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問い合わせフォームからSlack通知・自動返信メールまでを構築した実例

著者: 野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

「問い合わせが来ていたのに気づかなかった」という経験は、中小企業の経営者なら一度はあるはずだ。

忙しさの中でスプレッドシートの確認を忘れ、問い合わせに2日も3日も返信できなかった。せっかくの見込み客を、対応の遅れで逃してしまう。これは仕組みで解決できる問題だ。

この記事では、業務効率化に特化したエンジニアである僕が、自社の問い合わせフォームに自動化の仕組みを入れた実例を紹介する。使ったツールは無料、構築時間は約1時間。プログラムの経験がない方向けに、同じ結果を得るための代替手段も整理する。

「問い合わせを2日見落とした」が自動化のきっかけ

自動化を始めたきっかけは、具体的な失敗体験だ。

当時、問い合わせフォームからの送信内容はGoogleスプレッドシートに記録される設定にしていた。フォームに問い合わせが入ると、スプレッドシートの1行に自動で保存される。仕組みとしては機能していた。

問題は「スプレッドシートを自分で開かなければ、問い合わせが来ていることに気づけない」という点だ。

当時は別のプロジェクトが佳境で、3日間ほどスプレッドシートを開いていなかった。4日目に開いたら、問い合わせが2件来ていた。すぐに返信したが、1件は「他に連絡先を見つけたので」という返信が来た。もう1件は既読にもならなかった。

2件とも見込み客だったはずだ。対応が遅すぎて機会を逃した。

問い合わせへの返信が遅れると、相手は「対応が遅い会社だ」という印象を持つか、別の選択肢を探し始める。フォームを送信した直後が最も関心が高い状態で、時間が経つほど関心は薄れていく。これは自社の対応品質の問題ではなく、純粋に「気づけない」という構造の問題だ。

「確認しに行かなくても通知が来る仕組み」を作ることを決めたのはこの経験からだ。

構築した3つの自動化の詳細

現在、問い合わせフォームへの送信をトリガーにして、以下の3つが自動で動いている。

1. Googleスプレッドシートへの自動記録

フォームの送信内容がスプレッドシートに自動で1行ずつ記録される。名前、会社名、メールアドレス、問い合わせ内容、受信日時が全て残る。

この部分はGoogleフォームの標準機能だけで実現できる。Googleフォームを作成した後、「回答」タブからスプレッドシートと連携する設定をするだけだ。この段階ではプログラムは不要。

ただし、この設定だけでは「スプレッドシートを開いて確認しなければ気づけない」状態は変わらない。通知は来ない。次の2つを追加することで、通知が届く状態になる。

2. Slackへの即時通知

問い合わせが送信された瞬間に、指定したSlackチャンネルに通知が届く。通知の内容は以下の通りだ。

  • 問い合わせ者の名前
  • 会社名
  • メールアドレス
  • 受信日時
  • 問い合わせ内容(先頭100文字程度)

スプレッドシートを自分で開く必要がなくなった。Slackを見れば、いつ、誰から、どんな問い合わせが来たかがその場で分かる。スマートフォンのSlackアプリにも通知が届くため、外出中でも気づける。

この仕組みはGoogle Apps Script(GAS)とSlack Incoming Webhookを組み合わせて実装した。GASは無料で使えるGoogleのプログラム実行環境だ。

3. 問い合わせ者へのサンクスメールの自動送信

問い合わせをした人に、フォーム送信から1〜2分以内に自動でサンクスメールが届く。内容は以下の通りだ。

  • 問い合わせを受け取ったことの確認
  • 「営業日2日以内にご連絡します」という返信目安の明示
  • 会社案内資料のダウンロードリンク

このサンクスメールにより、相手が「ちゃんと届いているか不安」という状態を防げる。問い合わせ直後に届くため、まだ関心が高い状態で資料を読んでもらえる可能性が高い。

使ったツールと実際のコスト内訳

実際に使ったツールと費用を整理する。

ツール 役割 月額費用
Googleフォーム 問い合わせフォーム本体 無料
Googleスプレッドシート 問い合わせ記録の保存先 無料
Google Apps Script(GAS) Slack通知・メール送信の処理 無料
Slack Incoming Webhook Slackへの通知受け取り口 無料(Slackの標準機能)
Gmail(GAS経由で送信) サンクスメールの送信元 無料

