業務効率化ガイド

中小企業のDXは何から始める?最初の一歩を解説

「DXをやらなきゃ」とは思っている。でも具体的に何から手をつければいいかわからない——こういう状態で止まっている会社は多い。

止まる理由は、「DX」という言葉が大きすぎるからだ。ビジネスモデルの変革、組織の再設計、デジタルプラットフォームの構築……そういったことを想像すると、「うちみたいな小さな会社には関係ない」と感じてしまう。

実際のところ、従業員50人以下の中小企業がまず取り組むべきDXは、そういうものではない。もっと地に足のついた話だ。

この記事では、定義論を省いて、5〜50人規模の会社が「最初に何をするか」を具体的に説明する。

中小企業のDXは、大手向けの話と切り離して考える

コンサルティング会社や大手ベンダーが語る「DX」は、主に従業員数百人以上の会社を前提にしている。顧客データの統合、AIによる需要予測、デジタルチャネルの再設計——こうした話は、そのまま中小企業に当てはめようとしても機能しない。

従業員10〜30人規模の会社でまず現実的なDXとは何か。整理するとこうなる。

大手が語るDX(参考程度に)

  • ビジネスモデルそのものをデジタルで変革する
  • 顧客接点をデジタルに移行する
  • データを起点に意思決定を変える

中小企業が最初に取り組むべきDX(実際のところ)

  • 紙・FAX・電話で行っている業務をデジタルに変える
  • 担当者が毎月手作業でやっている繰り返し業務をツールに任せる
  • 「あの人しかわからない」状態をなくす

言い方を変えると、最初のDXは「業務のデジタル化」だ。ビジネスモデルの変革はその先にある話で、最初から目指す必要はない。

「何から始めるか」は自社の現状で決まる

どこから手をつければいいか迷っている場合、次の3つの問いに答えてみてほしい。

問い1:今、手作業でやっている繰り返しの業務は何か

毎月・毎週・毎日のように発生している定型業務を思い浮かべてほしい。勤怠の集計、請求書の作成、経費精算の確認、採用応募者へのメール返信——こうした「やれば終わるが毎回手間がかかる」業務のどれかが、最初の着手ポイントになる。

問い2:「あの人しかわからない」業務はどれか

担当者が1人しかいない業務、本人が休むと止まる業務がある場合、そこが最優先候補だ。効率の問題だけでなく、経営リスクでもある。

問い3:「これさえなければ」と思う業務はどれか

感覚的でよい。毎週「この作業がなければもっと本業に時間を使えるのに」と感じている業務があるはずだ。それが最初に変えるべき場所だ。

3つの問いへの答えが重なる業務があれば、そこが最も優先度が高い。

業務効率化全般の進め方については業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説でも詳しく説明しているので、あわせて参照してほしい。

バックオフィス業務から着手するのが正解な理由

最初にどの業務を変えるかを迷った場合、バックオフィス業務から始めることをすすめる。理由は3つある。

1. 失敗しても本業に影響が出にくい

経理や勤怠管理のデジタル化で失敗しても、直接的に売上が落ちることはない。一方、営業管理や顧客対応の仕組みを変えて失敗した場合、商機を逃すリスクがある。最初は失敗のコストが小さい領域から始める方がいい。

2. 効果が数字で見えやすい

バックオフィス業務は、改善前後の変化が時間で測りやすい。「勤怠の集計に毎月4時間かかっていたのが30分になった」という成果は、社内への説明にも使える。

3. 業務の型が決まっているのでデジタル化しやすい

経理・勤怠・請求書処理は、どの会社でも大きく変わらない業務フローを持っている。そのため、既成のクラウドツールがそのまま使えることが多く、カスタマイズが最小限で済む。

反対に、「まず売上に直結する業務からDXしよう」と考える経営者もいる。気持ちは理解できるが、失敗した時のリスクが大きく、ツールの定着にも時間がかかりやすい。バックオフィスで小さな成功体験を積んでから、本業に近い業務に展開する順番が現実的だ。

最初に入れると効果が出やすいツール

バックオフィス業務のDXで最初に検討するべきツールを整理する。

経理・記帳

代表的なツール: freee会計、マネーフォワード クラウド会計

月額の目安: 3,000〜5,000円(スモールビジネスプラン)

