従業員10人ほどの会社で、こういう場面はよくある。
電話が鳴る。事務担当のAさんがいる間は何の問題もなかった。でもAさんが育休に入り、新しく入ったパートさんが電話に出て「担当者が不在です」で止まる。折り返しも取り次ぎもできず、顧客を待たせてしまう。
電話応対は、小さい会社ほど「わかる人に任せっきり」になりやすい業務だ。マニュアルがなくても回るのは、たまたまその人がいるからに過ぎない。
この記事では、中小企業が今日から着手できる電話応対マニュアルの作り方を整理する。完璧なマニュアルを目標にしない。「誰が電話を取っても最低限対応できる」状態を作ることが目標だ。
電話応対マニュアルに必要な最小セット
マニュアルに何を書くべきかについては多くの解説があるが、分量が多いと着手できない。まず「これだけ書けば動く」最小セットを決める。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本受電フロー | 電話を受けてから終わるまでの流れ |
| 取り次ぎのルール | 担当者在席時・不在時の判断基準 |
| よく使うフレーズ集 | 敬語・クッション言葉・聞き返し方 |
| 場面別スクリプト | 担当者不在・クレーム・営業電話 |
| 記録の残し方 | 伝言票・チャットツールへの記録ルール |
これで4〜5ページのドキュメントになる。始める段階でこれ以上の分量を作る必要はない。
基本受電フロー
受電の基本的な流れは以下のとおりだ。
- 電話が鳴る
- 3コール以内に出る
- 「お電話ありがとうございます。○○(社名)の△△でございます」と名乗る
- 相手の会社名・名前・用件を確認する
- 担当者を確認する
- 在席の場合 → 取り次ぐ(「少々お待ちください」)
- 不在・会議中の場合 → 不在対応スクリプトへ
- 用件が複雑で判断できない場合 → 「お調べしてからご連絡させていただいてもよろしいでしょうか」
- 電話終了後、用件をSlackか伝言票に記録する
一点だけ注意したいのは、「担当者を確認する前に『少々お待ちください』と言わない」ことだ。取り次ぐ相手が不在だと分かった後で再度「お待ちください」になると、相手を2度待たせることになる。先に担当者の状況を確認してから動く。
場面別トークスクリプト
1. 基本受電
電話に出るとき
> 「お電話ありがとうございます。○○(社名)の△△でございます。」
相手の名前が聞き取れなかったとき
> 「恐れ入りますが、もう一度お名前をお聞かせいただけますでしょうか。」
電波が悪くて聞き取れないとき
> 「少々電話が遠いようでございます。もう少し大きな声でお話いただけますでしょうか。」
取り次ぐとき
> 「○○でございますね。少々お待ちください。」
2. 担当者が不在のとき
担当者不在時は「折り返す」か「伝言を預かる」かを相手に選んでもらうのが基本だ。
担当者が外出中の場合
> 「申し訳ございません。○○は現在外出しております。□時頃に戻る予定でございます。折り返しのお電話をさせていただきますが、いかがでしょうか。」
相手がすぐに折り返しを受けられない場合:
> 「ご用件をお伺いしてお伝えすることもできますが、いかがでしょうか。」
担当者が会議中の場合
> 「申し訳ございません。○○はただいま会議中でございます。□時頃に終わる予定です。折り返しご連絡させていただきましょうか。」
戻る時間が分からない場合
> 「戻り次第、折り返しご連絡さしあげてもよろしいでしょうか。よろしければお電話番号をお聞かせいただけますか。」
不在対応時に必ず記録すること
- 相手の会社名・名前・連絡先
- 用件(一言で)
- 折り返しの要否
- 電話を受けた時間
これをSlackのチャンネルか伝言票に残す。「あとで口頭で伝える」は必ず漏れる。特に複数人が対応する環境では、記録のルールを最初に決めておくことが属人化を防ぐ最低限の手段になる。
3. クレーム対応
クレーム電話で新人に求めるべきことは「解決」ではなく「記録して引き継ぐ」ことだ。内容を解決しようとすると、権限外の約束をしてしまったり、対応が長引いて相手を余計に怒らせることになる。
クレームを受けたとき
> 「ご不便をおかけし、大変申し訳ございません。ご状況を詳しくお聞かせいただけますでしょうか。」
「申し訳ありません」を最初に言うことへの懸念(非を認めたことになるか)があるかもしれないが、事実確認前であっても「ご不便をかけたこと自体への謝罪」は問題ない。内容への謝罪と区別して使えばよい。
上位者に引き継ぐとき
> 「担当者に確認した上で、改めてご連絡させていただいてもよろしいでしょうか。□分ほどお時間をいただけますか。」
その場での回答を求められたとき
> 「大変申し訳ございません。状況を正確に把握した上でご回答したいため、□分ほどお時間をいただけますでしょうか。」
