事務代行・外注

飲食店の経理は外注すべき?個人店オーナーのための経理ガイド

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

飲食店のオーナーと話すと、「経理は自分でやっています」という人が多い。理由を聞くと、「コストを抑えたい」「そこまで難しくないと思っていた」という答えが返ってくる。

でも現実はどうかというと、月末に帳簿が1〜2週間分たまっていたり、確定申告の直前に1年分のレシートを段ボール箱から掘り起こす作業をしていたりする。飲食店の経理は、一般的な会社の経理より構造的に手間がかかる。それを知らないまま「自分でできる」と思って始めると、後で修正が大変になる。

この記事では、飲食店の経理を外注すべきかどうかを、具体的な判断基準と費用感で整理する。「今の自分にどれが合うか」を判断できる状態になることがゴールだ。

飲食店の経理が他業種より手間がかかる5つの理由

まず前提として、飲食店の経理がなぜ特殊なのかを整理する。「経理って帳簿をつけるだけでしょ」という認識で始めると、半年後に痛い目を見る。

1. 毎日現金が動く

BtoB企業であれば、請求書を出して翌月末に入金が来るという流れが多い。日々のキャッシュの動きはシンプルになりやすい。

飲食店は違う。毎日レジで現金が入り、食材は現金で仕入れ、キャッシュレス決済の入金は数日後にずれてくる。これを日次で管理しないと、月末にまとめてやろうとしたときに収拾がつかなくなる。慣れた状態でも毎日の経理作業に1時間程度かかる。月末の帳簿締めは5〜6時間を見ておく必要がある。

2. キャッシュレス決済の照合が複雑になった

クレジットカード・PayPay・交通系ICカード……と決済手段が増えた結果、入金のタイミングがバラバラになっている。カード決済は2〜3営業日後の入金、QRコード決済は週次精算のサービスもある。経済産業省のデータでは、2024年のキャッシュレス決済比率は約40%まで上昇している。

これらを毎月照合するのは、慣れていないと非常に時間がかかる。どの決済が未入金なのか、手数料はどう処理するのか、が分からなくなりやすい。

3. 食材の仕入れと原価管理がある

飲食店の経費の中で最も大きいのが食材費だ。業態によって差はあるが、原価率は30〜40%が一般的な目安とされている。食材の仕入れレシートを日次で処理しないと、月末にどこで原価が膨らんだか分からなくなる。棚卸しの処理(月末在庫の計上)も、製造業と似た考え方が必要で、一般的な事務系の経理と少し違う。

4. インボイス制度への対応が必要

2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)の影響で、仕入れ先の適格事業者番号の管理が必要になっている。食材の仕入れ先が個人農家や小規模業者の場合、インボイス非登録事業者のケースもある。その場合の仕入れ税額控除の扱いも処理が複雑になる。

5. 飲食物の軽減税率(8%と10%)が混在する

食品は消費税8%、酒類と外食は10%という軽減税率の区分が、飲食店の仕訳を複雑にしている。テイクアウトと店内飲食が混在する業態では、同じメニューでも税率が変わるケースもある。この仕訳を間違えると、消費税の申告時に差額が出る。

自分でやる vs 外注する:判断チェックリスト

次の項目に当てはまるほど、外注を検討する優先度が高くなる。

チェック項目 当てはまるなら 優先度
月末に帳簿が1〜2週間分たまる 外注を検討
レシートを箱にまとめて入れている 外注を検討
確定申告の前に税務署から連絡が来たことがある 今すぐ外注 最高
インボイスの処理が正しいか自信がない 外注を検討
キャッシュレス決済を3種類以上使っている 外注を検討
スタッフを2人以上雇っていて給与計算もある 外注を検討
年間売上が1,000万円を超えている 外注を強く検討
経理に月10時間以上かけている ツール or 外注を検討

自分でやってもまだ大丈夫なケース:

  • 一人経営でスタッフがいない
  • 現金のみで運営していて取引がシンプル
  • クラウド会計ソフトに慣れていて毎日入力できている
  • 年間売上が500万円以下で取引量が少ない

あくまで目安だが、年商1,000万円を超えてきたあたりで外注の費用対効果が出てくることが多い。記帳代行サービスを選ぶ際の基準については、記帳代行は自分でやるべき?外注すべき?判断基準チェックリストにまとめているので参考にしてほしい。