全て無料だ。月額コストはゼロ円で運用している。

構築にかかった実際の時間内訳は以下の通りだ。

作業内容 所要時間
Slack Incoming Webhookの設定 約5分
GASのコード記述(Slack通知部分) 約20分
GASのコード記述(メール送信部分) 約20分
テスト送信・動作確認 約15分
合計 約60分

エンジニアとしてGASに慣れている分、所要時間は短い。初めてGASを触る場合は倍の2時間程度を見ておいた方が良いが、それでも半日以下で終わる作業量だ。

なお、GASのコードは検索すればサンプルが無料で見つかる。Slack通知のコードは約15行、メール送信のコードは約20行。このコードをコピーして、自分のSlack WebhookのURLとメールアドレスに書き換えれば動く。

導入前後で何が変わったか(実測値)

自動化の前後で実際に何が変わったかを数字で整理する。

項目 導入前 導入後
問い合わせの確認方法 スプレッドシートを手動で開く Slackに即時自動通知
気づくまでの時間 最長48時間以上になることも 受信から数分以内
月の見落とし件数 月1〜2件 ゼロ
サンクスメールの送信 手動(気づいた後) 受信から1〜2分以内に自動送信
1件の対応にかかる手間 スプレッドシート開く→確認→手動返信 Slackで確認→返信するだけ
月額コスト 0円 0円

導入後の変化として最も大きかったのは「見落としのゼロ化」だ。自動化前は月に1〜2件、確認が1日以上遅れる問い合わせがあった。導入後の1年間で見落としはゼロだ。

もう1つ、「サンクスメールの自動送信」の効果も実感している。手動で対応していた頃は、問い合わせを確認してから返信するまでに数時間〜1日かかっていた。自動送信になってからは、相手が問い合わせた数分後にメールが届く。「返信が早い」という印象を与えられる。

GAS以外の選択肢と選び方

「GASは難しそう」「プログラムを書いたことがない」という方のために、他の選択肢と向き不向きを整理する。

手段 難易度 月額費用 カスタマイズ性 向いているケース
Google Apps Script(GAS) 中(コード数十行) 無料 高い 技術者か、知り合いにエンジニアがいる場合
Zapier 低(ノーコード) 無料〜約3,000円 中程度 コードを触らずに自分で設定したい場合
Make(旧Integromat) 低〜中(ノーコード) 無料〜約1,400円 高い 複数ツールの複雑な連携を組みたい場合
問い合わせ管理SaaS 低(UI操作) 数千円/月〜 低〜中 複数人で問い合わせを管理したい場合
専用チャットボットツール 5,000円/月〜 高い 月100件以上の問い合わせがある場合

月に10件以内の問い合わせであれば、GASかZapierで十分だ。コストを抑えたいならGAS(無料)、コードを書きたくないならZapierかMakeが選択肢になる。

ZapierとMakeは無料プランがあり、問い合わせ件数が少ない段階では無料範囲内で収まることが多い。Zapierは月100件のタスク、Makeは月1,000回の処理が無料で使える。

月50件を超えてくると、Slack通知だけでは問い合わせの管理が追いつかなくなる。担当者別のアサイン機能や対応履歴の管理が必要になるため、専用の問い合わせ管理システムを検討するタイミングになる。

僕の自社は今も月10件前後の問い合わせのため、GAS+Slack Webhookで十分対応できている。月額コストをゼロに保ったまま運用を継続している。

プログラムが書けない人への現実的な選択肢

「GASのコードを書くのは無理」という方は多い。実際に初めてGASを見た時、大半の方は「これは難しい」と感じる。

ただ、問い合わせ自動化のGASコードに関しては、毎回ほぼ同じ構造だ。以下の3パーツを組み合わせるだけで動く。

  • フォーム送信をトリガーにGASを起動する処理(5行程度)
  • Slack WebhookにデータをPOSTする処理(15行程度)
  • GmailからHTMLメールを送信する処理(20行程度)

合計で40行前後だ。このコードはGASとSlack Webhook Notification等を組み合わせたサンプルがWeb上に複数公開されている。コピーして、URLとメールアドレスを自分のものに書き換えるだけで動作する。

それでも「自分でやるのは難しい」という場合は、クラウドワークスやランサーズで依頼するという方法がある。この規模の実装であれば、1〜3万円以内で受けてくれるエンジニアが見つかる。1回払えばその後は月額費用がかからないため、2〜3ヶ月分の見込み客1件分の価値があれば十分ペイする。

