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請求書をAIで読み取るツール比較|中小企業向けの選び方

先日、知り合いの経営者から相談を受けた。「経理担当が月末になると毎回残業していて、理由を聞いたら請求書の入力がたまっているからだと言う。何か良いツールを入れたいんだけど、調べたら比較サイトがたくさん出てきて、どれを選べばいいか分からない」という内容だった。

確かにこの分野は選択肢が多くて、比較サイトを見ると10〜20ツールが並んでいる。ただ、並んでいるツールの大半は「月500枚処理している会社向け」の話で、月30〜50枚くらいの中小企業には関係ないものが多いと僕は思っている。

この記事では、従業員5〜50人規模の会社に絞って、実際に選ぶ時の判断基準とツールの中身を整理する。

何が問題なのかを整理する

まず「どこに手間がかかっているか」を整理しておく。

請求書の処理は一見シンプルに見えるが、実際の作業は3段階に分かれている。

  • 入力作業: 紙やPDFの請求書を見ながら、金額・日付・取引先名・品目を会計ソフトに手入力する
  • 確認作業: 入力した内容が正しいか、元の請求書と照らし合わせる
  • 保存作業: 電子帳簿保存法に対応した形式で、検索できる状態に保管する

さらに2023年10月のインボイス制度導入後、「登録番号が有効かどうか」を国税庁のシステムで確認する作業が加わった。これが1件あたり1〜2分、月50枚なら合計1〜1.5時間の追加作業になる。

また、電子帳簿保存法の改正で「メールで受け取ったPDF請求書はPDFのまま保存する義務」が生じた。印刷してスキャンして入力する、という謎の二重作業が発生している会社もある。

AI読み取りツールを入れることで解決できるのは、主に入力作業と保存作業の2つだ。確認作業はゼロにはならないが、大幅に減らせる。

AI読み取りで何が変わるか

基本的な使い方は次の3ステップになる。

  • PDFや画像をツールにアップロード(またはメール受信で自動取り込み)
  • AIが取引先名・日付・金額・インボイス登録番号を自動でテキスト化
  • 会計ソフト(freee・マネーフォワード・弥生など)に連携してデータを渡す

この流れが完結すると、手入力がほぼなくなる。電子帳簿保存法が求める「検索できる状態での保存」も、ツールが自動でやってくれる。

ここで注意が必要なのが「読み取り精度」の実態だ。

各社が謳っている「99.9%の読み取り精度」は、人間のオペレーターが確認・補正した後の数字であることが多い。AIだけが処理した場合の精度は、書類の質によって80〜90%台になる。電子PDFで受け取ったきれいな書類なら高精度だが、FAXで届いたコピー品質の悪い書類や、手書きのフォーマットは別の話になる。

「AI処理のみ(安価・速い)」と「AI+オペレーター補正(精度保証・少し高い)」の2プランを用意しているツールが多いので、自社の請求書の品質によってどちらを選ぶか判断が変わる。

主要5ツールを比較する

実際に使われているツールを5つ、月50枚を処理する場合のコストと機能で比較する。

ツール名 処理方式 月50枚のコスト目安 freee連携 MF連携 弥生連携 向いている規模
invox受取請求書 AI+オペレーター選択可 約3,578円〜(基本1,078円+AI処理50円×50枚) 小〜中規模
Bill One AI+オペレーター 無料(従業員100名以下・月100枚まで) 小〜中規模
バクラク請求書受取 AI高精度処理 月額4万円〜 要確認 中規模以上
TOKIUMインボイス ダブルオペレーターチェック 月額1万円〜+従量課金 中〜大規模
マネーフォワードAI-OCR AI(内蔵機能) パーソナルプランは月30枚まで無料(31枚目〜20円/枚)、プラス以上は月100枚まで無料 ○(内蔵) MF既存ユーザー

※料金は2026年5月時点の公開情報に基づく。変動の可能性があるため、契約前に各社サイトで確認すること。

比較サイトを見るとバクラクやTOKIUMが目立つが、正直、月100枚以下の中小企業には関係ない価格帯だと僕は思っている。月4万円のツールを正当化できる規模になるまでは、まず後述するコストが低い選択肢から始めればいい。

各ツールの特徴

invox受取請求書は従量課金モデルで、月の請求書枚数が少ない会社に合いやすい。AI処理(50円/枚)とオペレーター補正(100円/枚)を書類ごとに使い分けられる設計になっている。主要な会計ソフト全般に対応しているため、既存ツールを変えずに追加しやすい。

Bill One(Sansan)は従業員100名以下の会社に限り月100枚まで無料のスモールビジネスプランが特徴的だ。無料とはいえAI+オペレーター体制で処理している。「まず試してみる」用途に使いやすい。取引先にはBill One専用のURLへ請求書を送付してもらう運用に切り替えることで、メール受信・PDF管理の手間も省ける。

バクラク請求書受取(LayerX)は申請・承認ワークフローが充実しており、複数人で請求書処理を回している会社に向いている。月額4万円〜という価格帯は、月200枚以上処理しているか、承認フローの管理に課題がある場合に初めてコスト対効果が出てくる水準だ。

TOKIUMインボイスはオペレーターが2人体制で確認する「ダブルチェック方式」が特徴で、FAXや手書き書類が多い会社に向いている。初期費用があるため、コスト試算は導入前にしっかり行う必要がある。