外注先の3択と費用比較

飲食店が選べる外注の選択肢は大きく3つある。それぞれ費用・対応範囲・向いている会社のタイプが違う。

外注先 月額費用の目安 対応できること 向いている会社
税理士(顧問契約) 個人:1〜2万円+決算料 / 法人:3〜5万円+決算料 記帳代行・確定申告・税務相談・融資サポート・節税提案 年商1,000万円以上、融資や節税が必要
経理代行(記帳代行) 1〜2万円(取引量による) 日常の記帳・帳簿作成・月次報告 記帳だけ任せたい、確定申告は別途
クラウド会計ソフト(自分で) 1,000〜3,000円 自動仕訳・レポート作成・申告書類の下書き 開業初期、売上が少ない時期

税理士との顧問契約

税務の専門家に丸ごと任せる形だ。記帳代行・確定申告・税務相談がセットになっていることが多い。飲食店を専門に扱っている税理士事務所も増えており、食材の棚卸し処理やインボイス対応、軽減税率の仕訳なども含めてサポートしてもらえる。

費用の目安は、個人事業主で年商1,000万円以下であれば月1〜2万円が相場で、別途、決算料として月額顧問料の3〜6か月分程度がかかる。法人化していて年商2,000万円前後であれば月3〜5万円程度になる。

税理士に頼む最大のメリットは、融資・補助金の申請支援だ。開業時の日本政策金融公庫融資や、補助金申請の際に試算表・確定申告書が必要になるケースが多い。これらの書類を税理士と一緒に準備できるのは大きい。

経理代行サービス(記帳代行)

税理士ではなく、記帳作業に特化した代行サービスだ。日常の仕訳入力と帳簿作成に絞って依頼し、確定申告は自分で行うか別途税理士に依頼する。

費用の目安は月1〜2万円が中心で、取引量が多い場合はそれ以上になることもある。freeeやマネーフォワードと連携できるサービスが多く、POSレジのデータを連携することで入力作業を減らしながら記帳できる。freeeと連携できる経理代行についてはfreee対応の経理代行サービス5選でまとめているので参考にしてほしい。

クラウド会計ソフト(自分で入力)

freee・マネーフォワード・弥生会計などのクラウドソフトを使って、自分で経理する選択肢だ。外注費は月1,000〜3,000円程度に抑えられるが、入力作業は自分でやる必要がある。

ただし、POSレジやキャッシュレス決済との自動連携を設定しておけば、仕訳の手作業をかなり減らすことができる。開業直後でまだ取引量が少ない時期には現実的な選択肢だ。

POSレジとクラウド会計を連携させると経理の手間が大きく変わる

飲食店の経理で一番手間がかかるのは「毎日の売上入力」だ。これをクラウドPOSレジとクラウド会計ソフトを連携させることで、自動化できる。

連携の仕組み

AirレジやスマレジといったクラウドPOSレジは、1日の売上データを自動でクラウドに蓄積している。このデータをfreeeやマネーフォワードに連携設定しておくと、毎日の売上仕訳が自動で作成される。

手動入力が必要なのは、食材の仕入れや消耗品の経費、給与の支払いなどに限られる。これだけでも経理にかかる時間が半分以下になるケースは珍しくない。

連携できるPOSレジの例

POSレジ 連携できる会計ソフト 月額費用(レジ)
Airレジ freee・マネーフォワード 基本無料
スマレジ freee・マネーフォワード・弥生 月4,400円〜
SquarePOS freee・マネーフォワード 基本無料
クレジット決済端末(Square等) 自動仕訳機能あり 決済手数料のみ

僕が業務効率化に特化したエンジニアとして顧問先のサポートをする中で、連携設定をしっかり行った飲食店では、毎日の経理作業が1時間から20〜30分程度まで短縮されたケースを複数見てきた。月末の集計作業も大幅に楽になる。

設定には多少の初期工数がかかるが、1回設定してしまえば後は自動で動く。外注するかどうかを決める前に、まずこの連携設定だけやってみるというのも現実的な手順だと思っている。

外注先を選ぶ際に確認すべき5つのポイント

税理士や経理代行を選ぶときに確認しておきたい点を整理する。安さだけで選ぶと後から問題が出やすい。

1. 飲食業への対応経験があるか

飲食店には食材の棚卸し・インボイス対応・軽減税率仕訳・POSレジ連携など、業種特有の処理が多い。一般企業向けの経理代行では、これらへの対応が雑になることがある。面談時に「飲食業の顧問実績はどのくらいありますか」と直接聞いてみるのが一番確実だ。

2. 使っているPOSレジ・会計ソフトと連携できるか

クラウド型のPOSレジと連携できる会計ソフトを使っている外注先かどうかを事前に確認する。「うちはスマレジを使っていますが、連携設定は含まれますか」という聞き方をするといい。連携設定を最初からやってもらえると、その後の作業が大幅に楽になる。

