事務・バックオフィス効率化

退職時の引き継ぎ書テンプレ|中小企業向けチェックリスト付き

従業員が退職を申し出た瞬間、経営者がまず気になるのは「引き継ぎはちゃんとできるか」ではないだろうか。

中小企業の場合、1人が複数の業務を兼任していることが多い。その人しか把握していない業務、その人しか連絡先を知らない取引先、その人しか使い方を知っているシステム。これが整理されないまま退職日を迎えると、後任者は「前任者に電話する毎日」が続く。

この記事では、退職時に使える引き継ぎ書のテンプレートと業務種類別のチェックリストを公開する。「作ってもらう側」である経営者が確認すべきポイントも合わせて解説する。

引き継ぎ書と引き継ぎマニュアルの違い

「引き継ぎ書」と「引き継ぎマニュアル」は別の書類だ。混同したまま進めると、どちらも中途半端なまま退職日を迎える。

引き継ぎ書は、業務の全体像を記録した「台帳」に近い。誰が・何を担当していて・今どんな状態かを一覧化するための文書だ。業務の見取り図と言ってもいい。

引き継ぎマニュアルは、特定の業務を「どうやるか」を手順書にしたもの。業務の全体像ではなく、個々の操作・判断手順を記録する。

退職時に必要な順番はこうだ。まず引き継ぎ書で全体を把握してもらい、続いて必要な業務についてマニュアルで詳細を渡す。

中小企業でよくある失敗は、引き継ぎマニュアルを1〜2本作って終わりにしてしまうケースだ。主要業務の手順書は用意したが、「誰に連絡が来るか」「月末に何が動くか」「今進んでいる案件はどうなっているか」が後任者に伝わっていない、という状態になりやすい。

引き継ぎ全体のプロセスについては事務の引き継ぎマニュアルの作り方|退職しても業務が止まらない仕組みにまとめている。本記事では、引き継ぎ書の中身と書くべき項目に絞って解説する。

引き継ぎ書が不完全なまま退職すると何が起きるか

実際の現場の話をする。

引き継ぎ書がなかった(あるいは内容が薄かった)場合、後任者が直面する問題はたいていこんな場面から始まる。

  • 取引先から電話が来たが、担当者名しか分からず何の案件か追えない
  • 月次の支払い処理を「前任者がやっていた」は分かったが、どのタイミングで・どこから振り込んでいたか不明
  • システムのログイン情報が前任者の個人メールに紐付いていてアクセスできない
  • 「これ誰に確認すればいいですか」という問い合わせが退職済みの前任者に毎日届く

中小企業で1人が複数の業務を兼任していた場合、この問題は特に起きやすい。前任者本人は「口頭で全部説明した」と思っている。後任者は「聞いたけど実際にやってみたら全然違う」という状況になる。

引き継ぎ書の目的は「後任者が前任者に連絡しなくて済む状態を作ること」だ。そのためには、口頭では伝えにくい「業務の全体像」と「今の状態」を可視化する必要がある。

引き継ぎ書に必須の6項目

業種や業務の種類に関わらず、以下の6項目が揃っていれば最低限の引き継ぎ書として機能する。

1. 業務名と概要

何の業務か、なぜ存在するかを1〜2行で書く。「月次請求書の発行」「採用応募者との面接日程調整」など。概要が長くなるなら、詳細は引き継ぎマニュアルに移す。

2. 関係者の連絡先(社内・社外)

この業務に関わる人を全て書き出す。社内では誰が承認者か、社外では担当者名・会社名・連絡先。「○○商事の鈴木さん」だけでは電話番号が分からないので、実際には役に立たない。

3. 発生タイミング・頻度

「毎月末日」「受注後3営業日以内」「年1回(3月)」など、いつ・どのくらいの頻度で発生するかを記録する。ここが抜けると、後任者が「この業務はいつやるの?」と気づかないまま期限が過ぎる。

4. 使用システム・ツール・ファイル保存場所

使用するソフト、クラウドサービス、ファイルの保存先(フォルダのパスやドライブのURL)を全て書く。ログイン情報は「○○のID/パスワードは総務のパスワード管理表で管理」など場所の案内まで書いておく。

5. 現在の進行状況・懸案事項

今どこまで進んでいるか、次に何をすべきか。特に退職日直前まで続いているプロジェクトや、解決していない懸案事項は必ず書く。後任者が「前任者がどこまでやったか」を把握できないと、二重対応や対応漏れが起きる。

6. 注意点・よくあるトラブルと対処法

ここが最も価値の高い情報だ。マニュアルには書きにくい「経験値的な知識」を残す場所でもある。「このお客さんは請求書の宛名が毎回変わるので確認が必要」「このシステムは月末に重くなるので早めに処理する」など。退職者が書きたがらない情報でもあるので、確認する側が意識的に引き出す必要がある。

コピペで使える引き継ぎ書テンプレート

以下のテンプレートはMarkdown形式で作成した。Notionや社内Wikiにそのまま貼れる。Excelに転記して使うことも可能だ。業務の数だけテーブルを繰り返す構成にしている。



作成日: YYYY-MM-DD
作成者: [名前]
確認者: [確認した上司・引き継ぎ先の名前]