業務効率化のための最初の投資の考え方については業務効率化は何から始める?最初の一歩を具体的に解説でも整理しているので参考にしてほしい。

問い合わせ自動化が「必要ない」と思われる理由と反論

「問い合わせは月に数件しかないから、自動化する必要はない」という意見もある。気持ちはわかるが、件数が少ないからこそ1件の見落としの影響が大きい。

月5件の問い合わせがあって1件を2日間見落としたとする。問い合わせをした側からすれば「あの会社は返信が遅い」という印象が残る。件数が少ない段階だからこそ、1件1件を丁寧に拾う仕組みが重要だ。

もう1つよく聞く意見は「スマートフォンでGmailを確認しているから大丈夫」というものだ。これは問い合わせフォームからの通知メールが届くケースに限って言えば正しい。ただし、問い合わせの多くはGoogleフォームや独自フォームからで、通知設定をしていないと気づかないことが多い。

そして、Slack通知の一番の価値は「問い合わせの内容が通知画面に表示される」点だ。メールアプリを開いてメールを確認するより1ステップ少ない。件数が少ない段階こそ、仕組みで対応漏れをゼロにしておくと後から楽だ。

自動化する際によくある落とし穴と対策

問い合わせ自動化を実装する際に実際に経験した落とし穴を整理する。

落とし穴1:GASのトリガーが予告なく切れる

GASには実行権限(OAuthトークン)があり、長期間使用するとトークンが期限切れになることがある。こうなるとGASが動作しなくなり、通知が来なくなる。

自社でも一度、1週間ほどGASのトリガーが無効化されていた時期があった。Slackが静かだと思っていたら、問い合わせが2件来ていた。月次でテスト送信を実施するルーティンを作ってからは、この問題を事前に発見できるようになった。

対策は2つある。1つは月1回のテスト送信の習慣化だ。もう1つはGASのエラーメール通知を有効化することだ。GASのスクリプトエディタから「通知設定」を開くと、エラー発生時に自動でメールが届く設定にできる。

落とし穴2:サンクスメールの送信元アドレス問題

GASからメールを送ると、送信元がGoogleアカウントのアドレスになる。「xxx@gmail.com」から自動返信が来ると、受け取る側に違和感を与えることがある。

解決策は2つある。1つはGoogle Workspaceを使って独自ドメインのアドレスから送ること(月額有料、1ユーザーから契約可能)。もう1つはSendGridやMailgunなどのメール送信サービスをGASと組み合わせることだ。SendGridには無料プランがあり、独自ドメインのFrom設定ができる。

落とし穴3:Slack通知が他の通知に埋もれる

Slackに自動通知を追加すると、他の通知に問い合わせ通知が埋もれることがある。対策として、問い合わせ通知専用のチャンネルを作ることを強く推奨する。チャンネル名を「#問い合わせ通知」として、そのチャンネルは通知音を必ず鳴らす設定にしておくと見落とさない。

落とし穴4:スプレッドシートの肥大化

問い合わせが月10〜20件になると、スプレッドシートのデータが年単位で増えていく。数百行を超えると検索や管理がしにくくなる。

月次でアーカイブシートにデータを移動させるか、年ごとに別シートに保存する設定を最初から組んでおくと後で楽だ。この処理もGASで自動化できる。

まとめ:今日から始める1時間の仕組み化

問い合わせフォームの自動化は、業務効率化の中でコストゼロ・最短時間で実装できる取り組みの1つだ。月額費用がかからず、効果が即座に出る。

今日から始めるなら、以下の手順で進める。

  • Googleフォームを開いてスプレッドシートと連携させる(5分)
  • Slackで「#問い合わせ通知」チャンネルを作成(2分)
  • Slack AppからIncoming Webhookを有効化してURLを取得(5分)
  • GASを開いてコードを貼り付け、WebhookのURLを設定(30分)
  • テスト送信して動作を確認(10分)

この5ステップで、問い合わせへの見落としはほぼゼロになる。

問い合わせ対応以外のバックオフィスを自動化した事例についてはAIエージェントで中小企業のバックオフィスを自動化した方法|1人会社の実践事例でも詳しく書いているので、事務作業全体の効率化に興味があれば参考にしてほしい。

ツール導入で失敗しないためのポイントについてはデジタルツール導入で失敗する4つのパターンと対策も合わせて読んでおくといい。

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