事務・バックオフィス効率化

社内SEがいない中小企業はどうすればいい?IT管理の3つの選択肢

「社内にITを分かる人がいない」という状態は、従業員50人以下の中小企業では珍しくない。総務や経理の片手間でIT対応をしている、経営者自身がパソコン担当になっているという状況は、多くの会社で起きている。

問題は「社内SEがいないこと」ではなく、「対処の方針が決まっていないこと」だ。

このまま場当たり的に対応し続ければ、ある日突然、業務の止まるITトラブルが起きる。逆に言えば、早めに方針を決めておくだけでリスクをかなり小さくできる。

この記事では、社内SEがいない中小企業が取れる3つの選択肢を、コストと向き不向きで整理する。あわせて、3択を補う「4つ目の使い方」も紹介する。会社の従業員数とIT対応の頻度から、どれを選ぶべきかが分かる内容にした。

社内SEがいないと実際に何が起きるか

社内にITを専任で見られる人がいない状態では、具体的に次のような問題が起きる。「自社のことだ」と思う項目が多いほど、早めに方針を決めた方がいい。

IT対応が経営者か事務担当の仕事になる

プリンターが繋がらない、社内ネットが切れた、Excelが開かない。こういったトラブルへの対応が、なぜか経営者や事務スタッフに集まってくる。1件あたり30分〜2時間かかることもある。

業務効率化に特化したエンジニアとして中小企業の相談に乗っていると、「社長が週3〜4回はPCトラブルの対応をしている」という状況をよく聞く。月換算で5〜8時間以上をIT対応に使っている経営者は珍しくない。本来、経営判断や営業に使うべき時間が削られている。

ITベンダーの提案が妥当かどうか判断できない

「新しいシステムを入れましょう」「クラウドに移行した方がコストが下がります」という提案が来ても、社内に判断できる人がいない。言われるままに発注して、後から「必要なかった」となるパターンが多い。

導入コストが100万円以上のシステムを、必要性を検証せずに入れてしまった中小企業の事例は少なくない。複数社から見積もりを取っていれば、同じシステムを40〜50万円安く入れられたケースもある。外部に「判断を相談できる人」がいないことが、余計なコスト発生につながっている。

セキュリティ対策が後回しになり続ける

ウイルス対策ソフトの期限切れ、パスワードの使い回し、共有フォルダのアクセス権限の不整備。「大事だと分かっているが、誰がやるか決まっていない」という状態が続く。

ランサムウェア(重要データを暗号化して身代金を要求するマルウェア)の被害は、中小企業でも出ている。バックアップがなく復旧できなかったケースも実際にある。「自社には関係ない」と思って先送りすると、手遅れになる可能性がある。

担当者に依存した「属人化」が進む

IT管理の方法が1人の担当者の頭の中だけにある状態を「属人化」と言う。その人が休んだり辞めたりすると、パスワードも設定方法も分からなくなる。

「前の担当者が使っていたPCのパスワードが分からない」「どのソフトをいつ契約したか台帳がない」というのは、中小企業でよくある話だ。人が変わるたびに1からやり直すコストは、見えにくいが確実に発生している。

社内SEを採用せずに解決する3つの選択肢

社内SEがいない状態を解消する方法は大きく3つある。それぞれのコスト・対応範囲・向き不向きをまとめる。

選択肢1:社内SEを採用する

最も直接的な解決策。IT業務を専任で担当する社員を採用する。

コスト

社内SEの年収は400〜600万円程度が相場だ(求人ボックス調べでは平均403万円、エージェント系の調査では590〜826万円と幅があり、企業規模・業種によって大きく異なる)。中小企業の場合は400〜550万円程度が現実的な範囲になることが多い。給与に加えて社会保険料・賞与・採用コストを含めると、実際の年間費用は500〜800万円前後になる。採用エージェントを使う場合は別途、年収の30〜35%程度の紹介料が発生する(1人あたり130〜200万円程度)。月換算すると40〜70万円だ。

メリット

  • 社内トラブルへの対応が速い(オフィスにいれば即時対応できる)
  • 自社システムへの理解が深まり、ノウハウが社内に蓄積される
  • ITベンダーとの交渉窓口を一手に担えるようになる

デメリット

  • 採用が難しい。IT人材は大企業や成長スタートアップの引き合いが強く、中小企業には流入しにくい
  • 1人だと属人化が起きる。その人が休んだり辞めたりすると同じ問題が再発する
  • 業務量が少なければ月55〜70万円のコストパフォーマンスが合わない

向いている会社

IT関連の業務が毎日継続的に発生し、従業員50人以上の規模がある会社。ITが事業のコアに関わる場合は採用を検討する価値がある。それ以下の規模では採用・維持のコストが見合わないことが多い。

