月末になると、領収書の束を抱えた社員が経理に並ぶ。Excelの申請書に手入力して、上司のハンコをもらって、経理担当が会計ソフトに再入力する。この流れが、今も中小企業の至るところで続いている。
「うちはまだ紙でやっている」という会社に話を聞くと、多くの場合「ツールを入れるほどの件数でもない」か「何を選べばいいか分からない」のどちらかだ。
この記事では、中小企業が経費精算を自動化するときに使うツールを比較する。比較の軸は「法人カード連携」と「使っている会計ソフトとの相性」に絞る。選び方の判断基準まで整理するので、ツール選定の参考にしてほしい。
経費精算の手作業がなくならない理由
経費精算が属人的なまま続く構造は、だいたい以下の3点に集約される。
入力が二重になっている
社員が申請書に書く → 経理担当が会計ソフトに再入力する。同じ数字を2回処理する時間がそのまま無駄になっている。
領収書の管理がバラバラ
紙の領収書は人が持ち回る限り、紛失・遅延のリスクがある。月末に「あの領収書どこ?」となるのは、管理の仕組みがないからだ。
承認フローが見えない
「今誰が確認中?」という状態が続くと、締め日直前に焦る。メールやチャットで確認をとっている会社では、スレッドが埋まって追えなくなることも起きる。
経費精算ツールは、この3点をまとめて解決する。スマホで領収書を撮影 → AIが自動読み取り → ワークフローで承認 → 会計ソフトに自動連携、という流れが一本になる。
経費精算の自動化に必要な3つの機能
1. AI-OCRによる領収書の自動読み取り
紙の領収書をスマホで撮影するだけで、日付・金額・店名をテキストに変換する技術をAI-OCRという。主要な経費精算ツールはほぼ全てこの機能を搭載している。
精度は製品によって差があるが、日本語レシートへの対応は現在のツールではおおむね問題ない水準になっている。手書き領収書は認識精度が落ちるため、手書きが多い業種はベンダーに確認した方がいい。
AI-OCRの仕組みと請求書処理への応用についてはAI-OCRで請求書を自動読み取り|手入力をなくす導入手順とツール比較で詳しくまとめているので、仕組みから理解したい方は先に読んでほしい。
2. 法人カード連携による明細の自動取得
ここが自動化の核心だ。社員に法人カード(または事業用クレジットカード)を配布し、そのカードの利用明細を経費精算システムに自動で連携させる仕組みを指す。
カードで支払った瞬間にシステム側に明細が届き、経費申請の下書きが自動生成される。社員がやることは「金額・勘定科目を確認して領収書を添付して送信する」だけになる。
法人カード連携の有無は、導入後の実際の手間に直結する。連携なしでも使えるツールは多いが、自動化の恩恵は半減する。
3. 会計ソフトへの自動連携
承認が通った経費データが、そのまま会計ソフトに仕訳として入る仕組みを指す。これがないと、経費精算ツールを入れても会計ソフトへの再入力が残る。
freee会計やマネーフォワード クラウド会計を使っている場合は、同グループのツール同士が最もスムーズに連携できる。別ベンダーの組み合わせでも連携可能なケースはあるが、設定の手間や対応状況はベンダーごとに確認が必要だ。
主要ツール比較(中小企業向け4製品)
freee支出管理 経費精算Plus
freee会計との連携を前提に設計されたツール。同社が提供するfreeeカードUnlimited(年会費・発行手数料無料)を使うと、カードの利用明細がリアルタイムでシステムに反映される。承認後、そのままfreee会計に仕訳が上がる流れが完結する。
向いている会社: すでにfreee会計を使っている中小企業。会計ソフトとセットで使うと入力の重複がほぼなくなる。
注意点: freee以外の会計ソフト(弥生・勘定奉行等)との連携は別途確認が必要。freeeへの乗り換えと同時に検討するなら費用対効果が高い。
マネーフォワード クラウド経費
マネーフォワード クラウドシリーズのひとつ。同社のマネーフォワード ビジネスカードと連携すると、利用明細がリアルタイムで取り込まれる。不正精算の抑止にもなる。AI-OCRの精度は高く、紙の領収書対応も安定している。
向いている会社: すでにマネーフォワード クラウドシリーズで経理・給与を管理している会社。シリーズ内での連携がスムーズで、導入後の設定コストが低い。
法人カードのポイント: マネーフォワード ビジネスカードは年会費無料。マネーフォワード クラウドへの支払い分は3%ポイント還元がある。
楽楽精算
