AI顧問・AI導入支援

EC・通販向けAI顧問の活用法|CSと商品管理のAI化

EC・通販事業者のAI活用というと、「レコメンドエンジン」「広告の自動最適化」「ChatGPTで商品説明文を書く」という話になることが多い。前の2つは自社で動かすには技術的なハードルが高い。3つ目は個人でChatGPTを使い始める人が増えているが、「社内で誰も使い続けない」「商品数が多すぎて運用が続かない」という状況になっているEC事業者の話をよく聞く。

僕は業務効率化に特化したエンジニアとしてEC事業者の業務改善に関わってきたが、ツールを入れる前に「どの業務フローをどう変えるか」の設計が整っていないと、どんなツールでも続かない。AI顧問サービスは、ツール導入だけでなく「業務フローの設計」を一緒に進める伴走者として機能する。

この記事では、EC・通販事業者でAI顧問がどの業務に関与できるか、何ができて何ができないかを整理する。

AI顧問というサービス自体の概要についてはAI顧問とは?中小企業が知るべきサービスの全体像と費用相場でまとめている。

EC・通販のバックオフィスで起きていること

従業員5〜20人規模のEC・通販事業者のバックオフィスで実際に起きている課題を先に確認しておく。

CS問い合わせが特定の担当者に集中している

EC事業のCS対応で多い問い合わせは、「注文の確認・変更・キャンセル」「発送状況の確認」「返品・交換の手続き」「商品の使い方・仕様に関する質問」の4種類に集中している。業務効率化エンジニアとしてEC事業者の業務を整理した経験では、この4種類で問い合わせ全体の8割前後を占めるケースが多い。

これらの問い合わせのほとんどは、回答のパターンが決まっている。それにもかかわらず、標準回答のテンプレートが存在せず、担当者が毎回一から文章を書いている会社は多い。担当者が休んだり退職したりすると回答品質が下がる。「この件はあの担当者に聞かないと分からない」という状況が発生する。

繁忙期(年末・セール期間・新商品発売直後)にCSの量が急増しても対応できる体制になっていない会社では、返答が遅れてクレームが増える構造になりやすい。月に100件未満のCS対応なら手動でも回るが、セール期間中に件数が3〜5倍になると、同じ人数・同じやり方では対応しきれなくなる。

商品説明文の作成・更新が追いついていない

取扱商品数が多い事業者では、商品説明文の作成・更新が慢性的に遅れていることがある。新商品を入荷しても説明文の準備が間に合わず、仮の文章のまま公開してしまうケースや、規格変更に合わせて説明文を更新できずに古い情報が残ったままになるケースは珍しくない。

作成担当者が1人しかいない場合、その担当者の負荷が高く、品質のばらつきも出やすい。担当者の退職で文章のトーンが変わってしまうことも起きる。

受注確認・出荷通知・在庫アラートの作業が手動になっている

受注が入ったら確認メールを送り、出荷が完了したら出荷通知を送り、在庫が一定数を下回ったら発注判断をする——これらの作業が手動のままになっている会社がある。

受注量が少ないうちは手動でも回るが、件数が増えると対応漏れが起きる。「出荷通知を送り忘れた」「在庫切れに気づかず注文を受け続けてしまった」という状況は、受注管理の手動作業が原因であることが多い。

AI顧問がEC・通販事業者で関与できる場面

上で挙げた3つの課題に対して、AI顧問はどう関与できるか。業務単位で整理する。

CS対応の半自動化設計

CSの半自動化は、「よくある問い合わせへの自動返信」と「担当者がAIドラフトを使って返信する仕組み」の2段階に分かれる。

第1段階:自動返信の整備

発送状況の確認・注文番号の案内・返品ポリシーの説明など、回答内容がほぼ固定されている問い合わせには自動返信を設定できる。Zendesk・Freshdesk・Re:lationなどのCSツールに自動返信のルールを設定し、問い合わせの種類を自動振り分けする仕組みを作る。

