AI×事務

社員がAIを使いこなせない時の対応と社内展開の方法

著者:野原琉海(業務効率化に特化したエンジニア)

「ChatGPTを全員に使わせようとしているが、半数以上がほぼ触っていない。何人かに聞くと”使い方が分からない”と言う」

こういう相談を、2026年に入ってから月に3〜4件受けるようになった。

経営者の目には「うちの社員はAIを使いこなせない」という一つの問題として映る。でも現場で見ると、「使いこなせない」の中身は4つの全く異なる状態に分かれていた。

パーソル総合研究所の調査(2025年10月実施)によれば、業務での生成AI利用率は32.4%にとどまる。週4日以上のヘビーユーザーはわずか11.7%。残りの88.3%の社員には、それぞれ異なる理由がある。

状態が違えば、打つべき手も変わる。「使いこなせない」を一律に「研修で解決しよう」とするのが、多くの場合うまくいかない理由だ。

この記事では4つのパターンを整理し、それぞれに対して最初に何をすべきかを具体的に書く。

「使いこなせない」には4つのパターンがある

社員がAIを使えていない状態を「使いこなせない」という一言でまとめてしまうと、対策を完全に間違える。

僕が業務効率化の支援に入った顧問先では、10人いれば4〜5人が異なる理由でAIを使っていないことが多かった。コマースピックの調査(2026年・管理職1,008名対象)によれば、生成AIを使いこなせていない層は「課長・リーダー職」が最多で29.3%、「経営層」26.8%、「一般職」25.6%と続く。管理職側の習熟が遅れているケースも珍しくない。

以下が現場で確認してきた4つのパターンだ。

パターン 状態の特徴 典型的な発言 対応の方向性
パターン1 何に使えばいいか分からない 「業務のどこで使えばいいか思いつかない」 会社が業務と使い方をセットで設計して渡す
パターン2 使ったが期待通りにならなかった 「試したけど使えないものが返ってきた」 業務別プロンプトテンプレートを渡す
パターン3 操作で詰まっている 「アカウント作成で止まったまま」 IT担当か外部専門家が一緒に操作して解決する
パターン4 使いたくないという意識的な拒否 「AIに仕事を奪われるのが不安」 懸念の中身を先に聞いてから対応する

パターン1と4は特に混同されやすい。表面的に見ると「使っていない」という点で同じだが、対処の方向は正反対だ。パターン1の人はユースケースを渡せば動く。パターン4の人にユースケースを渡しても動かない。

パターン1:何に使えばいいか分からない

状態の本質

このパターンの人は、AIに対して否定的ではない。「使えるようになりたい」と思っている場合すらある。ただ自分の業務の中に「これをAIに頼めばいい」という接点が見えていない。

AIは汎用ツールだが、「汎用的に使っていい」と言われると、かえって使い方が分からなくなる。「自由に使っていい」という指示が一番動きにくい。

対応:会社が業務設計をして渡す

「このポジションの人は、この業務でAIをこのように使う」という設計を会社が作って渡す。これが解決策だ。

僕が顧問先に入って最初にやることの一つが、役割別の「AI使用業務マップ」を作ることだ。

ポジション 業務 AIの使い方 ツール
営業担当 商談後のお礼メール作成 商談メモをもとに初稿を生成 ChatGPT
経理担当 月次レポートの前文 試算表CSVを貼り付けてサマリー生成 Claude
総務担当 社内通知文の作成 メモ書きを渡して清書させる ChatGPT
経営者 週次報告の下書き 週の出来事を箇条書きで入力して文章化 ChatGPT

このマップを渡すと、パターン1の人は「自分の業務でAIを使う場面」を初めて具体的にイメージできる。最初から自分でユースケースを考えさせると多くの人が止まってしまうが、「月曜の報告書の下書きはAIに任せる」というルーティンを渡すだけで動き始める。