3. 月次でどんな報告をしてもらえるか

記帳代行に依頼する場合でも、月次で「売上・原価・経費・利益」の数字をレポートしてもらえるかどうかを確認する。数字が見えないと、経営判断ができなくなる。「レポートは何を出してもらえますか」と聞いてみてほしい。

4. インボイス・電子帳簿保存法への対応ができているか

2023年10月から始まったインボイス制度、2024年1月から完全義務化された電子帳簿保存法。どちらも飲食店の経理に直接関係する制度だ。外注先がこれらに対応した処理をしているかを確認しておく。

5. 費用の内訳が透明か

「月額○万円」という提示だけでなく、何の作業に対して払うのかを明確にしてもらう。「記帳代行のみ」「確定申告別途」「決算料は月額の何か月分」という内訳を事前に書面で確認しておくと、後でトラブルになりにくい。

外注を始めるベストタイミング

「まず自分でやってみて、限界になったら外注する」という考え方自体は間違っていない。ただし、半年後に1日かけてレシートを整理する羽目になったら、その時間は確実に機会損失だ。

外注に切り替えるタイミングとして現実的なのは、次のいずれかだ。

開業と同時(最も理想的)

開業準備段階から費用が発生するため、最初から記録を作っておく方が後が楽だ。開業後にさかのぼって整理するのは非常に手間がかかる。

スタッフを初めて雇うタイミング

給与計算・社会保険・源泉徴収と、新しい事務作業が一気に増える。このタイミングで外注に切り替えると、その後の運用が楽になる。

月の売上が100万円を超えたタイミング

売上が大きくなると、取引数も増えて経理の作業量が増える。この段階で外注のコストが見合ってくることが多い。

確定申告で「記録がなさすぎる」と言われたタイミング

これは手遅れに近いが、実際に起きることが多い。税理士に「レシートがありません」と言われた翌年から外注を始めるパターンは少なくない。

バックオフィス全体の費用感についてはバックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方でもまとめているので、他の業務と合わせて検討する場合は参考にしてほしい。

飲食店の経理外注でよくある質問

Q. 開業1年目から税理士に頼んだ方がいい?

年商500万円以下であれば、クラウド会計ソフトで自分で経理して、確定申告だけ税理士に依頼するという形が費用的に現実的だ。POSレジと会計ソフトの連携設定さえできていれば、日常の記帳は慣れれば30分以内で終わる。

年商1,000万円を超えてくると、消費税の課税事業者になる可能性が出てきて、税務処理が複雑になる。このタイミングで顧問契約を考え始めるのが合理的だと僕は思っている。

Q. 税理士と経理代行どちらを選べばいいか?

「記帳だけ任せて確定申告は自分でできる or 別に依頼できる」という場合は経理代行の方がコストを抑えられる。「節税相談・融資サポートも含めて任せたい」という場合は税理士の顧問契約の方がトータルで費用対効果が出やすい。

飲食店の場合、開業初年度はまだ売上が読めないため、経理代行から始めて売上が安定してきたら顧問契約に切り替えるというパターンが多い印象だ。

Q. 自分でやっていた経理を途中から外注する場合、何を準備すれば良いか?

最低限、これまでの帳簿(デジタルであれば会計ソフトの出力、紙であれば元帳のコピー)と、過去の確定申告書を用意しておく。レシートや領収書も渡せる状態にしておくと、引き継ぎが早く終わる。経理外注の具体的な手順は中小企業の経理を外注する手順|準備から導入まで完全ガイドに詳しくまとめてあるので、切り替え前に一読しておくといい。

まとめ

飲食店の経理を外注すべきかどうかは、売上規模・スタッフ数・自分の経理への関与度によって変わる。

整理すると次のようになる:

  • 年商500万円以下・1人経営 → クラウド会計ソフト+POSレジ連携で自分で管理
  • 年商500〜1,000万円・スタッフあり → 記帳代行に任せて確定申告を税理士に依頼
  • 年商1,000万円超 → 税理士との顧問契約を検討。消費税・融資も含めて対応

ただし、どの段階でも「POSレジとクラウド会計の連携設定」だけは早めにやっておくことを強くすすめる。これをするだけで毎日の作業時間が大きく変わる。外注する・しないにかかわらず、経理の土台として機能する。

帳簿が追いつかない、月末に焦る、という状態になっているなら、まず記帳代行だけでも依頼することを検討してほしい。月1〜2万円の投資で、毎月5〜6時間の経理作業から解放されるなら、その時間を本業に使った方がいい。

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