ここで失敗するパターンがある。「自動返信ツールを入れたが効果が出なかった」という会社の多くは、標準回答テンプレートを整備する前にツールを設定している。ツールは「何をどの条件で返信するか」のルールが設計されていないと機能しない。自動化の前に「自社でよく来る問い合わせ上位10件の標準回答を文書化する」という作業が必要で、AI顧問はその業務分析から設定作業までを担う。

第2段階:AIドラフト活用の定着

自動化できない問い合わせ(クレーム・複雑なケース・個別対応が必要な件)については、担当者がChatGPTやClaudeを使ってドラフトを生成して、確認・修正して送るフローに変える。

「どのプロンプトを使えば自社のCSトーンに合ったドラフトが出るか」を整備して、担当者全員が同じテンプレートを使える状態にすることがAI顧問の仕事だ。プロンプト1つで「0から書く」を「確認して送る」に変えることができる。

商品説明文の量産設計

商品説明文のAI生成は技術的には簡単だが、「業務として機能する状態」を作るための整備に手間がかかる。

SKU数が100を超えるEC事業者では、担当者が商品説明文の更新を常に後回しにしている状況が多い。新規入荷は増えるが説明文の整備が追いつかず、仮の文章のまま公開し続けるか、担当者が残業して対応するかどちらかになっている。AI生成で1商品あたりの作業時間を短縮できると、このボトルネックが解消する。

必要な整備は3つだ。

  • 入力フォームの設計: 商品名・素材・機能・サイズ・対象ユーザーなど、説明文生成に必要な情報の入力フォーマットを決める。担当者が入力する項目を標準化することで、生成される説明文の品質が安定する。
  • プロンプトテンプレートの整備: 自社のブランドトーン・書き方のルール(箇条書きか文章か、文字数など)に合わせたプロンプトを設計する。「これを使えば自社らしい説明文が出る」というテンプレートを作るのがAI顧問の仕事だ。
  • チェック・修正フローの設計: AIが生成した文章を担当者がチェックして修正するフローを決める。すべての文章を担当者がチェックするのか、特定のカテゴリだけチェックするのかを決めないと、品質管理が機能しない。

この3つが整うと、担当者が1商品に使う時間を大幅に短縮できる。新商品の入荷から公開までのリードタイムも短縮できる。

受注・在庫管理フローの整理

受注確認・出荷通知・在庫アラートを自動化するためには、現在のシステム構成を把握した上で設計する必要がある。

Shopify・BASE・MakeShopなどのECプラットフォームは、Zapierやシステムの標準機能を使ってメール通知の自動化やCSツールとの連携ができる場合がある。「どのプラットフォームを使っているか」「どのCSツールと連携しているか」によって設定できる内容が変わる。

AI顧問が関与する範囲は、現状のシステム構成の整理→自動化できる箇所の特定→連携設定とテスト→スタッフへの運用説明、という流れになる。

在庫アラートの設定(在庫が○個を下回ったら担当者にSlack通知を送る等)も、EC店長が毎日チェックしていた作業を仕組みで代替できる部分として設計できる。

EC・通販でAI顧問に頼めないこと

ECプラットフォームのシステム開発

ShopifyのカスタムAppの開発・独自カートシステムの構築・基幹システムとのAPI連携開発は、AI顧問の範囲外だ。

「今使っているシステムをベースに自動化できる箇所を整備する」がAI顧問の担う範囲であり、新しいシステムをゼロから開発することは業務スコープが異なる。既存プラットフォームの設定範囲を超えた開発が必要な場合は、別途エンジニアを確保する必要がある。

広告運用・SEO対策

リスティング広告・SNS広告の運用最適化や、商品ページのSEO対策はAI顧問の専門領域ではない。これらはマーケティング専門の会社や担当者に依頼する領域だ。

「AI顧問にEC全体の売上改善を依頼できる」という期待を持って契約すると、範囲のズレが起きやすい。AI顧問はバックオフィスの業務フロー設計が専門であり、集客・広告運用は対象外だ。

