「AI活用を進めたいが、誰に相談すれば良いか分からない」という経営者から、よく「中小企業診断士に聞いていいですか?」という質問を受ける。補助金申請で接点ができた診断士がいるので、そのままAIのことも相談してみようという流れだ。
結論から言うと、向いているケースと向いていないケースがある。「診断士だから詳しいはず」という期待のまま進むと、想定していた回答が得られないことがある。この記事では、診断士への相談が有効な場面・有効でない場面を整理した上で、他の選択肢との使い分けを解説する。
中小企業診断士とはどんな資格か
中小企業診断士は、経済産業省が所管する経営コンサルタントの国家資格だ。試験科目は経済学・経済政策、財務・会計、企業経営理論、運営管理、経営法務、経営情報システム、中小企業経営・政策の7科目で、経営全般を幅広くカバーしている。
押さえておきたいのは、中小企業診断士は「幅広い経営知識を持つことを証明する資格」であり、「AIやITの実装を専門とする資格」ではないことだ。試験科目に「経営情報システム」は含まれているが、その範囲は情報システムの基礎概念であり、特定AIツールの操作・API連携・システム設計は含まれない。
もう一点重要なのが、有資格者の個人差だ。AI・IT領域に深く取り組んでいる診断士もいれば、財務や人事を主戦場にしている診断士もいる。「診断士なら何でも詳しい」という前提で相談に行くと、期待とずれることがある。相談前に「AI活用については対応していますか」と確認するのが現実的だ。
AI相談が向いているケース
診断士への相談が役立つのは、次のような場面だ。
補助金申請と組み合わせてAI導入を検討している場合
IT導入補助金や省力化補助金を活用してツールやシステムを導入したい場合、補助金申請の経験がある診断士は力になれる。「どのツールが補助金の対象カテゴリに入るか」「申請書にどう書けば採択されやすいか」「交付申請から実績報告まで一連の流れで伴走してほしい」という文脈では、診断士は実績を持っていることが多い。補助金を使ってAIツールを導入したいなら、まず診断士に声をかけることに合理性がある。
「何のためにAIを使うべきか」という経営レベルの整理をしたい場合
「とりあえずAIを使いたい」という段階ではなく、「うちの会社の課題は何で、それをAIで解決できるか整理したい」という相談は診断士に向いている。業務全体を俯瞰して経営課題を整理する作業は診断士が得意とする領域で、「AI活用よりも先に組織の問題を解決すべき」という気づきを得られることもある。
業務棚卸しと優先順位の整理をしたい場合
「どの業務からAI化を始めるか」を判断する前に、まず自社の業務を見える化したいという段階の相談は診断士が対応できる。どの業務が属人化しているか、どこに作業が集中しているかを整理するプロセスは、経営改善コンサルと重なる部分が多い。業務の棚卸し方法については業務棚卸しのやり方とすぐ使えるテンプレートも参考になる。
顧問の診断士がAIの知識を持っている場合
顧問契約を結んでいる診断士が個人的にAI活用を研究している場合は、そのまま相談できる可能性が高い。ただし、これは資格に付随するものではなく個人の経験と知識に依存する。「AI活用の支援もやっていますか」と事前に確認し、実績を聞いてみると判断しやすい。
AI相談が向いていないケース
一方、診断士への相談が向いていない場面もある。
「このツールを導入したい」という実装レベルの相談
「NotionでプロジェクトをAI管理したい」「ChatGPTのAPIを社内の問い合わせ対応に繋ぎたい」という具体的な導入・設定の相談は、診断士の守備範囲外になることが多い。これはITエンジニアやツールベンダーが得意とする領域であり、診断士の試験科目にはこの知識は含まれていない。「お任せします」と答えてもらっても、実際には動けないケースが出てくる。
特定ツールの操作や設定方法の確認
「Zapierで請求書処理を自動化したい」「Makeで業務フローを組みたい」「freeeとAIツールを連携させたい」という具体的なツール操作の相談は、ツールを実際に使ったことがある人でないと答えられない。診断士の資格がこの知識を保証するわけではないため、ツールベンダーのサポート窓口や、そのツールの使用経験があるIT専門家に頼む方が早い。
自社システムやデータとの連携設計
既存の販売管理システムや顧客データベースとAIツールを繋ぐ設計は、システム開発の知識が必要になる。API設計やデータ構造の話になると、診断士の資格は関係なくなる。エンジニアかシステム開発会社への相談が適している。
