先週、業務委託先のオフィスで見かけた光景が頭から離れない。
朝9時過ぎ、事務担当の方がGoogleフォームを開いて、前日夜から溜まっている問い合わせ内容をひとつひとつコピーして、Slackのチャンネルに貼り付けていた。それを30分近くかけて。「自動化できるんじゃないですか」と声をかけたら、「そうなんですよ、でも設定がよくわからなくて」と苦笑いされた。
3秒でできることを毎日30分かけてやっている。その30分が月に換算すると約10時間。
このパターン、うちだけだろうか、と思った方は読み続けてほしい。Zapierを使えば、その作業は今日中に消せる。
前提:ZapierはツールをつなぐノーコードのAPI橋渡しツール
Zapierは一言で言うと「Aのアプリで何かが起きたら、Bのアプリで何かをする」を自動実行するサービスだ。プログラミングは不要。マウス操作だけで設定できる。
仕組みは「Trigger(きっかけ)→ Action(処理)」のワンセット。Googleフォームに回答があった(Trigger)→ Slackに通知を送る(Action)、これだけ。
2026年5月時点で7,000以上のアプリに対応している。Gmail、Slack、Notion、スプレッドシート、Stripe、ChatGPT(OpenAI API)など、中小企業でよく使われるツールはほぼ網羅されている。
ひとつ先に言っておく。管理画面は英語のみで、日本語対応はない。設定画面はすべて英語で、日本語のサポートもない。これは正直なデメリットで、この点が属人化の原因になることもある(後述する)。英語が苦手な方でも基本操作はできる水準だが、担当者の選定は考えておいた方がいい。
料金早見表
| プラン | 月額(年払い) | タスク数/月 | 制限 |
|---|---|---|---|
| Free | 無料 | 100 | 機能制限あり |
| Professional | $19.99(約3,000円) | 750〜 | マルチステップ対応 |
| Team | $69(約10,500円) | 2,000〜 | 共有ワークスペース |
タスク数は「Zapが1回実行されるたびに1カウント」される。問い合わせが月100件あれば、Freeプランはそれだけで使い切る。有料前提で導入コストを考えた方が現実的だ。
事例10選:中小企業が実際に使っているZap
事例1:問い合わせフォームへの回答をSlackに即通知
- どんな業務: ウェブの問い合わせフォームへの回答を、担当者がSlackで即時確認する
- 自動化前: 担当者がGoogleフォームを毎朝開いて、内容をコピー→Slackに手動投稿
- Zapの構成: Googleスプレッドシート(フォーム回答が追加されたとき)→ Slack にメッセージ送信
- 節約できる時間の目安: 月2〜3時間
- 必要なプラン: Free
- 難易度: ★☆☆
Zapier入門として最初に試すべき1本。GoogleフォームとSlackのワークスペースがあれば、設定は5分で終わる。「まず1個だけ動かしてみたい」という方はここから始めるのが正解だと思っている。Freeプランで動くので費用もゼロ。
事例2:問い合わせへの自動サンクスメール送信
- どんな業務: 問い合わせ受付後に「内容を受け付けました」という返信メールを送る
- 自動化前: 担当者がGmailを開いて、テンプレートをコピーして返信
- Zapの構成: Googleフォームに回答 → Gmailで自動返信メール送信
- 節約できる時間の目安: 月1〜2時間
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★☆
「受け付けました」のメールを毎回手で送っている会社は、正直なところかなり多い。顧客側は問い合わせ後すぐに届く返信で安心感を得る。こちら側はその手作業がゼロになる。マルチステップが必要なのでProfessionalプラン以上が必要になる。
事例3:新規リードをCRMに自動登録
- どんな業務: 資料請求・見積依頼フォームへの回答を、顧客管理シートに転記する
- 自動化前: フォームの回答をコピーして、NotionやスプレッドシートのCRMシートに手動で入力
- Zapの構成: Googleフォーム(資料請求・見積依頼)→ Notionデータベース or スプレッドシートにコンタクト追加
- 節約できる時間の目安: 月3〜5時間(1件5分の転記×月100件=月500分削減)
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★☆
1件あたり5分の転記が積み重なると、月100件で500分。8時間超だ。「うちはそんなに来ない」という会社でも、入力ミスや転記漏れのリスクを考えると自動化した方がいい。Notionとスプレッドシートの両方に対応している。
