事務・バックオフィス効率化

経理を効率化したら会社はどう変わるか|Before/Afterで見せる

「経理を効率化したい」と思いつつ、何が変わるのかイメージできないまま動けていない経営者は多い。

コストはかかるのか。担当者の負担は本当に減るのか。自分の会社でやれるのか——こういった疑問が解消されないと、動き出せない。

業務効率化に特化したエンジニアとして、複数の中小企業の経理改善に関わってきた。僕の経験では、「何が変わるかを数字で見せてもらえれば動ける」という経営者が大半だ。この記事では、従業員15人規模の会社を前提に、経理効率化の前後で起きる変化を具体的に示す。

前提:この記事で想定する会社の規模

項目 内容
従業員数 15名(正社員10名、パート5名)
経理担当 事務担当者1名が経理を兼務
現在の経理ツール Excelと会計ソフト(弥生)
税理士 顧問税理士あり(月次訪問なし、決算のみ)
経費精算 紙の申請書を手で集めている

この規模・状況は、経理体制の見直しを検討し始める会社のパターンとして典型的だ。従業員20〜30人を超えると経理専任を置く判断が出てくるが、15人前後はまだ兼務でどうにか回している段階が多い。

ここに書く数字は、業務委託で関わってきた複数社の実態から出した目安だ。会社によって差はあるが、おおむねこの範囲に収まる。

Before:効率化前に経理担当者が抱えていること

毎月の作業量

業務 担当 かかる時間(目安)
銀行明細の確認・仕訳入力 事務担当 月10〜15時間
請求書の発行・送付(月30〜40件) 事務担当 月6〜8時間
経費精算の集計・入力 事務担当 月5〜7時間
給与計算(勤怠集計→計算→振込手続き) 事務担当 月8〜12時間
支払い処理(振込手続き) 事務担当 月3〜4時間
合計 月32〜46時間

事務担当者が1人でこれを担うと、月末は残業が常態化する。

起きている3つの問題

1. 試算表が遅い

顧問税理士に渡すデータの締めが翌月末近くになるため、試算表が出てくるのは翌々月はじめになることも珍しくない。経営者が「先月の数字」を把握できるのは、実際には1〜2ヶ月後になっている。

資金繰りの問題に気づくのが遅れた、というケースは、この「数字の遅れ」が根本にあることが多い。

2. 担当者が休むと止まる

会計ソフトのパスワードを担当者しか知らない、振込手続きを担当者しかできない——属人化が進んでいる場合、担当者が数日休んだだけで業務が滞る。

エンジニアとして関わった会社で、経理担当が1人で請求書200枚を毎月処理していた場面がある。その方が体調を崩した瞬間、業務が完全に止まった。「分かっている」レベルで終わらせていた属人化リスクが、現実になった瞬間だった。

3. 月末の集中がひどい

月末締めと給与計算が重なる時期、担当者の残業が月20〜30時間以上になるケースがある。この状態が続くと担当者の退職リスクが上がる。経理担当者を採用で補充しようとすると、求人費・紹介料だけで30〜50万円かかることも珍しくない。辞めさせない方がコストは低い。

経理の属人化が深刻な場合は、経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付きも参照してほしい。

After:3つのツールを組み合わせた後に変わること

「クラウド会計ソフトへの切り替え」「経費精算アプリの導入」「給与計算ソフトと勤怠管理の連携」の3点を組み合わせたパターンで試算する。

毎月の作業量(変化後)

業務 担当 かかる時間(変化後)
銀行明細の自動取込・仕訳確認 事務担当(確認のみ) 月2〜3時間
請求書の発行・送付(テンプレート化) 事務担当 月2〜3時間
経費精算の集計(スマホ申請→自動集計) 事務担当(承認のみ) 月1〜2時間
給与計算(勤怠データ自動連携) 事務担当 月2〜3時間
支払い処理 事務担当 月1〜2時間
合計 月8〜13時間

