取引先から届いた請求書を、会計ソフトに手で打ち込んでいる。
月末になると事務担当者がその作業に追われ、ほかの仕事が後回しになる。入力ミスが起きて確認に時間がかかる。そういう話は、従業員10〜30人規模の会社でよく聞く。
業務効率化に特化したエンジニアとして顧問先の支援をしていると、「請求書の手入力をどうにかしたい」という相談は月に何件か届く。AI-OCRという言葉は知っていても「高そう」「難しそう」と思って手が出せていない会社が多い。
実際には、すでにfreeeやマネーフォワードを使っているなら、追加費用ゼロでAI-OCR機能が使える状態になっていることがほとんどだ。
この記事では、会計ソフト内蔵のAI-OCR機能の確認から始めて、専用ツールが必要なケース、費用感と選び方までを整理する。
まず確認:使っている会計ソフトのAI-OCR機能
中小企業が最初に確認すべきは「新しいツールの導入」ではなく、「今使っている会計ソフトに機能があるか」だ。
freee・マネーフォワード・弥生を使っているなら、すでにAI-OCR機能が利用できる状態になっている可能性が高い。まずここを確認してから、専用ツールの検討に進む順番がいい。
freeeのAI-OCR機能(追加費用なし)
freee会計の「ファイルボックス」機能を使うと、PDFや画像ファイルをアップロードするだけで、取引日・金額・取引先名をAIが読み取って仕訳候補を自動作成する。
確認画面で内容を確認し、問題なければボタンを押して登録完了。「手入力する」作業が「読み取り結果を確認する」作業に変わる。
受取請求書の明細行まで読み取るAI-OCR機能(明細OCR)もベータ版として提供中で、順次対応範囲が拡大している。freeeを使っている会社は、まずこの機能から試してほしい。
対応プラン: 法人向け各プランに含まれる(プランにより機能範囲が異なる)
マネーフォワード クラウドのAI-OCR機能
「AI-OCRから入力」機能で、請求書ファイルをアップロードすると仕訳候補が自動作成される。確認後に仕訳登録とファイル添付をまとめて完了できる。
マネーフォワード クラウドインボイスを使うと、AI-OCRの読み取りに加えてオペレーターによる補正も入るため、精度がさらに上がる。料金は月5件まで無料、6件目以降は20円/件の従量課金だ。
顧問先の1社で試したところ、月30枚程度の電子請求書であれば追加費用600円以下で収まった。月50枚以下のケースなら、この内蔵機能で対応できることが多い。
対応プラン: 法人向け各プランに含まれる(プランにより機能範囲が異なる)
弥生のスマート証憑管理(当面無料)
弥生会計 オンラインにも「スマート証憑管理」という機能がある。スキャンしたPDFや画像から仕訳データを自動作成する機能で、2026年時点では当面無料で提供されている。
freee・マネーフォワードと比較すると対応書類の柔軟性でやや差があるが、長年弥生を使っている会社にとっては「切り替えコストなし」で始められる点が強い。
会計ソフト内蔵機能では対応できないケース
freeeやマネーフォワードの内蔵AI-OCRで十分かどうかは、受け取る請求書の量と形式による。次の3つに当てはまる場合は、専用ツールの検討が必要になる。
ケース1:月100枚以上の請求書を受け取る場合
内蔵機能は基本的に経理担当者がファイルを1件ずつアップロードして確認する操作を前提としている。月100枚を超えてくると、確認作業自体が重くなる。
専用ツールはバッチ処理(まとめて処理)に対応しており、大量の請求書をまとめて取り込める。メール添付で届く請求書を自動取得する機能を持つツールもあり、アップロード作業自体もなくせる。
ケース2:手書きや複雑なレイアウトの書類が多い場合
会計ソフト内蔵のAI-OCRは、一般的な電子請求書のPDFに強い。一方、手書き帳票・特殊なレイアウトの書類・複数ページにまたがる帳票は読み取り精度が下がることがある。
建設業や飲食業の顧問先では、下請けから届く手書きの納品書や請求書が多くて、内蔵機能だと修正作業が増えてしまうという話を何件か聞いている。こうした業種では専用ツールの方が合う場合が多い。
ケース3:会計ソフト以外のシステムに自動連携したい場合
読み取ったデータを基幹システムや受発注管理システムに自動で送りたい場合、会計ソフト内蔵機能の連携先は会計ソフト自身に限られる。