事例4:Stripeの入金を経理スプレッドシートに自動記録
- どんな業務: Stripeで決済が完了するたびに、経理用シートに入金記録を追加する
- 自動化前: Stripeの管理画面を開いて確認→スプレッドシートに日付・金額・顧客名を手入力
- Zapの構成: Stripe決済完了 → スプレッドシートに行追加(日付・金額・顧客名)
- 節約できる時間の目安: 月2〜4時間
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★☆
StripeとfreeeやマネーフォワードとのAPI連携が直接うまくいかないケースのブリッジとしても使える。「とりあえずスプレッドシートに記録だけしておく」という使い方でも十分価値がある。
事例5:請求書発行完了をSlackで担当者に通知
- どんな業務: 経理が請求書を発行したら、営業担当にSlackで連絡する
- 自動化前: 経理担当がSlackで個別に「○○社への請求書送りました」とメッセージ
- Zapの構成: スプレッドシートの「請求済」フラグが立つ → Slackに通知
- 節約できる時間の目安: 月1時間
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★☆
経理と営業の間で毎月発生する「もう送りましたか?」「まだです」という往復確認メッセージ。これを消せるだけで双方の集中が途切れなくなる。節約時間は小さいが、コミュニケーションの質が上がる効果の方が大きいかもしれない。
事例6:採用応募者の情報をNotionに自動まとめ
- どんな業務: 採用応募フォームへの回答を、NotionのデータベースにまとめてHR管理する
- 自動化前: フォームを開いて応募情報を確認→Notionに名前・連絡先・志望動機等を手入力
- Zapの構成: Googleフォーム(応募フォーム)→ Notionデータベースに追加
- 節約できる時間の目安: 月2〜3時間
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★★
兼任採用担当がいる会社に刺さる事例。「応募があったのに3日後に気づく」という事故をなくすための自動化だ。難易度が高めなのは、Notionとのデータマッピング設定(どの項目をどのプロパティに入れるか)に少し手間がかかるため。設定さえ終われば安定して動く。
事例7:会議録音の要約をSlackに自動投稿(ChatGPT連携)
- どんな業務: 会議のOtter.ai議事録をChatGPTで要約して、Slackに自動投稿する
- 自動化前: 議事録テキストを誰かが読んで要点をまとめ、Slackに手動投稿
- Zapの構成: Otter.aiで議事録テキスト作成 → ChatGPT(OpenAI API)で要約 → Slackに投稿
- 節約できる時間の目安: 月3〜5時間
- 必要なプラン: Professional(OpenAI APIキー別途要)
- 難易度: ★★★
「AI×事務」の組み合わせとして個人的に一番費用対効果が高いと思っている事例。OpenAI APIの費用は使い方にもよるが月数百円〜数千円程度。議事録の清書を誰かに任せていた会社は、その人件費と比べれば圧倒的に安い。ただし要約の精度確認は必ず人が行う前提で運用してほしい。
事例8:SNS投稿エンゲージメントをスプレッドシートに自動記録
- どんな業務: 特定のハッシュタグやアカウントのSNS反応をスプレッドシートに自動保存する
- 自動化前: SNS管理画面を開いて数字を確認→スプレッドシートに手動で記入
- Zapの構成: RSS / Twitterで特定ハッシュタグ → スプレッドシートに保存
- 節約できる時間の目安: 月1〜2時間
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★☆
一点注意がある。X(旧Twitter)はAPI利用ポリシーが2025年以降に変更されており、無料枠での連携が制限されている場合がある。設定前にZapierのX連携の現状を確認することを勧める。RSSフィードを使うパターンの方が安定していることが多い。
事例9:問い合わせ内容をChatGPTで分類・返信案を下書き保存
- どんな業務: 受信した問い合わせメールをChatGPTで自動分類し、返信の下書きを作成する
- 自動化前: CS担当者がメールを読んで分類→返信文を1から書く
- Zapの構成: Gmailで特定ラベルのメール受信 → ChatGPTで分類・返信案作成 → Gmailの下書きに保存
- 節約できる時間の目安: 月5〜8時間(CS担当がいる会社で効果大)
