不動産会社の事務担当に話を聞くと、「SUUMOとat homeとHOMESに同じ物件情報を3回入力している」「契約書は印刷して押印してスキャンして、という流れが今も変わっていない」というケースが多い。
同じ情報を複数の場所に手入力する作業、紙の書類をやりとりするための時間——これらは不動産業界が長年抱えている構造的な問題で、「うちだけが遅れている」わけではない。ただ、2022年以降は法律の整備が進んで選択肢が増えており、以前よりも現実的にデジタル化できるようになっている。
この記事では、不動産会社の事務作業を優先順位つきで整理し、どこから手をつければ効果が出るかを解説する。
不動産会社の事務が「特に手間がかかる」構造的な理由
まず、なぜ不動産会社の事務が他業種に比べて手間がかかりやすいのかを整理する。
物件情報の多重入力
賃貸・売買問わず、物件情報はSUUMO・at home・LIFULL HOME'Sなど複数のポータルサイトに掲載する必要がある。それぞれ入力フォームや仕様が異なるため、同じ内容を手動で複数回入力するのが現実だ。
さらに、価格変更・空室状況の更新があるたびに、全ポータルの情報を修正しなければならない。1物件あたり数十分かかる作業が、扱う物件数が増えるにつれて事務の大きな負荷になっていく。
契約書・重要事項説明書の紙管理
不動産取引では、重要事項説明書(重説)や売買契約書・賃貸借契約書に宅地建物取引士の押印が必要だった。このため「紙で印刷して押印、郵送またはFAX」という流れが長く続いてきた。
2022年5月に改正宅建業法が施行され、重要事項説明書・不動産売買契約書・賃貸借契約書のすべてが電子化できるようになった。
法律上の障壁は取り除かれているが、まだ「紙の方が確実」という慣習から変えられていない会社が多い。
電話・FAX中心のコミュニケーション
管理会社・オーナー・入居希望者・仲介会社とのやりとりが電話とFAXに集中している。この構造は情報が口頭や紙に散らばりやすく、「いつ・誰が・何を確認したか」が記録として残りにくい。
効率化の優先順位と具体的な方法
不動産会社の事務効率化は、以下の順番で取り組むと費用対効果が出やすい。
ステップ1:物件情報の一元管理(最優先)
効果が大きい順に取り組むなら、まず物件情報の管理から手をつけるべきだ。
問題の核心は「同じデータを複数の場所に手で入力している」ことだ。これを解消するには、物件管理システムを中心に置いて、ポータルサイトへの情報連携を自動化する。
代表的な物件管理システム(賃貸管理特化)としては、以下のようなものがある。
- いえらぶCLOUD:30以上のポータルサイトへの一括連携機能あり。賃貸・売買どちらも対応
- ITANDI BB(イタンジビービー):物件情報管理・入居申込・電子契約を一元化できるプラットフォーム
- GMO賃貸DX:オーナー向けアプリとの連携を含む、管理業務のデジタル化ツール
これらを導入すると、1回の入力でポータルへの情報配信が完結するため、重複入力と更新作業の負荷を大きく減らせる。
月額費用は規模によって異なるが、管理物件50戸前後の中小不動産会社であれば月額2〜5万円程度が目安になる。
ステップ2:電子契約・電子署名の導入
前述の通り、2022年5月以降は重要事項説明書も含めて電子契約が法律上可能になっている。
電子契約を導入すると、以下の手間が省ける。
- 書類の印刷・製本・郵送の手間と費用(郵便料金は2024年に値上がりしている)
- 顧客から押印済み書類が返送されるまでの待ち時間
- 押印済み書類の物理的な保管と検索の手間
不動産業界向けの電子契約サービスとしては、GMO電子印鑑AgreeやDocuSign、クラウドサインなどが多く使われている。いずれも宅建業法に対応した書類フォーマットを用意している。
導入コストは月額数千円〜2万円程度が多く、印刷・郵送費と比較すると月次でコストが下がるケースがほとんどだ。
なお、IT重説(オンラインによる重要事項説明)は賃貸では2017年から、売買では2021年から本格運用されており、対面での説明が不要になっている。移動時間の削減と、日程調整のしやすさという点でメリットがある。
ステップ3:入居申込・審査のオンライン化
賃貸管理会社にとって、入居申込の受付と審査連絡は事務負荷が高い工程だ。
紙の申込書では、オーナー・管理会社・仲介会社の間でFAXやメールで書類を転送し、不備があれば再度確認するという往復が発生しやすい。
ITANDI BBの申込受付くんなどの入居申込プラットフォームを使うと、入居希望者がスマートフォンから申込を完結できる。管理会社側での書類転記・不備確認の手間が減り、審査会社への連携も自動化できる。
管理物件数が多い会社ほど、この部分の効率化インパクトが大きい。
ステップ4:社内コミュニケーションのデジタル化
物件確認・案内調整・オーナーへの報告など、日常的なコミュニケーションが電話に集中していると、「電話を取れる人間がいないと業務が止まる」状態になりやすい。
チャットツール(LINE WORKS・Chatwork・Slack等)を導入し、物件に関するやりとりや確認事項をテキストで記録するようにすると、情報が口頭に散らばらなくなる。営業担当が外出中でも確認できる状態をつくれる。
LINEベースのLINE WORKSは、オーナーや入居者との外部コミュニケーションに使いやすい点が不動産業界で評価されている。
優先順位のまとめ
| ステップ | 対象業務 | 効果 | 費用感 |
|---|---|---|---|
| 1 | 物件情報の一元管理 | 重複入力をなくす | 月2〜5万円 |
| 2 | 電子契約の導入 | 書類の印刷・郵送・保管を削減 | 月数千円〜2万円 |
| 3 | 入居申込のオンライン化 | FAX往復と書類転記をなくす | 要見積もり |
| 4 | 社内チャットの整備 | 口頭・電話依存を減らす | 無料〜月数千円 |
一度に全部を変えようとすると導入コストとスタッフへの負荷が重なる。まず「物件管理システムの見直し」だけを1〜2か月で完了させ、安定してから電子契約に進む、という段階的な進め方が現実的だ。
「自社に何が必要か分からない」場合の整理の仕方
効率化を進めようとする前に、「今どの業務に時間がかかっているか」を1週間記録することをすすめている。
具体的には、事務担当者が1日の業務を書き出し、「手作業になっている工程」「同じ情報を複数回入力している工程」「確認待ちで時間がかかっている工程」の3点を洗い出す。これをやるだけで、どのステップから始めるべきかが明確になることが多い。
まとめ
不動産会社の事務作業が複雑になりやすい構造的な理由は、物件情報の多重入力・紙の契約書管理・電話・FAX中心のやりとりの3つに集約される。
2022年以降は法律の整備が進み、重要事項説明書を含む契約書類の電子化が認められている。「紙でなければならない」という制約はほぼなくなっており、あとは「どこから変えるか」の問題だ。
まず物件管理システムの一元化から着手し、そこが安定したら電子契約・入居申込のオンライン化へと進む順番が、スタッフの負荷をなるべく分散しながら効率化できる進め方だ。
不動産会社の事務を外部リソースでサポートする選択肢については、以下の記事も参考にしてほしい。