「診断士に相談したが、具体的なことは専門外と言われた」という話を何度か聞いたことがある。これは診断士が悪いのではなく、相談の内容が診断士の専門外だっただけだ。期待値を合わせずに相談に行くと、お互いに時間を無駄にすることになる。
他の相談先との使い分け
AI活用に関する相談先はいくつかある。相談内容に応じて使い分けると、時間とコストの無駄が減る。
| 相談先 | 向いている相談内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 中小企業診断士 | 経営課題の整理・補助金申請・業務棚卸し | 有料(顧問は月額3万〜10万円が多い)、よろず経由なら無料 |
| よろず支援拠点 | 経営全般・最初の課題整理・相談先の紹介 | 無料(回数制限なし) |
| ITコーディネーター | IT導入計画・ベンダー調整・システム選定 | 有料(IT導入補助金の専門家派遣で実質無料になるケースあり) |
| AI顧問サービス | ツール選定・プロンプト設計・社内展開まで伴走 | 月額固定(数万〜数十万円) |
| 各ツールのサポート | 特定ツールの操作・設定方法 | 無料〜有料 |
よろず支援拠点は、中小企業庁が全国47都道府県に設置している無料の経営相談窓口だ。診断士・ITコーディネーターなど各分野の専門家が担当として対応しており、回数制限なく無料で相談できる。「まず誰かに話を聞いてほしい」「何から手をつければいいか分からない」という段階に向いており、最初の相談窓口として使い勝手が良い。担当者の専門領域と自分の相談内容が合わない場合は、別の専門家を紹介してもらえることもある。
ITコーディネーター(ITC)は、経済産業省が推進するIT経営の専門家資格だ。IT導入の計画策定・ベンダー調整・システム選定を専門とし、診断士より「IT導入の実務」寄りの立場で動いてもらえることが多い。IT導入補助金では、申請時に「IT専門家による経営診断」の要件がある場合があり、ITコーディネーターや認定支援機関がその役割を担うケースがある。AI活用のツール選定や、導入後の定着フォローを求めるなら診断士より向いている場合がある。
AI顧問サービスは、AI活用の方針策定からツール選定・プロンプト設計・社内展開まで一気通貫で伴走するサービスだ。実装まで踏み込んだサポートが必要な場合は、民間のAI顧問を検討する価値がある。詳しくはAI顧問とは?中小企業が知るべきサービスの全体像と費用相場で解説している。
相談先の全体像については中小企業がAIの専門家に相談する時の相談先一覧にまとめているので、合わせて確認してほしい。
相談前にやっておくと質が上がること
どの相談先を選ぶにしても、事前に整理しておくと相談の質が上がる。限られた相談時間を有効に使うためにも、次の3点をやっておくといい。
「何に困っているか」を具体的に言語化する
「AIを使いたい」「IT化したい」という言葉だけでは、相談が前に進まない。「月次の請求書処理に2〜3日かかっていて、それを半日以下に減らしたい」「採用書類のスクリーニングを人手でやっているため、月10時間程度かかっている」という具体的な課題が言語化できていると、専門家も適切な提案ができる。
時間がかかっている業務をリストアップする
業務一覧とそれぞれの作業頻度・担当者・かかっている時間の目安を書き出しておく。どこに作業が集中しているかが見えれば、AI化の優先順位が立てやすくなり、相談の方向性が決まりやすい。
ChatGPTで一度自分の課題を整理してみる
専門家に行く前に、ChatGPTに「うちの会社はこういう業務があります。どこにAIを使えそうか整理してください」と聞いてみると、論点が整理されることが多い。相談する内容が具体的になれば、無料相談の時間を効率よく使える。よろず支援拠点の無料相談枠は1回あたり1〜2時間程度が一般的なため、準備しておくと内容が濃くなる。
まとめ
中小企業診断士はAI活用の相談相手として有効な場面があるが、万能ではない。
診断士が強いのは補助金申請・経営課題の整理・業務棚卸しの支援だ。「何のためにAIを使うべきか」という経営判断の整理では力になれる。補助金を活用してAIツールを導入したいなら、診断士に最初に声をかけることには合理性がある。
一方、ツール選定・実装・システム連携という実務フェーズは診断士の保証範囲外になることが多い。このフェーズではITコーディネーターやAI顧問サービスが向いている。
「まずよろず支援拠点で無料相談して課題を整理→補助金を使うなら診断士、実装を進めるならITコーディネーターやAI顧問」というルートが、コストと時間を無駄にしない順番だ。相談内容に応じて使い分けることが、AI活用を前に進めるうえで現実的な方法になる。