業務別のAI活用法はChatGPTを実務で使う方法|中小企業向け具体的な活用例でも整理しているので参考にしてほしい。

パターン2:使ったが期待通りにならなかった

状態の本質

このパターンで一番多いのは、「議事録を要約して」と打ち込んで、要約させたい議事録のテキストを一緒に貼り付けていないケースだ。AIはエスパーではない。「文脈を渡す」「アウトプット形式を指定する」の2点を守らないと、まともな出力は出てこない。

失敗体験が早い段階で積み重なると「自分にはAIが向かないタイプだ」というセルフラベルが貼られてしまう。そのラベルが貼られると、自発的に試し直すことはなくなる。

対応:業務別プロンプトテンプレートを渡す

ゼロからプロンプトを考えさせる前に、業務に使えるテンプレートを作って配布する。フォーマットはシンプルでいい。


■ 業務名:顧客へのお礼メール作成
■ プロンプト:
以下のメモをもとに、顧客へのお礼メールを書いてください。
・相手:[会社名・担当者名]
・商談で話した内容:[メモをここに貼る]
・次のアクション:[例:来週水曜に資料送付]
・トーン:丁寧、でも固すぎない文体

このテンプレートを渡すだけで、初回から使える出力が出やすくなる。1回うまくいった体験が次のプロンプト改善の動機になる。僕が見てきた顧問先では、テンプレートを渡してから3ヶ月後には自分でプロンプトをカスタマイズしている社員が出てくるようになっていた。

ChatGPTが業務で「使えない」と感じる原因と、プロンプトの設計方法についてはAI導入は小さく始めるが正解|中小企業が失敗しない最初の一歩も合わせて読んでほしい。

パターン3:操作で詰まっている

状態の本質

「ITリテラシーが低い」という言葉で片付けられがちだが、実態は「初めての操作で詰まっているだけ」のことが多い。

詰まりのほとんどは次の3パターンだ:

  • アカウント作成でつまずいた(クレジットカード登録、メール認証など)
  • ブラウザの設定や拡張機能でエラーが出た
  • 企業向けプランへの切り替え手順が分からなかった

これらは誰かが横に座って画面を一緒に見れば、30分以内に解決することがほとんどだ。問題は「詰まった時に誰に聞けばいいか分からない」という状況が放置されることにある。

対応:操作サポートの場を一時的でもいいので作る

IT担当が社内にいれば、一緒に画面を開いて設定を進めれば解決する。IT担当がいない場合は、週1回30分の「AIツール相談タイム」を設けるだけでも変わる。外部のAI導入支援者を頼む場合も、操作サポートをスコープに明示的に含めてもらうことが重要だ。

操作の詰まりは放置すると「自分にはAIが使えない」という判断に変わってしまう。技術的な壁は早期に取り除くほうがいい。

パターン4:使いたくないという意識的な拒否

状態の本質

このパターンだけは、強制や説得ではなく「聞くこと」から始める。

拒否感の中身は、表面に出てくる言葉よりも深いところにあることが多い。「仕事を奪われる」「個人情報が漏れる」「自分の評価が下がる」など、人によって全く違う理由がある。

僕が支援した会社でも、「AIを使いたくない」と言っていた社員に話を聞くと、「自分の仕事の進め方を否定されている気がした」という理由が出てきたことがあった。経営者側にはそんな意図は全くなかったのに、伝わり方の問題でそうなっていた。このケースは、業務改善の話ではなくコミュニケーションの話だった。

対応:懸念の種類に合わせて対応する

よくある懸念 対応
「個人情報が外に漏れるのでは」 入力してはいけない情報の社内ルールを文書化して共有する
「仕事を奪われる不安」 どの業務でAIを使う予定か、自分の役割がどう変わるかを具体的に説明する
「自分の評価が下がる」 AI活用を評価軸に加える(使ったことが評価されると明示する)
「使ってもうまくいく気がしない」 上司や経営者が自分で使っている様子を見せる