採用に関して一点補足しておく。「求人を出したが応募が来ない」「入社してもすぐ辞めた」という話は中小企業でよく聞く。採用活動を始めてから入社まで3〜6ヶ月かかることも珍しくない。急場の対処が必要な状況では、採用だけを頼りにすると動きが止まる。

選択肢2:情シス代行サービス(アウトソーシング)を使う

社内にIT担当者がいなくても、外部の専門チームにIT管理を任せる方法。「情シスアウトソーシング」や「ゼロ情シス向けサービス」と呼ばれることもある。

コスト

月額15〜60万円程度が相場だ。業務範囲によって大きく変わる。ヘルプデスク中心のプランなら月10〜20万円程度から利用できる。IT運用代行(基本)は月25〜40万円、セキュリティ対策込みのプランは月40〜60万円が目安だ。

社内SE採用(月40〜70万円)と比較すると、従業員30人以下の規模では情シス代行サービスの方が年間コストを抑えられるケースが多い。

対応できること

  • PC設定・トラブル対応(ヘルプデスク)
  • ネットワーク管理・保守
  • セキュリティ対策・ソフトウェアパッチ適用
  • ITベンダーとの交渉・窓口代行
  • PC・契約ソフトウェアの台帳管理

メリット

  • IT運用を丸ごと任せられる(PC管理・ネットワーク保守・ヘルプデスク等)
  • 採用・育成が不要。担当者が退職するリスクもない
  • チームで対応するため、特定の知識に偏らない

デメリット

  • 自社の業務理解が浅い段階では、的外れな提案が来ることもある
  • 緊急対応(深夜・休日)は別途費用になるケースが多い
  • IT課題が少ない時期も月額固定費がかかる

向いている会社

従業員20〜50人程度の会社で、IT関連の困りごとが月に複数発生しているが、専任を置くほどの業務量はない場合に向いている。「PCトラブルや外部ベンダーとのやりとりを誰かに任せたい」という状況に特に合う。

選択肢3:IT顧問(月次相談・スポット相談)を使う

外部のITコンサルタントやエンジニアを月次契約または単発で活用する方法。実務作業より「判断・相談」が中心になる。

コスト

月額3〜15万円程度が中小企業の現実的な範囲だ。単発のスポット相談(1〜2時間)なら1〜3万円程度から利用できる。

(参考: 中小企業のIT顧問とは?費用相場と失敗しない選び方を解説

対応できること

  • 「このシステムを入れた方がいいか」の判断相談
  • 「このベンダーの見積もりは妥当か」のレビュー
  • セキュリティ対策の方針決定
  • 社内IT環境の現状診断と優先順位付け

メリット

  • 費用が安い
  • 特定のサービス会社に縛られていない中立的なアドバイスを得やすい
  • 月次契約なら経営者がIT判断のサポートを継続的に受けられる

デメリット

  • PC設定やネットワーク管理などの実務作業は基本的に対象外
  • 「何かあればすぐ来てもらえる」という緊急対応体制は作れない
  • 依頼する人の当たり外れがある

向いている会社

従業員20人以下の会社で、日常的なITトラブルより「判断が分からない」「相談できる人がいない」という場面の方が多い場合に向いている。「ITベンダーから提案が来たが、必要かどうか判断したい」という需要に特に合う。

3択の比較表

社内SE採用 情シス代行 IT顧問
月額コスト目安 40〜70万円 15〜60万円 3〜15万円
実務作業 できる できる 基本的に対象外
継続的サポート できる できる 月次が中心
緊急対応 できる 別途費用が多い 難しい
採用リスク あり なし なし
知識の社内蓄積 蓄積される 蓄積されにくい 限定的
向いている規模の目安 50人以上 20〜50人 20人以下

見落とされがちな「4つ目の使い方」:フリーランスエンジニアへの業務委託

3択に加えて、状況によっては「フリーランスエンジニアへの単発業務委託」が有効な選択肢になる。

これは情シス代行でも社内採用でもなく、「特定のプロジェクトを期間限定で外部エンジニアに任せる」方法だ。

たとえば「社内Wi-Fi環境をリニューアルしたい」「kintone導入を自社でやろうとしたが技術的に詰まった」「PCを10台一括セットアップしたい」といった、一時的な課題に向いている。

コスト

フリーランスエンジニアの相場は時給5,000〜8,000円程度が中心だ。月稼働20〜40時間なら月額10〜30万円の範囲になる。目的と期間が決まった案件に特有のコスト感で、終わったら固定費がかからない点が情シス代行と異なる。

(参考: フリーランスエンジニアの探し方3選|費用と失敗しない選び方【2026年版】

特に使いやすいシーン

  • 社内SE採用を決めたが、入社まで3〜4ヶ月かかる間の「つなぎ」として
  • 情シス代行サービスを使い始める前に、まず環境を整備したい
  • 特定のシステム移行やツール導入に一度だけ専門家の手を借りたい

