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中小企業のメンタルヘルス対策|EAP・産業医・外部相談窓口の費用比較

スタッフが突然「うつで休みます」と言ってきたとき、会社として何をすべきか即答できる中小企業の経営者は多くない。

精神障害の労災決定件数は2023年度に883件と過去最多を更新している。しかも2025年5月の労働安全衛生法改正により、従業員50人未満の中小企業にもストレスチェックが義務化される方向となった(最長2028年5月施行)。

「うちはまだ大丈夫」という感覚は、法令の観点からも現実の数字からも根拠が薄くなってきている。

とはいえ、具体的に何にいくら使えばいいかが分からないまま動けていない会社が多い。この記事では、中小企業が選べるメンタルヘルス対策の選択肢を整理し、費用と特徴を比較する。

まず「何が義務か」を整理する

2025年以前は、ストレスチェックは従業員50人以上の事業場のみ義務、50人未満は努力義務だった。

2025年5月の法改正でこの基準が変わる。50人未満の事業場にも義務化が拡大され、施行は公布後3年以内、最長2028年5月となっている。

ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員が希望した場合、医師による面接指導を受けられる体制を整える必要がある。この「体制づくり」の部分で、外部の専門家や機関が必要になる。

選べる対策の選択肢(費用順)

大きく4つに分けられる。

1. 産業保健総合支援センター(無料)

厚生労働省が全国47都道府県に設置している機関で、一般的に「さんぽセンター」と呼ばれる。従業員50人未満の事業場には産業保健サービスを無料で提供している。

主なサービス内容:

  • 医師・保健師によるメンタルヘルスの健康相談
  • 長時間労働者に対する医師の面接指導
  • 事業場への産業保健指導(訪問支援)
  • ストレスチェック実施に関する相談

費用は無料だが、あくまで「相談窓口」であり、継続的なサポートには別途の契約が必要になるケースがある。何もできていない会社はまずここから始めるのが現実的だ。

各地の産業保健総合支援センターは「さんぽセンター 都道府県名」で検索すると見つかる。

2. EAP(従業員支援プログラム)

外部のカウンセリング機関や相談サービスと契約し、従業員が匿名で相談できる窓口を設置するサービスだ。職場の悩みだけでなく、家庭の問題なども対象としているサービスが多い。

費用の目安:

  • 従業員1人あたり月額100〜800円程度が相場
  • 料金体系は従業員課金制(頭数課金)が最も多い
  • 対面カウンセリング・復職支援・ストレスチェック実施は追加料金

従業員20人の会社なら月2,000〜16,000円の範囲に収まることが多い。

EAPの主な特徴:

  • 従業員が直接申し込めるため、会社を通さずに相談できる
  • 匿名性が確保されるため相談のハードルが低い
  • 産業医より導入コストが低く、小規模事業場でも始めやすい

ただし、EAPは「相談を受ける」機能が中心だ。休職・復職の判定や就業上の措置の決定は産業医が行うため、深刻なケースへの最終判断はEAPではできない。

3. 嘱託産業医

従業員50人以上になると産業医の選任が法律で義務付けられるが、50人未満でも任意で契約できる。月1〜2回程度の訪問または面談で対応する形態を嘱託産業医と呼ぶ。

費用の目安:

従業員数 月額の目安
〜30人 30,000〜50,000円
30〜50人 50,000〜80,000円
50〜100人 50,000〜100,000円
101〜200人 65,000円〜

※地域・訪問頻度・業種によって変動する。ハザード業務(化学物質・粉じん作業等)がある場合は高くなる傾向がある。

嘱託産業医の主な役割:

  • 高ストレス者への面接指導
  • 休職・復職の判定・意見書の作成
  • 職場環境改善への助言
  • 定期健康診断結果の確認と就業上の措置の検討

EAPと組み合わせるパターンが多い。EAPで早期に相談を受け、深刻なケースを産業医につなぐという流れが現場では機能しやすい。

4. 社労士との連携

産業医は医療面の判断を担うが、休職中の給与・社会保険・復職後の就業条件の変更といった労務面の処理は社労士の領域だ。

従業員がメンタル不調で休職した場合、傷病手当金の申請・休職期間の規定・復職後の条件変更など、対応が必要な手続きが複数発生する。就業規則に休職・復職の規定がない会社は、トラブルが起きてから対応することになり、最悪のケースでは解決金の支払いが発生する。

社労士の顧問契約は月25,000〜50,000円程度から。事後対応のコストと比べると、事前に規定を整備しておく方がはるかに安い。

労務管理を丸ごと外注する方法|社労士・BPO・オンラインアシスタントを比較ではコストと選び方を詳しくまとめている。

規模別の判断ガイド

従業員10人以下の会社

まずさんぽセンターを使う。無料で相談できる体制が整っており、産業医と契約する前にここで現状を確認するのが合理的だ。

予算があればEAPを追加する。月数千円で従業員への相談窓口を設置できる。社労士との連携は、就業規則に休職・復職の規定がない場合は先に整備しておくべきだ。

従業員10〜30人の会社

EAPの導入を検討するタイミング。月額数千〜2万円程度の予算で始められる。

採用担当が1人で抱えている会社では、労務まわりのイレギュラーが経営者に集中しやすい。社労士との顧問契約を結んでいない場合は、ここで検討する。

従業員30〜50人の会社

2028年のストレスチェック義務化に向けて、実施体制を整える必要がある。外部機関(EAPや産業保健サービス会社)への委託が現実的だ。

50人に近づいたら嘱託産業医との契約も視野に入れる。義務化前に契約しておくと、ストレスチェックの実施から面接指導まで一貫した体制が整う。

使える助成金

メンタルヘルス対策には助成金が活用できる。

産業保健活動助成金(50人未満向け)

労働者健康安全機構(JOHAS)が実施している制度。従業員50人未満の事業場が産業医・保健師を活用した産業保健活動を実施した場合に費用の一部を助成する。

  • 助成上限: 6ヶ月あたり10万円
  • 支給: 将来にわたり2回まで
  • コース: 産業医コース、保健師コース、直接健康相談環境整備コースなど

詳細はJOHAS(労働者健康安全機構)のウェブサイトで確認できる。

団体経由産業保健活動推進助成金

商工会議所や業界団体を経由して産業保健サービスを受けた場合に助成される制度。傘下の中小企業に産業保健サービスを提供した団体側に助成が入る仕組みで、間接的にコストが下がるケースがある。所属している商工会議所や業界団体に確認するとよい。

まとめ

中小企業が選べるメンタルヘルス対策の選択肢をまとめると以下のとおりだ。

対策 費用 向いている規模
さんぽセンター 無料 全規模(特に10人以下)
EAP 月100〜800円/人 5〜50人
嘱託産業医 月30,000〜100,000円 20人〜
社労士連携 月25,000〜50,000円 全規模

2028年のストレスチェック義務化まで時間はあるが、体制を整えるには準備が必要だ。今すぐ動けることは、まずさんぽセンターに相談するか、社労士に就業規則の確認を依頼することだ。

従業員が「相談できる場所がある」という環境を整えるだけで、問題の早期発見につながる。休職・離職が発生してからの対処コストの方が、予防の仕組みより高くつく。

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