事務代行・外注

経理が採用できない中小企業の選択肢|採用コストvs外注コスト比較

経理担当者を募集しても応募がこない。面接まで来ても、給与条件が合わない。採用できたと思ったら、半年で辞められた——従業員30人以下の中小企業では、これが今の経理採用の現実だ。

採用できない間は経営者が経理を兼務するか、別の社員に押し付けるか。どちらも持続可能な状態ではない。

この記事では、経理を確保するための4つの選択肢(正社員・パート・派遣・外注)をコストと定着リスクの観点で比較し、自社の規模に合った判断基準を整理する。採用に固執する前に、選択肢の全体像を把握してほしい。

なぜ中小企業は経理担当を採用しにくいのか

採用難には個社の条件ではなく、構造的な背景がある。対策を考える前に、この構造を理解しておく必要がある。

労働人口が毎年減り続けている

2026年1月時点の生産年齢人口(15〜64歳)は7,353万人で、前年比で21万3千人が減少した。この傾向は10年以上続いており、あらゆる職種で採用競争が激化している。経理職も例外ではない。どれだけ求人票を工夫しても、そもそもの母数が毎年縮んでいる。

求人数に対して求職者が少ない

経理・財務職は専門性が高い割に、実務経験者の流動性が低い。現職に大きな不満がない限り、転職市場に出てこない。「未経験可」にしなければ母数が集まらないが、未経験者を採用すると育成コストが発生する。「経験者が欲しい → 未経験しか来ない → 条件を下げる → 採用できた人が定着しない」というループにはまりやすい。

大手企業との採り合いになる

簿記2級以上の経験者は、大手企業・上場企業との奪い合いになる。給与水準・福利厚生・安定性の面で中小企業は不利になりやすく、条件が同程度であれば大手が選ばれる傾向が強い。「うちは中小だから採れない」という話ではなく、採用できたとしても条件で引き抜かれるリスクが常につきまとう。

「一人経理」のポジションが敬遠される

従業員20人以下の会社では、経理担当が社内に1名しかいないことが多い。求職者からは「属人化している」「誰にも相談できない」「退職しにくい」とリスクとみなされる。このポジションへの応募は採用市場の中でも集まりにくい部類に入り、条件を改善しても改善効果が出にくい。

これらの構造的な不利は、採用活動を工夫しても簡単には解消しない。採用手段を変えるよりも、採用以外の選択肢を真剣に検討する方が現実的な場合が多い。

4つの選択肢を比較する

経理担当者を確保するための選択肢は大きく4つある。それぞれの特性を一覧で整理する。

選択肢 月額コスト目安(従業員10人規模) 即応性 定着リスク 採用コスト
正社員採用 40〜45万円 2〜3ヶ月かかる 退職リスクあり 採用時30〜120万円
パート採用 7〜15万円 数週間かかる 比較的高い 求人費5万円程度
派遣スタッフ 25〜35万円 1〜2週間で対応可 スタッフ交代の可能性 不要
外注(経理代行) 3〜8万円 1〜2週間で対応可 ほぼなし 不要

以下では、それぞれの選択肢を費用・向き不向き・課題の観点で掘り下げる。

正社員採用|最も柔軟だが、今の市場では難しい

コスト

給与・社会保険・採用費を含めると月40〜45万円が現実的な水準だ。人材紹介を使うと採用時に「年収の25〜35%」の紹介手数料が発生する。年収350万円の人材なら、採用時だけで87〜122万円かかる計算になる。

ハローワークや自社媒体から採用できれば採用費は5〜10万円に抑えられるが、経理職への応募は他職種より少なく、時間がかかることが多い。採用活動が3ヶ月を超えると、求人掲載費の更新・面接対応の工数が積み重なっていく。

向いている状況

  • 月の経理業務が100時間以上ある
  • 経理以外の総務・庶務業務も兼務させたい
  • 従業員が30人を超えており、採用できる可能性がある
  • 経理担当を育成する余裕(時間と指導役)がある