最後の行が特に効く。経営者自身がAIを使っている様子を見せると「社長も使っているなら」という心理が働く。言葉による説得より、行動で示す方が現場を動かしやすい。

なぜ全員向けAI研修では解決しないか

「使えない社員が多いから全員向けの研修をやろう」という判断をよく見る。これが効果を出しにくい理由は、4つのパターンを混在させたまま一律の内容を提供するからだ。

研修の内容 効果があるパターン 効果がないパターン
プロンプトの書き方講座 パターン2(失敗体験がある人) パターン1・4
ChatGPTの基本操作説明 パターン3(操作で詰まっている人) パターン1・4
AI活用事例の紹介 パターン1(ユースケースが不明な人) パターン4(懸念が残っている人)
対話セッション パターン4(懸念を持つ人) パターン2・3

研修の場では「聞いているふり」ができる。特にパターン4の人は研修中は黙って聞いているが、終わったら何も変わらない。懸念を表明できる場がなければ、拒否感は解消されない。

研修が有効なのは、パターンを把握した上で設計した場合に限られる。「全員一律研修1回」ではなく、「操作詰まりグループへの個別設定サポート+プロンプト実践グループへの課題型ワークショップ+拒否感グループへの対話セッション」のように分けると効果が出やすくなる。

AI導入の失敗パターンについては業務効率化の失敗事例5選|中小企業がハマるパターンと対策でも整理しているので参考にしてほしい。

社内展開の現実的な手順

全員を一気に動かそうとするのが、展開が止まる最大の原因だ。現実的な順序はこうだ。

ステップ1:1業務・1人で確実に動く事例を作る(目安:1〜2週間)

全社展開の前に「この人はこの業務でAIを確実に使っている」という実績を1つ作る。候補はITに比較的慣れており、繰り返し業務(報告書作成・メール対応など)を持つ社員が理想だ。

ステップ2:その使い方をテンプレート化して共有する(目安:1週間)

「どのプロンプトを、どの業務で、どのタイミングで使ったか」を言語化して他の社員が真似できる形にする。テンプレートがあれば、初めての人も「真似するだけ」から始められる。

ステップ3:他の社員のパターンを診断して個別対応する(継続)

テンプレートを渡してもうまくいかない社員が出てきたら、「4つのパターンのどれか」を診断して個別対応を加える。全員一律ではなく、パターンに応じた施策を積み上げる。

ステップ4:月1回の事例共有会を続ける(継続)

「使えている人を増やす」より「使えている人の方法を共有する」の方が、結果として全体の水準が上がるのが早い。月1回5〜10分の「AI活用事例共有会」を継続するだけでも変わってくる。

まとめ

「社員がAIを使いこなせない」問題は、次の4パターンに分けて考える。

パターン 状態 最初にやること
パターン1 何に使えばいいか分からない 会社が業務と使い方をセットで設計して渡す
パターン2 使ったが期待通りにならなかった 業務別プロンプトテンプレートを渡す
パターン3 操作で詰まっている IT担当か外部専門家が一緒に設定を進める
パターン4 使いたくないという意識的な拒否 懸念の中身を先に聞いてから対応する

一律の研修で4つのパターンに同時対応しようとすると、どのパターンにも刺さらない。診断してから動くことが、遠回りのように見えて最も早い。

AI顧問のサポートも含めた選択肢については失敗しないAI顧問の選び方|契約前に確認すべき7項目中小企業のAI顧問は必要か?5つの判断基準|失敗しない選び方を参考にしてほしい。

関連記事

読んで欲しい記事

1

AI顧問とは月額契約で業務にAIを組み込む伴走サービス。AI研修・AIコンサルとの違い、仕事内容の月次フロー、費用感、向いている企業・向いていない企業を業務効率化エンジニアが解説。

「AI顧問って怪しい?」中小企業が騙されないための見分け方 2

「AI顧問が怪しい」と感じた中小企業経営者向け。詐欺・グレーゾーン・信頼できるの3段階を整理し、国税庁法人番号確認から事例ヒアリング・契約書チェックまで月3万〜30万円の費用帯ごとに判別する実践手順を解説する。

3

「AI顧問の費用対効果、どう判断すればいいか?」請求書処理が4時間から1時間に短縮できた場合など業務別の計算方法と、freeeなどへの入力時間をROIに換算する事前記録の整え方を解説する。

-AI×事務