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★★
「送信前に必ず人が確認する」を前提にした設計が重要。自動返信ではなく下書き保存にとどめておく。これを「たたき台生成」として使う運用が現実的だ。CS担当の体感作業量は半分以下になるが、品質責任は人間が持つという形が信頼を保つ。
事例10:タスク完了をトリガーに次の担当者にSlack通知
- どんな業務: 前工程の担当者がタスクを完了したら、次の担当者にSlackでバトンを渡す
- 自動化前: 前工程の担当者が「終わりました」とSlackでメッセージ→次担当者が確認
- Zapの構成: NotionでタスクのステータスがExplicitに「完了」→ 次担当者にSlack DM
- 節約できる時間の目安: 月1〜2時間
- 必要なプラン: Professional
- 難易度: ★★☆
「前の工程、終わりましたか?」という確認メッセージを1日に何回も飛ばし合っているチームに入れると効く。ステータス管理をNotionで行っている会社はすぐ使える。Notionのプロパティ設定とZapierのフィルター設定の組み合わせで動く。
実際にジムフリの運営で使っているZap
ジムフリの記事管理でも、同じ考え方でZapierを組んでいる。
今はNotionで記事の公開ステータスを管理しているのだが、「公開済」に変更されたタイミングで、Googleスプレッドシートの記事管理表に自動で1行追加されるようにしている。日付・タイトル・URLが自動で入る。
これを設定したのは記事が50本を超えたあたり。それまでは自分でスプレッドシートに手入力していたのだが、正直なところ入力し忘れや、後から遡って埋める作業が発生していた。管理表の信頼性が下がってきたな、と感じて重い腰を上げた。
設定にかかった時間は30分。Notionのステータス変更をTriggerにして、スプレッドシートへのAction設定をするだけだ。最初は「難しそう」と思っていたが、実際には項目をドロップダウンで選んでいくだけだった。
今は記事数が180本を超えているが、管理表は常に最新の状態が保たれている。30分の設定が、ここまでの時間を節約し続けている計算になる。
Zapierが向いていないケース
正直に書いておく。Zapierが合わない場面もある。
日本国内SaaSとの相性問題
freee、マネーフォワード、kintone、チャットワークなど、国内でよく使われているSaaSはZapierの連携が限定的なことが多い。「kintoneのデータをZapierで取りたい」という要望はよく聞くが、対応している機能が少なかったり、連携自体がない場合もある。日本製ツールをメインに使っている会社は、導入前に連携可能かどうかを必ず確認してほしい。
無料プランの100タスクはすぐ枯渇する
月に問い合わせが100件来る会社なら、Freeプランはそれだけで使い切る。Freeプランを試して「使えるな」と思ったら、すぐProfessionalに切り替える想定でコスト計算をしておいた方がいい。月3,000円程度なので費用対効果は悪くないが、「無料で使えると思っていた」という誤解は先に解いておく。
複雑なフローならMake(旧Integromat)の方がコスト安
条件分岐が多かったり、ループ処理が必要なZapを組もうとすると、ZapierよりMake(旧Integromat)の方が適している場合がある。クレジット課金(2025年8月以降)のMakeは、複雑なフローほど月額が安くなる傾向がある。シンプルな自動化はZapier、複雑なフローはMakeという使い分けを検討してもいい。
管理画面が英語なので属人化しやすい
設定した担当者が退職すると、誰もZapを触れない状態になる会社がある。管理画面がすべて英語なので、引き継ぎのコストが発生しやすい。複数人が設定を理解できる状態を作っておくか、設定内容をドキュメント化しておくことを勧める。
最初から全部やろうとしない
10個の事例を並べたが、ここだけ読んでほしい。
一番よくある失敗が、いきなり10個のZapを設定して、どれかが止まっても誰も気づかないパターン。Zapierは設定した後に「動いているかどうか」を確認する運用も必要で、それを10個同時にやると管理が破綻する。
最初は1つだけでいい。事例1のGoogleフォーム→Slack通知を1本だけ作って、1週間動かして様子を見る。問題なく動いたら2本目を追加する。そのくらいのペースで十分だ。
慣れれば設定は本当に短時間でできるようになる。焦らないことが一番の効率化だ、と思っている。
10個並べたが、最初の1本は事例1で十分だ。Freeプランで動く。設定は15分もかからない。それだけで毎日の手作業が1つ消える。まずそこから始めてみてほしい。