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中小企業の経理不正はなぜ起こる?一人経理に潜む3つのリスク

「うちの経理担当は10年以上いる、信頼できる人間だ」

この言葉を聞くたびに、リスクを感じる。長年勤めていること自体は問題ではない。ただ、一人経理の体制では、担当者が善意で働いていたとしても不正が起きやすい環境が整ってしまっている。

この記事では、一人経理で発生しやすい不正の構造・手口・防止策を整理する。「うちは大丈夫」と思っている会社にこそ、読んでほしい内容だ。

なぜ一人経理は不正リスクが高いのか

不正が起きるかどうかは「担当者の性格」だけでは決まらない。不正が起きやすい「環境」が存在するかどうかの問題だ。

公認会計士・内部監査の分野では「不正のトライアングル」という考え方がある。不正が起きるには3つの要素が揃いやすいと言われている。

要素 内容 一人経理との関係
機会 不正を実行できる状況がある 一人で全てを管理する=チェックがない
動機 不正をやりたい理由がある 給与・ストレス・借金など
正当化 「これくらいいい」と思える理由がある 「自分だけが頑張っている」感覚

中小企業の一人経理では「機会」が最大のリスクだ。入出金の管理・帳簿の記録・振込処理・銀行通帳の確認を全て一人が担っている場合、それをチェックする人間が社内にいない。

一人経理で起きやすい3つの不正パターン

リスク1:小口現金・経費精算の水増し

経費精算の承認ルールが曖昧で、担当者が承認権限も持っている場合に起きやすい。

具体的な手口:

  • 領収書を自分で作成・改ざんする
  • 金額を実際より高く申請する
  • 存在しない領収書を計上する

少額からはじまり、発覚されないと分かると金額が増えていくケースが多い。年間で数十万〜数百万円規模になることもある。

なぜ発覚しにくいか: 経費精算の承認と入力の両方を担当者が行っている場合、申請内容に疑問を持つ人間が社内にいない。

リスク2:インターネットバンキングの不正送金

インターネットバンキングのIDとパスワードを経理担当者のみが管理している場合に起きやすい。

具体的な手口:

  • 少額の架空請求を作成し、自分の口座や知人の口座に振込む
  • 既存の支払いに「手数料」を上乗せして差額を抜く
  • 月末・決算前の忙しい時期に、経営者が確認できない間に実行する

実際の事例として、インターネットバンキングを使って会社の口座から個人口座へ送金し、3億円を超える金額を横領した事例(製造業の経理課長)が公表されている。少額・高頻度のパターンで数年間発覚しなかったケースも複数ある。

なぜ発覚しにくいか: 経営者が銀行明細を毎月確認していない、または担当者が明細の確認を担当しているため。

リスク3:売上代金の着服・帳簿操作

現金取引が多い業種(小売・飲食・サービス業)に起きやすい。

具体的な手口:

  • 現金売上を帳簿に記録せず、差額を着服する
  • 売上を実際より少なく記録する
  • 返金処理を装って現金を抜く

なぜ発覚しにくいか: 現金の受渡し・帳簿への記録・保管を同じ担当者が行っている場合、外部からは数字が合っているように見える。

「信頼していたから」発覚に時間がかかる

経理不正の多くは、長期間発覚しない。その理由の一つが「信頼関係」だ。

「あの人に限って」という感覚が、確認を怠る理由になる。経営者が銀行明細・試算表を毎月確認する習慣がない場合、担当者が不正を行っても数年間気づかないことがある。

発覚するのは「担当者が退職した後」や「税務調査が入ったとき」であることが多い。その時点では被害が数百万〜数千万円規模になっているケースも少なくない。

最低限の防止策:3つの仕組み

完璧な内部統制を小さな会社が整えるのは現実的ではないが、最低限の仕組みを作ることで不正リスクを大幅に減らせる。

1. 振込の実行と承認を分ける

インターネットバンキングの振込処理は経理担当者が実行し、最終承認(承認ワンタイムパスワード)は経営者が行う仕組みにする。freee・マネーフォワードなどのクラウド会計ソフトには、承認ワークフロー機能がある。

費用: 0円(既存ソフトの機能活用で対応可能)

2. 経営者が月次の銀行明細を直接確認する

毎月1回、経営者がインターネットバンキングにログインし、入出金明細をスクロールするだけでいい。担当者のレポートではなく、生データを見る。10分もあれば完了する作業だ。

「時間がない」と感じる経営者は、スマートフォンでアプリを確認するだけでも構わない。経営者が数字に触れていることを担当者が知っているだけで、抑止効果がある。

3. 経費精算の承認を担当者以外が行う

経費精算の承認者と申請者が同じ人間になっていないか確認する。もし担当者自身が自分の精算を承認している場合、承認フローを変更する。具体的には、経営者が最終承認するか、別の担当者がダブルチェックする仕組みにする。

まとめ

一人経理の不正リスクは「担当者の人柄」ではなく「体制」の問題だ。

リスク 発生しやすい状況 最低限の対策
経費精算の水増し 承認と入力が同じ担当者 承認フローを経営者に変更
不正振込 振込操作と承認が同一担当者 承認ワンタイムを経営者が保有
売上着服 現金管理と帳簿記録が同一担当者 経営者が月次明細を直接確認

「うちは問題ない」と思っている状態が最もリスクが高い。まず今月の銀行明細を経営者自身でログインして確認することから始めてほしい。

属人化が進むほど不正リスクは上がる。属人化の解消方法はこちら。

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