継続的なIT管理には向かないが、「このプロジェクト1件だけ外に頼みたい」という場面ではコストパフォーマンスが高い。

状況別:どれを選ぶか

自社の状況を確認して、当てはまるパターンを選んでほしい。

自社の状況 推奨する選択肢 月額コスト目安
月1〜2回のPCトラブルや操作の質問 IT顧問スポット相談 1〜3万円
週に複数回のIT対応が発生している 情シス代行サービス 15〜30万円
特定の1件だけプロジェクトがある フリーランス業務委託 10〜30万円
IT業務が毎日発生し専任が必要 社内SE採用 40〜70万円

パターンA: 月1〜2回、PCトラブルや操作の質問が来る程度

IT顧問のスポット相談で対応できる。月額固定より、困ったときに1〜3万円の単発相談で対応する方がコストに見合う。まずスポットで何度か相談してみて、ニーズが安定していたら月次契約に移行するのが合理的だ。

パターンB: IT関連の対応が週に複数回発生し、経営者や事務スタッフの時間が取られている

情シス代行サービスが現実的な選択肢だ。特にヘルプデスク中心のプランから始めると、月5〜12万円で日常的なIT対応を外出しできる。業務範囲を試してから、必要に応じて範囲を広げやすい。

パターンC: 社内システムの整備やツール導入など、特定のプロジェクトが1件ある

フリーランスエンジニアへの業務委託が合う。kintone導入やクラウド移行など、期間と目的が決まっている案件に向いている。終わったら継続しなくていい分、固定費がかかり続けない。

パターンD: IT業務が毎日発生し、プロジェクト管理やベンダー管理まで任せたい

社内SE採用を検討する段階だ。ただし採用難は覚悟が必要で、最初はフリーランスエンジニアへの業務委託を挟む方法もある。採用活動と並行しながら、当面の対応を外部で回す方法を組み合わせると現実的に動きやすい。

最初にやるべきこと:「IT対応の棚卸し」

どれを選ぶにしても、まず「自社のIT対応コストを見える化する」ことが必要だ。

手順はシンプルだ。1ヶ月間、ITに関する対応をメモする。

  • 誰が対応したか
  • どんな内容だったか
  • 何時間かかったか

これを1ヶ月続けると、月にどれくらいのITリソースが使われているかが見える。「思っていたより少ない」なら、IT顧問のスポット相談で十分かもしれない。「月10時間以上使っている」なら、情シス代行サービスへの切り替えで対応の質を上げつつ固定費を減らせる可能性がある。

この棚卸しなしに「なんとなくアウトソーシングしてみた」という判断をすると、費用に見合う効果が出ているかどうかを測れなくなる。

業務効率化に特化したエンジニアとして、IT課題の可視化ができていない段階で高額なシステムを入れても、根本的な問題が解決しないケースをよく見てきた。先に「月にどのIT課題が何時間発生しているか」を把握することが、費用対効果の高い選択につながる。

一般論と違う部分

IT管理に関するメディア記事を読むと、「情シスアウトソーシングで全て解決できる」という印象を受けることが多い。

僕の見方は少し違う。

情シス代行サービスは「IT管理の手間を外に出す」には有効だが、「自社のITリテラシーを高める」には直接つながらない。ベンダーに任せっぱなしになると、5年後も同じように「IT判断ができない状態」が続く。

中小企業に本当に必要なのは、アウトソーシングの入口で「何を任せて、何は自社で決断するか」を設計することだと思っている。たとえば、日常のPC管理は情シス代行に任せつつ、年1回はIT顧問に入ってもらってITの現状診断と優先順位を経営者が把握する、というハイブリッドの使い方が実際に機能しているケースが多い。

「全部任せる」か「全部自分でやる」の二択ではなく、自社のフェーズに合った分担を設計することが、長期的なコスト最適化につながる。

まとめ

社内SEがいない状態を解消する主な選択肢は3つ、補助的な選択肢が1つある。

選択肢 月額コスト目安 向いている規模 向いている使い方
IT顧問(スポット・月次) 3〜15万円 従業員20人以下 判断相談・方針決め
情シス代行サービス 15〜60万円 従業員20〜50人 IT運用の丸ごと外出し
社内SE採用 40〜70万円 従業員50人以上 毎日の実務・管理一手
フリーランス業務委託(補助) 10〜30万円(稼働量による) 規模問わず 課題限定の単発プロジェクト

どれを選ぶかは、「IT対応が月に何時間発生しているか」と「その対応が実務作業か判断相談か」で決まる。まず1ヶ月間、社内のIT対応をメモしておく。それだけで選択肢が自然と絞られる。

IT相談先の選び方を詳しく知りたい場合は、中小企業のIT相談、どこに頼むかで結果が全然違う|相談先の選び方ガイドも参考にしてほしい。

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