月の作業量が約1/3〜1/4に減少する。

何がどう変わるか

試算表が早く出るようになる

クラウド会計は銀行明細・クレジットカード明細を自動で取り込む。仕訳入力の大半が自動化されるため、月次締めが翌月10〜15日に完了するようになる。経営者が月次の数字を把握できるタイミングが、これまでより2〜3週間早まる。

「数字が速く出る」というのは、単に便利になるだけではない。資金ショートの予兆を早く掴めるということだ。月次の入出金を2週間早く把握できれば、手を打てる時間が2週間増える。これは実際に効いてくる話だ。

担当者が休んでも止まらない

クラウドツールはIDとパスワードがあれば誰でもアクセスできる。担当者以外も操作できる状態にしておくことで、急な不在時も業務が止まりにくくなる。「鍵の開け方を知っているのが1人だけ」という状態を解消するだけで、会社のリスクは大きく下がる。

月末の集中が解消される

自動化できる部分が増えると、月末に集中していた作業が月を通して分散される。残業の山が崩れ、担当者の負担が平準化される。担当者の残業が月20〜30時間減ることで、別の業務に時間を充てられる。

コスト比較:3つのアプローチと費用の目安

経理効率化のアプローチは大きく3パターンある。どれを選ぶかは、担当者のスキルと会社の目的によって変わる。

パターン1:ツール導入のみ

導入ツール 月額費用(目安)
クラウド会計ソフト(freee スタンダード or マネーフォワード クラウド会計) 3,000〜5,500円
経費精算アプリ(マネーフォワード クラウド経費 等) 2,000〜3,000円
給与計算ソフト(freee人事労務 等) 2,400〜4,000円
合計 月7,400〜12,500円

向いているケース:事務担当者がいて、本人の処理速度を上げることが目的の場合。

注意点:ツールを入れるだけでは使いこなせないまま終わることがある。最初の1〜2ヶ月は設定・データ移行に時間がかかる。freeeやマネーフォワードには公認の導入支援パートナーがあり、初期設定のサポートを受けられる仕組みがある。費用は別途かかるが、初月の立ち上がりコストを見込んでおくべきだ。

パターン2:記帳代行への部分外注

内容 月額費用(従業員15人・月150〜200件規模)
記帳代行(仕訳入力のみ) 1万5,000〜2万5,000円
クラウド会計ソフト(確認用) 3,000〜5,500円
合計 月1万8,000〜3万円

向いているケース:担当者の仕訳入力負担をなくしたい場合、または経理担当者が退職して引き継ぎが難しい場合。

注意点:外注先との連携フロー(誰がいつどのデータを送るか)を整備しないと、却って手間が増えることがある。「月末にまとめて送る」運用だと、クラウド会計のリアルタイム性が活かせない。週次や日次で連携できる体制にすることが前提だ。

経理外注の具体的な手順は中小企業の経理を外注する手順|準備から導入まで完全ガイドにまとめている。

パターン3:ツール+外注の組み合わせ(推奨)

クラウド会計ソフトを自社で使いながら、仕訳の確認・複雑な処理だけを外注するパターン。

内容 月額費用(目安)
クラウド会計ソフト 3,000〜5,500円
経費精算・給与計算ツール 4,000〜7,000円
部分的な経理代行(仕訳確認・月次レポートなど) 1万〜2万円
合計 月1万7,000〜3万2,500円

向いているケース:ツールを入れつつ、属人化のリスクも同時に解消したい場合。外注先がクラウド上でリアルタイムにデータを見てくれるため、担当者が休んでも月次処理が続く。

僕が「まず最初にここから始めてほしい」と言うのがこのパターン3だ。理由は、ツールだけでは属人化が残るから。月額1〜2万円の部分外注を組み合わせることで、担当者不在リスクとデータ遅延の両方を同時に解決できる。

Before/Afterを数字でまとめると

項目 Before After
事務担当の月次作業時間 月32〜46時間 月8〜13時間
試算表が出るタイミング 翌月末〜翌々月初 翌月10〜15日
担当者不在時のリスク 業務が止まる ツール・外注で継続可能
経理ツール月額費用 0〜3,000円(弥生のみ) 月1万7,000〜3万2,500円
担当者の月末残業 月20〜30時間増 大幅減・平準化