中堅〜大企業向けに実績が多いが、中小企業向けのプランも提供している。クレジットカードコントロール機能を使うと、社員に貸与したカードの利用上限をシステム上でリアルタイムに管理できる。対応する法人カードは複数あり、JCBビジネスカードや三井住友コーポレートカードなどに対応している。
向いている会社: 既存の法人カードを変えたくない会社。複数の部門・拠点がある場合の管理に向いている。
注意点: 他の3製品と比べると、中小企業での導入初期コストが高くなるケースがある。自社の規模・件数に見合っているか確認してから検討する。
ジョブカン経費精算
1人あたり月額440円で使え、初期費用・サポート費用は無料。経費申請・承認・会計ソフト連携の基本機能を備えつつ、費用を最小限に抑えたい中小企業に向いている。他のジョブカンシリーズ(勤怠・給与・労務)と合わせて使うとシリーズ内で連携できる。
向いている会社: 月の経費申請件数が少なく、シンプルに自動化したい会社。コストを最小限に抑えながら脱・紙申請を実現したい場合の選択肢になる。
選び方の3つの判断軸
判断軸1: 使っている会計ソフトに合わせる
経費精算ツールの最大の価値は「会計ソフトへの自動連携」にある。ここがうまく機能しないと、結局手入力が残る。まず自社の会計ソフトを起点にツールを選ぶのが、最も失敗が少ない。
| 使っている会計ソフト | おすすめの経費精算ツール |
|---|---|
| freee会計 | freee支出管理 経費精算Plus |
| マネーフォワード クラウド会計 | マネーフォワード クラウド経費 |
| 弥生 / その他 | ジョブカン経費精算(CSV連携)または楽楽精算 |
freeeとマネーフォワードをどちらを会計ソフトとして選ぶべきか検討中の場合は、AI連携で選ぶfreee vs マネーフォワード|専任経理なし中小企業のための決定版ガイドを先に読んでほしい。経費精算ツールの選択肢も変わってくる。
判断軸2: 法人カードをどうするか
既存の法人カードを継続利用したい場合は、そのカードに対応しているツールを確認する。主要なカードに幅広く対応しているのは楽楽精算だが、費用が上がる。
カードを新規発行することも視野に入れるなら、freeeカードUnlimitedやマネーフォワード ビジネスカードのような会計ソフト直結のカードが選択肢になる。年会費無料で使えるため、余計なコストが発生しない。
カードを変えることへの抵抗感は経営者・経理担当によって差がある。導入前に担当者と方針を決めておくと、後から混乱しにくい。
判断軸3: 月の申請件数と社員数
申請件数が少ない場合は、ジョブカンのようなシンプルなツールから始めるのが現実的だ。社員数が増えて件数が多くなると、承認経路の設定や催促通知の機能の差が効いてくる。
大量申請・複数拠点がある場合は、楽楽精算のような機能が豊富なツールが向いているが、それに見合った費用がかかる。自社の規模と実際の申請件数を確認してから選ぶ。
導入で失敗しがちなポイント
社員への周知が遅れる
ツールを入れても、社員が旧来の紙申請を続けるパターンがある。「いつから」「どのアプリで」「どのステップで申請するか」を明示しないと定着しない。導入と同時に社内説明と切り替え日の設定をセットにすること。
法人カードの発行を後回しにする
法人カードの発行審査は、カードの種類によっては数週間かかることがある。ツールの契約と並行して動かしておかないと、ツールを入れたのにカードが来ていない状態になる。
会計ソフトとの連携設定を初期に完成させない
「とりあえずツールだけ入れておいて、連携は後で」という進め方は失敗しやすい。会計ソフトとの連携設定が完了していない状態が続くと、経理担当に再入力の作業が残り続ける。初期設定の段階で連携まで完成させる。
まとめ
経費精算の自動化は、次の順番で検討すると失敗が少ない。
- 使っている会計ソフトを確認する
- その会計ソフトとセットで使えるツールを選ぶ
- 法人カードをどうするか(既存継続か新規発行か)を決める
- 導入前に社員に周知して切り替え日を決める
ツール選定よりも、導入後の定着の方が難しい。申請件数が少ない会社であれば、まずジョブカンのようなシンプルで安価なツールから始めて、運用に慣れてから乗り換えを検討するのも現実的な選択だ。
経費精算の自動化は、バックオフィス全体の効率化の入口にもなる。経費精算だけでなく、バックオフィス全体の仕組みを見直したい場合は経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きも参考にしてほしい。