「うちはIT会社だから、AIくらい自分たちでできる」
IT企業の経営者と話すと、こういう反応が返ってくることが多い。エンジニアがいて、技術的な素地はある。だからAIを使う判断も、導入も、社内でできるはずだという認識だ。
ただ、現実はそうなっていないIT企業が相当数ある。エンジニアはいるのに、自社の業務でAIを活用できていない。クライアントにはAI導入を提案しているのに、自社の経理も採用事務も昔のままというケースは珍しくない。
業務効率化に特化したエンジニアとしてAI顧問サービスを提供している僕のところにも、IT企業の経営者から相談が来ることがある。「自社のAI活用が1年以上止まっている。外から見てほしい」という内容だ。
この記事では、IT企業が自社のAI活用でつまずく構造的な理由と、AI顧問をどう活用できるかについて整理する。
IT企業でも、自社AI活用が止まっている現実
IT企業がAI活用で遅れているというと意外に聞こえるかもしれないが、実際には珍しい話ではない。
社内でChatGPTやClaudeのアカウントを取得した。エンジニアが開発時にGitHub CopilotやCursorを使っている。これは「AIを使っている」に入るが、「業務が変わっている」かというと別の話だ。
ツールを入れた段階で止まっているIT企業は多い。使っているのが一部のエンジニアだけで、バックオフィスや営業は変わっていない。そもそもどの業務にAIを使えばいいかを誰も考えていない、というケースが典型的なパターンだ。
「全社的なAI活用推進」という方針を経営者が掲げても、誰が何をするか決まらないまま半年経ち、「そういえばあの話どうなった」となる光景はIT企業でも頻繁に起きている。
僕が相談を受けた IT 企業のケースでは、エンジニアが20名いるにもかかわらず、自社の月次経理は担当者1名が手作業でExcelをまとめ続けていた。「誰かやれる人はいる。でも誰もやらない」という状態が2年続いていた。技術力の問題ではなく、「何から手をつけるか」が決まっていないことが原因だった。
エンジニアがいるのに自社AI活用が進まない3つの構造的な理由
理由1: 「何を作るか」は技術の問題ではない
エンジニアは「どう作るか」を得意とする職種だ。AIを使って何かを実装するスキルはある。だが「何を作るか」、つまり社内のどの業務にAIを当てれば効果が出るかの判断は、技術力とは別の話だ。
業務の課題を見つけ、優先順位をつけ、小さく試して、結果を判断して次に繋げる。このサイクルを回すには、エンジニアリングとは異なる観点が必要になる。業務全体を俯瞰して「ここを変えると一番インパクトが大きい」と判断する役割だ。
多くのIT企業では、エンジニアはクライアントの仕事で手が埋まっている。開発・保守・対応でほぼ全工数が埋まり、自社業務の改善に時間を割く余裕がない。「社内AIプロジェクト」が後回しになり続け、気づけば1年経っていたという話はよく聞く。
理由2: 自社の業務を客観的に見られない
自社の業務を熟知しているがゆえに、どこが非効率かが見えにくくなることがある。「これはこういうものだ」という前提が積み重なっていて、外から見れば明らかな無駄が内側からは見えにくい。
IT企業でも同じことが起きる。受発注の処理が担当者に依存していても「うちの規模ならこれでいい」、採用の書類管理がバラバラでも「昔からそうだから」という判断が続く。
僕が支援したIT企業(従業員25名)では、見積もり作成の作業が1件あたり平均3時間かかっていた。社内では「こういうものだ」と思われていたが、外から見るとChatGPTに過去の見積もりデータを読み込ませれば30分程度に短縮できる作業だった。内側にいると「普通の作業コスト」に見えていたものが、外から見ると明確な改善ポイントになる。
理由3: 「自分たちでできる」という意識が外部活用を後回しにする
これが最も大きな要因かもしれない。IT企業だと「自分たちでできるはずだ」という意識が働き、外部に頼ることへの心理的なハードルが高くなりやすい。
「ちゃんと時間が取れたらやる」「社内で担当者を決めたらやる」。そう言いながら動かないまま時間が過ぎる。自前でできるという前提が、外部を使うという選択肢を消してしまっている。
重要なのは「社内でできる」と「社内でやる」は別の話だということだ。できるかどうかではなく、実際に動くかどうかで判断した方がいい。1年以上止まっているなら、それは「社内だけでは動かない」という答えが既に出ている状態だ。