## 業務 1: [業務名]

| 項目 | 内容 |
|------|------|
| 業務概要 | (何の業務か、1〜2行) |
| 発生タイミング・頻度 | (毎月何日 / 週1回 / 随時 など) |
| 関係者(社内) | (承認者、連携部署と担当者名) |
| 関係者(社外) | (会社名、担当者名、連絡先) |
| 使用ツール・システム | (ソフト名、クラウドサービス名) |
| ファイル保存場所 | (フォルダパス、共有ドライブURL) |
| 現在の状態・次のアクション | (進行中の案件、残タスク) |
| 注意事項 | (よくあるミス、経験的な知識) |


## 業務 2: [業務名]

(同じ形式で繰り返す)


## 引き継ぎ書に含まれないこと(後任者への補足)

- (口頭で伝えた内容、別途マニュアルで対応する業務など)


## 困った時の連絡先

| 種別 | 連絡先 | 対応内容 |
|------|--------|----------|
| 退職後の緊急連絡(退職日から○週間限定) | [メールアドレスまたは電話] | [どんな内容に限定するか] |
| 顧問税理士 | [連絡先] | 経理・税務の相談 |
| システム会社 | [連絡先] | システム障害時 |

このテンプレートは「業務ごとに1テーブル」の構成にした。1枚のExcelシートに全業務をまとめる形式より、業務の追加・削除・確認がしやすい。Notionで使う場合はデータベースに変換するのも有効だ。

業務種類別のチェックリスト

業務の特性によって、引き継ぎ書に含めるべき情報が変わる。以下のチェックリストで漏れを防いでほしい。

経理・経費精算

  • [ ] 取引先別の支払いサイト(月末締め翌月末払いなど)を全て記録したか
  • [ ] 月次・年次の締め作業のスケジュールを書いたか
  • [ ] 請求書・領収書のファイリングルールを記録したか
  • [ ] 銀行・クレジットカードの管理権限を引き継ぎ先に移行したか
  • [ ] freee・マネーフォワードなどのアカウント権限を移行したか
  • [ ] 税理士との連絡窓口を引き継いだか

営業事務・取引先管理

  • [ ] 進行中の商談・受注案件の一覧を作成したか
  • [ ] 各取引先の担当者名・連絡先・関係性の背景を書いたか
  • [ ] 定期的に送る報告書・資料のフォーマットと送付先を記録したか
  • [ ] 社内外で使うCRM・名刺管理ツールのアクセス権限を整理したか
  • [ ] 取引基本契約書や重要書類の保管場所を記録したか

総務・庶務・採用事務

  • [ ] 社会保険・労働保険の手続き窓口(社労士など)を引き継いだか
  • [ ] 採用媒体のログイン情報・応募者管理ツールのアクセス権限を移行したか
  • [ ] 定例業務(健康診断の手配・年末調整の準備など)の年間スケジュールを書いたか
  • [ ] 備品・消耗品の発注先と発注ルールを記録したか
  • [ ] 社内規程・就業規則の保管場所と更新権限を引き継いだか

IT・システム・アカウント管理

  • [ ] 全てのビジネスアカウント(メール、クラウドサービス)の一覧を作成したか
  • [ ] 共有アカウントのうちパスワード変更が必要なものをリストアップしたか
  • [ ] ドメイン・サーバー契約の管理者情報を引き継いだか
  • [ ] 社内PCのデータバックアップと引き渡しを完了したか
  • [ ] 取引先との専用システムのアカウント移行手続きを完了したか

経理業務の引き継ぎに特化したチェックリストは経理の引き継ぎチェックリスト|退職・異動時に漏れなく進める方法にまとめている。経理担当が退職する場合はあわせて確認してほしい。

受け取る側(経営者)が確認すべきポイント

引き継ぎ書は「作ってもらったら終わり」ではない。受け取る経営者側がチェックしなければ、不完全なまま退職日を迎える。

退職が決まった時点でやること

業務の洗い出しは退職者本人に任せるのが現実的だ。ただし「どんな業務があるか」の一次リストは経営者側が先に出した方が漏れが少なくなる。経営者が認識している業務と、本人が認識している業務にズレがあることは珍しくない。特に採用・労務・IT管理など、頻度は低いが重要度の高い業務は退職者が「書くほどでもない」と判断して抜けやすい。

2週間前には骨格を確認する

退職日の直前に引き継ぎ書を受け取って確認しても、修正の時間がない。遅くとも退職日の2週間前には骨格が揃っているか確認し、「この業務についてこれだけ読めば後任者が動けるか」の観点でレビューする。抜けていた業務や、内容が薄い箇所を補強する時間を確保する。

「連絡しなくて済む状態か」を最終確認する

引き継ぎ書の完成度を測る基準は1つだ。退職後、後任者が前任者に連絡しなくて済む内容になっているか。引き継ぎ書を読んで「ここはどうすれば?」という疑問が残るなら、その業務については補足が必要だ。

引き継ぎ書は「退職者のために作る書類」ではなく、「後任者と会社のために残す資産」だ。退職を機に業務を整理することで、引き継ぎ書がそのまま業務マニュアルの土台になる。

ただし、退職が起きるたびに引き継ぎ書を一から作る状況は本来望ましくない。日常業務の中でドキュメントが更新される仕組みがあれば、退職時の作業量は大幅に減る。属人化の解消を普段から進める方法については経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きが参考になる。経理以外の業務にも応用できる内容なので、引き継ぎを機に仕組みを見直したい場合は読んでほしい。

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