「経理マニュアルを作らなければ」と思いながら、何年も手をつけていない——多くの中小企業で繰り返されるパターンだ。
作れない理由は「時間がない」「何から手をつければいいか分からない」の2つが多い。この記事では、完璧なマニュアルを最初から作ろうとしないことを前提に、今日から始められる最低限の手順とテンプレートの構成例を整理する。
経理マニュアルを作る目的を最初に決める
マニュアル作成に着手する前に「なぜ作るのか」を1文で定義しておく。目的が曖昧だと「どこまで書くか」が決まらず、完成しないまま終わる。
よくある目的の例
| 目的 | 対応するマニュアルの中身 |
|---|---|
| 担当者が急に休んでも業務が続く状態を作る | 毎日・毎月の作業手順と締め日カレンダー |
| 退職時の引き継ぎを円滑にする | ログイン情報・取引先連絡先・処理フロー |
| 新しい担当者が1人で業務できる状態を作る | 全業務の手順書・判断基準 |
「今すぐ担当者が休んでも1週間は困らない状態を作る」なら、作るべきものは限られる。全業務の完全マニュアルは必要ない。
マニュアル化すべき業務の優先順位
全業務を一度にマニュアル化しようとすると途中で止まる。以下の基準で優先順位をつける。
最優先でマニュアル化すべき業務
- 毎日・毎週発生する定型作業: 現金出納帳の記録・銀行明細の確認・請求書の受取処理
- 締め日がある業務: 給与計算・社会保険料の納付・支払い処理
- ログイン情報が必要な業務: 会計ソフト・インターネットバンキング・給与計算ソフト
- 担当者以外が把握していない処理: 特定の取引先への対応方法・例外処理の判断基準
後回しにしてよい業務
- 年に1〜2回しか発生しない手続き(年末調整・法定調書等)
- 税理士が担当している業務
- 対応方法が変わる可能性が高い業務
マニュアルのテンプレート構成例
以下の構成で作成すると、必要な情報が漏れなく整理できる。
テンプレート①:月次業務カレンダー
【月次業務カレンダー】
更新日: 年 月 日
担当者:
◆毎日の作業
□ 銀行明細の確認(残高・入出金の確認)
□ 現金出納帳の更新(現金取引がある場合)
◆毎週の作業
□ 請求書・領収書の整理・仕分け
◆月次の作業
日程 | 作業内容 | 担当 | 備考
--------|------------------------------|---------|-----
毎月25日 | 給与計算の締め処理 | 経理 | freeeで作業
毎月末 | 銀行明細と帳簿残高の照合 | 経理 | 差異があれば即確認
翌月5日 | 前月分の試算表を税理士に送付 | 経理 |
翌月10日 | 社会保険料の口座引落し確認 | 経理 |
翌月末 | 源泉所得税の納付 | 経理 | 年2回特例の場合は別途
テンプレート②:業務手順書
【業務手順書】
業務名: 給与計算
更新日: 年 月 日
担当者:
所要時間: 約○時間
■使うツール・システム
・会計ソフト: freee(URL: https://○○○)
・勤怠管理: ○○○
・ログイン情報: → 別紙「ログイン情報一覧」参照
■手順
1. 勤怠データの確認(○日までに全員分が入力されているか確認)
2. 有給・欠勤日数の確認(有給は事前申請書類と照合)
3. freeeで給与計算を実行
4. 明細の確認・差異があれば修正
5. 経営者に承認依頼(freeeの承認ワークフローで送付)
6. 振込データを銀行に送信
7. 給与明細を従業員にWEB配信
■よくある質問・例外処理
Q: 月の途中で入社した場合は?
A: 入社日から日割り計算。freeeで「入社日」を設定すると自動計算される。
Q: 有給残日数が0日なのに欠勤扱いでよいか?
A: 経営者に確認してから処理する。
テンプレート③:ログイン情報・連絡先一覧
【ログイン情報・連絡先一覧】
更新日: 年 月 日
管理者:
※このファイルは経営者と経理担当者のみアクセス可能にする
■会計ソフト
ソフト名: freee
URL: https://app.freee.co.jp/
ログインID:
パスワード: → パスワード管理ツール○○に保存
■インターネットバンキング
銀行名:
ログインID:
ワンタイムパスワード端末: (経営者が管理)
■取引先・外部担当者の連絡先
税理士: ○○○先生(TEL: ○○○ / メール: ○○○)
社会保険労務士: ○○○先生(TEL: ○○○)
マニュアルを作り始める最小ステップ
「マニュアルを作る」と考えると重くなる。「今の業務を記録する」と捉えると動きやすい。
今日できること(30分でできる)
- Excelか Googleスプレッドシートを新規作成する
- 「毎月いつ何をするか」を箇条書きで書き出す
- ログイン情報一覧を1シートに作成する
これだけで「担当者が急に休んでも1週間は対応できる」状態に近づく。
今週中にやること
- 最も属人化している業務1つを選んで手順書を書く
- 経営者がその手順書を読んで、不明な点を担当者に確認する
今月中にやること
- 給与計算・支払い処理・月次締めの手順書を追加する
- 月次業務カレンダーを完成させる
よくある失敗パターンと対策
失敗1: 完璧を目指して途中で止まる
対策: 「読む人が初めて見ても70%は分かる」を合格ラインにする。100%の完成度を目指さない。
失敗2: 作ったマニュアルが更新されない
対策: 業務が変わったときに必ず更新する担当者を決める。更新日を毎回記録する。
失敗3: マニュアルの保管場所が分からなくなる
対策: 保管場所を1箇所に固定する(Googleドライブの決まったフォルダ等)。新しい担当者が入ったときに最初に教えられる場所に置く。
まとめ
経理マニュアルの作成は「完璧なものを最初から作ろうとしないこと」が最大のポイントだ。
| 優先度 | やること |
|---|---|
| 今日 | 月次業務カレンダーの下書き・ログイン情報一覧の作成 |
| 今週 | 最も属人化している業務の手順書を1本書く |
| 今月 | 給与計算・支払い処理の手順書を追加する |
マニュアルは一度作ったら終わりではなく、業務が変わるたびに更新し続けるものだ。「70点のマニュアルを今日作る」の方が、「100点のマニュアルをいつか作る」より価値がある。
属人化が進んでいて、マニュアル化より外注の方が現実的という場合はこちらを参照してほしい。