専用AI-OCRツールはAPIやRPA(ロボット操作自動化)との組み合わせで、さまざまなシステムへのデータ転送が可能だ。RPAとの連携については中小企業の事務作業をRPAで自動化する方法|無料から始めるツール比較と導入手順も参考にしてほしい。
専用AI-OCRツール比較4選
月50〜100枚超の請求書処理や、複雑な帳票対応が必要な場合に検討する選択肢を4つ整理した。
| ツール名 | 月額費用 | 精度 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| バクラク(LayerX) | 月4万円〜 | 高い | 承認フローも同時に整備したい |
| TOKIUM | 月1万円〜 | 99%以上(オペレーター補正込み) | 精度を最優先したい、電子帳簿法も対応したい |
| invox受取請求書 | 従量制(要問い合わせ) | 99.9%(オペレーター補正込み) | 大量処理、メール自動取得も使いたい |
| スマートOCR(インフォディオ) | 従量制(要問い合わせ) | フォーマット対応が強い | 手書き・複雑レイアウトの書類が多い |
バクラク(LayerX)
請求書の受取・支払いに特化したクラウドサービス。AI-OCRによる読み取りだけでなく、承認ワークフロー・振込データ作成・会計ソフト連携まで一貫して対応している。freee・マネーフォワード・弥生との連携が可能。
月4万円〜という費用は「AI-OCRを入れたい」だけなら割高に見えるが、「経理フロー全体を整備したい」という目的であればコスト効率は高い。承認フローがなくて経費処理が属人化している会社に向いている。
向いているケース: 月50〜100枚超の請求書処理 + 承認フローも整備したい
TOKIUM
請求書受領に特化したサービス。AI-OCRの読み取りにオペレーターが確認・補正を行うため精度が高い。電子帳簿保存法への対応機能も含まれており、コンプライアンス面の整備と合わせて進められる。
月1万円〜という費用感は、専用ツールの中では比較的入りやすい。「精度を最優先したい」「電子帳簿保存法への対応も同時に整えたい」という会社に合っている。
向いているケース: 精度優先 + 電子帳簿保存法対応を同時に整えたい
invox受取請求書
メール添付で届く請求書を自動取得して処理する機能が強みで、アップロード作業自体をなくせる。99.9%の読み取り精度はオペレーター補正込みの数字だが、大量処理での安定性が評判いい。
向いているケース: 月100枚超の大量処理 + メール添付請求書の自動取得も使いたい
スマートOCR(インフォディオ)
表形式の帳票や、フォーマットが異なる書類への読み取り精度が強みの専用AI-OCR。請求書だけでなく、見積書・納品書・契約書など幅広い帳票に対応している。
フォーマットがバラバラな請求書が多い会社、または請求書以外の帳票もまとめて処理したい会社に向いている。
向いているケース: フォーマットが不統一な書類が多い・複数種類の帳票を一括処理したい
電子帳簿保存法との関係:AI-OCR導入前に確認すること
2022年の電子帳簿保存法改正以降、AI-OCRへの問い合わせが増えた。「電帳法に対応しなきゃいけないから、AI-OCRを入れよう」という流れで相談が来るケースだ。
電帳法とAI-OCRの関係を整理すると、AI-OCRは電帳法対応を「楽にする」ツールであって、AI-OCRを入れれば自動的に対応完了になるわけではない。
電子帳簿保存法(スキャナ保存)の主な要件は以下の3つだ。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 読み取り項目の確保 | 取引日・取引金額・取引先名が確認できること |
| 検索機能 | 日付・金額・取引先の3項目で検索できること |
| タイムスタンプ | 受領後一定期間内にタイムスタンプを付与すること(または適切な管理方法を採用) |
AI-OCRは「取引日・取引金額・取引先名の読み取り」と「検索機能のための自動データ化」を担う。ここは楽になる。ただし、タイムスタンプの付与要件は別途対応が必要で、TOKIUM等の電帳法対応機能を持つツールでは一緒に対処できる。
「AI-OCRを入れたから電帳法OK」と思い込んで後から修正が必要になるケースがある。導入前に税理士か専門家に確認しておくことを勧める。インボイス制度への対応と合わせて確認したいならインボイス制度に対応できていない中小企業がやるべきことも参考にしてほしい。
費用と選び方:規模別の目安
どのツールを選ぶかは、月に受け取る請求書の枚数と予算で決まる。
