「試してみたけど、使い方がよく分からなくて今は開いていない」——こういう話を中小企業の経営者からよく聞く。
ChatGPTを個人で試す分には直感的に使える。ところが、「会社の業務」となった途端に「何から手をつければいいか」が見えにくくなる。
この記事では、中小企業の部署別にChatGPTの実用例を10個まとめた。経理・総務・営業・採用、そして経営者本人の使い方まで整理する。全部一気にやる必要はない。自社に当てはまる部署から1つ試すだけでいい。
部署別に整理する理由
ChatGPTを「全社展開しよう」と決めて失敗するパターンがある。原因の多くは「誰がどう使えばいいか分からない」状態のまま導入するからだ。
部署別に整理することで2つのメリットがある。
- 入口を絞れる: 最初は1部署に限定して試せる。全員に一斉展開しなくていい
- 効果が測定しやすい: 「経理の○○業務にかかっていた時間が短くなった」という形で効果が見えやすい
どの部署から始めるかは、社内で「文章を書く・整理する・確認する」仕事が最も多いところが適している。従業員5〜30人規模の中小企業であれば、経理か総務が最初の候補になることが多い。
経理部門の活用例(3選)
1. 仕訳の勘定科目を確認する
会計ソフトに入力する前の「これ何費で落とすんだっけ?」という確認作業は、意外と時間がかかる。ChatGPTにその場で聞けば、候補の勘定科目と根拠をすぐ返してくれる。
使い方の例
「先月、社員の出張先ホテルの駐車場代を会社のカードで払いました。
勘定科目は何費になりますか?根拠も教えてください。」
ただしChatGPTの回答はあくまで参考情報として扱うこと。最終的な判断は経理担当者または税理士が行うのが前提だ。「調べるのが速くなるツール」として使う位置づけが正しい。
2. 月次報告のコメント文を生成する
月次の数字をまとめた後、「経営者向けのコメント文」を書くのが面倒だという経理担当者は多い。数字を入力してコメント文の下書きを作らせると、叩き台として使える。
使い方の例
「今月の売上が前月比5%増、経費は前月並み、利益率が0.5ポイント上昇しました。
経営者に報告するための月次コメント文を3行で作ってください。」
叩き台ができれば、実際の修正作業は数分で終わる。ゼロから書き始めるより格段に速い。
3. 支払い明細・社外文書の文言チェック
取引先に送る請求書や支払い依頼メールの文章を、ChatGPTに読ませてチェックさせる使い方がある。誤字・金額の表記ゆれ・不自然な日本語を指摘させるだけで、確認ミスが減る。特に慣れていないスタッフが文書を作る場合に、最終確認の補助として使いやすい。
総務部門の活用例(2選)
4. 社内規程・マニュアルの文章整備
規程類は「以前の担当者が書いたまま放置されている」ことが多い。ChatGPTに既存の文章を貼り付けて「読みやすく整理してください」と指示すると、構造を整えた文章を返してくれる。
使い方の例
「以下は当社の有給休暇に関する社内規程です。
箇条書きと見出しを使って、新入社員でも理解できる形に整理してください。
(元の規程テキストをここに貼り付ける)」
もちろん最終確認は必要だが、全部自分で書き直すよりはるかに速い。「構造はChatGPTが整える、内容の正確性は担当者が確認する」という分担で使うのが現実的だ。
適した用途
- 社内規程の平易化・構造見直し
- 業務マニュアルの再整理
- 社内FAQの文章整備
5. 社内アナウンス・案内文の作成
オフィス移転・人事異動・規程変更・勤怠システムの切り替えなど、社内向けの案内文を毎回ゼロから書く必要はない。伝えたい内容の箇条書きを入力するだけで、丁寧な案内文の形に仕上げてくれる。
使い方の例
「以下の情報を元に、全社員向けの案内メールを作ってください。
・来月1日からクラウド勤怠システムに切り替えます
・紙の出勤簿は廃止になります
・操作説明会を今月25日に実施します
・不明点は総務まで連絡」
案内文を書くのが苦手なスタッフでも、伝えるべき情報を箇条書きにできれば文章化できる。社内コミュニケーションの品質が担当者の文章力に左右されにくくなる。
営業・販売部門の活用例(2選)
6. 提案書の初稿を短時間で作る
営業担当が顧客訪問後に提案書を作るとき、最初の構成案を出させる使い方が効果的だ。顧客の課題と自社サービスの情報を入力すると、提案書の骨格を作ってくれる。
使い方の例
「顧客情報: 従業員30人の製造業。課題は経理の属人化と月次決算の遅れ。
自社サービス: 経理代行と業務フロー整備の支援。
この顧客向けの提案書アウトラインを作ってください。」
ゼロから構成を考える作業が省けるため、提案書1本あたりの作成時間が短縮できる。慣れてくると、構成案を考えるのに使っていた30〜60分が5〜10分に縮まることが多い。完成した提案書を自動生成するのではなく、「構成を考える時間を省く」という使い方が現実的だ。