AIを導入しても伸びない会社の特徴でも詳しく書いたが、ツールや技術力があっても「動かない理由」が社内構造にある場合、外部の力を借りるのが最も早い解決策になる。
IT企業とAI顧問の相性を比較する
AI顧問を使う場合、IT企業と非IT企業では状況が大きく異なる。以下に整理する。
| 比較項目 | IT企業 | 非IT企業 |
|---|---|---|
| 技術的な実装 | 社内エンジニアが対応可能 | 顧問が設計・外注先を探す必要あり |
| 業務課題の特定 | 外部視点が必要(内側からは見えにくい) | 同様に外部視点が必要 |
| 動き出すまでの速度 | 速い(実装はすぐできる) | 遅い(技術的な準備が必要) |
| AI顧問が入ることの主な価値 | 「何をやるか」の設計と優先順位付け | 「何をやるか」+「どうやるか」の両方 |
| 月額費用の目安 | 月5〜20万円(設計サポート中心) | 月10〜30万円(実装支援も含む) |
| 費用対効果 | 高い(エンジニアが動き出せばスピードが速い) | 普通(実装まで時間がかかる) |
| 主なつまずきポイント | 「社内でできる」意識が外部活用を遮る | 技術的な準備コストがかかる |
この表を見ると分かるが、IT企業の場合はAI顧問が入ることで「設計」の部分がカバーされ、あとはエンジニアが動くだけという状態が作れる。非IT企業に比べると、顧問を活用した後の動きが速くなりやすい。
IT企業がAI顧問を活用できる3つの場面
場面1: 自社バックオフィスのAI化
経理処理、採用事務、契約書管理、社内FAQの整備。これらはIT企業でもエンジニアが触れないことが多い業務だ。
クライアントには「AIで業務を効率化しましょう」と提案しながら、自社の経理担当者は手作業で請求書をExcelに転記しているというケースは実際に存在する。外には提案できるが内側に向ける余裕がないという状態だ。
AI顧問を使う場合の進め方は以下になる。
- まず自社の業務フローを棚卸しする(2〜3時間の打ち合わせで整理できる)
- 時間・コスト・ミスの多い業務トップ3を特定する
- AIで対応できる範囲とできない範囲を分類する
- 小さい業務から試して、1〜2ヶ月で成果を出す
エンジニアがいるので、3の判断が出ればすぐ動ける。AI顧問は2までの設計部分をサポートする役割だ。
実際に僕が支援したIT企業(従業員15名)では、採用事務の書類選考と一次連絡をAI化することで、週8時間かかっていた作業を1時間以下に短縮した。実装自体は社内エンジニアが2日で完了した。AI顧問が入ったのは最初の業務特定と設計の段階だけだ。
場面2: クライアント向けAI提案の精度を上げる
IT企業がクライアントにAI導入を提案する際、自社で実際にやった実績があるかどうかは大きな差になる。「提案しているが自社ではやっていない」と「自社でやったからこそ分かる」では、クライアントへの説得力が変わる。
自社でAI活用のサイクルを回した経験は、そのままクライアント向けの提案力に転用できる。どこで躓くか、何が効いたか、社内展開のどのステップで止まりやすいかを、自社で経験済みであることが強みになる。
「クライアントへの提案ではAIを使っているが、自社では使えていない」という状態は、提案の信憑性にも関わる。AI顧問を活用して自社事例を作ることは、営業資産にもなる。
場面3: 社内のAI活用ロードマップを作る
「全社でAIを活用する体制を作りたい」という方針があっても、どう進めるかが決まらないまま止まっているIT企業は少なくない。何から手をつけるか、どう社内に展開するか、効果をどう測るか。
AI顧問はこういったロードマップの設計を支援する役割を担う。方向性が決まれば、あとはエンジニアが動ける。IT企業の場合、この「方向性を決める」部分にリソースを集中できるのが強みだ。
AI導入の失敗事例から見る経営者の判断ミス5パターンでも書いたが、ロードマップなしに「とりあえずAIを使おう」で始めた場合、半年後に「何が変わったか分からない」という状態になりやすい。先に設計してから動く方が、長期的なコストは下がる。
IT企業がAI顧問を使う場合の費用感と判断基準
IT企業がAI顧問を活用する場合、費用の目安と何に使うかを以下に整理する。
| 活用フェーズ | 主な内容 | 費用の目安 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 課題特定・設計フェーズ | 業務棚卸し・優先順位付け・ロードマップ作成 | スポット5〜20万円 | 1〜2回の打ち合わせ |
