,000万円規模の投資になる会社もある。この規模の投資に見合う成果が出るかどうかを、採用前に真剣に検討する必要がある。

「来てほしい」ではなく「来たい」と思わせる

中小企業がエンジニアを採用するには、「うちに来てください」という訴求だけでは難しい。エンジニアが「来たい」と感じる環境を整えることが先だ。

具体的に効果があるのは以下の取り組みだ。

  • 技術的な成長環境を示す:新しいことを試せる、学習費用を会社が負担する、技術選定に自由度がある
  • 副業・リモートワークを認める:エンジニアにとって重要な条件の一つになっている
  • 業務内容を具体的に明示する:「IT全般」ではなく「受発注管理システムの開発と運用」まで具体化する
  • 経営者が技術への敬意を持っている:「エンジニアが何をしているか理解しようとしている経営者」がいる会社は、エンジニアから見て魅力的に映る

採用が難しい場合の代替手段も含めた相談先の選び方は、業務効率化の相談はどこにすればいい?中小企業向けの相談先まとめにまとめているので、参考にしてほしい。

まとめ:「採用が先」ではなく「課題の特定が先」

エンジニア採用で失敗する会社に共通しているのは、「採用すること」が目的になってしまっていることだ。

採用はあくまで手段だ。解決したい課題があって、その課題をSaaS・副業・外注では対応できないと確認した上で、初めて採用という手段を選ぶ。

業務効率化に特化したエンジニアとして顧問先の支援をしてきて感じるのは、「エンジニアを雇う前にやれることがたくさんある」ということだ。月3.5万円のツール代で1人会社を運営しながら、月30本のコンテンツを制作・管理できている自社の状況が、その一例だ。エンジニアを雇わなくても、仕組みとツールの組み合わせでかなりの業務が回る。

「エンジニアを採用しようかな」と考え始めた段階で、まず以下の順番で確認してほしい。

  • 今の課題をSaaSで解決できないか(月数千〜数万円から試せる)
  • 「何に困っているか」を数字で言語化できているか
  • 副業エンジニアまたは外注で対応できないか(月4〜20万円の範囲で)
  • フルタイム採用の3条件(技術が事業の核・常時100時間以上の開発需要・スピードが競争力)を全て満たしているか

この4ステップを経た上で「採用が必要」と判断したなら、その判断は合理的だ。逆に、1〜2段階目で解決できるのに採用に踏み切ると、コストだけがかかって期待した変化が起きない、という結果になりやすい。

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