7. 問い合わせへの返信文案を作る
新規問い合わせや既存顧客からの質問への返信も、叩き台を作らせると速い。「丁寧に断る」「追加情報を求める」「商談のアポを取る」など、目的別にテンプレを用意させておくと、担当者が文章力に関係なく一定品質の返信ができる。
採用・人事部門の活用例(2選)
8. 求人票の改善案を出させる
「なぜかうちの求人に応募が来ない」という悩みを持つ中小企業は多い。既存の求人文をChatGPTに貼り付けて「求職者目線で読みにくい部分と改善案を教えてください」と聞くだけで、具体的な修正提案が返ってくる。
読んでみると「確かにここは分かりにくい」という気づきがあることが多い。採用コンサルに相談する前に、まず自社の求人文をAIに見せてみるだけで十分な場合もある。
9. 面接後のメモを構造化する
面接終了後に「気になった点」「確認したこと」「印象」をそのまま箇条書きで入力すると、構造化された評価メモに整えてくれる。
使い方の例
「以下は面接後のメモです。
「スキル面」「コミュニケーション」「懸念点」「総合印象」の4項目に分けて
整理してください。
(面接メモをそのまま貼り付ける)」
面接ごとにメモの形式がバラバラだと後で候補者を比較しにくい。ChatGPTを使うことでフォーマットが統一され、3人以上の候補者を横並びで比較する際の判断がしやすくなる。
面接担当が変わったときの引き継ぎにも使える。メモの質が属人化せず、誰が面接しても同じ形式で記録が残る。
経営者本人が使う活用例(1選)
10. 会議メモ・報告書を要約・整理する
経営者が参加した会議のメモや、部下から受け取った報告書を要約・整理させる使い方は時間対効果が高い。
使い方の例
「この会議メモから、以下の3項目を箇条書きで整理してください。
①今日決まったこと
②誰かの宿題になったこと(誰が・何を・いつまで)
③次回に持ち越す懸案事項
(メモをそのまま貼り付ける)」
散らかったメモが1〜2分で構造化された議事録になる。経営者が毎回これをやると、「あのときの決定は何だったっけ」という確認連絡が減り、チーム全体の情報共有コストが下がる。
月に数回の経営会議で習慣化すると、3ヶ月後には「誰が何を決めたか」のログが自然に蓄積される。意思決定の記録が残るので、方針のブレを防ぐ効果もある。
定着しない会社に共通する3つのパターン
ChatGPTを導入しても「結局使われなくなった」という話は珍しくない。原因は3つのパターンに集約される。
パターン1: 用途が「とりあえず試す」から先に進まない
「何かに使えるはず」という状態で展開すると、誰も何に使えばいいか分からなくなる。最初から「○○部署の△△業務に使う」と限定するのが正解だ。
パターン2: 使う人が固定されていない
「AIが得意な人だけが使っている」状態になると、組織全体の効率化にならない。1つの業務フローに組み込んで、担当者全員が日常的に使う仕組みを作る必要がある。
パターン3: 期待値がズレている
「完璧な答えを出してくれるはず」という前提で使い始めると、最初の回答に失望して使わなくなる。ChatGPTは「叩き台を作るツール」と位置づけることで、期待値が適切になる。
実際にジムフリで使っている話
ジムフリでは、記事の構成案を作る際にChatGPTを使っている。記事全文を書かせるのではなく、「この記事で伝えるべき内容の骨格」を短時間で出させるのが目的だ。
最初は「AIに構成を任せると質が下がる」という懸念があった。が、構成案だけを出させて実際の文章は自分で書くスタイルにしてから、1本あたりの作成時間が減った。「考えるのに時間がかかる部分だけAIを使う」という分担が、実務では一番うまく機能する。
一般論と違うことを書く
「中小企業はとにかくChatGPTを全社員に使わせましょう」という記事をよく見る。
僕の意見は少し違う。従業員5〜15人規模の会社なら、全員に使わせるよりも経営者・事務担当の2〜3人が日常的に使える状態を作る方が、費用対効果は高い。全員への展開は、その2〜3人が「これは便利だ」と実感した後で考えれば十分だ。
「全社展開」という言葉が先行すると、ハードルが上がってかえって誰も使わなくなる。小さく始めて、効果が出た業務を周囲に広げていく順番が現実的だ。
まとめ
ChatGPTを中小企業で使うなら、部署別に優先順位をつけて始めるのが現実的だ。
- 最初に試すなら経理か総務(文章を扱う業務が多いため効果が出やすい)
- 全部一気にやろうとしない。1部署1業務から始める
- 期待値は「叩き台を作るツール」に設定する
この順番で試すと、「使い方が分からない」から「日常的に使っている」への移行がスムーズになる。