クレーム対応のルール(マニュアルに明記すること)
- 電話を受けた本人が解決しようとしない
- 「確認します」「担当者に伝えます」で折り返しを取る
- 内容・相手・電話番号を記録して上位者に即報告
- 「後で報告する」はしない。電話を切ったらすぐ報告する
4. 営業電話の断り方
営業電話への対応をマニュアル化していない会社は多い。あいまいな対応をすると「また電話してもいい相手」と判断され、繰り返しかかってくる。
まず用件を確認する
> 「恐れ入りますが、どのようなご用件でしょうか。」
用件が新規営業だと確認できたら:
> 「申し訳ございません。現在、弊社では新規のサービス・商品のご案内はお断りさせていただいております。今後ご連絡いただいても、ご対応が難しい状況でございます。」
ここで「担当者に確認します」と言わないこと。「検討します」も同様だ。明確に断らないと、再度かかってくる。
担当者への取り次ぎを求めてくる場合:
> 「お取り次ぎの前にご用件をお伺いしておりますが、新規のご提案でございますと、担当者へのお取り次ぎが難しい状況でございます。」
マニュアルの実際の作り方
ステップ1:今の「できる人」に1週間メモを取ってもらう
マニュアルを「一から設計する」と着手できない。まず今の対応を言語化する。電話応対に慣れている人に1週間、かかってきた電話の内容を簡単にメモしてもらう。
- どんな用件が多いか
- 誰から多くかかってくるか
- 判断に迷ったケースはどんな内容か
これで「この会社のマニュアルに必要な中身」が見える。汎用テンプレートではなく、自社の実情に合わせた内容が作れる。
ステップ2:フローとスクリプトを1時間で書く
ステップ1で集めた情報をもとに、この記事のスクリプトをベースに自社用にカスタマイズする。会社名・担当者名・戻り時間の確認方法など、自社の運用に合わせて書き直す。
Googleドキュメントかメモツールで十分だ。Wordファイルで作ると共有しにくく、更新されなくなる。
ステップ3:新人が来たら最初の1時間で読んでもらう
マニュアルを渡すタイミングを決める。「電話に出る前に読む」を入社初日のルールにする。最初の1週間は、できれば慣れている人が横についてフォローできる環境を作る。
ステップ4:3ヶ月後に一度見直す
現場で電話を取っているうちに「このスクリプトでは対応できないケース」が出てくる。その都度フィードバックをもらい、3ヶ月で1回内容を更新する。マニュアルは作った瞬間が一番精度が低い。使いながら育てるものだと考える。
マニュアルが使われない会社の共通パターン
完成したマニュアルが「作っただけで誰も読まない」状態になる会社には共通パターンがある。
パターン1:ファイルサーバーに保存して終わり
「マニュアルフォルダに入ってるよ」と言っても、新人は場所を知らなければ探せない。入社初日にマニュアルの場所を教えるか、電話機の横に紙で置く。デジタルの場合は、固定リンクをSlackかNotionに貼っておく。
パターン2:完璧を目指して更新が止まる
「マニュアルは常に完璧でなければいけない」という思い込みがある。実際には7割の精度で動いていれば十分だ。「このケースはどうしますか?」と聞かれたら、その場で判断して即マニュアルに追記する運用でいい。
パターン3:読んだだけで電話に出させない
マニュアルを読んだだけでは電話応対は上達しない。慣れている人が横にいる状態で実際の電話を取ることが必要だ。失敗しても横でフォローできる環境が習得を早める。最初の数日だけでも「一緒に電話に出る」時間を作ることで、マニュアルの内容が実感として身につく。
電話対応の負担を根本から減らす選択肢
電話応対マニュアルを整備しても、そもそも電話の量が多すぎる・電話番をする人員が足りないという問題は別の話だ。
電話対応を代行サービスに外注すると、月5,000円〜3万円程度で受電業務をまるごと任せられる。中小企業の電話代行サービス費用相場|月額料金と選び方を解説では主要サービスの料金と選び方をまとめている。
電話に限らずバックオフィス全体の人手不足を解決したい場合は、バックオフィスの人手不足を「採用しないで」解決する3つの方法も参考にしてほしい。
まとめ
電話応対マニュアルに最低限必要なのは5つだ。
- 基本受電フロー(3コール以内、名乗り、取り次ぎの判断手順)
- 担当者不在時のスクリプト(外出中・会議中・戻り時間不明)
- クレーム対応のルール(新人は解決しない、記録して引き継ぐ)
- 営業電話の断り方(あいまいに断らない)
- 記録の残し方(Slackか伝言票へのルール)
これで4〜5ページのマニュアルができる。完璧な内容を目指すより、今週使える状態にすることが先決だ。まず「担当者不在時のスクリプト」だけ書いてみることから始めてほしい。