| 実装サポートフェーズ | 進捗管理・レビュー・方向修正 | 月額5〜15万円 | 3〜6ヶ月 |
| 推進・定着フェーズ | 社内展開支援・効果測定・次の施策選定 | 月額5〜10万円 | 継続または適宜 |
| クライアント提案強化 | 自社AI活用事例の作成・提案資料の精度向上 | スポット10〜30万円 | プロジェクト単位 |
AI顧問の費用相場|月額3万〜30万円の価格帯と内訳で市場全体の価格帯を整理しているが、IT企業の場合は実装コストを社内でカバーできる分、顧問費用を設計・判断部分に絞れるため、非IT企業より総コストが下がりやすい。
費用対効果の判断基準は「社内で止まっているコスト」と比較すること。例えば、20名のエンジニアが自社AI活用の議論に月合計10時間使っていて、何も決まっていないなら、そのコストはすでに月数十万円を超えている。顧問に月10〜15万円払って3ヶ月で動き始める方が、総コストは低い。
AI顧問が合うIT企業・合わないIT企業の判断基準
以下のチェックリストで自社の状況を確認してほしい。
| チェック項目 | 合う / 合わない |
|---|---|
| 自社のAI活用方針はあるが、誰も動いていない | 合う |
| 「時間が取れたらやる」が6ヶ月以上続いている | 合う |
| クライアントにはAIを提案しているが、自社事例がない | 合う |
| 社内にAI活用の推進役(専任)がいない | 合う |
| エンジニアはいるが、自社業務改善に充てる工数がゼロ | 合う |
| 自社のAI活用サイクルが既に回っている | 合わない |
| 何をやるかが決まっていて、あとは実装するだけの状態 | 合わない |
| AIに使える予算が月3万円以下(コスト面で外部サポートが難しい) | 合わない |
3つ以上「合う」に当てはまるなら、AI顧問を活用することで状況が変わる可能性が高い。
逆に「合わない」側に当てはまるなら、現時点で顧問を使う必要はない。自社でうまく機能している仕組みに余計な手を加えない方がいい。判断は「外部が入ることで、社内が動き始めるか」という1点に絞っていい。
AI顧問を選ぶ前に確認すべき3つのポイント
IT企業がAI顧問を使う場合、選ぶ前に以下の3点を確認することを勧める。
1. 「IT企業の自社AI活用」の支援実績があるか
クライアント向けのAI導入支援と、IT企業の自社業務改善では、話の切り口が異なる。「AIを導入するクライアント側」の支援実績が多くても、IT企業の内側の構造(クライアント仕事で手が埋まっている、技術力はあるが判断できていない等)を理解していない顧問は多い。事前に「IT企業の自社改善を支援した事例があるか」を確認してほしい。
2. 「設計」と「実装」のどちらを担うかが明確か
IT企業にエンジニアがいる場合、顧問が担うのは主に設計・判断部分になる。実装まで入ってくる顧問は、IT企業の場合は逆に非効率になることがある。費用の内訳で「何をやるか」が明確かどうかを確認してほしい。
3. 最初の3ヶ月で何が変わるかを言えるか
「一緒に進めましょう」という抽象的な提案より、「最初の1ヶ月で業務棚卸し、2ヶ月目に1業務の改善、3ヶ月目に効果測定と次の施策選定」のように具体的なスケジュールを出せる顧問の方が、実際に動く可能性が高い。
AI顧問とは?中小企業が知るべきサービスの全体像と費用相場では、選び方全般を整理しているので参照してほしい。
まとめ: IT企業こそ「外部視点」を入れる価値がある
IT企業だから自社でAIを活用できる、というのは必ずしも正しくない。技術力があっても、業務課題の特定と優先順位付けは別の問題だ。「自分たちでできる」という意識が、動き始めることを妨げているケースが多い。
AI顧問を活用するとしたら、実装を任せるためではなく「何をやるかを決めるサポート」として使うのが、IT企業にとって最も無駄のない使い方になる。設計を外から入れてもらえれば、あとは社内エンジニアがスピードを出せる。
自社のAI活用が1年以上止まっているなら、まず「なぜ止まっているか」の原因を外から見てもらうことから始めるといい。AI担当者を雇うvsAI顧問を依頼|コスト・成果・リスク比較でも、社内体制と外部活用のどちらが効率的かを比較しているので、判断の参考にしてほしい。