課題

採用活動が長引くほど、経営者やほかの社員への負担が増す。採用できない月が続くと、採用にかけた時間と費用がそのまま損失になる。採用できたとしても、定着しなければ同じ採用活動をもう一度繰り返す。

採用が難航する理由と採用コストを抑える方法については、中小企業の採用コストを半分にする方法|1人あたり30万円以下に抑える実例で整理している。

パート採用|コストは安いが定着率が課題

コスト

週3日・1日5時間・時給1,200円の場合、月額7.2万円。週20時間未満であれば会社の社会保険負担はなし。求人媒体の掲載費も数万円で済み、初期コストは4つの選択肢の中で最も安い。

向いている状況

  • 週3〜4日の作業で足りる業務量
  • 経営者が経理の基礎知識を持っており、指示・確認ができる
  • 高度な専門性を必要としない定型作業(仕訳・請求書処理)が中心
  • 近隣に経理経験者のパート人材がいる地域

課題

パート経理は定着率が低い傾向がある。一人で業務を抱えると孤立しやすく、辞めた際に業務ノウハウが引き継がれないケースが多い。採用のたびに一から教育が必要になり、トータルの時間コストは正社員以上になることもある。

経理担当者が辞めた後に何が起きるかについては、経理が突然辞めた!中小企業の経営者がまずやるべき5つのことでまとめている。

派遣スタッフ|即戦力だが月額コストが高い

コスト

経理職の派遣料金は時給2,000〜2,500円程度が相場だ。週5日・1日8時間で月25〜35万円になる。採用コストはかからないが、月額費用は正社員とほぼ同水準になる。

向いている状況

  • 即戦力が必要で採用に時間をかけられない
  • 1〜6ヶ月程度の短期間だけ人員が必要
  • 採用後に正社員への切り替えを視野に入れている(紹介予定派遣)
  • 業務量が多く、フルタイムの人員が必要

課題

派遣会社の都合でスタッフが交代するリスクがある。業務の引き継ぎが難しく、毎回一から説明が必要になる。コストに対して得られる安定性が低く、「費用が高い割にリスクが取れない」状態になりやすい。長期的な運用には向かない。

外注(経理代行)|コストと定着リスクの両方を解決する

できる業務

記帳代行・給与計算・請求書処理・月次試算表の作成・年末調整の補助など。月の仕訳件数が200件以下であれば、外注でほぼ対応できる。freeeやマネーフォワードに対応している代行業者であれば、既存ツールをそのまま使い続けられる。

できない業務

毎日の現金管理、突発的な判断が必要な業務、銀行交渉、契約書の承認など。社内に「窓口になる人間」は必要だ。ただし経営者本人か、総務兼務の担当者で十分まかなえることが多い。外注先が業務フローを整備してくれるため、窓口担当の負担は軽い。

コスト

記帳代行・給与計算・月次試算表のセットで月3〜8万円が目安(従業員10〜20人規模)。採用コストはゼロ。業務量が増えれば費用が増える従量制が多いため、小規模な会社では月々の固定費が膨らまない。

外注で解決できること

  • 経理担当を採用するまでの「人手」
  • 採用した経理担当が辞めた時の「バックアップ」
  • 採用を続けるか外注を維持するかの「判断材料となる業務量の可視化」

外注の具体的な進め方については、中小企業の経理を外注する手順|準備から導入まで完全ガイドを参照してほしい。

2年間の総コスト比較

従業員10人規模の会社が2年間でどの選択肢にいくらかかるかを試算する。前提として、正社員の月額は給与+社保で40万円、パートは月10万円、派遣は月30万円、外注は月5万円を使う。

選択肢 月額 採用時コスト 2年間合計
正社員採用(定着した場合) 40万円 30〜100万円 990〜1,060万円
正社員採用(1年で退職・再採用) 40万円 30〜100万円 × 2回 1,020〜1,160万円
パート採用 10万円 5万円 245万円
派遣スタッフ 30万円 0円 720万円
外注(経理代行) 5万円 0円 120万円