変わること: 銀行口座・クレジットカードの明細が自動で取り込まれ、仕訳の作業が大幅に減る。税理士への資料送付もオンラインで完結する。

紙の領収書を手入力している状態から始めた会社では、月次の経理処理にかかる時間が半分以下になるケースが多い。

勤怠管理

代表的なツール: KING OF TIME、ジョブカン勤怠管理、freee人事労務

月額の目安: 300〜500円/人

変わること: 出退勤の記録がスマートフォンやICカードで完結し、集計が自動になる。月末の手作業での集計・確認作業がなくなる。

タイムカードを経理が月末に手で集計している場合、この1点だけで毎月数時間の作業がなくなる。

請求書・帳票管理

代表的なツール: MFクラウド請求書、board、invox

月額の目安: 3,000〜5,000円

変わること: 請求書の作成・送付・入金確認の流れが一元管理される。電子帳簿保存法への対応も含めて整理できる。

毎月Excelで請求書を作り、PDFに変換して送付している場合、この業務が大きく省力化される。

社内の情報共有

代表的なツール: Chatwork、Slack、LINE WORKS

月額の目安: 0〜500円/人(無料プランで始められるものも多い)

変わること: 電話・メールで行っている社内連絡が、スレッド管理できるチャットに移行する。「あの件どうなった?」という確認コストが下がる。

ただし、情報共有ツールは他のツールと比べて定着が難しい。「全員が使う」状態を作るまでに時間がかかるので、最初の1本目としてはハードルがやや高い。

必ず失敗する進め方:「全部一気に」

DXに取り組もうとした会社でよく起きる失敗が、複数業務を同時並行で変えようとすることだ。

  • 経理のクラウド化を進めながら
  • 勤怠管理ツールの選定も並行して
  • 社内チャットの導入も検討して
  • 顧客管理システムの見積もりも取り寄せている

半年後、どれも中途半端に終わっていることが多い。

理由は単純で、担当者が複数ツールの習得に追われて本来の業務が回らなくなるからだ。「いつ何が変わるのかわからない」状態が続くと、現場は「元のやり方の方が楽だった」と戻ってしまう。

正しい順番は「1業務→完全に定着→次の1業務」だ。

1つのツールが定着するまで早くて2〜3ヶ月かかる。1年で3〜4業務を変えられれば、会社の業務フローは相当変わっている。急いで全部変えようとして結果的に1つも定着しない方が、損失は大きい。

もう1つよくある勘違い:「ツールを入れたら終わり」

ツールを契約することがDXではない。業務の進め方が変わって初めて意味を持つ。

具体例を出すと:

  • 会計ソフトを契約したのに、担当者が今まで通り手で仕訳を入力し続けている
  • 勤怠管理ツールを導入したのに、念のため紙の出勤簿も続けている
  • チャットツールを入れたのに、重要な連絡はメールで来る

これらはすべて「ツールを入れたが、業務は変わっていない」状態だ。ツール代が増えただけで何も改善していない。

業務の進め方を変えるには、「旧来のやり方をいつ完全に廃止するか」を決める必要がある。「並行運用期間は2ヶ月まで」「○月からは旧来の方法を使わない」と期限を決めなければ、新しいツールは結局使われなくなる。

補助金を使って費用を抑える方法

ツールの導入費用が気になる場合、活用できる補助金がある。

IT導入補助金

中小企業・小規模事業者がITツールを導入する費用の一部を補助する制度で、補助率は1/2〜2/3。会計ソフト・勤怠管理ツール・請求書管理ツールなど、多くのクラウドサービスが補助対象に登録されている。

毎年4〜5月に公募が開始されるため、導入を検討している場合は時期を合わせて申請すると費用を抑えられる。

費用の補助を受けることが目的化してしまい、自社に合わないツールを選ぶケースがある。補助金の有無よりも「その業務に本当に必要か」を基準にツールを選ぶことが先だ。

最初の一歩のまとめ

中小企業のDXは、次の順番で進めると現実的だ。

Step 1:最初に変える業務を1つ決める(1週間)

3つの問い(繰り返し業務・担当者が1人しかいない業務・「これさえなければ」と思う業務)に答えて、1つに絞る。

Step 2:ツールを1つ選んで試す(1〜2ヶ月)

無料トライアルがあるサービスがほとんどなので、まず使ってみる。選定に1ヶ月かけるより、動かしながら判断する方が速い。

Step 3:旧来のやり方を廃止する期限を決める(3ヶ月以内)

「○月から紙の管理は廃止する」と決めなければ、新旧並行が続いて定着しない。

Step 4:1つ定着したら次の業務に移る

定着の目安は「担当者が迷わず使えている状態」だ。1つ変わったら、同じ手順で次の業務に取り組む。

バックオフィス業務の外注も選択肢に入れている場合は、バックオフィス代行の費用相場|業務別の料金目安と選び方で費用感を確認してほしい。

「何を変えるべきかわからない」「自社に合ったツールを選ぶのが不安」という場合は、業務効率化の相談はどこにすればいい?中小企業向けの相談先まとめも参考になる。

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