| 月の請求書枚数 | 推奨の選択肢 | 月額費用の目安 |
|---|---|---|
| 月30枚以下 | 会計ソフト内蔵AI-OCR | 追加費用なし〜600円程度 |
| 月30〜100枚 | 会計ソフト内蔵 or TOKIUM | 追加費用なし〜月1万円〜 |
| 月100〜300枚 | バクラク・TOKIUM・invox | 月1万〜4万円〜 |
| 月300枚以上 | invox・バクラク | 従量課金で要見積もり |
「費用対効果があるか」を判断するために、現在の手入力コストと比較することが有効だ。
1件の請求書を手入力する時間が5〜15分とすると、月50枚で月250〜750分(約4〜12時間)の入力作業になる。AI-OCRを入れると確認作業が1〜2分程度になるので、月50枚で月100分前後に削減できる。
削減できる作業時間の価値をどう見るかは会社次第だが、ツールの費用と実際の削減時間を比べて判断する材料にしてほしい。
導入の手順:3ステップで進める
Step 1:使っている会計ソフトのAI-OCR機能を試す(費用ゼロ)
freeeやマネーフォワードを使っているなら、まず実際に受け取った請求書のPDFを10枚アップロードして読み取り精度と操作感を確認する。追加費用はかからない。
一般的な電子請求書のPDFであれば90〜95%程度の精度で読み取れる。この段階で「これで十分」と感じれば、専用ツールを入れる必要はない。
Step 2:1ヶ月使って読み取り精度と枚数を記録する
試した結果、読み取れないパターン(手書き、特殊レイアウト等)がどのくらいあるかを1ヶ月記録する。月の枚数と手直しが必要な割合が分かれば、専用ツールへの切り替えが必要かどうかを判断できる。
「内蔵機能で月に何時間かかっているか」と「専用ツールの月額費用」を比較して、切り替えを検討する。
Step 3:専用ツールが必要なら無料トライアルで自社書類を試す
バクラク・TOKIUM・invoxなど主要ツールは無料トライアル期間を設けている。自社の実際の請求書を使ってテストすることが、精度確認の最も確実な方法だ。カタログスペックよりも、自社の書類で実際に試した結果を基準に選ぶ。
僕が支援した会社でよく見るパターンが「2社のトライアルを同時に走らせて、同じ請求書を両方に読み取らせて比較する」というやり方だ。精度と操作感を並べて比較できるので、決めやすい。
よくある誤解:「AI-OCRで全自動になる」ではない
AI-OCRを導入しても、読み取り後の確認作業はゼロにならない。精度が高くても100%ではないため、最終的に人が確認するステップは残る。
変わるのは「ゼロから手入力する作業」が「読み取り結果を確認する作業」に変わることだ。1件5〜15分かかっていた入力作業が、1〜2分の確認作業になる。これだけでも月30〜50枚の請求書を処理している会社であれば、月に数時間の作業削減になる。
もう1つ気をつけてほしいのが「手書き書類の読み取り精度」だ。AI-OCRの広告には「99%精度」という文句が多いが、これは一般的な電子PDFを前提にしている場合が多い。筆跡にクセのある手書き書類や、余白が少ないレイアウトの書類は読み取り精度が大きく落ちる。
実際のトライアルで「自社の請求書の中で読み取れない種類がどのくらいあるか」を確認することが、導入後の期待値を正しく設定するために重要だ。
「AI-OCRを入れたのに現場で使われなくなった」という会社を何件か見てきた。理由を聞くと「思っていたより手直しが多くて面倒になった」というケースが多い。精度への過度な期待を下げた上で導入した方が、定着率が上がる。
まとめ
AI-OCRで請求書の手入力をなくすための選択肢を整理する。
- freee・マネーフォワードを使っているなら、まず内蔵AI-OCR機能を試す。追加費用なしで始められる
- 月30枚以下の電子PDFが中心なら、内蔵機能で十分なことが多い
- 月100枚超・手書き帳票が多い・他システム連携が必要な場合は専用ツールを検討する
- 専用ツールの費用は月1万円〜4万円程度が目安。無料トライアルで自社書類を試してから選ぶ
- AI-OCRを入れても確認作業はゼロにならない。「手入力→確認作業」への変換が目的
- 電子帳簿保存法対応とセットで進めるならTOKIUM等の対応機能付きツールが効率的
請求書処理以外の経理業務の効率化については経理を効率化したら会社はどう変わるか|Before/Afterで見せるも参考にしてほしい。