啓蒙

経理担当者が辞める本当の理由|退職を防ぐために経営者ができること

経理担当者が突然退職届を出してくる——これは中小企業で繰り返し起きる出来事だ。

「突然」と感じるのは、経営者側の話だ。担当者の側では、相当な期間、退職を考えながら仕事を続けていることが多い。早い段階でサインに気づければ、退職を防げる可能性がある。

この記事では、経理担当者が辞める本当の理由と、経営者ができる防止策を整理する。

退職理由の上位にあるもの

理由1:業務量が一人に集中している

中小企業の一人経理体制で最も多い退職理由だ。月末・決算前は残業が常態化し、他の社員が定時で帰る中、一人で処理を続ける状況が続く。

「自分だけが特別に頑張らなければならない」という状態が半年・1年と続くと、担当者のモチベーションは徐々に下がる。退職の相談なく突然辞めるケースでは、このパターンが多い。

経営者が見落としがちなこと: 担当者が「いつも頑張ってくれている」に見えるのは、業務量が適正ではなく、無理をしているからかもしれない。

理由2:インボイス・電子帳簿保存法などの対応負担

近年、税制改正・会計制度の変更が続いており、経理担当者の対応負担が増加している。

インボイス制度の導入(2023年10月)後に実施された調査では、20〜30代の経理担当者の約4割が「異動・転職・退職を希望するようになった」と回答している。新しい制度への対応は、既存業務に追加される形で降ってくるため、担当者の疲弊につながりやすい。

経営者が見落としがちなこと: 経理担当者は「新しい制度への対応も当然の仕事」として押しつけられることが多い。対応コストを評価に反映していないと、「頑張っても評価されない」という感覚が積み重なる。

理由3:給与・評価が見合っていない

経理担当者は会社の財務状況を全て把握している。自社の売上・利益・役員報酬・他の社員の給与を知りながら、自分の給与が相場より低いと感じている場合、転職意欲が高まりやすい。

経理職の中途採用の年収相場は300万〜450万円程度(職位・規模による)。この相場を下回る給与で採用・維持しようとすると、数年以内の退職リスクが高まる。

理由4:「この環境でスキルが上がるのか」という不安

中小企業の一人経理は、毎年同じ業務を繰り返すことが多い。会計ソフトの操作・仕訳入力・給与計算・年末調整——これが5年・10年続くと、スキルアップの機会がないまま年齢だけが上がるという感覚が生まれる。

特に20〜30代の担当者は、「今の会社にいてキャリアが広がるのか」を常に意識している。成長環境が感じられない場合、転職を選ぶ判断が早くなる。

退職の兆候に気づくサイン

退職届は突然に見えるが、多くの場合は事前にサインが出ている。

行動面のサイン

  • 月次報告の量・質が下がった
  • 有給休暇の取得が突然増えた(面接日の確保)
  • 「この処理の方法を聞きたいんですが」という確認が増えた(後任への引き継ぎ準備)

コミュニケーション面のサイン

  • 経営者との会話が減った
  • 改善提案をしなくなった
  • 「将来的に〇〇したい」という話をしなくなった

これらのサインが複数見られる場合、担当者はすでに転職活動を始めている可能性がある。

退職リスクを下げるための3つの対策

対策1:業務量を定期的に把握する

担当者が「限界だ」と感じていても、経営者に言わないケースが多い。「言っても変わらない」という諦めか、「弱音を吐きたくない」というプライドによるものが多い。

月に1回、担当者に「今月の業務量はどうだったか」を聞く機会を作る。「問題ない」という答えが返ってきても、続けて「具体的にどの作業が時間がかかっているか」を確認すると、実態が見えやすくなる。

対策2:法改正対応を評価に反映する

インボイス対応・電子帳簿保存法の対応・会計ソフトの移行など、追加の対応業務が発生した際は、その労力を明示的に評価する。

「当然の仕事として飲み込んでもらう」ではなく、「今回の対応は大変だったと思う、ありがとう」と言葉にするだけでも違う。評価制度で反映できれば理想だが、言葉での承認も効果がある。

対策3:定型業務を外注で切り出す

担当者の業務量が多い場合、定型作業(記帳・給与計算・請求書処理)を外注に切り出すことで、担当者の負担を減らせる。

担当者が「確認・判断・税理士との連携」に集中できる体制にすることで、「自分にしかできない仕事をしている」という充実感も生まれやすい。定型作業を外注することで、担当者のスキルアップにもつながる。

退職を防ぐより、退職しても困らない体制を作る

退職リスクをゼロにすることはできない。長期的に安定した経理体制を作るには「この人に辞めないでもらう」という考え方より「この人が辞めても業務が止まらない体制」を作ることが重要だ。

具体的には:

  • 業務フローを文書化しておく(属人化の解消)
  • 外注先との関係を維持し、いつでも切り替えられる状態にしておく
  • 経営者自身が経理の基礎知識を持っておく

これらができていると、退職が起きても落ち着いて対処できる。

まとめ

経理担当者が辞める理由は「業務負担」「評価への不満」「スキルアップ機会の不足」の3つが多い。

退職を防ぐために経営者ができることは以下のとおりだ。

退職理由 経営者ができる対策
業務量の過重 定型業務を外注に切り出す
評価が合わない 法改正対応など追加業務を評価に反映する
スキルアップの不安 担当者が付加価値業務に集中できる環境を作る

担当者が「ここで働き続けたい」と思える環境を作ることが、最も効果的な退職防止策だ。

経理業務の属人化解消・外注については、こちらを参照してほしい。

経理の属人化を30日で解消する方法|チェックリスト付き

経理が採用できない中小企業の選択肢|採用コストvs外注コスト比較

-啓蒙