マネーフォワードAI-OCRはマネーフォワードのプランに内蔵されている機能で、追加費用が最も少ない選択肢だ。パーソナルプランは月30枚まで無料(31枚目以降1枚20円)、パーソナルプラスプランとビジネスプランは月100枚まで無料(101枚目以降1枚20円)。月50枚程度なら、パーソナルプランで20枚分400円の追加、プラス以上なら追加費用はゼロになる。マネーフォワードを既に使っている会社は、まずこれで試してみるのが最も低コストな入り口になる。

自社に合うツールを選ぶ判断基準

判断軸1: 月間処理枚数

月間処理枚数が最初の判断基準になる。

  • 月50枚以下: invoxの基本プランかBill One(従業員100名以下なら月100枚まで無料)が現実的。バクラクやTOKIUMはコストが合わない。
  • 月50〜150枚: invoxの通常プランかBill Oneの有料プランを検討。
  • 月200枚以上: バクラク・TOKIUMを比較検討する価値が出てくる。承認ワークフローも必要になってくる規模。

判断軸2: 使っている会計ソフトとの連携

既存の会計ソフトを変えるつもりがない場合、連携の確認が最優先になる。

  • マネーフォワードユーザー: マネーフォワードAI-OCR内蔵機能で十分な場合が多い。月50枚以下なら別途ツールを入れる前にまずこれを試す。
  • freeeユーザー: invox・Bill One・TOKIUMが対応している。freee内の受取請求書機能も確認する価値はある。
  • 弥生ユーザー: invox・Bill One・TOKIUMが対応。バクラクは要確認。

判断軸3: 自社の請求書の品質

取引先から届く書類の質によって、「AI処理だけで済むか」「オペレーター補正が必要か」が変わる。

  • 取引先の大半が電子PDFで送ってくる → AI処理のみで精度が出やすい
  • FAX受信やスキャンコピーが多い → オペレーター補正ありのプランを選ぶ
  • 手書き書類が混在している → TOKIUMのダブルチェック方式が安心

無料トライアルでツールを試す際、「きれいな電子PDF」だけで試すのはやめた方がいい。実際に来ている「問題のある書類」こそ、精度確認のために使ってほしい。

まず会計ソフト内蔵機能を確認する

比較サイトを見ていると「新しいツールを入れる」前提で話が進みがちだが、既存の会計ソフトに内蔵されているAI機能で事足りるケースが相当数あると僕は見ている。新しいツールを入れる前にここを確認するだけで解決できる会社が、実際にはかなりいると思う。

マネーフォワードを使っている場合: マネーフォワードクラウド会計の「AI-OCRから入力」機能が内蔵されている。設定メニュー → 「AI-OCRから入力」をオンにするだけで使えるようになる。パーソナルプランなら月30枚まで無料(超えた分は1枚20円)、パーソナルプラスプランとビジネスプランは月100枚まで無料だ。月50枚以下なら、別途ツールを契約せずにここで解決できる。

freeeを使っている場合: freee会計にも受取請求書の読み取り機能が内蔵されている。まず「書類管理」メニューを確認してほしい。プランによって利用可能かどうかが異なるため、現在契約中のプランの機能一覧を確認する。

新しいツールを追加すると、ログイン先が増えて、連携の設定が増えて、運用ルールも増える。「ツールを増やすほど管理コストが上がる」という現実も頭に入れておいてほしい。

AI連携で選ぶfreee vs マネーフォワードでも両者の機能差を整理しているが、AI-OCR目的で会計ソフトを乗り換えるのは本末転倒なので、まず今使っているソフトの機能を使い切る方を先に試してほしい。

判断の順序としては、こうするのが低リスクだ:

  • 今使っている会計ソフトの機能設定を確認する(MFなら「AI-OCRから入力」、freeeなら「書類管理」)
  • 内蔵機能で精度・使い勝手が足りなければ、invoxかBill Oneの無料プランで試す
  • 月の処理枚数が増えてコストが合うようになってから、バクラク・TOKIUMを検討する

AI経理の全体像についてはAI顧問の経理業務支援|仕訳・請求・入金管理の自動化でも整理しているので、あわせて確認してほしい。

導入前に確認しておく5点

ツールを絞り込んだ後、契約前に確認してほしいことを5つにまとめる。

1. 自社の書類で無料トライアルを試すこと

必ず実際に届いている請求書でテストする。FAX書類・手書き・縦書きフォーマット・古い取引先からの書類が含まれているなら、それを使う。

2. 取引先への連絡が必要かどうか

Bill Oneのように「取引先に専用URLへの送付を依頼する」形式のサービスは、取引先への案内が必要になる。取引先が多い会社や、長年付き合いのある取引先がいる場合は、切り替えの手間も計算に入れる。

3. 電子帳簿保存法への対応範囲

スキャナ保存要件(解像度・タイムスタンプ・検索要件)を満たすかどうかを確認する。多くのツールが対応しているが、どの要件まで自動処理されるかはツールによって異なる。

4. インボイス登録番号の自動照合機能

国税庁のデータベースと照合して、登録番号の有効性を確認してくれる機能があるかどうか。手動で確認する手間を省けるかどうかに直結する。

5. 担当者が変わったときの引き継ぎ

操作が直感的かどうか、マニュアルが整備されているか。経理担当が退職した際に、引き継ぎが複雑になると困る。

どのツールが正解かは、自社の月間枚数・会計ソフト・書類の質によって変わる。ただ一つ僕が言えることは、月100枚以下で電子PDFがメインなら、まず今使っている会計ソフトの内蔵機能から試すのが最もリスクが低いということだ。それで足りなければ、invoxかBill Oneで試せばいい。

ツール選びに時間をかけすぎて、その間も手入力を続ける方が非効率だ。まず試して、合わなければ変える、でいい。

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