月額費用は増えるが、担当者の残業が月20〜30時間減ることで、別の業務に時間を充てられる。試算表が早く出ることで、経営判断のタイミングも前倒しになる。

実際に動かした経験から言えること

業務効率化に特化したエンジニアとして、自分の会社でも経理の効率化を実行してきた。

ラズリでは、freeeとAI組織を組み合わせた仕組みで運営している。月の経理稼働は2〜3時間に圧縮できている。銀行明細の自動取込→仕訳確認→月次集計という流れで、月末にかかる時間がほとんどない。

ただ、この仕組みを作るまでに最初の1ヶ月は初期設定で時間がかかった。データ移行、仕訳ルールの設定、税理士との連携フロー確認——これを事前に見積もっておかないと、想定外の時間を取られる。

経理効率化を進める会社に僕が最初に確認するのは、「初月の設定コストを誰が担うか」だ。ここを曖昧にしたまま動き出すと、担当者が疲弊して効率化が続かない。

一般論と違う部分を正直に書く

ネット上の経理効率化記事の多くは「ツールを入れると自動化される」と書く。半分正しく、半分は不正確だ。

自動化されるのは「定型の仕訳入力」と「集計作業」だ。一方で、以下は自動化されない:

  • イレギュラーな仕訳の判断(勘定科目の決め方、補助科目の設定)
  • 税理士への情報提供(月次の数字に対する経営者のコメント・説明)
  • 経費精算の承認(領収書の内容確認は人間がやる)

ツールで効率化されるのは「手を動かす時間」であって、「判断する時間」ではない。この違いを理解した上で導入を進める会社の方が、3ヶ月後にツールが定着している率が高い。

どこから手をつけるか

「全部一気に変える」のは難しい。実際に効果が出やすい順番は次のとおりだ。

Step 1:クラウド会計ソフトに切り替える

銀行明細の自動取込が始まるだけで、仕訳入力の時間が大幅に減る。最初の1〜2ヶ月は設定に時間がかかるが、3ヶ月目から安定して効果が出始める。

freeeかマネーフォワードのどちらを選ぶかは、既に使っている税理士の対応ソフトに合わせることを勧める。連携のしやすさで選ぶのが正解だ。

Step 2:経費精算をスマホアプリに移行する

紙の領収書収集→手入力のフローをなくす。申請する従業員側の手間も減るため、導入のハードルは低い。承認フローが電子化されるため、担当者が出社しなくても承認できる体制になる。

Step 3:給与計算ソフトと勤怠管理を連携させる

勤怠データが自動で給与計算に反映されるようにすることで、集計ミスと作業時間が同時に減る。給与計算の月次稼働を月8〜12時間から2〜3時間以内に下げられる会社が多い。

Step 4:属人化の解消(外注またはマニュアル化)

ツールで作業効率は上がっても、担当者が休んだ時のリスクは残る。外注で対応するか、社内でアクセス権を分散させるかを決める。外注を選ぶ場合は記帳代行が月1万5,000〜2万5,000円から始められる。マニュアル化を選ぶ場合は、操作手順書の作成に初月5〜10時間かかると見ておくべきだ。

まとめ

経理を効率化すると起きることを整理する。

  • 事務担当の月次作業が月32〜46時間から8〜13時間に減る
  • 試算表が翌月末から翌月15日以内に出るようになる
  • 属人化リスクが下がり、担当者不在でも業務が止まりにくくなる
  • ツール+部分外注の組み合わせで月1万7,000〜3万2,500円から始められる
  • 担当者の残業が月20〜30時間減ることで、退職リスクも下がる

「効率化したいが何から始めていいか分からない」という場合、まず会計ソフトをクラウドに切り替えるところから始めると、ほかの改善も連鎖的に進めやすくなる。

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