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月次決算を早める方法|中小企業が翌月5営業日以内に締める手順

先日、従業員18人の卸売業の会社を支援したとき、月次試算表が経営者の手元に届くのが毎月翌月の22〜25日だった。6月の数字が出てくるのが7月下旬。問題が起きていても手を打てるのは2ヶ月近く後だ。

経営者は「経理担当が遅いから」と思っていた。ところが話を聞いてみると、経理担当者は月初1日から処理を始めているが、各部門からのデータが出揃うのが毎月15日以降になっていた。経理は手が空いているのに情報待ちで止まっている、という状態だった。

これは珍しいケースではない。中小企業で「月次が遅い」と言うとき、原因の多くは経理担当者の処理速度ではなく、経理に情報が届くまでの流れにある。

この記事では、月次決算が遅い本当の原因と、翌月5営業日以内に締めるための具体的な手順を解説する。

月次決算が遅いと何が困るか

まず「月次決算を早める意味」を整理しておく。

月次決算は、確定申告のように法的な締め切りがあるわけではない。経営者が自分の会社の数字を把握するための内部資料だ。だからこそ、経営判断に間に合う速さで出てこないと意味がない

目指す水準は翌月5営業日以内だ。5営業日以内に試算表が手元にあれば、経営者はその月のうちに数字を確認して動ける。6月の試算表が7月5日に出れば、7月中に手を打てる。

翌月20日に出てきた場合、何か問題があっても実際に動けるのは早くて7月下旬〜8月。問題が発生してから対処まで2ヶ月近くかかる計算だ。

また、月次決算の目的が「経営の判断材料」であれば、完璧な数字より速い数字の方が価値がある。多少の仮計上が混じった9割精度の試算表が5日後に出てくる方が、100%確定した試算表が25日後に出てくるより経営の役に立つ。

この「完璧主義を捨てる」という観点は、後のステップで詳しく解説する。

月次決算が遅くなる本当の原因

「月次が遅い」と聞くと、経理担当者の作業スピードの問題だと思われがちだ。しかし実際に業務フローを確認すると、多くの場合ボトルネックは別のところにある。

月次決算の処理に必要な情報は、以下のように経理の外に存在する。

  • 営業部門からの売上報告(受注・出荷・売上計上の根拠)
  • 各従業員が提出する経費精算書
  • 仕入先から届く請求書
  • クレジットカードや交通系ICカードの利用明細
  • 銀行の入出金データ

これらが「翌月になってから届く」「提出期限がない」「承認に時間がかかる」という状態になっていると、経理はデータが揃うまで処理を始められない。

中小企業でよく見られるパターン:

問題 内容
経費精算の締め日がない 翌月になっても未提出の精算書が届く
仕入先の請求書が遅い 翌月10日前後に届く取引先がある
売上の確定が遅い 月末の納品分が翌月にまとめて計上される
承認フローに時間がかかる 経費の承認が経営者に回ってくるのが翌月
クレジットカードが未連携 毎月明細を見ながら手入力している

これらが積み重なると、どんなに優秀な経理担当者でも翌月15〜20日まで処理が完了しない。

まず「経理担当者が遅い」ではなく「情報が届く仕組みに問題がある」と認識を変えることが、改善の第一歩だ。

翌月5営業日以内に締める3ステップ

Step 1:提出期限を「月末最終日」に設定する

最初にやることは、月次処理に必要な全データの提出期限を月末最終営業日の終業までに設定することだ。

具体的に設定する対象:

対象 期限 責任部門
経費精算書の提出 月末最終営業日の終業まで 全従業員
仮払いの精算 月末最終営業日の終業まで 全従業員
売上・受注データの報告 月末最終営業日の終業まで 営業責任者
仕入先への請求書確認 月末2営業日前まで 購買・発注担当

この期限を決めて全社に告知するだけで、翌月の月次処理は確実に早まる。

導入時に必ず出る声として「月末は忙しくて経費精算を出す余裕がない」がある。これは習慣の問題だ。経費精算を月1回まとめて出す習慣がある人は、「月末に出す」という習慣に変えれば済む。経費精算アプリ(マネーフォワードクラウド経費・ジョブカン経費精算など)を使えば、スマートフォンで領収書を撮影するだけなので、外回り中でも処理できる。

重要なのは、「期限に間に合わなかった場合のルール」を明確にすることだ。「月末までに提出されなかった経費は翌月計上とする」と決めておくと、抑止力になる。翌月計上になると立て替えた金額の返金が遅れるため、自然と期限を守るようになる。

この期限ルールの徹底は、経営者が一度社内に伝えるだけでいい。あとは経理担当者が管理できる。

Step 2:クラウド会計ソフトと自動連携を設定する

期限ルールが整ったら、次は入力作業を機械に任せる部分を増やす。

手入力作業の多さも月次を遅らせる要因だ。「通帳を印刷して金額を手打ちしている」「カードの明細をExcelに転記している」というケースはよくある。こうした作業は時間がかかるだけでなく、入力ミスのリスクもある。

クラウド会計ソフト(freee会計・マネーフォワードクラウド会計・弥生オンラインなど)は、銀行口座やクレジットカードと連携することで入出金データを自動取得する機能を持っている。データは毎営業日に自動更新されるため、月末にまとめて入力する作業がなくなる。

設定してほしい自動連携:

銀行口座の連携

普通預金口座・当座預金口座を全て接続する。複数行に口座がある場合は全行設定する。接続後は、入出金データが自動で仕訳候補として表示されるようになる。

クレジットカードの連携

法人カードは全枚数、経営者が個人名義で使っているカードも含めて連携する。カード明細は手入力が多い部分だが、連携後は金額・店名が自動で取得される。

請求書の自動読み取り

freeeやマネーフォワードは、PDF形式の請求書をアップロードすると、取引先・品目・金額を自動で読み取る機能(AI-OCR)がある。仕入先から届いた請求書をアップロードするだけで入力が完了する。

自動連携を設定すると、経理の作業内容が変わる。「データを入力する」作業から「自動取得されたデータが正しく分類されているか確認・修正する」作業になる。処理時間は大幅に短縮される。

既にクラウド会計ソフトを使っているのに自動連携を設定していない場合は、今すぐ設定してほしい。ここが最もリターンの大きい改善だ。

Step 3:「仮計上」ルールを作って待つのをやめる

月次決算を遅らせる3つ目の原因は完璧主義だ。

「あの取引先の請求書がまだ届いていないから締められない」「この工事の原価が確定していないから計上できない」という理由で、経理が月次処理を止めて待っているケースがある。

この問題は仮計上で解決する。

仮計上とは、金額が確定していない取引について見込み金額で一旦計上し、確定後に調整する方法だ。月次決算は確定申告の数字ではなく経営管理のための数字なので、仮計上で問題ない。

仮計上ルールの設定例:

状況 仮計上の方法
月末までに請求書が届かない仕入れ 発注金額または前月実績で仮計上
金額未確定の外注費・業務委託費 見積金額で仮計上
月末をまたいだ出張・経費 本人からの概算連絡で仮計上
月末2〜3日で発生した売上 出荷・完了の事実をもとに仮計上

仮計上した項目は「仮計上リスト」に記録しておく。翌月の処理開始時に確認し、確定した数字に修正する。差額が小さければ当月の雑損・雑収入として処理する。

この「仮計上リスト」はExcelの簡単な表で十分だ。仮計上した日付・相手先・金額・確認期限を記録しておくだけでいい。

仮計上を導入すると、「全部揃うまで待つ」という状態がなくなる。月初4〜5日で基本処理が完了するようになる。

翌月5営業日以内の月次スケジュール(具体例)

3ステップを実装すると、月次処理のスケジュールはおよそ次のようになる。

日程 作業内容
月末最終営業日(終業まで) 全員が経費精算を提出。営業が売上データを報告。経理が仕入先確認を完了
翌月1営業日(午前) クラウド会計の自動連携データを確認。未着の取引は仮計上で処理
翌月1〜2営業日 銀行残高の照合。仕入先から届いた請求書を入力(PDF連携なら確認のみ)
翌月3〜4営業日 仮計上リストの確認と調整。試算表の数字チェック
翌月5営業日 経営者へ試算表を共有

はじめの1〜2ヶ月は、慣れない部分や例外処理に時間がかかることもある。それでも3ヶ月続けると、このスケジュールが定着する。

導入時によくあるつまずき

仕入先の請求書が翌月10日に届く

月をまたいで請求書を発行する取引先がある場合、2つの方法で対応する。

方法1:取引先に締め日を変更してもらう

「当社の経理処理の都合上、月末付けで請求書を発行いただけますか」と依頼する。継続取引のある仕入先なら、多くの場合応じてもらえる。相手の請求書発行日が変わるだけなので、先方の負担も小さい。

方法2:仮計上で処理する

変更してもらえない場合は、月末時点の発注金額をもとに仮計上する。翌月に請求書が届いた時点で金額を確認し、差額があれば修正する。

経理が月初に他の業務と重なって手が回らない

給与計算・社会保険料の支払い・請求書発行といった月初業務と、月次処理が重なって経理担当者が手が回らないケースがある。

この場合、月初業務の一部を月末に前倒しすることを検討する。翌月分の請求書発行は当月末の空いた時間に行う、給与計算の入力は締め日後すぐに始める、といった方法だ。

それでも1人では対処しきれない場合は、月次処理の一部を外部に委託することも選択肢になる。

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数字に詳しくない経営者が試算表を読めない

月次決算を早めても、経営者が試算表を読んで判断できなければ意味がない。

試算表を経営者に渡す際は、「前月比でどこが増減したか」「今期の累計がどこまで来ているか」の2点だけをコメントとして添える。数字を全部読む必要はなく、異常値のある科目だけを指摘する形にすると、経営者が数字を使いやすくなる。

月次決算の早期化と属人化解消は同時にやる

月次が遅い会社の多くは、経理業務が特定の担当者に依存している。担当者が体調不良で休んだり、退職したりすると、月次処理が一気に止まる構造になっている。

月次を早める改善をするとき、同時に「経理処理手順のチェックリスト化」もやっておくと、どちらの問題も解消できる。誰が担当しても同じ手順で処理できる状態を作ることで、月次が安定して回るようになる。

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まとめ:最初にやることは1つ

月次決算を翌月5営業日以内に締めるための3ステップをまとめる。

  • 提出期限を月末最終日に統一する:経費精算・売上報告・仕入先確認の期限を社内ルールとして設ける
  • クラウド会計と自動連携を設定する:銀行・カードの自動取得で入力作業を減らす
  • 仮計上ルールを作って完璧主義を捨てる:全部揃うまで待つのをやめ、見込みで処理して後から調整する

この3つのうち、今すぐ動けるのはStep 1だ。

今月末に「経費精算は月末最終日の終業までに提出すること」と社内に告知する。それだけで来月の月次処理は確実に早まる。ツールの設定や仮計上ルールはその後でいい。

月次決算は仕組みの問題だ。担当者の能力や意識の問題ではない。仕組みを変えれば、どの会社でも翌月5営業日以内は実現できる。

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