物流・倉庫管理の最適化

物流コストの削減・倉庫レイアウトの改善・ピッキング効率化など、物流・倉庫管理の最適化は専門の物流コンサルタントやWMSの領域だ。

AI顧問は受注確認・出荷通知などのデジタルフローを整理できるが、物理的な倉庫内作業の最適化は対応範囲外だ。

EC・通販向けAI顧問の選び方

EC業務フローを把握しているか

受注→ピッキング→梱包→出荷→CSの流れを前提にした設計ができるかどうかが重要だ。

「AI活用の支援をします」という顧問でも、EC業務フローに触れた経験がなければ、初回の業務説明だけで時間を取られる。「ShopifyとZapierの連携設定をやったことがあるか」「CSツールとECカートの連携設定の経験があるか」を初回面談で確認することを勧める。

商品数・SKU数に応じた対応ができるか

商品数が100以下の事業者と、1,000以上のSKUを持つ事業者では、説明文生成のフロー設計が変わる。大量のSKUを扱う場合、CSVでの一括処理やバッチ生成の設計経験があるかどうかが選定基準になる。

初回面談で「取り扱い商品数はどれくらいですか」という質問が出てくるかどうかで、EC業務への理解度が分かる。

繁忙期対応の体制があるか

EC事業では年末・セール期間・新商品発売直後にCSと業務量が急増する。そのタイミングにチャットや追加MTGで対応できる体制があるかどうかを確認する。

月1回の定例MTGのみで対応するサービスは、繁忙期に問い合わせができず困るパターンが起きやすい。

EC・通販事業者がAI顧問を始める手順

Step 1: CS問い合わせの種類と件数を整理する

まず、月に受けているCS問い合わせを種類別に分類する。「発送確認」「返品・交換」「商品の使い方」「注文変更・キャンセル」などのカテゴリに分けて、それぞれの月間件数を概算で出す。

どのカテゴリが最も多いか分かると、「最初に自動化するのはここ」という判断ができる。このデータをまとめてAI顧問との初回MTGに持っていくと、「何から着手するか」の議論がすぐ具体的になる。

Step 2: 現在のシステム構成をリストアップする

使用しているECプラットフォーム・CSツール・在庫管理ツール・Slackなどのコミュニケーションツールをリストアップする。どのツール間がAPI連携で繋がっているか、どこが手動になっているかを把握しておく。

このリストがあると、AI顧問が「どの連携が技術的に可能か」を初回面談で判断できる。

Step 3: 1つの課題だけで小さく始める

CS自動化・商品説明文生成・受注フロー整理のどれか1つだけを最初のテーマに絞る。3つ同時に進めようとすると、設定・確認・担当者へのレクチャーが重なって現場が混乱する。

「まずCSの自動返信を整備して、1ヶ月後に効果を確認してから次を決める」というサイクルを意識する。1件で変化を体感できると、次のステップへのハードルが下がる。

AI顧問の費用は月額5〜20万円程度が中小企業向けの相場感で、どの価格帯で何が含まれるかはAI顧問の費用相場|月額3万〜30万円の価格帯と内訳にまとめている。EC事業者の場合、CS自動化と商品説明文生成の2つに絞って始める場合は月額8〜10万円前後のサービスが現実的な範囲になることが多い。

AI顧問との契約から運用開始までの具体的なステップは中小企業がAI顧問を始める手順|契約から運用開始まででまとめている。

まとめ

EC・通販事業者でAI顧問が関与できるのは、CS対応の半自動化・商品説明文の量産設計・受注・在庫管理フローの整理という3つの領域だ。ECプラットフォームの開発・広告運用・物流最適化は対応範囲外であることを先に理解しておくことで、期待のズレを防げる。

選ぶときに確認すべきポイント:

  • EC業務フローを知っているか:受注から出荷までのフローとツール連携の経験があるか
  • 商品数・SKU数に応じた対応ができるか:大量SKUを一括処理した経験があるか
  • 繁忙期の対応体制があるか:月1回MTGのみか、日常的なチャット対応があるか

EC事業者がAI顧問を活用して成果を出している共通点は、「CSか商品説明かどちらか1つに絞って始めて、成果を確認してから拡張している」という点だ。最初から全部変えようとするより、1件変えてから次を決める方が、現場への定着という意味でもうまくいきやすい。

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