コストだけでみると、外注が最も安い。採用した正社員が1年で退職・再採用になると、採用コストだけで60〜200万円が飛ぶ。外注なら2年間で120万円以下に収まる。この差は従業員規模が小さいほど大きくなる。

経営者が経理を兼務し続けるコスト

「採用も外注もせず、自分でやる」という選択肢を取っている会社も多い。短期的にはゼロコストに見えるが、実態として最もコストが高い選択肢になりやすい。

業務効率化に特化したエンジニアとして関わった会社で、社長が毎月の締め日に丸2〜3日を経理処理にあてているケースを複数見てきた。その間、営業も採用活動も止まる。会計ソフトの入力から請求書の確認、振込作業まで一人でこなしていると、月の総経理時間は40〜60時間になることも珍しくない。

外注コストの月3〜8万円で経理を手放せるなら、その時間を売上に直結する業務に使える。金額だけを比べると「外注は高い」と感じる場面もあるが、経営者の時間に換算すると話が変わる。

一人経理の業務量と外注判断の目安は、一人経理の業務量は適正?従業員数別の目安と限界サインで詳しく整理している。

僕の意見:外注を「一時しのぎ」と捉えなくていい

よく聞くのが「外注は採用できるまでのつなぎ」という考え方だ。採用担当のコンサルやメディアはそう言いがちだが、僕の意見は少し違う。

従業員20人以下の会社では、外注を恒久的な運用にしてもまったく問題ない。経理業務の月次処理は外注先が担い、経営者は資金繰りと税理士とのやりとりだけを持てばいい。この体制を3〜5年続けている会社をいくつか知っているが、採用しないことで採用コストと退職リスクを両方ゼロにしている。

大手メディアには「事業成長に合わせて採用に切り替えを」と書かれることが多い。ただ実際には、従業員が30〜40人になっても外注+ツールで対応しているケースは珍しくない。「採用が正解」と思い込まない方が、選択肢の幅が広がる。

外注と採用のどちらが自社に合うかを検討する際は、記帳代行は自分でやるべき?外注すべき?判断基準チェックリストが参考になる。

採用できない今、取るべき手順

採用に何ヶ月も費やして採用できない状態が続くのが最も損失が大きい。現実的な手順は以下のとおりだ。

Step 1:今の経理業務量を把握する

月に何時間の経理作業が発生しているかを確認する。月50時間未満なら外注で対応できる範囲が多い。仕訳件数・給与計算件数・請求書の枚数を概算でよいのでリストアップする。

Step 2:外注でカバーできる業務を確認する

記帳・給与計算・請求書処理・月次試算表の作成は外注対応が可能だ。資金繰りの判断・銀行との折衝・契約書の承認は引き続き経営者が担う。この仕分けができれば、外注範囲の見積もりが取れる状態になる。

Step 3:外注先に見積もりを取る

業務の概要と月の取引件数を伝えれば、1週間以内に概算が出る。複数社(2〜3社)から取って費用と対応業務の範囲を比較する。見積もりは無料のため、まず依頼してみることがスタートになる。

Step 4:採用環境が整ったら切り替えを検討する

外注中も業務フローが文書化されているため、採用後の引き継ぎが楽になる。「採用できる状態になった時点で切り替える」という順序で動くのが合理的だ。急いで採用を決めるより、外注で安定させてから判断した方が選択肢が広がる。

まとめ

経理担当者が採用できない状況での選択肢を整理する。

選択肢 月額コスト 即応性 リスク
正社員採用 40〜45万円 低い 退職・採用難
パート採用 7〜15万円 中程度 定着率が低い
派遣スタッフ 25〜35万円 高い スタッフ交代
外注(経理代行) 3〜8万円 高い ほぼなし

従業員30人以下であれば、コスト・即応性・リスクのすべてで外注が最も合理的な選択になる。「今は外注で対応し、会社が成長したら採用に切り替える」という順序も正解だが、外注を恒久的な体制にすることも十分に選択肢に入る。

採用に固執する前に、まず外注で業務を安定させることを検討してほしい。

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